第68話 イジメをする側は気づかない

  次の日、椿と登校中に俺は昨日の事を気遣って話しかける。


 「昨日は残念だったね。リスポーンで体は問題無さそうだけど、精神的に大丈夫?」


 「……ああ、気遣ってくれてありがとう。完敗だった。同じ年齢なのにあそこまで差があるとは思ってなかったよ」


 俺から見た感じだとレベル差があったにもかかわらず、初戦は間違いなく善戦していたように思う。

 薙刀の特性を良く活かして立ち回っていた。

 対戦フィールドがもう少し広くて1対1で使われる普通の試合会場の広さならもっと薙刀の長さを活かした戦い方もできたはずだ。


 「会場が狭かったから。普段の試合を行う様な広さだったら分からなかったと思う」


 「矜一になにがわかるの! ろくに薙刀も使えないでしょう!」


 久しぶりに名前が呼ばれたと思ったが、興奮してしまっている。

 でも、罵倒できるだけの心の強さが戻っていれば精神的には大丈夫かな。


 「ごめん。薙刀は上手く扱えないかもしれないけど、接戦に見えたんだ」


 クシャリと椿は悲しそうな顔を見せて言う。


 「私の方こそごめん。矜一は気遣ってくれているのに怒鳴ってしまった」


 俺たちはその後に特に会話を交わさずに下駄箱まで歩いた。



 「……矜一。申請を受けている今日からの個人戦、全て棄権して」


 試合は棄権する事ができるが、それは当然に不戦敗となる。


 「椿は残りの試合を棄権するの?」


 「私は……しない」


 「じゃあ俺もしないかな」


 「そう……。わかった」


 何時から俺はできない子の扱いになってしまったのだろう。

 確かに中学時代は小学生の頃よりも成績も運動も相対評価は悪くなっていたが、それでもクラスの中では上位だった。


 椿からしてみれば、自分のように対戦してリスポーンを経験しないように気を使ってくれただろう事はわかるが、やはり確実に負けると思われていると少し寂しい。


 この高校では強さや学力で測られるため、男女間で評価に差はない。

 だから当然のように個人戦などでは男女に分かれる事なく対戦が行われるが、もし中3の時に純粋な運動能力の100メートル走を椿と俺が競争した場合には、俺のレベルが1で椿が5であっても身体能力上昇スキルがまだ椿にないので記録上は俺の方が早かったのだ。


 それはもう差別とかという以前の問題で男女差での骨格の違い、ホルモンバランスの差があるためだ。

 まあレベルや魔法、スキルがあるせいで年を追うごとに、男女差よりもそれらの差が現在では個人を決定づけるものになっている。

 俺は先に教室に向かった椿を見ながらそう思うのだった。


 ガララッ


 俺は教室の後ろの引き戸を開けてすぐ近くの自分の席に座る。

 教室の空気は負のオーラで充満していた。

 それはそうだろう、1-5クラスの上位陣が全敗したのだ。

 端末で今日の対戦予定を確認しようとしていると、突然俺の机が蹴られる。


 「お前のせいでこんな事になったんだろ! お前が掲示板で晒されたせいで1-4クラスのやつから1-5クラスがこんな事になってるんだよ!」


 俺は蹴られた方に目を向けるとそこには青木 修二がいた。

 青木の声につられて、重かった空気が怒りに変わり多くが俺に目を向けている。


 「ほんと落ちこぼれウゼー。今俺らの1-5クラスがやられてる事はイジメだぞ! お前がいるせいで関係ない俺らが絡まれたんだよ!」


 今俺に罵声を浴びせているのは部活動でやられた春川……じゃない張本君。

 俺が一人弱い落ちこぼれだから1-5クラスがイジメられている? 

 こいつらは何を言っているんだ? 

 そもそももしそうだったとして、自分たちは落ちこぼれではないのだから対戦で勝てば良いだけの話だ。


 しかもこいつらはちゃっかり俺を倒すために対戦を申し込んできていて、こいつらの言う1-4のクラスのやつらがしている事を俺にしているのだ。


 「ちょ ちょっと! 蒼月君は関係ないでしょう?」


 七海さんが俺を庇って声をあげた。


 「ハッ。そう言えば、七海さんと葉月さんって最近よくその落ちこぼれといるけど、どっちか彼女なん? 自分より低い奴を見て母性本能でもくすぐられたの?」


 「「「ギャハハ」」」 「青木笑かすなよ」


 「そんなこ……「だいじょうぶ」」


 七海さんが何か言おうとする前に、俺は立ち上がって七海さんの発言を止める。

 はぁ。俺への事だけならどうせ今日の放課後には個人戦で俺の結果を見せればよかっただけなので、無視しておこうと思っていた。

 だけど、友人が庇ってくれて馬鹿にされている状態で無視はできない。


 「ハハハ」


 俺はなぜかおかしくなって、声を出して笑ってしまった。


 「蒼月君?」


 七海さんが困惑している。いや大丈夫だよ、気がふれたわけじゃないからね。


 「なに落ちこぼれのくせに笑ってるんだよ!」


 青木が怒鳴る。

 俺はさらに笑いそうになるが我慢する。

 落ちこぼれだと笑ったらダメなの? 


 「いやお前らさ、1-4に1-5がイジメられている? お前らが今、俺にしている事こそがイジメって理解できてる? 今まで俺が理不尽な事を言われても、見るだけだったやつらも同じ。だいたい、俺が落ちこぼれてるだけでお前らが凄いならこのクラス全員に対戦を申し込まれないって理解もできないの?」


 俺はつい思っている事をクラス全体に向けて話してしまう。


 「テメー! お前が落ちこぼれだからに決まってるだろうがぁ!」


 いやなにが決まってるんだよ。

 主語がないからわからんわ。

 ああ、1-5が対戦を申し込まれた事が俺のせいって話のやつかな。

 でも冴木先生も申し込まれるかもって話をしていたよね。


 「いや、青木も……それから春、、張本も俺に対戦を申し込んできたのは何でなの? 勝てると思ったからだろ? お前らが1-4に対戦を申し込まれたのはそう思われただけの事だろ」


 「蒼月ィ……お前それだけの事を言うんだ。対戦では覚悟しとけよ」


 「ああ、ちょっと俺の対戦数が多いからどうせなら昼休みに時間を変更してくれない? あ、1-5クラスで俺に申し込んでる人ー! よろしくー!」


 俺がクラスに向かって大声でそう話すと、


 「1-4クラスとやる前の前哨戦だ。後悔させてやるぞ!」


 と青木が了承。

 その後も最初に俺に対戦を申し込んできた他の4人も昼の休憩時間で対戦する事になったのだった。

 5人だと……お昼食べれるかな?

 まぁ、まだまだ俺の対戦予定は詰まっているから巻きでいきたい。


 その後は俺を心配する(対戦の事ではなく言われた事に対して)七海さんと葉月さんと少し話をして席に座る。

 青木の罵声から始まったクラスの喧騒は、ホームルームをするためにやって来た冴木先生の登場で収束した。


 ホームルームが終わった後、俺は冴木先生に頼み込み、昼の審判役を引き受けてもらう事に成功し正式に昼の対戦が決まることとなった。




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