第98話 鏡君襲来

 次の日。

 今日は5月31日で明日からは夏服かと思い、昼休憩の時に七海さんにその話をしたら、防御力の観点から上着はそのまま着て登校するようだった。


 上着の下に着るカッターシャツは半袖があるみたいだけどね。

 ダンジョンに行かなかったり訓練をしない場合は、上着を脱いで暑さをしのぐことになるのかな。


 まあ半袖のカッターシャツも買っていなかったから上着はそのままでいいって事なら明日からも問題がなくて良いか。

 いや……、今宵が五月蠅そうだからアイツの分も含めて自分のも買っておくか?


 ガララッ


 午後の授業を終えて夏服でも買いに行こうかと思っていると教室に誰か入ってきたようだ。


 「蒼月! お前、自分の部活に天音を引き抜きやがったな! し、しかも対戦までして倒したそうだな! ふざけるなよ! 決闘だ!」


 ……。

 教室が一気に騒がしくなった。

 鏡君だけでも騒がしいのに、鏡君の言った言葉でヒソヒソどころか普通に周りで噂されている。


 「お断りします」


 俺は断れる男の子なのでキッパリと決闘? を断って夏服を買いに行こうとする。


 「て、テメー!」


 鏡君は最初の時と同じように俺の胸倉を掴もうとして来るが、今回の俺はそれをしっかりとかわした。


 ガシャン


 鏡君が俺の机にぶつかり倒れる。


 「く、くそっ。舐めやがって! 5クラスの雑魚の分際で……手加減してやっている事もわからずに!」


 いやいや。

 それはこちらもなんだが? というより保護者はどうしたんだよ。

 東三条さんに最初の時に窘められていたし、だいたい七海さんたちを認めていたのに結局は心の中では俺たちを馬鹿にしていたのか?


 「おい、蒼月大丈夫か?」


 水戸君が駆け寄って来て俺の心配をしてくれる。

 ふと見ると七海さんたちはまたかという様な顔をして呆れていた。


 まあ……水戸君は俺の事をしらないもんね。

 1-4クラスには勝てると思っていても鏡君は1-1クラスでしかも『列強』所属だ。

 水戸君は鏡君の事も知らない可能性が高いから純粋に心配して駆けつけて来てくれたのだろうが。


 「なんだテメー。俺と蒼月の間に入って来るんじゃねぇ!」


 ブワッ


 鏡君が全体に向かって威圧を放つ。


 「ぐっ」 「きゃあ」 「ひぃ」


 俺と七海さんたち以外は鏡君の威圧を耐えられないのか膝をついたりして阿鼻叫喚になっている。

 椿たちでさえかなり苦しそうだ。

 コイツ結構本気で威圧をしているな。

 俺はさすがにこれは許容できないと思い、彼の肩に触れて俺の魔力を流し彼の威圧を霧散させた。


 「な、なんだと!?」


 「いや、鏡君。君から見て東三条さんって弱いの?」


 「はっ? 天音が弱い訳ないだろーが!」


 うーん。

 1-1クラスだと頭も良いはずなんだけど……。


 「じゃあ俺は弱いの?」


 「は? 1-5クラスの癖に何を……いや……しかし……」


 やっと気づいてもらえたのかな。

 彼自身が俺が東三条さんと対戦して勝ったといったのだから。


 「真一さん? これはどういうことですの?」


 ふぅ やっと東三条さんが来てくれたか。


 「あ、天音。これは違うんだ。いや、違わないか。お前が列強を抜けて蒼月のいる部活に入るって言うから!」


 キャアー!!


 クラスメイト達の女子が俺のいる部活に東三条さんが入るといった所で歓声をあげた。

 え? 何の歓声なの? 

 さっきまで威圧で苦しんでいたのに、立ち直るの早くない!?


 「私様わたくしさまが列強を辞めてダンジョン攻略道に入るのは私様の自由でしょう? なぜ真一さんが気にするのですか」


 「い、いやそれは俺が天音を……」


 「ひがしっち! ずっと返信がないのはなんでなん? 寂しいよー」


 猪瀬さんがここで割り込んで東三条さんに抱き着いている。

 この雰囲気で割り込んで来れるのほんと凄い。

 しかも返信をまだもらえてなかったんだね。


 「あっ 猪瀬さん。返信の件はごめんなさい。何度もしようと思ったのですけれど……その……」


 東三条さんが言い淀むのは珍しいな。

 しかし言い淀みながら俺の方をチラチラ見るのは何でだろう?


 「あ、あたし里香りかだから下の名前で呼んで!」


 猪瀬さんは猪瀬 里香いのせ りかというのか。

 自己紹介の時しか下の名前を聞いていなかったから俺も忘れてたよ。

 心の中でメモしておこう。


 「里香さん、返信の件は……私様と蒼月君との関係の話でしょう? ですから恥ずかしいと言いますか……」


 いやどういう事? 

