第71話 手のひら返し

 翌日いつものように登校して教室に入ると、中にいる全員がこちらに注目していた。

 また何かあったかなと考えるが、青木たちの事くらいしか思いつかない。

 最下位が青木たちに勝ったからか?


 「子ブ……、蒼月! あんた凄いじゃん!」


 いや子ブタて。

 もう違うからっ! なぜか俺をナチュラルに子ブタ呼びしそうになり、話しかけてきたクラスメイトの女の子を見る。


 この子良く青木たちの言葉の後に「キャハハ」って笑ってた子だよね。

 名前……、猪瀬いのせさんが子ブタ呼びを除けば好意的な感じで話しかけてくる。


 「何かあったの?」


 一応は好意的な感じで話しかけてきているので聞いてみる。


 「何かって、子ブ……あんた1ー4クラスのやつら倒してたでしょ!」


 「マジ凄かった」 「スカッとした」 「アイツらざまぁ」


 猪瀬さんの言葉に昨日の放課後に1-4クラスと対戦していた面々が俺を称賛してくる。

 それより子ブタそんな言い易い!? 

 それならもうそっちでもいいけど!?

 しかし俺が昨日、クラスに向けてお前らが俺に対してしている事はイジメだって言った事などはなかったかのようだ。


 「これがイジメる側の……メンタルか」


 「え? なに? 周りがうるさくて聞こえなかった」


 猪瀬さんがここで難聴系主人公のような事を言ってくる。

 うーん、クラスの暗い雰囲気が明るくなったことを考えれば俺への暴言なんかはもう水に流すべきなのか? 

 いや、放置するからイジメが減らない原因では?


 クラスの席が右側……成績がクラス内でも悪いやつらは昨日に俺の対戦を見ていたので大盛り上がりだが、逆に上位陣は困惑気味だ。

 まあ、そりゃそうだよね。

 自分たちは全敗しているのに最下位の俺が勝っちゃっているからね。


 「勝ったって言えば、七海さんと葉月さんも全勝でしょ」


 俺は七海さんたちを探しながら言うが、今日はまだ登校していなかったようだ。


 「そうそう、ななみん凄かった~。はづきちも!」


 ってかコイツ2人の事をそんな風に呼んでるのか。


 ガラガラ


 引き戸が空いてそちらを見ると丁度、七海さんと葉月さんが来たようだ。


 「お、二人ともおはよう」


 「あ、蒼月君おはよー」 「おはよ」


 「ななみん! はづきち~! 昨日は凄かったね!」


 猪瀬さんに急に話しかけられて2人はアワアワして可愛らしい。


 「あ、ありがとう? どうしたの朝から」


 七海さんは状況がわからず猪瀬さんに聞いている。


 「いや~、ウチらもまた全敗するものだと思ってたのに蒼月とななみん、はづきちが勝ってくれたからさぁ。昨日の話をクラスでしてて盛り上がってたとこだよ!」


 「ああ~」


 「まま、ご両人。中央へどぞどぞ」


 猪瀬さんに言われて二人は中央で昨日の対戦の話をひっきりなしに聞かれたり称賛されていた。

 しかし昨日の俺の対戦が今日の椿たちの対戦にどう影響するか……。

 相手の動きが悪くなってくれたら良いんだけどね。

 チラリと椿のいる方向を見ると、対戦を見ていないために困惑しながらも七海さんと葉月さんの昨日の戦いの事を聞いているようだ。




 「あ、蒼月。今日の対戦なんだけどな、俺たちお前との対戦を棄権するわ」


 「ごめんね、あおっち。あたしも棄権する!」 


 「俺も」


 中央に話題が集まったかと思っていたら、七海さんたちを残して騒いでいた面々が戻ってきた。

 いきなり席が囲まれてどうした事かと思ったら、俺に対戦を申し込んでいた1-5クラスの残りの8人が今日の対戦を棄権するという。

 ついでに猪瀬さんからの俺の呼び名が、子ブタからあおっちにいつの間にか変わっている。


 「わかったよ。じゃあ棄権する人は端末で対戦予定の所で棄権にしといてくれる?」


 「ありがと! そうだ、あおっち。今日の午後あたしとクレープでも食べに行かない?」


 多くが俺の言葉で端末入力をしていたのに、なぜか猪瀬さんが俺を遊びに誘ってくる。

 いやぁ、初めてまともに話したのが俺に対戦を申し込みに来た時だったのに行かないよ。


 「いや、さすがに良く知らないし」


 「だから遊びに行って良く知り合うんじゃん! じゃあ、あたしのウチにマイクロミニブタでも見に来る? 前のトコトコ歩くあおっちに似てて可愛いんだぁ。あ、鼻は全然にていないけど雰囲気がね! 今の細マッチョもカッコいいけど、丸っとしたあおっちを知っている身としては太った方がお勧めかな」


 まあ確かに遊びにいって仲良くなるというのはその通りか? ってか猪瀬さんはミニブタを飼っているの? 

 俺への子ブタってそういう感じ? 


 いやでも悪口じゃなかったとわかっても、コブタに似てるって言われて嬉しく思う人はいないだろ? 鼻も全く上を向いていないゾ! 

 しかしまさか猪瀬さんがデブ専だったとは……。


 「うーん、今日はまだ1-4クラスの残りと戦うかもしれないし、それがなくても観戦すると思うから止めておくよ」


 「そっか~。残念。また今度行こうね」


 そう言うと、猪瀬さんは中央の騒ぎに戻っていった。


 ちなみに1-4クラスとの俺の対戦は今日の放課後に12戦する予定であったが、昨日の夜に11人から棄権の申し出がすでに届いているので、1戦だけ……だと思っていたら、端末にその残りの一人から棄権の意思表示が届いた。


 自分たちの上位陣が負けたと聞いても1-4クラスの対戦予定のやつらは棄権しないと思っていたのだけど、全員が棄権したのは自分たちの担任の失態と冴木先生が不正はないと保証してくれたせいかもしれない。


 1-4クラスはクラスが別だから端末で棄権を知らせるのはわかるけど、1-5のクラスメイトが端末ではなく直接に言いに来るとは思わなかった。

 ここは礼儀的には1-5クラスの方がまともなのか……な?

 しかし、埋まりまくっていた予定が一気になくなると放課後はどうしようか。


 上位陣の戦いは1回見てるし、たった2日で何か変わっているとも思えない。

 俺と1-4クラスの対戦が効果があればまた違うとは思うけど、九条たちが勝てたとしてもその対戦自体はあまり見る所はないように思う。

 まあ、放課後までに予定を考えるかな。





 

 


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ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

今年はこれで最後の更新となります。良い大晦日をお過ごしください。


 

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