第97話 何一つ安心できない

 家に送ってもらった俺は時間を持て余していた。

 部屋で先ほどの事を考えていると、いくら部活を東三条家として後押ししてくれていたとしても、自分の娘の失態の怒りを俺にぶつけてくるのは理不尽すぎやしないだろうか?


 とは言え……、俺に東三条さんのお父さんに苦情を入れるまでの気持ちはない。

 あればいくら威圧をされていたとしてもあの時に言う事はできたからだ。

 まさか正当な主張をする相手に対して手を出したり何らかの制裁を行う事はしないだろうし。

 しないよね?


 だいたい東三条さんも悪い。

 彼女の方から俺の事を友人と言っていたのだから、父親にはキチンと説明すべきだろう。

 そう思うと一言いってやりたくなってきた。

 猪瀬さんは返信がないと言っていたが……。

 でもどっちにしても連絡先を教えてもらえてないか。


 と結論付けようとした時にアレ? 端末で連絡が普通にとれるのでは? という事に気づく。

 スマホだけしか持っていないなら連絡先を教えてもらう必要があるが、学校から支給された端末でならクラスメイトと連絡ができるという事に今更ながら気づいてしまった。


 対戦の辞退などはそもそも端末でやり取りできるのだ。

 七海さんたちにしたって連絡先を聞いてスマホに登録はしているが、いつも使って連絡を取っているのは学校支給の端末での方だった。

 探索者証としても個人認証にも使えるスマホの完全上位互換品それが端末。

 俺は端末を手に取ると東三条さんに苦情を入れた。


 『こんにちは。蒼月です。先ほど東三条さんのお父さんに呼び出されてなぜか怒られてしまいました。対戦は東三条さんからの提案でしたし、部活動についても東三条さんの意思で移る事を決めたはずです。その辺りを東三条さんのお父さんは誤解していたようです。また呼び出されて怒られるのも嫌なので説明をしておいてください』


 少し……どころかムチャクチャ硬い文章になってしまったが、送る内容自体が苦情であるので仕方ないよねと思い俺は送信ボタンを押した。


 ピコン


 1分もしないうちに東三条さんからの返信が来た。

 夕食までに来るかなくらいに思っていたからビックリだ。


 みんなが5分以内とか言っていた理由が分かった気がする。

 てかこれだとやっぱり猪瀬さんは無視されているんじゃ……。

 そう思いながら俺は送られてきた内容を見るのだった。


 『蒼月君、私様の家に来ていたんですの? 教えてくれたなら出迎えましたのに! それに何やらお父さまが迷惑をかけたご様子……。申し訳ありませんでしたわ。これからキチンと私様たちの関係を伝えてまいりますわ!』


 ……。

 文章でも私様わたくしさまを使うの!? 

 本人の話し方を知っているから『わたくしさま』と読めるけども。

 普通に読んだら『わたしさま』だよね。


 いやこれ学校のテストでもこの書き方なの? それはないよね? 

 さすがにこの書き方で現文とかだと点数をとる事はできないだろう。

 そうなると友人限定の文の書き方に思えてくる。

 なぜかちょっと嬉しい。


 東三条さんのお父さんにキチンと説明をしてくれると書かれているしこれで一安心だろう。

 憂いがなくなった俺は、七海さんたちと合流でもするかなと思いダンジョンに向かった。


 

 「あ、矜一さん。これからダンジョンですか?」


 ギルド前を通りかかると声が掛かる。

 どうやらマコトたちがギルドから出てきたようだ。


 「お、今日はもう探索を終えたの?」


 この時間に外にいるという事は早めに切り上げたのかなと思って聞いてみる。


 「違うんです。こないだ借りている剣の話があったじゃないですか。アレでまだ3人分の剣を買える資金が貯まっていなかったので3人でビッグマウス狩りをしていた所なんです」


 ああ~。

 こないだレンタルの剣の話をマコトたちにしたら、もう少し貸してほしいという事だったので俺は自分用の帯剣ベルトを買い、借りていた剣1本と帯剣ベルトを学校にかえしたのだ。


