第40話 兄と妹とポーター3人
次の日の朝。今日は昨日のミスを踏まえて朝6時に出られるよう、午前5時30分には起床していた。
ビッグマウスの承認が既に来ていたので承認する。
1匹320円×20匹で売れる様だ。
下に降りると今宵も既に起きていて朝ごはんを食べていたので、俺も一緒に座って食べる事にする。
「今日は今宵も制服があるからジャージじゃなくて制服で行くぞ」
「うん。楽しみ!」
「それとアイテムボックスは使ってみたか? この剣入れとけよ」
そう言いながら、俺はアイテムボックスから剣を取り出して今宵に渡す。
「アイテムボックス! 容量がなんだか少ないんだよねぇ」
まだ声に出さないとスキルを使えないのか、今宵が声を出して剣を収納している。
「容量は魔力量と魔力制御次第で増えて行くみたいだからな。今宵はどっちもまだまだだから訓練あるのみだ」
そんな話をしていると、台所から母親がやってくる。
休日にも関わらず俺たちが朝早く出かけると知って、簡単な朝食やお弁当を作ってくれていたみたいだ。
「あら、それが昨日今宵が言ってたアイテムボックスなのね。良いわねぇ。はい、これお弁当」
「母さん、朝早いのに悪いね。ありがとう」
母親からお弁当を受け取り、俺たちはアイテムボックスにしまう。
「それより矜一、昨日の特番でやってたレベルが高くなると寿命も延びるっての本当なの? それなら私やお父さんもレベル上げしようかしら」
昨日の夜の祝いの会の後にリビングでみていた特番の話か。
しかもその内容のソースが矜侍さんの生配信ライブでの発言らしいんだよなぁ。
探索者は死亡率が一般より高いからわかりにくいけど、矜侍さん曰く(ある動画配信者の話ではとTVでは言われていた)レベルが上がると細胞や神経が強化されて自己治癒能力も高まるために、結果として寿命もかなり延びるらしい。
普通にこんな話をすれば検証がないのにとか叩かれるはずなのに、何故か矜侍さんの配信での話は各国レベルで批判は起きず、ほぼ全て容認されている。
各国関係者は矜侍さんの実力を知っているって事だよね。
その矜侍さんの話なら間違いなく正しい事だろう。
テレビではレベル上げには若返り効果が!? と煽っていた。
まあ、寿命が延びるって事は同じ年齢であればレベルが高い人の方が若々しいと言える……のかもしれない。
「たぶん本当だと思うよ? 今度一緒に家族でダンジョン潜ってみる? 父さんは確かギルド登録はしてるんだよね?」
「そうそう。お父さん若い頃少しヤンチャしてたのよー。お母さんも持ってるわよ? 二人とも今は休止にしているけどね」
話を聞くと、両親は大学生の頃に少し探索者として活動してたらしい。
どうやらその頃は探索者3次ブームというので流行っていたそうだ。
活動休止を告げておけば、30年はギルドに情報が残されていて復帰も可能。
何故こんなに長い期間、情報が維持されるかと言うと、ギルド職員や指導に当たる探索者が引退をした時に復帰できるようにというのと、スタンピードが起きた時に現在の探索者や軍隊だけで手に負えなくなった場合の備えだという。
「家族で冒険したい!!」
今宵が前のめりで発言する。家族旅行感覚かな?
「父さんの休みって次は何時だろ? ゴールデンウィークは全部仕事なんだっけ?」
「確かゴールデンウィーク最後の日の7日はお休みだったかしら」
「ふーん、じゃあその時に……って次の日が仕事だときついかな?」
「そうねぇ。今日の夜にでも聞いてみましょうか」
「そうだね」
朝食を食べ終わり、俺はチェンジで制服に早着替えする。
「それ良いなー、着替えてくるからちょっと待っててね」
「今宵も覚えられるようになるよ」
直ぐに今宵はウチの制服(ワッペンなし)に着替えて降りてきた。
「じゃあ行くか」
「うん」
「「行ってきまーす」」
「はーい、気を付けるのよー」
「そう言えばビッグマウスが7200円で売れてたから、半額がそっちのカードに入ってるぞ」
「20分くらいしか狩りしてないよね。なんか1階層だけで生活できるね」
「ああ、それな。俺も狩り始めた時に思ったわ。でも一人だと持ち運びがなー。途中でアイテムボックスを覚えたけど、その時はもう1階層いかなかったしな。それにギルドで卸すならアイテムボックス使いたくないし」
今宵とだべりながらダンジョン近くになると声を掛けられた。
「あ、お兄さん!」
振り返ると、ここで前に助けたマコトと何時も一緒にいる2人がいた。
「あ、ああ。マコトか。大丈夫だったのか?」
「はい。この間は助けてもらって有難うございました」
「お、お兄さん? 何か変わったね? この間はマコトを助けてくれてありがとね」
「有難うございました」
3人から礼を言われた。マコトは何故か普通だったけど、他の二人は俺の体形に少し戸惑っているかな?
