第67話 1-4クラス上位VS1-5クラス上位陣

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 七海さんたちとレベ上げを開始した時からもう一度日曜日を挟んで今日はその次の日の5月21日月曜日。

 俺たちはあれから毎日、放課後にマコト達も含めて集まって戦闘訓練を繰り返していた。


 レベルをもっと上げるという事も考えたのだが、戦闘経験が圧倒的に足りない事から足運びや体の動かし方、敵の倒し方を徹底的に訓練した。

 スケルトンやハイコボルド、ホブゴブリン、オークといった人型と戦闘を繰り返して今日から行われる個人戦に備えたわけだ。


 その間に今宵が生活魔法を覚えたり、父さんと母さんがレベル16の壁を超えて空間魔法を選び、更には父さんが気配察知、母さんが基本属性魔法を覚えたりした。

 母さんが無属性の身体強化アビリティライズを覚えて模擬戦で父さんを圧倒した時はビックリし、父さんが数日思い悩んでいたが、それは割愛する。

 ちなみに俺も空間魔法のレベルがあがって、短距離テレポートを覚えたよ。




 俺は学校で端末をイジリ、今日から始まる対人戦の予定を確認していた。

 この対人戦は学校の行事に含まれるので、学校側が闘技場の使用予定枠をとっている。


 1-5クラスは闘技場の予約が優先的にとれなかったが、それでも放課後から結構な数の対戦が予定されている。


 今日はまず、1-4クラスの上位と1-5のクラスの上位が激突する。

 この2週間で俺はさらに1-5のクラスメイトから対戦の申請を受けていた。

 なんでも1-4のやつらには勝てないだろうから、せめて俺に勝って一勝でもしたいそうだ。


 そして相手から申し込んできているのに、わざわざ俺を馬鹿にして去っていくのだ。

 断られるとは思っていないのか? まあ受諾したけど。

 これはずっと思っていた事だがイジメで、個人戦を理由に今度は痛めつけて自分たちのストレスを発散しようとしている。

 さすがに受諾するよね。


 現在の俺の偽装ステータスはレベル5。

 レベル4クラス以外で俺に対戦を申し込んできた13人もレベル5。

 なぜ確実に俺に勝てて、ストレスを発散できると思ったのだろう。


 ちなみに1-5クラスの残り半分……椿を含むトップ4は興味なしという感じであったが、それ以外は最下位を倒しても自慢にならないという感じで対戦申し込みはしてこなかった。


 個人戦は手の空いた教員、生徒会、風紀委員の第三者が見届け人兼審判として付き添う事になるが、対戦相手同士の容認があれば、放課後ではなくても授業間の休憩であっても対戦相手と見届け人の予定が合えば戦えるらしく、俺は明日から休憩時間ごとに対戦が詰まっている。


 七海さんも葉月さんも初戦は明日の放課後かららしく、今日は上位陣の対戦を観戦するらしい。

 正直……そんなのを観戦するくらいなら、ダンジョンダイブしたいが……一緒に観戦しようと言われれば、一も二もなく承諾した。

 そのため、今宵やマコト達には今日は俺たちはダンジョンに潜らない事を連絡している。





 授業が終わり放課後となった。

 俺たちは1-5クラスの上位陣の戦いを観戦するために闘技場に移動する。

 そうそう、最近では放課後に一緒に訓練している仲なのでずっとお昼は七海さんたちと一緒に食べていて学校が楽しくなってきている。


 新しく作ると言っていた部活も自分たちの訓練で忙しく、作らないかもと言っていた。

 俺は中学でも帰宅部だったので少し部活動に憧れがあるんだよなぁ。

 3人から同好会は作れるので俺を入れて作ってくれないだろうか……。


 「対戦どうなるかなー」


 そんな事を考えていると、七海さんがこの後のクラスメイトの戦いの話をふってきた。


 「九条は端末登録より強い感じはあるけど、1-4クラスの上位の方が少し上に思えるんだよね」


  まあ、1-4クラスは全員レベル6の壁を端末で確認する限り超えていてその上位陣はレベル11をも超えている。


 日本のというより世界の方針でステータスを得た時にそれは国に登録され、その後は特に探索者の場合は治安維持の観点からも生体情報(ステータス)を更新して開示する事が望ましいとされている。


 探索者登録をしていて長期間に更新がない場合は国から指導が来ることもあるそうだ。


 そう言った事から国立の探索者高校では基本的に頻繁に情報は更新されている。

 内部入学であれば、1-4クラスと言えども全員が基本的に先天的なスキルか魔法を持っていて、レベル11の壁を超えていれば合計3個プラスJOB由来のものが彼ら彼女たちの強さと言えるだろう。


 ただ、だからと言ってレベル5がレベル11に勝てないかと言えばそうではないと思うのだ。


 なぜなら、1-5クラスと言ってもこの高校に受かるだけのポテンシャルはある事になるし、スキルを4つ覚えていたとしてもそれが「剣術」、「身体強化」、「暗視」、「気配察知」などであれば、校内における個人戦で有用なのは剣術と身体強化くらいだろう。


 そして対戦相手が例えばレベルが5の時点の九条 レンであれば(現在は壁を超えているが)、彼のスキル武器マスタリーだ。

 相手の剣術スキルという利点はレベル差があっても、差が出ない可能性がある。


 身体強化も1の場合は1.25倍の能力上昇と言われているが、これだってステータスが得られるようになる前……のオリンピック選手になれる才能の持ち主と普通の才能の人がいて普通の人がレベルが高かったとしても才能の差で身体能力が上回れているとは限らない。


