閑話 ある探索者のダンジョン探索(三人称)

 探索者としては中級に当たる、5人全員がレベル15のD級パーティの『渋谷の集い』はミノタウロスの肉を手に入れてほしいという企業の依頼を受けてダンジョンに潜っていた。


 「しかしかねぇな」


 パーティ内のリーダーである剣士の隆二りゅうじがいう。

 それもそうだろう。

 『渋谷の集い』は既に10階層で7時間も待機してミノタウロスが湧くのをまっていたからだ。


 「ちょうど倒されたタイミングで来てしまったみたいよね」


 パーティの紅一点にして唯一の魔法使いの美香みかがリーダーの言葉を受けて話す。


 「これだと倒しても戻る途中でダンジョンに1泊する必要があるな」


 このパーティにもう一人いるチャラそうな剣士の優男、翔平しょうへいが討伐後の話をする。


 「上手く行きゃぁ1日で帰れたのになぁ」


 愚痴をこぼしたのはこのパーティで一番体格の良い戦士の郷田ごうだだ。


 「そうは言っても1泊予定で用意して来てるんだ。愚痴を言っても仕方がないだろう」


 パーティ最後の一人、シーフの兼近かねちかが愚痴を諫める。


 「でもさぁ、お前らはまだいいけど俺なんてこんなデカいリヤカーを引いてここまで来て帰りもどうせ俺が引いて帰るんだろ?」


 体格の良い戦士の郷田がいう。


 「わかってるって、俺も帰りは手伝うよ。載せたら重いしな」


 リーダーが郷田の不満を受けて自分も手伝う事を話した。

 郷田はパーティ内で一番の力持ちなことから重たい素材が依頼された場合に荷物持ちを兼ねる事が多かったのだ。


 「そりゃあ、助かる」


 ミノタウロスの肉は美味しく、魔獣の肉は食べるとレベルが上がりやすくなるという迷信もそれなりに世間では信じられているために人気の依頼だ。


 さらに2時間ほどが経過すると10階層の中央に魔法陣が描かれた。


 「やっとお出ましか。マジで倒された直後に俺らがきたんだな」

 「気合入れなさい! 私たちのレベルと人数でやっと倒せる魔獣でしょう? 死ぬわよ!」

 「へいへい」 「わーってるって」 「……」


 極まれにレベルが10以下の者が混成したパーティでも討伐が確認されているミノタウロスではあるが、それでもそういったパーティにはさらにげんかいを超えたレベル16以上の人材がいる事が普通だ。


 10数年前に全員がレベル15以下の野良の6人パーティ……、しかもその中の2人はレベル10と9という低さで攻略した事が確認されているのだが、それは今でもたまにギルド職員の間では語り草になるほどの出来事であった。


 「ブモォォーー!」


 「来るぞ! 兼近は美香が魔法放つ魔力を貯めている間に狙われた時の避けタンクとして美香の前で待機! 狙われたら攻撃して注意をそらせ! それ以外は散開しろ!」


 リーダーの指示により配置が決まる。


 「郷田! 一撃入れてタゲを取れ!」

 「わーってる!」


 ミノタウロスにランダムに狙われるというのは魔法使いである美香が狙われる可能性を示唆するものであるので、できるだけリスクを減らすために戦士の郷田が盾役としてミノタウロスと相対する。


 「ブモォォー!」


 ミノタウロスは郷田の剣による攻撃でそちらへ意識を向け攻撃を繰り出す。


 その左右からリーダーの隆二と翔平が切りかかり、両脇からの攻撃であるためにミノタウロスはどちらを狙うか躊躇する。


 そこへまた郷田が攻撃を加える事によってミノタウロスのターゲットは郷田になり、パーティの陣形が保たれることになる。


 「「スラッシュ!」」


 剣士の2人が剣術の斬撃を飛ばす。


 「いつも思うがミノタウロスの耐久は高すぎだろ。剣が入らねぇ」


 リーダーが愚痴る。


 「そりゃ、ボスだしな」


 翔平がチャラけて答える。


 「お前らちゃんとやれ! タゲを受けてる俺がお前らのミスで一番困るんだぞ!」

 「「やってる!!」」

 「みんなどいて! 魔法いくわよ!」

 「「「おう」」」


 美香の魔法の用意が整った事でミノタウロスに対応していた3人は一時的に離脱する。


 「ウインドカッター!」

 「ブモォォ!」


 ミノタウロスにいくらかのダメージをその風魔法は与えたが、倒すという面でみれば全くと言ってよい程だった。


 「もう一度!」


 隆二の指示が飛ぶ。






 中級探索者である「渋谷の集い」はこの後に同じ事を30分以上繰り返し、ミノタウロスを討伐する事になるのだった。


 「はぁ~、疲れた。帰ったらナンパでもして飲みにいかね?」


 チャラい翔平がリーダーに話しかける。


 「いいな、ナンパの後は城門じょうもんかイグンドピーズで飲もう」


 城門は入り口が何処かのお城を思わせる門が人気のホテル街にある飲み屋で、イグンドピーズは女子受け抜群のIT会社社員ご用達の飲み屋である。

 完全に男たちの目的が透けて見えるようなチョイスを聞いて……、


 「男はこれだから」


 唯一パーティの紅一点である美香は呆れの言葉を放つのだった。






 

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