「お兄ちゃん? この人たちは?」
「あ、彼女さんじゃないんだ。良かった。(ボソッ」っとマコトが呟いているが、何が良かったのかが分からない。はぁ、彼女欲しい。助けた相手からも彼女がいないのが当たり前と思われるとかちょっとショックだわ。
「ああ、この3人は何時もここでポーターの売り込みをしてる子たちで、マコトと……」
「アタイは、
あ、アタイだと? 自分をアタイ呼びなんて聞いたのは中島みゆきだけだったが、わりといるのか? 時代は輪廻する~。
あ、今回は変えたけど、芸能人や普通にあり得る言葉は著作権侵害にはならないからね。
これは俺の頭の中で思ってる事だからもっとなりようがないけど。
海賊皇帝に俺はなる! と言った所で普通の言葉なので問題なし。
勝手に何かを想像されて、文句を言われても困るからね。
「私は
「今宵は……
「俺は蒼月 矜一。高一。って前にポーターで雇うか迷った時に俺は自己紹介したよな?」
「それよりもお兄ちゃん助けたってどういう事?」
「いや、なんか苦しがってたからポーション使った感じ」
「矜一さんにはその節はお世話になりました」
マコトはペコリとお辞儀しながら言う。
「まあ、お兄ちゃんだからねー。ほっとかないよね!」
何故かドヤっている今宵を放っておいて、3人に話しかける。
「大丈夫だったのなら良かった。今日はゴールデンウィークだから朝からポーターの仕事を探してるのか?」
「それがお兄さん聞いてよ! マコトったらこないだ念のために診察を受けろと言われて行った医者にポーションの値段を聞いて、返さないととか言って昨日からなんか休みの間にーって意気込んでるのよ。昨日はもう少し遅かったけど、あんまり稼げなくて今日はこの時間からでアタイには良い迷惑」
「私が一人で返すって言ってるのについてくるからでしょ!」
「一人だと探索者に何されるか分からないから、ついてきてるんでしょーが!」
えぇ……。俺が助けたせいで2人は喧嘩しているのか? やめて! 俺のために争わないで! なんてね。
「いや、ポーション代は気にしなくて大丈夫だぞ。勝手にやった事だしな」
「でも、矜一さん。あのポーションって13万円もしたんですよね」
「13万!?」
妹が声を上げる。
いやそうなんだが、あの時に咄嗟に使ってしまったのは俺だしな。
使わなくても良かったかもしれないが、焦って使った事に後悔はないしポーション代を求めるつもりもなかった。
「あー、たまたまダンジョンに行くために購入していて、使っただけだから気にされてもこっちが困るんだよな」
「でも……」
「まあ、そう言う訳だから、ポーション代は気にせずに自分達で稼いだお金は使うと良いよ」
俺はそう言ってその場を離れようとするが、
「そんな訳にはいきません! じゃあ今日一日私が矜一さんのポーターします!」
フンス! と両こぶしを握って気合を入れるマコト。
いや、この間までなら嬉しかったんだが、今は他人がいると困るんだよなぁ。
アイテムボックスや魔法が使えないし。
「アタイ達もそれで良いよ」
いやいや、こっちは良くないから。
「お兄ちゃん折角だし、来てもらったら?」
はぁ? 俺は今宵を呼び寄せて小声で内緒話をする。
「おい、何言ってるんだ。俺ら以外がいるとアイテムボックスとか使えないし、行けても2階層までになるぞ?」
「でもお兄ちゃん、なんかマコトちゃん引く感じじゃないよ?」
そう言われてマコトを見ると、目が付いてくる気満々でキラキラしている。
「うっ。じゃあ今日はビッグマウス狩りで良いか? 今宵が良いならそれでもいいけど」
「うん。今、今宵が使ってる剣って学校のレンタルでしょ? バレたら問題だろうし自分のが欲しいから金策もありかなー」
まあそこまで言うなら良いか。
「じゃあ、今日は3人にポーターしてもらおうかな。ただし、時給は払う」
昨日の稼ぎを考えれば1時間、1人1000円で3人を雇っても俺の稼ぎを使えば問題ないだろう。
「お礼なんだから無料で良いですよ!」
……めんどくさそうなのでそれでOKして帰り際にお金を渡せば良いか。
「じゃあまずは、ホームセンターでリヤカー買うぞ」
アイテムボックスを使う訳にも行かないので、俺はホームセンターでリヤカーを買ってからダンジョンに向かうのだった。
ちなみにダンジョン近くのホムセンには探索者用にしっかりとしたリヤカーや剣なんかが売ってある。そこらのホムセンとは違うのだ!
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