第39話 兄と妹⑧

 ビッグマウスを売った後、てくてくと歩いて第一東校に到着した。


 「すごーい! ギルドも大きいと思ったけど、それ以上に大きいね」


 ウチの高校を見た今宵がテンションをあげている。


 向かう時から気になってはいたんだが、二人ともジャージなせいで注目を浴びていた。

 ウチは制服に付与が掛かっているから運動後に着替える場合は、アンダーウェアぐらいだしね。

 俺はチェンジで一瞬で制服に着替える事が出来るが、俺だけ着替える訳にもいかないだろう。


 「こっちだ。行くぞ」

 「はーい」


 しばらく校内を歩いて闘技場の横にある施設の中に入る。


 「すみません、コイツに合う制服が欲しいんですが、校章なしにしたのって買えたりしますか?」

 「校章なし? そんな注文する人初めてだけどどうかしら」

 「昨日制服のリサイズを頼んだ時に校章ワッペンは取り外し可能って聞いたんですが」

 「そうなの? じゃあ出来るのかしらね。ちょっと工房に聞いてくるわね」

 「お願いします」


 と言うか、男性用と女性用ではデザインが違うからSサイズを今宵が着れたとしても完全に男装コスプレになる件。


 「お待たせ。出来るみたいね。裾上げなら無料だけど、今回の校章外しはサービス外だから別料金で2000円かかるけど、今なら20分くらいで済むそうよ。サイズはこれでどう? あと……スカートをはく場合に少し前の生徒会長が『おしゃれも必要!』だとか言って、ニ―ハイソックスに付与を掛けたものも販売しているけど、それはいらないのかしら? 白、黒、ピンクと種類があるわよ」


 「え? そうなんですか! じゃあ白……」

 「黒で!」

 「お兄ちゃん?」


 いやなにを言っているんだ妹よ。

 ニーハイソックスと言えば黒だろう? たしかに妹にはまだ早いかもしれない。

 だが……! 


 「今宵。ニーハイは黒。これは……必要な事なんだ。何着か買っていいから」

 「う、うん。じゃあ黒で。あ、黒2つと白1つでお願いします」


 ……。まあ……良いか。


 「はい。黒2と白1ね。1つ税込み1万円だから3万円ね」


 え? 高すぎない? まあ付与が掛かってたらそんなものなのか? 

 俺は値段を聞いて先にソックスの支払いを済ませた。


  「着替えと試着はそこの更衣室で試着してみてくれるかしら」


 俺は制服とハイニーソっクスを受け取り今宵に渡す。


 「行って来るー」


 そう言うと今宵は試着をしに行った。


 「彼女さんに制服を買ってあげるの? あれ? でも校章を外す意味が……」

 「ああ、妹なんですよ。お揃いが着たいと言うので」

 「え? 妹さんは生徒さんじゃないの? 生徒さん以外が着るのって良かったのかしら」

 「ああ、それで校章を外してもらったんです。それがついてなければ良いそうです」

 「そうなのね」



 「ただいまー、伸縮が凄いからピッタリだった」


 妹はそう言いながら、試着した制服を対応してくれているおばさんに返却した。


 「じゃあ、それ下さい。それとワッペンの取り外しもお願いします」

 「はい、98000円と作業料2000円で10万円になります」

 「はい、これでお願いします」

 「丁度ね。じゃあ20分したらまた来て頂戴」

 「わかりました」


 施設から出ると同時に今宵が話しかけてくる。


 「お兄ちゃん制服が10万て! お母さん出してくれるかなぁ」

 「いや、オーク肉を売った金が入ったし母さんには言わなくて良いぞ」

 「わー、太っ腹! あ、もう太ってなかった!」

 「そんな事言うなら今宵に払ってもらおうかな」

 「ごめんごめん。冗談だよ」


 いや、冗談ではないだろ。

 実際、前はぽっちゃりしていて今は普通だから事実を言ってきたんだろ。

 それに制服の前のソックスが1足で1万の方も驚くポイントだと思うんだが!?


 「まあ、良いけど。しかし20分、何処で時間潰すかなぁ」

 「学校を見て回りたい!」


 それは言うと思ったが、ジャージ姿な上に俺は嫌われてるんだよね……。


 「ジャージ姿だし案内はちょっとな……。そう言えば壁を超えたんだろ。ステータスと何が覚えられるか見てみよう。あそこのベンチに行こう」

 「えー、ステータスも気になるからまあ良いかー」


 妹の気を学校案内からそらせる事に成功した。

 しかし才能があると壁を超えるのも一瞬なんだなぁ。

 俺はそう思いながらベンチに座った。


 「ステータスオープン」


 <名前>:蒼月 今宵

 <job>:なし

 <ステータス>

 LV  : 6

 力  :E

 魔力 :E

 耐久 :E

 敏捷 :E

 知力 :E

 運  :B

 魔法 :なし

 スキル:武術全般3、魔力感知


 「うー。平凡すぎるぅ。魔力は1つ上がったみたい。あ!スキル覚えてる!」


 まあ1つを除いてオールEだと平凡に見えるよね。

 でも、常人の平均から見ると今宵の年齢でこのステータスは凄いんじゃないかと思う。

 そして増えたスキルは魔力感知か。覚えるの早すぎない?


