第70話 冴木先生の実力

  午後の授業を終えて放課後になった。

 俺は今日の対戦の調整に忙しく、休憩時間をほぼそれに費やした結果、これから戦う対戦数が1-4クラスの半分を超える18人になっていた。

 しかも上位から15人プラス今日、もともと戦う3人。


 相手の上位陣は昨日こちらの上位陣と対戦していた人たちで本来、今日は休みの予定の所に最下位の俺から連戦したいので今日の放課後に対戦できませんか? 

 という通知が相手の端末に届いた結果、煽られていると判断され全員が了承してきたというわけだ。


 俺は席を立つと七海さんと葉月さんがいる方向をみる。

 ちょうどあちらもこちらを見ていたので、


 「七海さん、葉月さん行こうか」


 俺は闘技場まで一緒に行こうと2人を誘った。

 もう俺から誘えるレベルになっているんだぜ! 

 目的地が同じ場所だからってのはまだ悲しいけどね。


 「「うん」」


 ちらりと椿の方向を見ると、1-5の上位陣は昨日の敗戦を糧にどうすれば良いか話し合ったり訓練をするようだ。

 仲間……、1-5クラスの他のクラスメイトは昨日応援してくれているのだから応援しろよとは思うが、敗戦した事を考えると仕方がないのかもしれない。


 「蒼月君は何番目くらいに対戦が始まるの? 私たちは後半ー」


 七海さんが俺の対戦の順番を聞いてくる。


 「俺は今日は最初から全員と対戦が終わるまで出ずっぱりかな?」


 「ええ? どういう事? 3人でしょー? って事は最初からかな?」


 「あー、最初からなんだけど、今日は18人と対戦予定だからたぶん後半も戦ってるんじゃないかな?」


 「……ああ、まあ蒼月君だもんね?」


 なぜか七海さんに呆れられていた。

 俺だからってどういう意味だろう?


 「じゃあ前半は私たちは観戦してるね!」


 葉月さんがそう言ってくれる。

 昼も応援してもらったし、今回も無様な所はみせないように頑張ろう。



 闘技場に着いて中に入ると、昨日観戦していた状態よりも広く感じる。

 昼休憩で早退した青木たちの対戦する場所が空いているからかな?

 風紀委員のマークを付けた上級生? に名前を呼ばれたのでそこへ行く。


 「まさか、落ちこぼれクラスの最下位君から逆指名を受けるとは思わなかったよ。お前昨日の自分のクラスメイトがやられていた所を見てなかったの?」


 審判をする風紀委員の所へ行くとこれから対戦予定の1-4クラスの1位が俺へ話しかけてきた。


 「ああ、見てましたよ。ウチの九条にギリギリでしたね」


 九条 レンにコイツは長引いたとはいえ圧勝していたが、昨日ウチのクラスメイトを殺す必要がない時までリスポーンさせていたのだからこれくらいのイヤミは言っても良いだろう。


 「ああ!? いやお前は絶対に見てないだろ! 俺がギリギリ? 何時そんな場面があったんだよ!」


 しかし青木たちもそうだったけど、みんな短気すぎない? 

 ダンジョンで冷静さを欠くと俺みたいに死にかけるよ?


 「静かにしろ! これから戦うのに口喧嘩してどうする」


 風紀委員の上級生が俺たちを注意する。


 「チッ、楽に死ねると思うなよ」


 「おい!」


 良くある三下がいうようなセリフを1-4の1位が言うと、風紀委員がいら立った。


 「わかってますよ!」


 「良し、お前ら整列しろ……、始め!」



 試合開始の合図とともに4クラスの1位が叫びながらやってくる。


 「後悔させてやるぞ、落ちこぼれの雑魚がぁ! スラッシュ!」


  「!?」


 さすがに青木たちとは違ってスキルを使ってくるようだ。

 基本的に壁を超えた時に出るジョブは少なく前衛職となるとほぼ剣士を選択するために、スラッシュを探索者が打つ可能性は高くなる。


 とうぜん俺もそれを理解しているために少し早めに動き、そして剣を紙一重ではなくその纏ったエネルギーに当たらない程度を見極めて交わす。

 仮面ラ〇ダーですら使ってくる有名技だしね。

 ついでに足でもかけておくかと思い俺は足を出した。


 ズサァァ


 「テメェ! ぶっ殺す!」


 ……。

 昼からもしかしてみんなコントかなにかでもしているの? 

