第96話 東三条家 当主

 【注意】この回は93話の「本文外のまさかこの時の対戦が今後に多くの事態を引き起こす結果になろうとは、この時の矜一はまだ知らない」の

 引きを受け継いだコメディ回です。頭空っぽ、広い心でお読み下さい。

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 俺たちは5人でダンジョンに行こうと教室を出て校門前に通りかかろうとすると、音もなく高級車が目の前に止まってそこから3人の黒服が出てきて俺たちを囲んだ。


 「な、なんですか!」


 葉月さんが声をあげるが囲んでいる一人には見覚えがあった。

 東三条さんのマンションでコンシェルジュが連れていかれた時に指揮をとっていた人だと思う。


 「蒼月様。東三条家ご当主さまがお呼びになられております。どうぞお車にお乗りください」


 リーダーの黒服がそう言うと他の黒服二人は車までの道を開けた。

 そしてその言葉を聞いた七海さんと葉月さんはすぐさま腰の辺りで俺に向けて手を振っている。


 ……。

 前もあったよね、こういうの。


 「え? 東三条家? 蒼月どういうことだ?」


 ここで唯一東三条さんと絡みのない水戸君が戸惑っている。


 「俺も良く分からないんだけど、東三条さんのお父さんに呼ばれてるみたいだね……」


 「蒼月君、こっちは任せてー。みんなでダンジョンの5階くらいまで行ってくるよー」


 七海さんがもう完全に私たちは関係ないねモードに入っている。

 くそぅ。

 対人戦で勝ってしまったからか? 


 七海さんと葉月さんが水戸君に何やら説明すると、納得した顔で水戸君は俺に頷いた。

 いや頷かれても何に頷いたの? 行ってこいって事?


 「じゃあ、あおっち。私たちはダンジョンに行ってくるね」


 猪瀬さんがそう言うと、4人は俺を残してダンジョンに向かった。

 猪瀬さんはここで東三条さんからの返信が来ない事とか聞くべきじゃないの? 

 何でスルーしたの!?


 「では蒼月様。車へお乗りください」


 「ハイ」


 俺が黒塗りの高級車に乗り込むと車は音もなく発進し、七海さんたちを追い抜いて行った。

 俺は窓から七海さんたちを見るが、俺が乗っている車だと分かっているのに誰も目を合わせてくれない。


 まあこれが暴漢相手とかであれば七海さんたちが俺を見捨てる事はない事は分かっていても、東三条さんの名前を聞いたら芸人のようなリアクションをするのはどうなんですかね!



 しばらくすると車が止まりドアが開いた。

 エントランス前まで黒服と歩いて行くと前回とは違うコンシェルジュが俺へ生体認証を求めて来たので端末に指を当てる。


 「はい、確認できました。どうぞお通りください」


 俺はコンシェルジュにそう言われてエントランスを抜けエントランスホールへ向かう。

 3人の黒服はリーダーが前で俺を案内し残りの二人は俺を挟んで移動する。

 いやー、これが護衛かー。

 俺も偉くなったものだなぁ~と現実逃避をしてエレベーターに乗るとしばらくして、


 チン


 という音がして最上階についたようだ。

 一室の玄関へ入りそこから移動する間に何人もの使用人と行き違う。

 広い。


 「では蒼月様、こちらでお待ちください。じきにご当主様が来られますので」


 そう言うと、黒服リーダーは席を外し二人の黒服が俺の後ろに移動して控えている。

 俺は高級そうな柔らかな長椅子に座る。

 前はもっと歓迎されていたのになー、お茶菓子でないなーと思いながらしばらく待つとどうやら東三条さんのお父さんが来たようだ。


 なんでわかるかって? 後ろの二人のピリ付き具合が半端ないからね! 

 耳にイヤホンをしているし無線で何か言われているのだろう。


 しかしこのピリ付きのせいでこちらまで緊張してきてしまった。

 相手は東三条さんの父親で成功している人であるから、平常心で挑まなければミスにつながるだろう。

 だが……この状況ではどうにもそれは難しそうだ。

 ガチャリとドアが開くと、俺はそれを確認して立って礼をした。


 「ふむ……。君が……蒼月矜一君かね。ああ、楽にしてくれ」


 俺はそう言われて、「はい。蒼月矜一と申します」と答えた後に、「失礼します」と言って再び座った。


 目の前の男性を見ると結構若い。

 俺の両親と同じくらいだろうか? 

 40歳前後のように思える。

 そして間違いなく強い。

 権力者って守られていて肉体より頭脳派だと思っていたのだが、東三条さんのお父さんはどうやら違うようだ。


 「んん? ワシが鍛えている事がそんなに不思議かな?」


 俺の考えている事が見透かされた? 

 態度には出してなかったと思うが……。

 なにがあるか分からないので正直に答えておくか。


 「はい、かなり……の強さに見受けられます」


 「ふむ。ワシが調べた限りでは君は国立第一東校に入学するまではレベルが1だったはずだが……強さが分かると言うのも嘘ではないようだね」


 調べたって言った! 

 東三条さんも私様わたくしさま自らとか言ってたけど、その父親からも調べられたの? 