 俺が気配察知で魔獣のリポップを感知していたのと違って、今宵は魔力に反応していた。

 気配遮断をする魔獣もいるかもしれないから、俺も魔力感知の練習をしようと思う。


 「いや、たぶん今宵の年齢でこのステータスはかなり高いんじゃないか? わからんけど」

 「わからないんじゃん!」


 だって人のステータスなんて気にしてなかったし。

 でも1-5クラスのステータスから見てもそれなりだったはずだ。

 少なくても入学時にGがあった俺よりは高い。


 「それよりもジョブと魔法、スキルで何が取れるか教えてくれ。あ、取得はまだするなよ」

 「えーっとね、成れるジョブが、町人・剣士・槍使い・薙刀使い・カリスマJCジェイシーNINJAニンジャがあるよ」


 んん? 途中からなんか俺が調べた限りでは出て来てないジョブが聞こえた気がする。

 

 「なんて?」

 「だから、町人・剣士――」

 「いやそこは分かってる。最後のカリスマJCはカリスマ女子中学生? 後、ニンジャの発音おかしくなかった?」

 「カリスマJCはそうだよ。女子中学生みたい。それとニンジャはだって全部ローマ字の大文字で全体が強調してる感じだから声で表してみた」


 一般職の町人や村人をとると、ステータスの上昇値は低いが満遍なく上がる事がわかっている。

 中学生や高校生も普通にジョブとして出現するが、カリスマがついているのは調べた限りではなかった。

 忍者は魔法剣士と同じ上位職で出る事は分かっているが、ローマ字での忍者はなかったはずだ。


 「説明どんな感じ?」


 ジョブは意識するとそれがどういうものか少しだけ説明されていてわかるのだ。


 「んーと、カリスマJCが体形を維持しやすい、魅力UPでNINJAが忍ばないんだって」


 俺は今宵の体を見る。

 中学生の体形が維持しやすいって、スマートなままとか?


 「ちょっとお兄ちゃん! なんか残念な感じで見るのを止めて!」

 「すまんすまん。てか忍ばないって忍者じゃなくね? どれにしたいとかある?」

 「今宵はNINJAニンジャに成りたいかなー」


 正直俺もかなり気になるが、ステータスの上がり具合はどうなんだろうか。

 忍者は上級職だから今宵のNINJAもその可能性は高い。


 「じゃあ、ジョブはニンジャだな。魔法やスキルは何がある?」

 「NINJAニンジャになった! ニンニン!」


 ジョブを選んで興奮したのか、ニンニン言いながらポーズをとっている。

 周りには人はいないが、恥ずかしいから座ってほしい。


 「魔法はー、生活魔法と空間魔法の2つでー、スキルが身体強化、気配察知、暗視、それから超集中 腹式呼吸一の陣 ――」

 「ちょーっと待ったぁ! やっぱり聞いてたんじゃねーか!! 最後のスキルなんてないよね!?」

 「あれ、バレちゃった? テヘ」


 入学式から帰った後の部屋での事をここで言われるとは。

 漫画のキャラの真似をしている所を妹に聞かれるとか……。


 「技名を変えるのは良いけど、複式呼吸ってなによ。今宵を笑わせて呼吸困難にされるのかと思ったよ。耐えるの苦労したんだから」とか言って笑ってる。

 耐えたのなら墓場まで耐えてくれよ!


 「まあ良い、てか空間魔法が出てるって凄いな。それがあればアイテムボックスとチェンジが使えるぞ」

 「取りたいけどー、身体強化取らなくて良いのー?」

 「身体強化は取らなくても覚えられるから空間魔法だな。しかし今宵もステータス偽装を覚えなきゃダメそうだなぁ。それ覚えるまではギルドカードの更新はするなよ」


 身体強化については後で覚えられると言う事もあるが、実際レベルが上がると訓練次第で、無くても十分戦えるのではないかという気がしている。


 身体能力が必須と言われるのは経験が足りていなかったり、敵の動きを上手く読めていないから、そこを補うのにスキルの身体能力アップに頼った戦いをしていると言った方が良いのではないだろうか? 

 だから自分の行動を最適化出来れば、なくても十分に戦えると思っている。


 「わかった。じゃあ空間魔法とるね」


 時間を見ると、20分は既に過ぎていた。


 「今宵、制服を取りに行こう」

 「うん」



 特に問題も起らず、家に帰宅すると今宵が制服を着てポーズをとる。

 今日買ったのは女子用の制服で下はスカートに黒ニーソだ。


 「はい、可愛い可愛い。外に出る時はスパッツ穿けよ」


 いや妹なのにウチの制服を着てくるっと回ると危なかった。

 平静を装うために雑に褒めることになってしまったよ。

 黒ニーソとスカートがフワリと上がり絶対領域がチラリと……。

 黒ニーソで肌の色が際立っていてアレはやばいからスパッツが必要だ。


 「褒め方が雑すぎ!」

 「後、これに魔力を流すと鑑定が発動するから、魔力を流すのを維持しながら、鑑定に抵抗するように練習だな。俺もステータス偽装を覚えるのに時間が掛かったから、家で時間がある時はするように。人前ではしたらダメだぞ」

 「ほーい、晩御飯まで練習しとくねー」


 妹はそう言うと自分の部屋に戻っていったのだった。

 鑑定の魔石がもう少しあればなぁ。

 魔道具の作り方の本は箱庭にあるけど、鑑定が覚えられないんだよな。

 鑑定の魔石から覚えられる可能性はあるかと思い、色々試したが今の所覚えられていないのだ。


 「今宵に渡してしまったし、別のやり方で覚えられるか訓練するか」


 宝石や古物をテレビに出て鑑定しているように、価値がわかるようになれば覚えられる可能性はある気がする。

 そういった見極めの本を今度さがそう。


 ちなみに晩御飯はすき焼きで家族全員で盛大に祝ってもらった。

 途中、今宵が壁を越えて空間魔法を覚えた事を暴露したので最後は今宵を祝う会となったが、今宵のリクエストの赤飯もあったし、満足していたようだった。





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