 俺はそれならと思い、1位君の右足首を斬り飛ばした。


 「グッ! て、テメェ……」


 おお凄いぞ。

 痛がってない!

 これは内部組と外部組の違いなのかな? 

 内部組はリスポーンを何度も経験しているとすれば、青木たちは経験がなくて痛みに耐えられず、この1位君は耐えられたと納得できる。

 でももう……戦意を失ってはいないけど、前に進む事すらままなっていない状態だ。


 「……ス、スラッシュ!!」


 1位君が片足で立ち上がりバランスを崩しながらもスキルを放つ。

 こう考えると、ダンジョンで戦った、ガタイの良いおっさん、中肉のノッポ、重戦士のような格好をした小柄だがどっしりとした3人組はやはり強かったんだな。


 あの3人はスキルを使って来ることはなかったが、ノッポと小柄な男がこの1位と同格か少し弱いくらいでガタイの良い男は確実にコイツより強かった。


 もしかすれば、ジョブが戦士でスキルを使って来なかったのかもしれない。

 戦士はスマッシュというジョブスキルがあるが少しだけ溜めが必要だ。

 そのために使えなかったのかもしれない。


 しかし思考加速があればスキルを放たれても、相手の強さによってはここまで余裕ができるのか。

 まあ……明日はまたこの上位陣はコチラのクラスメイトと戦うので少しアシストしておこうか。

 痛みに慣れていればアシストにならないかもしれないけどね。

 俺はそう思い、今度は残っている片方の足を付け根から斬り飛ばした。


 ドサッ


 両足を斬られて1位君は倒れた。


 「グッ……、く、くそこんなバカな事があるか……」


 「まだそこから何か策でもある? あるなら追い打ちをかけるけど?」


 「ふざけんなああああああ!」


 1位君はそういうとしばらくして消えていった。

 失血死だろうか。


 「勝者 蒼月!」


 その後、俺は2位以下を全員下し戦闘を終えたのだった。

 勿論、椿を殺した3位君は四肢を切断して……おいたが……アレ? 

 俺ってまさかヤバいやつ?




 

  「コイツか! 貴様、魔道具を使って違反しただろう!」


 自分の対戦が終わったので観客席に向かおうとしていると、スーツ姿の男が俺に罵倒を飛ばしてきた。


 「山田先生? それは僕の審判の目を疑うという事ですか?」


 俺が不正をしたと言われて、審判をしていた風紀委員の上級生が抗議をする。

 へぇ、この人は先生なのか。

 1-4クラスの担任かな?


 「お前こそ何を言っている。相手は落ちこぼれクラスの最下位だぞ! それがウチのクラスの1位を始め18人も倒したというじゃないか。あり得る訳がないだろう!」


 ふむ。

 確かにその言い分は一理あるように俺も思ってしまった。

 でもその18人……、俺以外にも後二人は全勝する子が1-5にいると思いますよ。


 そもそも魔道具って使ってはダメなの? 

 特に装備についてはルールに記述がなかったはず。

 装備を含めてそいつの強さって事かと思っていた。


 「しかし、特に不正を働いたというようには見えず……」


 風紀委員の上級生は尚も食い下がる。

 意外と公平にみてくれてるんだね。

 ありがとうございます。


 「貴様! そこの不正者と同じく退学にするぞ!」


 えぇ? いつの間に俺は退学確定なのん?



