第二章 新たなる日常

第50話 兄妹

 次の日、少し遅めに起きた俺は朝食を食べに1階に降りる。

 昨日はマコト達と一緒に強くなるという話はしたが、流石にあの出来事があったので今日は各自、自由行動という事にした。


 「お兄ちゃん遅い! 今日も朝早くからダンジョンに行くと思って用意してたのにもう9時だよ」


 まあ俺もダンジョンに行く予定ではあったが、今宵には休息という辞書はないようだ。

 

 「遊びに行かなくて良いのか?」


 妹は休日は良く友人と遊びに行っていたはずだ。


 「それなんだけど、きぃちゃんとさっちゃんも探索者に興味があるみたいだから、今度お兄ちゃん付き合ってくれる?」


 手ほどき程度なら問題ないが、今宵の言う2人は今宵の親友だ。マコト達と強くなる話をする前なら問題はなかったが……。


 「それは構わないが、マコト達と強くなるって話をしたばっかりだぞ? それと父さんと母さんも明日はダンジョンに行けるって話だし、2人のレベ上げを考えたら予定を組むの難しくないか?」


 「うーん、効率よくレベルって上がらないかなぁ?」


 「それもだが、俺らのアイテムボックスだとか壁以外でもスキルや魔法を覚えられる話を家族以外……、マコトや今宵の友人たちに話すのをどうするかって問題もあるぞ」


 「キィちゃんとさっちゃんは大丈夫だよ! マコト達も大丈夫な気がする!」


 まあ、キィちゃんとさっちゃんは俺も大丈夫な気はするけどね。

 時々、家に遊びに来ていて性格を知ってるし。

 マコト達は……まあ殺されかけて皆で強くなろうって話をしているので信じるしかない。

 そう考えると、増えても問題ないのか?


 いや、レベ上げという面で見ればダンジョンに入ればレベルが上がりやすいと確定している訳でもない。

 矜侍さんに聞いてみるか?

 何でも聞くのは良くないとは思うが、矜侍さんなら知っていそうな気がする。


 「大丈夫な気がするってお前……」


  とりあえず、矜侍さんに端末で聞いてみるか。


 「ちょっと端末弄る」


 俺は今宵に端末を弄る事を告げて矜侍さんに気になる事を聞いてみた。

 まあ数日以内には返信が来るだろう。

 そこで昨日のビッグマウスの入金がされている事に気づく。

 ギルドからの連絡を見てみると、


 「お、昨日のビッグマウスが合計で69750円で売れたみたいだ。今宵には半額の34875円が入金だな。魔石40個はまだ売ってないが……まあ2000円だからもう誤差だな」


 「えぇ? 昨日のあれで? 5人の場合だと幾らだろ……えーっとってか5人でも一人頭14000円よりすこし少ないくらい!?」


 ああ、俺も69750を暗算で5で割ろうとしたら14000弱……正確には面倒だから同じ感じで計算したよ。まあ全て魔石込みの場合だと昨日の……ほぼ午前だけで5人でも一人14000円以上になる計算だ。


 「そうだな。ただ、毎回あそこが誰もいない訳がないし、やり過ぎると確実に競合してしまう気はする。ギルドの解体所の人はあの場所知ってたし」


 「あ~、確かに。簡単に稼げはしないか~」


 「そうだぞ。それにあんまり稼ぎすぎてしまうと、昨日の奴らみたいなのが来るかもしれない」


 「……」


  一階層程度で稼ぎまくっていたら確実に横やりは入るはずなのでそれを指摘したが、昨日の事を今宵は思い出してしまったらしい。


 「お兄ちゃん、今宵にもう大丈夫って言って、あの後あいつらとの今後の話をしなかったよね。それって……もうあの3人と会う事はないって……意味だと思うんだけど……そういう事だよね?」


 俺は本当に指摘されたくない事を今宵に聞かれて、どう答えれば良いのか戸惑う。 

 だけど、あの時はなんら後悔をしないと誓って振るった剣だ。


 「そうだぞ。もうあいつらとは永遠に会う事はないよ。俺は今宵が……家族があの状態になって…………」


 後悔はしない。

 聞かれれば全て答えると決意していた事なのに言い淀んでしまう。

 俺がやった行為に躊躇しているのではない。


 家族に別の方法もあったのではないかと指摘されるのが怖いのだ。

 あいつらがやった行為は重罪だ。

 だから後悔はしていないが、もし法の裁きに任せるべきだったと言う話を家族にされた場合は……。



 他人に言われる場合は気にも留めないだろう。

 目の前で凌辱された後に殺される事が確定している家族を見て最悪一定期間で、刑を終えたら戻って来る犯罪者を許す事が出来る者がいるとすれば、それは再犯率をしらないものや他人であったり興味がない事だからこそ擁護できる偽善だろう。


 そういう人たちはもし、1%の確率でという飲み物が有ったとして、気まぐれにそれを飲む事ができるのですか? という話だ。

 俺ならばたった1%であっても絶対に死ぬという可能性がある場合、無意味にそれを飲む事は出来ない。


 再犯を犯して人を殺す割合がたった1%だったとしても、それは100人いれば1人は全く関係のない死ななくて良い人が死ぬという事なのだ。

 それは自分かもしれないし、知っている人かもしれない。


 例え全く知らない誰かがそのせいで死んだとして、その犯罪者を助けた意味はあるのですか? という話なのだ。



 「違う。違うよ。お兄ちゃんを責めてるんじゃないの。私達のために……お兄ちゃんの手を……うぅ」


 俺は後悔はしていないが、心のウチを自問自答していると今宵が俺の心情を理解して泣き始めた。


 「俺は後悔はしていない。もし……今宵が俺のした事を……良くないと言うなら、甘んじて受け入れる。いや……違うな。粛々と受け入れるよ」


 「違うって言ってるでしょ!? お兄ちゃんを糾弾しているんじゃない! 今宵自身の弱さを嘆いてるだけなの!」


 泣いたと思ったら、激怒して俺に言い寄ってくる。


 「お、落ち着け。わかった、わかったから」


 「何にも理解してないよね? そういう場を収めるためだけに分かったふりをする癖、直した方が良いよ」


 うーむ。

 場当たり的に対処した事は間違いないが、全て見透かされている兄って。


 「そんな事はないぞ……。俺の結論としては家族仲良くだ!」


 「……そうだね」


 結局俺らの問題って、それぞれが家族を自分より大事にしているから起こり得る話なので、それに立ち戻れば終息する話なのであった。


 「まあ、今日はとりあえず俺ら2人でダンジョンを何処まで行けるか試してみようか」


 「うん! 今宵はもう魔獣なら人型だろうと躊躇しないよ!」


 今日の目標を決めて今宵に宣言すると、今宵も一もなくそれに同意し決意表明するのであった。

  









 

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