 俺は東三条さんのお父さんの言葉にあいまいに頷いた。


 「ワシがレベルを上げている事を不思議に思う事もないだろう。ステータスの知力が上がればそれだけで有利になるし、戦闘面だけではなく知識や物事の判断に使えるスキルだって得る事があるのだ。むしろこの時代に上に立つものがレベルを上げないなどという選択肢はないのだよ」


 「そ、そう言われるとその通りです」


 もちろん、ステータスが上がれば人は間違いをおかさないと言うわけではない。

 身の回りやテレビを見るだけでも知識人が下品なSNSをしたり、勘違いで言い争っていたり、世の中で正しいと言われていることでさえ批判をする知能が高い人たちはいるからだ。


 それでもステータスが上がれば上がるほどそれまでの自分と比べれば違いはあるだろう。

 それに壁を超えれば仕事に有用なスキルも手に入る事がある。

 言われてみれば権力者こそレベルを上げるのは道理だと思った。


 「まあそんな事は良い。ところで蒼月君……。君はなぜ今日ここに呼ばれたか分かっているのかね?」


 俺は今日ここに呼ばれた理由を考える。

 いくつか考えられるが、一番可能性が高いと思うことは東三条さんと対戦したからだろう。

 次点を挙げれば部活動の話だろうか? 

 たしか東三条家から圧力があったという事を生徒会長が言っていた気がする。


 いや待てよ? 

 こういった名家めいかであれば、挨拶は重要視するだろう。

 俺は前回きた時に父親への挨拶を東三条さんに勧められたことを思い出す。

 その話を東三条さんが話していたとすれば……。


 「前回来た時に挨拶ができなかったことでしょうか?」


 「君は……、いやお前はウチの娘を傷ものにしておいてよくわからずにここに来たというのか!?」


 傷もの? たしかに東三条さんは俺と対戦する前までは無敗だったはずだ。

 そうなると対戦で黒星をつけたことの話の方だったか。


 「それは東三条さんと(対戦)した事でしょうか? それならば……、お互いの同意のもとの結果です」


 「なんだと貴様! それならば、十六夜椿はどうするというのだ!」


 俺が答えると、その答えに激怒した東三条さんのお父さんから威圧が放たれる。

 くっ これは……闘技場での冴木先生を思わせるほどの力を感じる。

 しかし娘を傷ものにしたとは言うが、それは東三条さんから申し込まれた対戦の結果であって、しかも肉体的には元通りになっているはずだ。


 それに椿? どうして椿の話がここででるんだ? 

 俺は思考加速を使い考えを巡らす。

 そして出した結論は……、ここに呼ばれたのは対戦の話ではなくもう一つ頭に浮かんでいた部活加入の件だと結論付けた。

 俺の事を調べているので、少なくとも椿と一緒に登校をしていたという事は東三条さんと同じく掴んでいるはずだ。


 登校をしなくなってからは1日しかたっていないので、そこを知っているかどうかはわからないが、登校をしなくなった一因には東三条さんが俺と椿を婚約者と勘違いした事が挙げられる。


 あの時の会話がなければ俺と椿はまだ一緒に登校をしていたと思われるからだ。

 あの時のクラス内の騒動を考えれば、自分の娘が犯した失態だ。

 だから椿とはどうなったのかを聞くという事もわかる。


 俺たちが婚約者同士と思っているのなら部活動も同じく一緒にするだろうと思っているはずだ。

 そこを自分の娘が犯した騒動の結果でどうなったのか知りたいのだろう。


 「椿とは(部活動も登校も一緒には)しません……。それは東三条さんの(巻き起こした騒動の)行為の結果です……」


 威圧が俺に向けられてかけられているのでハキハキとしゃべる事ができない。

 自分の娘の失態を信じられないからと言って、迷惑をかけた相手に威圧をするってどうなんですかね。

 これが強者……権力者のやり方か……。


 「貴様……行為の結果などと……今どきはそういうものなのか? いやしかし……」


 「お父様が東三条さんの事を信じたいのはわかります。ですが、(失態を犯したのは貴方の娘さんですから)東三条さんに聞いてもらえればわかる事かと思います」


 「貴様にお父様と呼ばれる筋合いはないわ!」


 「……しかし事実です」


 俺は言う事は言うべきと思いハッキリと伝えた。


 「……天音がお前の事を憎からず思って調べた事は知っている。娘を泣かせる事のないようにしろよ」


 「はい。全力を尽くした結果です。(部活動のメンバーとして)一緒に盛り上げていきたいと思います」


 「貴様……。行為をそのような盛り上げてなどと遊びのような……。もう良い。蒼月君を彼の家まで送ってあげなさい」


 東三条さんのお父さんは黒服にそう伝えると部屋から去っていった。

 そして俺は部屋から3人の黒服を引き連れて黒塗りの高級車が停車している場所へと移動する。


 するとそこには運転手なのだろうか? 東三条さんをいつも送り迎えしている運転手とは違う、別の黒服の男が変わった魔力を纏いながら立っている。

 魔力は魔力なのだが、気……オーラを操っているような感じなのだ。


 しかしここの運転手は全員強さが一定以上が求められるのだろうか? 

 この黒服もBランクはありそうに感じるのでかなり強いのだろう。


 「仙道! お客様のお帰りだ。わかっているとは思うが……お嬢様のお気に入りでもある。俺たちも気にいらないが……その魔力を抑えて丁重に送り届けろよ」


 リーダーの黒服が運転手……仙道さんに向かって言葉を発する。

 おかしな魔力の扱い方だとは思ってはいたが、俺が気にくわなかったから威圧を応用して体に纏わせて操っていたのかもしれない。


 「わかっているよ。では蒼月様、どうぞお乗りください」


 纏う魔力はそうではないのに言葉遣いは丁寧に発して高級車の後部ドアを開けてくれた。

 そうして俺は黒塗り高級車に乗って丁重に家に送られたのだった。


 


 


 

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