第58話 人として

 ギルド前に到着する。

 俺たちはそれぞれの用事が済んだらダンジョン前で待ち合わせる事を確認して、両親はギルドへ俺と今宵は隣の企業買取所へと分かれた。

 番号札をもらいしばらく待つと、アナウンスされたのでその呼ばれた窓口に向かう。


 「おはようございます。この魔石の買取をお願いします」


 「あ、矜一君! と彼女さん?」


 指定された窓口には、俺を前に食事に誘ってくれた美月 楓みつき かえでさんがいた。


 「お兄ちゃん、知り合い?」


 「あ、妹さん? 良かった(ボソッ」


 いや何が良かったのかはわからないけど、会話の前にまず魔石をですね……。


 「楓さん、コイツは俺の妹で今宵です」


 「妹さんなのね。今宵ちゃん、私は美月 楓よ。よろしくね」


 「蒼月 今宵です」


 って今宵の自己紹介みじかっ。

 そして小声でやっぱり面白い事があったとか言っている。

 いやいや、ただ魔石の買取を頼んだら前に話したことがある受付の人で挨拶をしてるだけだよね? 

 どこも面白くないよね? 

 うーん、今宵の感性がわからん。


 「楓さん、魔石の方お願いします」


 「あ、そうだったね。査定部に回すから少し待ってね」


 そういうと、やっと魔石を査定しに向かってくれた。


 「お兄ちゃん、受付の人をナンパしたの? そういう事はやめた方がいいよ」


 そしてこの風評被害である。

 俺がそんな事できると思ってるの? 

 ジョギングで道行く人に挨拶をしてみたら、舌打ちをされて心が折れるチキンハートよ。


 「いや、してないぞ。むしろ職権乱用で番号登録された感じ?」


 「連絡先もすでに入手してるの!?」


 いやだから職権乱用で……って、なんて手の早い! みたいな顔芸してるけど、ニヤニヤしてるから俺がナンパなんてしていないと分かってて揶揄ってるな?


 「お待たせしました。合計金額が18万6250円になります。こちらが明細書ですのでご確認下さい」


 急に客対応の丁寧な話し方をされてビックリする。

 ちゃんとした対応もできたんですね。

 そう言えば最初もこんな感じだったっけ。


 「はい、確認しました。入金はカードに今宵と半額ずつで分けてもらえますか? 一応、肉を卸した時にパーティ設定をしてます」


 そう言いながら俺と今宵はギルドカードを提示する。


 「ちょっと待ってね。確認するね」


 口調が戻るの早いな!


 「あ、既に登録されているから2人に半額ずつ入金の処理をしておいたわ」


 そう言ってギルドカードを返還された。


 「それよりも、一向に連絡をくれないからこちらからするか迷ってたのよ?」


 いや、一向にもなにも連絡をする気は微塵もないのですよ。

 そして今宵のジト目が俺に突き刺さる。


 「アハハッ……、ゴールデンウィーク中はダンジョン三昧だったから……。休みが終わると高校では皆について行くのがやっとなので時間がないんです」


 美人だけどカマキリ的な何かを感じて怖いので、とりあえず先の予定もつぶす感じで話しておく。

 ダンジョンに関わる仕事をしている人なら国立第一東校の難しさは分かってもらえるはずだ。


 「残念。いつでも気楽に連絡してね」


 「はい、今日はありがとうございました」


 俺はお礼を行って席をたった。




 「うーん、お兄ちゃんの良さが見抜けたのなら悪い人ではないと思うけど、一目ぼれするほどの容姿でもないのに魔石を売るだけのやり取りで良さが分かるものかなぁ」


 今宵が外にでてつぶやく。


 いや、俺の容姿が平凡なのはその通りだが、微妙に楓さんの事もディスってないか? 

 俺のどこに美点があるかはわからないが、楓さんがそれを見抜いた可能性の話なら逆にリスペクトしてる?

 どっちにもとれそうだが、俺がディスられてるというのは確定な気がする。

 ぐすん。


 「いや、ミノタウロスの魔石を前も売ったから優良客と思って仲良くしてくれてるんじゃないか?」


 「うーん、ミノタウロスって倒してから10時間後に出現するなら、運の要素が強いよ」


 「でも現にミノタウロスの魔石を持って行くのは数日の間に2度目だし、1,5倍で買取強化中だからあり得るだろ」


 「……店外デートには誘わないと思うけど」


 まぁね……。

 だとするとやはりお金が目的とか?


 「ミノタウロスの魔石を売るって事は肉も卸してると考えるだろうからお金が目的とか?」


 「えぇ? お兄ちゃんに好意的だったからそんな感じじゃなかったよー。あ、でも将来有望そうだからツバを付けておこうって事なら似たような意味なのかな?」


 って自分で話していて気付いたが、この会話ってめちゃくちゃ失礼じゃないか? 対応自体は悪い事をされたわけでもなく、むしろただ仲良くしてくれようとしている相手にする話題ではない。


 「今気づいたんだけど、この会話って楓さんにむちゃくちゃ失礼じゃないか?」

 

 「あっ、そうだね。ごめんなさい」


 「いや、俺も楓さんに失礼な事を言いすぎた。気を付ける」


 自分がいない所で話題にされたらいい気がしないだろう。

 俺たちは人としてマナー違反をしていた事に気づいて反省し、ダンジョン前に向かうのだった。







――――――――――――――――――――

楓さんは肉食ですが、勘が鋭いだけで悪い人ではありません。

負けず嫌いですが、良い人です。





 

 

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