第112話 ダンジョン探索部の一日(三人称)

 side ダンジョン探索部


 ダンジョン探索部の3人はスタートをしてからも特に急ぐでもなく移動をして3階層を抜け、4階層の中盤にさしかかった。

 それは1年生を舐め切っているということもあるが、彼らが中学・高校とダンジョン探索をしてきた絶対の自信の表れでもあった。


 スタートで直ぐに動かなかったことにしても、喧嘩を売ってきた一年生の実力を見たいと思ったからだった。


 それに……こちらを煽って来たと言ってもやはり落ちこぼれの外部入学生である。

 3階層くらいまでなら問題なく進めるだろうが、それが4階層、5階層となればたった3人で進んでいくのは骨が折れることだろう。


 生徒会の二人が1年生についているとは言っても、6階層になればフォレストウルフやブラックウルフの集団が襲ってくるのだ。

 たった二人の上級生がいるだけでは最悪の結末を迎える可能性さえあった。


 いくら……侮蔑の対象だとは言っても死んでほしいとまでは思わない。

 もし競走中に事故があり1年生が亡くなるということがあれば、例えダンジョン内部での行動が個人の責任にゆだねられるとは言ってもダンジョン探索部の悪印象につながる事になりかねないからだ。


 そこまで考えてもしもの時は戦闘に割って入り、助ける必要性もあると思って相手を先行させることにした。


 「それにしてもおかしいな? そろそろ追いついても良い頃だが……。まさかあの全速力でずっと走り切れるはずもないだろう?」


 ダンジョン探索部の部長は一向に追いつけない事に疑問を呈した。


 「俺たちでもあのペースであれば6階層くらいまででかなりきついからそれはありえない。だいたい、あっちの部長はレベル11の壁も超えていて1年の外部生にしては頑張っている方だし、副部長の蒼月も今朝見たデータだとレベルが9で壁を超えていた。だけど、もう一人の女はレベルが5で壁さえ超えていなかった。身体強化がない状態であの速度が続くわけがない」


 ダンジョン探索部の副部長・リョータが部長の話に答える。


 「そうだよな。しかもレベル5がいるということは、4階層あたりで魔獣と戦うのは厳しくなるはずだ。部長と副部長のレベルはそれを上回ってはいても適正パーティの人数よりも少ないのだから、結局のところ行ける階層は大きく下がる。あいつらが3人で潜れる限界深度は良く見積もっても6階層までだろう」


 二人の会話に部員のタケノリも同意する。


 ダンジョン探索部の3人は今までの自分たちの経験から矜一たちの潜れる階層を予想して4階層辺りで追いつけるはずだと思っていた。


 しかし4階層を越えてもダンジョン攻略道の影を見ることはない。

 しかも同じ道を通ったのならば魔獣を倒しているはずなのに、なぜか魔獣との遭遇率も多くなってきている。


 「どう思う? すでに不測の事態に陥っている可能性はないか?」


 「いや……。1年生の3人だけならその可能性はあるが、生徒会の総務と書記がついているんだぞ。5人でひと塊のパーティだと考えれば9階層……10階のミノタウロスがいれば蒼月とレベル5の女は死ぬだろうが、そこにボスが居ない場合は11階層までならいけるかもしれん」


 「それこそまさかだろ? 移動時間を考えろよ。5人で戦ったとしても3時間で行ける階層ではないぞ。そもそも、生徒会は危ない時にしか手は出さないはずだ。だったらやはり6階層が限界だと思う。それなのにこの5階層でまだ先を行かれているのは不可解だな」


 「ふむ……。それならどっちにしても速度を上げて一度は追い付いておくか。遊びは終わりだ! 行くぞ!」


 「「おう!」」


 彼らは知らない。

 矜一たちが今も全力でダンジョンを駆け抜けているということを……。



 

 「部長! 右からブラックウルフの集団6! 左からはフォレストウルフ9!」


 「くっ どういうことだ!? まずは俺とリョータでフォレストウルフを対処する。タケノリはブラックウルフの6匹を抑えておいてくれ!」


 「ちょ、そりゃねーよ! いくら一匹一匹は倒せると言っても、この数のスピードで迫られたら!」


 「そんなことはわかってる! それでもやるしかないだろう! お互いに後ろに抜けられないようにしろ!」


 「クソっ!」



 