 「ああ、急がなくても大丈夫だからね」


 「そうは言っても、アタイらが迷惑をかけてるわけだしな! 頑張って稼ぐから待っててくれよな」


 桃香がそんな事を言うが、たしかに出会った頃ならお金もなくて俺の対応も酷かった事もあったが、今では少し資金に余裕もできているために急いで剣を返してもらう必要もない。

 もしレンタル品を破損したりしても3人の剣はオーク1匹で賄えちゃうんだよなぁ。


 「まあ無理しないで。っていうか聡は?」


 話していて時間がたっても聡は一緒に来ていないのかここに来ない。


 「あ、聡はビッグマウスが沸いたら倒すのとリヤカーに乗せられなくておいてあるのを見守る役をやってるよ」


 桃香が聡は一人でダンジョンにいるという。

 この3人も成長したんだなぁ。


 「ふふ」


 「どうしたんですか?」


 急に俺が笑ったのでマコトが聞いてくる。


 「いや、前はあんなに3人じゃないと嫌だって言ってたのに成長したなって思って」


 俺がそう言うとマコトは恥ずかしそうに、桃香は少し怒ったような顔をした。


 「ちょっとお兄さん。前は悪かったと思っているけど、ここでアタイ達の昔の話をする事はないだろ!」


 桃香は少し前の自分を恥じたのか顔を赤くして話している。

 昔って……結構最近だと思う。


 「まぁまぁ。聡を待たせてるなら歩きながら話そう。俺もビッグマウスを運ぶのを手伝うよ」


 「本当ですか? ありがとうございます。最近は矜一さんといられなかったので嬉しいです」


 マコトがそんな殊勝な事を言ってくれる。

 お兄さん頑張っちゃおっかな! 

 七海さんたちは俺が来るとはどうせ思っていないだろうし、久々にマコト達と一緒にダンジョンダイブも良いよね。


 「そう言えばこないだの父さんたちと行った11階層はどうだったの? 怪我とかはないみたいだから大丈夫そうだけど……」


 「あー、日曜日の話ですよね。あんまり思い出したく……」


 「そうそうお兄さん! お兄さんのお父さんはスパルタすぎだよ! 3人で戦ってみろとか言ってリザードマンと戦わされて3対1でギリギリで……」


 あ~やっぱりか。

 七海さんと葉月さんでも苦戦したからね。

 マコト達なら3人で七海さんたち二人と同じくらいか。

 そう考えると、キイちゃんとさっちゃん凄いな?