 「山田先生、それは俺の目もこの蒼月は欺いたという事ですか?」


 突然後ろから声が聞こえたので振り向くとそこには1-5クラスの担任、冴木先生がいた。


 「冴木先生? これは貴方の責任問題にもなりますよ。貴方のクラスで不正があったのですから!」


 「ハァ? だからお前は俺が不正を見抜けなかったとでも言うのか? 現役Aランクであるこの俺が?」


 ブワッっと冴木先生から威圧がかかる。

 こ、これは……。

 膝をつく事はないが、これはキツイぞ。


 「「う……」」


 バタバタッ


 目の前の先輩と先生を含め、他に審判をしている上級生と……七海さんと葉月さん以外はうずくまっている。


 「元Bランク程度のお前が俺に意見するの? 蒼月の戦闘は俺も昼に見ている訳だが、お前は俺の、この、実力を疑ったと同然なわけだが?」


 冴木先生は全体に放った威圧を弱め、山田先生に対しては緩めずに威圧したまま返答を待っている。


 「さ、冴木先生の実力を疑っている訳では……ありません。冴木先生が判定した試合は今ではないはずです。コイツは今回、不正をしたのです……」


 「1-4クラス程度の実力でコイツが不正をしただって? だからそれが俺の目を疑っているということだろう!」


 「ひ、ひぃ」


 ついに山田先生ですら膝をついてしまった。

 完全に山田先生を対象にして冴木先生は威圧を放っているからね。

 しかし、俺のレベルとかってもう完全にバレちゃってる? 

 たったあれだけで? 

 いや、レベルなんかは偽装されていてそれが分かる事はないはずだが……。


 「ふぅ。ああ、まだ対戦予定があるならやってくれよ」


 威圧を解いた冴木先生は何事もなかったようにそう言い放ったのだった。


 「先生助かりました」


 「蒼月、お前な。また俺を審判で呼ぶかもって言ってたから、放課後に待機していたのにまさか呼ばれないとは。しかもクラスメイトの七海が観客席で1-4のクラスメイトがお前が不正だって言って、担任を呼んでますって連絡があって来てみたらこれだよ」


 七海さんが俺の退学を救ってくれたのか! 

 俺は観客席をみて手を挙げる。

 七海さんと葉月さんが笑顔で手を振ってくれていた。

 可愛い。

 2人の戦いはおわったのかな?


 「まさか不正を疑われるとは思いませんでした」


 「それは俺もだな。まあ後は俺に任せとけ。まだ試合があるなら俺が審判をしてやろう」


 「いえ、今日の対戦は全て終えました」


 「そうか。なら気を付けて帰れよ」


 「はい」


 俺はそう言って観客席に向かう。

 その間に冴木先生は山田先生に「向こうで話しましょうか」と言って連れて行っていた。

 怖いね。



 「「蒼月君!」」


 七海さんと葉月さんが名前を呼びながら近づいて来てくれる。


 「ありがとう。先生に連絡してくれて」


 「あ、冴木先生に聞いた? 観客席でなんか不穏な話をしてたから連絡しておいたのー」


 七海さんが言う。


 「本当に助かったよ。なんか退学にされる所だった」


 「対戦で負けたら退学にしようとするとかダサすぎ!」


 葉月さんが大声で周りに聞こえるように言う。


 「な、七海さんと葉月さんの対戦はどうだったの?」


 横目でちょいちょい対戦しているのは見ていたのだが、全て終わったかどうかはわからない。


 「へへーん! 二人とも3戦全勝よ!」


 葉月さんはない胸を張って嬉しそうに言った。


 「……ちょっと。どこを見てるの?」


 おや? 

 一瞬前までの嬉しそうな空気が急にピリつきましたよ?


 「い、いや。二人ともおめでとう! 大丈夫とは思ってたけど俺も嬉しいよ!」


 「「ありがとう!!」」


 その後、俺たちは戦闘について話したり授業の事を話したりして解散した。



 

 「さて、日課のオークをダンジョンで倒して卸してから帰るか」


 俺はダンジョンでアイテムボックスにオークを3匹つめると、買取所に卸してから帰宅をするのだった。








 


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