 「あー……いってぇ。左腕に噛みつかれた。援護がおせーよ……」


 「こっちだって1人4~5匹だから時間はかかる。ほらポーション」


 「助かる」


 「しかしこれだけの集団をあいつらが相手に出来るとは思えないんだが? 副会長! どうなってる? もう1年どもはダメだと判断して引き返してる可能性は?」


 ダンジョン探索部の部長は魔獣がこれほど残っているのに1年生が先に進んでいることはあり得にくいと考えて、審判員としてついて来ている生徒会の副会長に意見を求めた。


 「……。引き返してはいないはずだ。1年についている二人だって、もし引き返してくる場合ならこちらと行き違いにならないようにするはずだからな」


 「しかし1年の実力で3人ならこの辺りが限界だろう?」


 「俺もそうは思うがいない事は事実だ。競争という面もあるんだ。今の段階ではこちらは負けていると判断するしかないぞ」


 「チッ。二人とも行くぞ!」


 ダンジョン探索部の3人は愚痴を言いながらも走り、多くの魔獣を対処しながら7階層を抜けて8階層に到達していた。

 この時すでにスタートから2時間45分が経過していた。


 「オークが3匹! 一人1体ずつだ。やるぞ!」


 「「ダブルスラッシュ!」」 「ロックブレット!」


 「ハァ……ハァ……。一体どうなってやがる。6階層からはほぼ全速力で追いかけたのに、1年どもの影も形も見えやしねぇ……」


 「ハァハァ……。さすがにこれは6階層の森林地帯で行き違いがあったと考えるべきだな……」


 「だなぁ……。それならもう勝ちは確定だ。残り時間も少ないしここでタイムアップを待ってから戻ろうか。帰りも戦闘があるからな……」


 「「……了解」」



 ダンジョン探索部の3人は勝利を確信して少しの休憩をとり、生徒会に潜ったダンジョン深度の確認をしてもらい帰路につく。


 行きよりも時間をかけて帰った3人は残っていた生徒会長に確認をとると、まだ1年生と生徒会の二人が戻っていない事を知った。

 そしてもしもの可能性を考えて桃井先生と原先生に連絡をとることにしたのだった。


 


 そしてそこから桃井先生と原先生がダンジョン前に来てからさらに1時間後……ダンジョン攻略道の3人と生徒会の二人がダンジョンから姿を見せる。


 「蒼月君? 大丈夫なのぉ?」


 矜一たちがダンジョンから出ると、そこには桃井先生から連絡を受けたダンジョン攻略道のメンバーが勢ぞろいしていた。


 「桃井先生? そしてみんなもこんな時間まで待っていてくれたの?」


 「いや桃井先生から蒼月たちが戻らないから何かあったかもしれないって聞いて。みんな心配で集まったんだ」


 「私は大丈夫と思っていたけどね!」


 矜一が水戸君から皆がいる事情を聞いていると、生徒会長がやって来てどこまでダンジョンで進めたのかを聞いてくる。


 「それでダンジョン攻略道はどこまで進めたんだ?」


 矜一たちが自分たちが潜った階層の話をすると、ダンジョン探索部の顧問である原先生が不正を疑った。


 「そんなバカな事があるか! ダンジョン探索部でも8階層だというのに1年生が11階層なんて行けるはずがないだろう!」


 矜一たちは疑われることを想定して端末でそれぞれ写真を撮っていて、それには日時も記載されているのでそれを生徒会に提出した。


 「馬鹿な……。たった3時間でこれほど深く潜れるなど……」


 「原先生。付き添った生徒会のメンバーから話を聞いても端末の前後の写真をみても不正は無いようです」

 

 生徒会長が認め、証拠写真もある事から原先生はしぶしぶダンジョン攻略道の勝利を認めることになる。

 これによってダンジョン攻略道は、あとは校長の認可を待つだけとなったのだった。



  「3人が勝ったのは当然の結果ですわ!」


 最後に勝利の宣言がダンジョン前に響き渡ったとか渡らなかったという話は、また別の話である。




 

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