 「でも楽しみだね!」


 葉月さんは個人戦を楽しみにしてるみたいだ。


 「どうかなー。闘技場で怪我なんかは負わないけど、死ねば精神疲労になるしたぶん1-4クラスのメンバーはそれを狙って来ると思うよ。そしてその後の別の人の戦いも有利にする気がする」


 「ええ!?」


 「だって春川君……いや違う誰だったっけ……張本君だ。彼が部活でやられたのも彼の心を折るためだろうし」


 というか、張本君は学校を3日ほど休んだのちにまた登校するようになっているのだが、なんと彼も俺に対戦申し込みをして来てボコボコにするのが楽しみなんて言って去っていった。


 弱いものには強く出るって恥ずかしくないのだろうか。

 そして部活はやめたのかどうなのか。

 興味がなくてどうなったのかはわからない。


 「なんだか1-4クラスは嫌な人が多いねー」


 七海さんが愚痴る。

 俺からすれば1-5クラスの殆どもそうなんだけどね。



 

 闘技場に着き、観客席にすわる。

 1-4クラスと1-5クラスの個人戦は広い闘技場の小さな一画……ダブルスのテニスコートより少し大きいくらいの広さで一気に5人ずつ(相手と審判もいるので合計15人)で戦うらしい。


 「1組ずつなら十分な広さだけど5組であの一画だけって言うのは狭すぎない?」


 俺がそう呟くと、


 「1-5クラスは闘技場を使う優先権が低いしどうせ広く使うほどの戦闘は起きないだろうからってああなったんだって」


 「なるほど……」


 しかし内部入学と外部入学で差をつけるなら、外部から取る必要はないんじゃないだろうか。

 中学の3年間で才能が開花する人もいるだろうから、その窓口としては必要なのかな?


 「あ、始まるみたい!」


 葉月さんが声をあげる。


 九条、一ノ瀬、椿、堂島、そして5位の榎本えのもとがこれから戦う様だ。


 一気に戦われると観戦する所を絞らないといけないのが問題だな……。

 そう思いながら俺は椿に注目すると、椿の相手は1-4クラスの3位が相手だ。

 心の中で頑張れ椿! と応援する。


 「始め!」


 椿は薙刀を構え、相手は剣を構えている。

 椿は薙刀の長さを活かして相手のすねを狙う。

 椿は剣道もやっていたから、剣の間合いは熟知しているだろう。

 相手は間合いに入れ込めず、苦戦している。


 「やぁああ!!」


 椿が声をあげて面を狙うが弾かれる。

 椿が踏み込み間合いが近づいた事で相手は距離をつめ上段を放つが、椿は冷静に対処して距離をとった。

 膠着状態が続き、相手はしびれを切らしたのか剣術のスキルを使った。


 「スラッシュ!」


 椿は咄嗟にそれをかわすが……、まさかスキルが見せ技だとは椿も思わなかったのか間合いをつめられて剣を振り下ろされ肩から胸の辺りまで剣が深々と刺さり相手はそれを引き抜いた。


 「グフっ」


 椿は倒れ込み、しばらくすると消えていった。

 恐らく隣部屋にリスポーンしたのだろう。


 ドン!


 「蒼月君!?」


 復活するとはいえ、知り合いが死ぬのを見るのは初めてだ。

 俺は幼馴染が死ぬ姿が受け入れられずに席を殴ってしまった。


 「ごめん……つい力が入ってしまった」


 「ううん……でもみんなダメそうだね」


 既に九条レン以外はリスポーンしているらしく、その九条もずっと押されている。


 「あっ」


 葉月さんが声をあげる。九条の腕が切り飛ばされ、うずくまる所を切り捨てられたからだ。



 

 その後の試合は酷いものだった。

 お互いに相手を変えて3戦したのだが、椿たちは精彩を欠き、簡単に死んでいった。

 恐らく、リスポーンするとはいえ死ぬ痛みは本物だ。

 復活してすぐ対戦というのは、前の戦いの事を振り切る時間もないだろう。


 今日はクラスの半分の人数が3戦する事になっているが、その後に上位の戦いを見ていた次の対戦を待っていた5人も簡単に殺されてそれを繰り返し、今日の1-4と1-5の対戦は終了した。


 「やっぱ外部入学のやつらは雑魚だわ」


 「「あはは」」


 「数日にわたっての対戦にする必要なんてなかったよね」


 「今日1日で1-5クラスとの対戦を全部申請して終わらせればよかった」


 「それな! 時間の無駄」


 「「あはは」」


 1-4クラスの奴らが1-5クラスを馬鹿にするが、この惨状では誰も文句を言う事はなかった。

 俺は椿に駆け寄って一緒に帰りたいが、椿は九条たちと固まっているため諦める。


 「全敗だね……」


 七海さんがいう。


 「個人戦って死ぬまでやるの? あそこまでしなくても実力差が分かる場合はやり込める必要はなかったんじゃないの!?」


 葉月さんが対戦について相手のやり方に憤慨している。


 「今日、見ておいて良かった。あそこまでやって良いんだなってわかったから」


 「蒼月君?」


 七海さんが不安そうな顔でこちらをみている。


 「明日は七海さんも葉月さんも個人戦だよね。俺も対戦があるけど、相手は殺しに来ることがわかった。強い気持ちで臨もう」


 「「うん!」」


 俺は観戦中にずっと握りしめていた拳を開き、明日への決意を2人とするのだった。


 


 

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