 「俺たちのパーティも午前中はリザードマンとギルーマンで訓練したよ。連携がかなり良くなったと思う」


 「へ~。そうなんですね。私たちは結局夕方までその訓練でした」


 さすがの父さんもトラップ部屋の50匹はマコト達にはまだ早いと思って止めたのかな。

 マコト達はスパルタだって言うけど、かなり慎重に父さんは指導してくれたみたいだ。


 「あ、矜一さん! 来てくれたんですね」


 話しながら向かっていると聡がこちらに気づいたようだ。


 「頑張ってるみたいだね」


 俺は3人がどれほど動けるようになったのか知りたいので提案する。


 「せっかくだしこれを売ったら11階層に行かない? どれくらい戦えるのかみてみたいし」


 「良いんですか?」


 「うんうん。見れる時間は1時間くらいだけどそれでもいいなら」


 「はい! お願いします!」


 そう言うと俺たちはビッグマウス10匹をリヤカーに乗せてそれ以外は俺が回収した。

 ギルドに卸す時は一人ずつリヤカーに載せて行き、戻ってきたら別のもう一人が納入しに行く。

 10匹を陰でこっそりリヤカーに載せてリヤカーを沢山持ってるんです作戦ですべてのビッグマウスを短時間でギルドに納入する事に成功した。


 「そう言えばマコト達は最初のパワーレベリングの後に父さんたちとダンジョンに潜って2度目の壁を超えたんだよね? 何をとったの?」


 たしか父さんが夕食の時にマコト達が11レベルの壁を超えた事を夕食の時に話していたはずだ。


 「あ、私は恐怖耐性をとりました」


 「アタイが気配察知だな」


 「僕は害意察知です」


 全員見事に攻撃系ではない。

 でもマコトの恐怖耐性は咆哮などのスキルに有用だろうし、恐らく度胸も付くはずだ。

 そうなると仲間が臆して動けない時でも動けるかもしれない。


 桃香はたしかスカウトのジョブだったはずだからそっち系を伸ばすのかな? 

 俺や今宵がいれば問題はないけど、3人で探索する事を考えたら必要なスキルだろう。


 聡は……桃香と似ているがこれは敵意感知をする事ができて恐らく人間相手にも当然効くのだろう。

 そう考えれば自分たちに害意を持っている相手……あの3人組のような相手を判断する事ができる。


 3人が3人共あの時の自分たちに不甲斐なさを感じてそこを埋めるスキルをとった感じだね。うん。凄く良いと思う。

 欲を言えばだれか攻撃系をとるべきかなともおもったけど、守備面を安定させるというのは大事だし、特に二人気配系を覚えていれば危険に陥る前に撤退の判断も出来るはずだ。


 「良いね。後は前に教えたように魔力操作の訓練なんかも欠かさずするようにね」


 「「「はい」」」



 俺たちはその後に一度9階層でオークを3匹狩ってから11階層でマコト達3人の動きをみたが、リザードマンに苦戦する事なく倒していて2匹相手でも問題が無いようだった。


 七海さんたちと同じく1日中訓練した事によって体の動きが最適化されているようで安心する。

 1時間ほどマコト達とダンジョンダイブをした俺はオークを卸して彼女たちと別れて家に戻る。


 風呂に入る前に端末を確認すると東三条さんから連絡があったのでそれを見ると……、


 『疲れましたわ! 私様から(対戦を)申し込んでした話や強く抱きしめられた話をしましたら、ちょん切ってやるとか言い出しまして……、意味不明で宥めるのに苦労しましたの。最後には仲良くしているとちゃんと言っておきましたから安心してくださいまし』


 俺はその連絡を2度見する。

 まず、強く抱きしめられたってなんだ!? そんな事はしていないよね? 

 ちょん切るって東三条さんは理解してないようだけどアレの事だよね。

 

 そりゃ大事な娘が強く抱きしめられたら、あの父親っぷりなら怒るでしょうよ!

 抱きしめて仲良くしているってさすがの俺でもそれを言われると勘違いすると思う……。

 安心できる要素が何一つないが、東三条さんを信じるしかないだろう。


 だってこれ以上何かを送ると、もっと酷い勘違いをされてしまいそうだから。

 最終的には誤解は解けたと信じよう。

 解けてなければ家を知られている訳だし、もう一度東三条家にお呼ばれしていると思うからね。


 

 はぁ。

 お風呂に入ろ……。

 俺は気分転換と送られた文章を忘れるためにお風呂場へ向かったのだった。






――――――――――――――――――――

以下マコトたち3人のステータスです。


<名前>:星野 真

<job> :治癒士

<ステータス>

 LV  : 14

 力  :E

 魔力 :D

 耐久 :E

 敏捷 :D

 知力 :D

 運  :D

 魔法 :生活魔法2(UP)

 スキル:恐怖耐性1(NEW)


<名前>:桐島 桃香

<job> :スカウト

<ステータス>

 LV  : 14

 力  :E

 魔力 :D

 耐久 :E

 敏捷 :C

 知力 :E

 運  :E

 魔法 :生活魔法1

 スキル:気配察知1(NEW)


<名前>:桐島 聡

<job> :剣士

<ステータス>

 LV  : 15

 力  :D

 魔力 :E

 耐久 :D

 敏捷 :D

 知力 :E

 運  :E

 魔法 :身体強化1

 スキル:害意察知1(NEW)

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