 たしか猪瀬さんは俺と東三条さんの対戦の時の話を凄かったって話がしたくて連絡したって言っていたはず。

 俺との関係ってどういうことだ?


 「うんうん! あの対戦はマジ凄かった! 二人ともカッコよかった~!」


 「あ、ああ対戦。対戦の事ですのね。抱きしめられた話じゃなくて」


 んん? 昨日の東三条さんからの返事にもあったけど、抱きしめられたって何のこと? 

 最後の袈裟固けさがための事じゃないよね!? 

 立ち技から寝技のコンボであれだけ完全に極まっていたら、落ちる……意識を失うレベルの攻撃を俺がしていたはずなんですけど!?


 え? 

 実は東三条さんはあれを抱きしめられたと思っていてその程度のダメージしかなく、降参したのってそれが恥ずかしかったからとかなの!? 

 あれで決められて無ければ負けていたのは確実に俺なんだけど……。

 まさかなと俺は思う。


 「あたしは息つく暇もなくて見入っちゃったよ」


 「ふふ。あの戦いは私様も思い出すと……ドキドキしてしまいますから恥ずかしいですわ」


 「蒼月、なんだか大丈夫そうでよかったよ。悪いけど東三条さんに僕の事も紹介してくれないか?」


 俺を心配して来てくれた水戸君が俺に小声で話しかけてくる。

 そう言えば彼もダンジョン攻略道に入るのだから、クラスの違う東三条さんへ紹介しておく必要があったか。


 「東三条さん。こちら水戸君。彼も俺たちのダンジョン攻略道へ入部するからよろしく」


 「水戸君ですね。私様は……東三条天音と申します。よろしくお願いしますね」


 「僕は水戸光成。よろしくね」


 二人の自己紹介が終わりみんなでワイワイと話していると、

 

 「矜一、その部活の事なんだけど……」


 クラス内で騒いでいたせいで椿たちも俺たちに注目していたが、何か俺に話があるようだ。

 声をかけて来てくれて嬉しい。


 「おい椿! もう行こう。俺たちには遊んでいる暇なんてない。さっきのだってまだまだ厳しかった。ダンジョンに早く行こう」


 俺が椿と話をしようとすると、九条が椿を呼ぶ。

 さっきのって言うのは鏡君の威圧のことだろうか。


 「あ、ああ。すまない。矜一、じゃあまた明日」


 「え? うん。また明日」


 普通にまた明日って言い合える仲に戻れたのかな!? 

 部活の事で何か話があったようだけどまた聞けば良いか。


 しかしこれだけ多くで集まっていると色んな所で会話が発生していて困る。

 東三条さんは鏡君と話しているし、猪瀬さんと水戸君は七海さんたちと俺の席の周辺で話している。


 出入口だから邪魔になるんだよなぁ。

 さすがにこれだけいると「ちょ 邪魔」って言われないで前の出入り口から移動する人は出ているようだけどね。


 「蒼月君はこの後どうするのー? 私たちは昨日と同じでダンジョンに行こうと思っているけど、蒼月君も来るよねー?」


 七海さんが今日のこの後の予定を聞いてくる。昨日いけなかったし今日は一緒しようかな。


 「うん。でも夏服を買ってから行きたいから購買に寄ってくれる?」


 「うん、いいよー」


 「蒼月君が行くのなら私様も行きますわ!」


 「あ、天音が行くなら俺も行くぜ!」


 ん-。

 東三条さんまでなら良いけど、鏡君が来ると7人になってしまうな。

 こっそりダンジョンパーティを組もうと思っていたんだが……。


 「んー、東三条さんは良いけど鏡君はちょっと……、俺に喧嘩を売ってくるような人とはダンジョン探索は一緒にしたくないかな」


 言ってやった! 鏡君にはハッキリと言ってやったぞ!


 「確かに、真一さんはトラブルを起こして5クラスに迷惑ばかりをかけているご様子。ダンジョンで戦うには信頼すべき方と行きたいと言うのは当然ですわ。ですから真一さんはご遠慮なさってくださいな」


 「ちょ、天音! それはないだろ? お前が行くなら俺も絶対にいくからな!」


 「これは……仕方ありませんわね。真一さんが加わって皆さんにご迷惑をかける訳にもまいりません。一緒にダンジョンに行きたかったですけれど……今日は諦める事にしますわ」


 東三条さんはそう言うと鏡君を連れて帰っていった。


 

 「ひがしっちも来てくれると思ったのに残念だし」


 「ほんとねー。でも同じ部活のメンバーだからまたすぐ行くチャンスはあると思うよー」


 「そっか。良かったぁ」


 俺たちはその後、5人でダンジョンに潜って特に猪瀬さんと水戸君の連携を見ながら訓練したのだった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る