第69話 VS青木

 午前の授業を終えて昼休みになったので闘技場に向かう。

 学食に先に行っておいてと言ったんだが、七海さんと葉月さんもついて来てくれるようだ。

 闘技場について少し待つと青木たち5人がやって来た。


 「やっぱお前らのどっちか付き合ってんだろ。無様に負けるさまを見に来るとかドMなん?」


 青木が七海さんたちに向かって言う。


 「え? なんでいちいち付き合ってるとか気にするの? もしかして嫉妬?」


 葉月さんが言い返す。


 「ハッ ブスが! 俺はもっと豊満なのが良いんだよ」


 「「それな!」」


 いや~どうだろう。

 みんな違って、みんな良いと俺は思うよ。


 

 「お、来てるな。休憩時間で先生が来ても誰もいなかったら切れるとこだったぞ~」


 冴木先生が来たようだ。


 「じゃあ蒼月君、上で見てるね!」 「適度にねー」


 葉月さんと七海さんが俺に声をかけて観客席で観戦するようだ。


 「よーし、お前らどいつからやるんだー?」


 「ハッ 俺に決まってる!」


 青木がそう言って名乗りをあげた。

 青木は完勝する気でいるけど、こいつは25位で俺の30位と比べてもたいして差がない事をわかっていないのだろうか?


 そう言えば剣術なんかの授業では組んだ事がなかった。

 今は表示上、俺もレベル5だ。

 まさに同格と思うんだが、最初のレッテルがこの認識を生んでるのかね。

 他の四人は観客席に行かず近くで見るようだ。

 邪魔だな……。


 「よーし、はじめっ!」


 冴木先生の合図の元、青木が先手必勝とばかりに剣を構えて突撃してくる。


 「おりゃぁ!」


 うーん、遅い……。

 思考加速は既に使っているがそれだけだ。

 まあスキルの方の身体強化などパッシブスキル(常時)は発動しちゃってはいるけどね。

 俺はひらりと身をかわして足をかける。


 ズザァァ


 青木は一人で気持ちいい具合にこけて剣を手放した。

 えぇ……。

 いつでも剣が突き刺せてしまう状態なんだが……。

 受け身すら取れない?


 勝てる事はわかってはいた。

 わかってはいたが……、今宵のレベル5の時点の動きを見ているせいか、警戒をしていた事もまた事実だった。


 「てめぇ! もう手加減してやんねぇ。死んでも文句を言うなよ!」


 ……あれ? 

 もしかして青木って優しい子なの? 

 殺す気で来てなかったとか1-4を相手にする場合は、その心構えでもう負けるかもよ?

 青木はそう言うと剣を振り回し俺に当てようとするが、俺は全て紙一重でかわしていく。

 青木の息が荒くなってきたところで俺はまた足を出し今度は少し力を入れた。


 青木は剣を斜めに地面に刺して踏ん張ろうとするが、俺が少し足に力を入れたせいで耐えきれず……剣のつかへと勢いよくダイブして持ち手の所が開けた口の中に入る。

 ゴリっという前歯の折れる音とぐぐもった声を青木は発した後に、消えていった。


 「……」


 「勝者、蒼月!」


 酷いものを見てしまった。

 剣で刺されるでも無く、自分から剣のつかへと飛び込み、窒息死なのか口の中を貫通したためなのか分からないが死んでしまった。


 「蒼月テメー! ただの運で勝って余裕気取りか? 俺がボコってやる!」


 張本が次の相手のようだ。

 しかし困った。

 切り捨てれば一瞬で終わるだろうが、審判が冴木先生だ。

 少しの動きでもステータス偽装が見抜かれてしまうかもしれない。

 端末上は問題ないだろうが、俺の動きに対して不審を抱くかもしれない。

 どうするか……。


 「ハッ、青木を倒した程度で余韻に浸ってんのか?」


 なぜ少し考え事をしていただけでそうなるのか。

 俺は目で冴木先生を見ると、冴木先生は俺の準備が整ったと判断したようだ。


 「蒼月VS張本 始め!」


 「うぉりゃぁ!」


 合図とともに張本も剣を振り回して攻撃してくるので、俺は今回も紙一重でかわし足をかけた。


 ズザァァ


 青木の時と同じように張本も倒れ……そして同じように……。


 「てめぇ! 運だけは良い奴だ!」


 そう言って俺にまた切りかかってくる。

 デジャブかな? 

 このままだとまた剣のつかで死んでいくの? 

 それはそれで冴木先生に疑われてしまう気がする。

 俺はそう思い、張本の足首を斬り飛ばした。


 「ぐああぁ! いてぇ、いてぇよ!」


 張本はバランスを崩し、地面にへばり込んで痛みを訴えている。

 俺は張本に近づいて剣を構える。


 「俺の負けだ! いてぇ、たすけてぐれっ たのむぅ」


 痛みに耐えきれず大泣きして、自分の負けを宣言している。

 俺はそこで冴木先生をみた。


 「勝者、蒼月!」


 張本は結局、痛い痛いと泣き喚いて闘技場を出るまでに時間が掛かってしまった。

 その後、残りの3人に対しても俺は体のどこか1ヵ所を斬り飛ばす事で相手が負けを宣言し昼の個人戦を終了したのだった。


 「蒼月、お前……」


 冴木先生が何か言いたそうにしていたが、昼の審判のお礼を言う。


 「先生、審判ありがとうございました。もしかしたらまた明日も頼むかもしれません」


 「ハン? 明日ってお前は何戦するつもりだよ」


 「いえ、実はまだ40戦くらい残ってるんですよね」


 「は?」


 「1-4クラスの全員に挑まれたので……」


 「はぁ。というか、手加減してやれよ。時間があれば審判はしてやるが期待はするな」

 

 「……はい。ありがとうございました」





 「蒼月君、食堂いこー」


 七海さんが俺を誘ってくれる。

 しかし時間が……。


 「七海、あと15分だから食堂は無理よ」


 「えぇー、食べないとお腹なっちゃうかもー」


 「じゃあ購買でパン買わない? パンなら行儀は悪いけど食べながら教室に帰れるし」


 俺を観戦したせいで昼食が抜きになるのは気になるので、購買のパンを提案した。


 「そういう日もありかもね!」「じゃあそれでー」


 葉月さんと七海さんが承諾して俺たちは購買に向かったのだった。



   

 

 昼休憩が終わり午後の授業が始まると、俺と対戦した5人は早退した事がクラスに伝えられる。

 彼らは今日の放課後に1人3戦する予定だったはずだが、それらも全て棄権して不戦敗になるようだ。


 最下位で確実に勝てる俺にあの状態だったから、クラスでその事を聞かれたくなかったのかもしれない。

 あいつらの事は気にしても仕方がないかと俺は思い直し、午後の授業を受けるのだった。

 



 





 


 


 

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