第38話 兄と妹⑦

 帰り際、ギルドで魔石を納品した時に、半額の12525円を今宵の探索者証ギルドカードに分けてもらおうとすると、パーティ登録を薦められた。

 パーティ登録をしている場合は、一人だけで訪れたとしても金額を分ける時に直ぐに出来るようだ。


 勿論、分配がやり易くなると言うだけで、一人で狩りをした時に申告もしていないのに勝手にパーティ分配されると言う事もない。

 今宵と話し合った結果、パーティを組んでいても特にデメリットは無いように感じたのでパーティを結成する事にした。


 と言うより、受付嬢からは俺がパーティを初めて組む事を驚かれた。

 まあ……、国立の探索者高校に通っていてソロでしてるとは思わないよね。


 「では、この用紙にパーティ名と所属する方の氏名と住所、探索者番号、分配割合などを記入して下さい」


 デメリットあったわ。パーティ名……。


 「お兄ちゃん、パーティ名は今宵と愉快な仲間たちでどう?」


 冗談だとは思うが、本気の可能性もあるのか?


 「俺は良いけど、パーティで呼ばれる時、フロア全体に今宵と愉快な仲間たちの皆さーんとか、今宵と愉快な仲間たちの皆様、〇番窓口までお越し下さいとか呼ばれて恥ずかしくないの? 繰り返します、今宵と愉快な仲間たちの皆様~って」


 「もーぅ、冗談に決まってるでしょ!」


 自分で言った癖にプンプンと怒り出した。

 まあ、可愛いんだが。


 「どんなのにするかなぁ、恥ずかしくないのが良いよな」

 「それだと今宵の名前が恥ずかしいって言ってるみたいでしょ!」


 しつこ過ぎたのかさっきより本気で怒っている。


 「A2エーツーとかどうだ?」

 「んー? どういう意味?」

 「蒼月家2人」

 「ちょっとそれはないかな……」

 「そ、そうか。じゃあどうすんだよ」

 「うーん、vermillionヴァーミリオンとか?」

 「それ名前のかっこ良さだけで言っただろ。朱色って」

 「鮮やかな感じするでしょ? お兄ちゃんに合わせて厨二っぽくしたのに」


 いや確かに厨二的な言い回しみたいなのを俺は好きだが、今宵の前でそんな素振り見せてないはずなんだがな。


 「scintillerサンティエとかdestinoディスティーノはどうだ?」

 「ディスティーノは何となく意味が分かるけど、サンティエはどういう意味?」

 「サンティエはフランス語で輝く、きらめくって意味で、デスティーノはイタリア語で運命だな」

 「ほらぁ、やっぱり厨二じゃーん。特にディスティーノなんてディスティニーを更にちょっと捻ってカッコいい言葉におしゃれ感だしてイタリア語にしました的な……」


 凄いな……。心の中でどや顔してオシャレだろと思ってたわ。

 完全に言い当てられている件。

 バレると凄く恥ずかしい。


 「くっ。まあ、そうだけども! ただカッコ良いからってだけじゃないぞ? 今は二人だけど、パーティが増えるかもしれないだろ。そうなった時に輝けるようにとか、仲間になれたのは運命だね、とかだな……」

 「あのー、そろそろ決めてくれませんかね?」


 妹と言い合いをしていると受付のお姉さんが苦笑しながら、早く決めるように促して来た。

 全て聞かれていたと思うと、顔が熱くなってくる。


 「あ、すみません。どうする?」

 「もーぅ。じゃあディスティーノで! 運命で集まったとかなんかカッコいいし(ゴショゴショ」


 ディステーノの後が早口でしかも小声過ぎてよく聞き取れなかった。


 「え? なんだって?」

 「だからdestinoディスティーノ!」


 聞き返すと、俺が聞こえた所だけ言いなおして用紙を奪い取り書き込んだ。


 「では登録をするので少しお待ちください、私はサンティエもディステーノもカッコ良いと思いますよ(ボソッ」


 後半は小声だったけど、聞こえてるからね? 

 受付嬢は書き込んだ用紙を機械に入れた後、何か作業をしている。

 ちょっとニヤッてるのは何でなんですかねぇ。

 少し待つと、


 「登録が完了しました。今回納品頂いた魔石の買取金額は等分分配との事ですので、既に配分されています。こちら、パーティ登録の控えとパーティでクエストを受ける時や新規加入、脱退などについて書かれた冊子ですので読んでおいて下さいね。これで作業は終了です」


 「はい、わかりました。有難うございました」

 「ありがとうございましたー」


 探索者協会を出て俺の高校に向かうかと言う所で、アイテムボックスにビッグマウスが20匹入っている事を思い出した。


 「今宵、隣の企業がやってる買取所にもいくぞ。ビッグマウスがあるのを忘れてた」

 「隣? あそこがそうなの?」

 「そそ、逆隣りだとギルドの管轄であっちでも売れるが、貢献ポイントが貯まる分買取が少し低い。まあ今回こっちを使うのはアイテムボックスをばらしたくないからだけどね」

 「わかったー」



 「いらっしゃい。お、オーク肉の事でなんかあったか?」


 どうやら覚えられていたようだ。


 「いえ、ビッグマウスを狩ったので肉を買い取ってもらおうかと思いまして」

 「おー、そうかそうか。こっちのスペースで足りるか?」

 「大丈夫と思います」


 俺はそう言いながらビッグマウスを取り出した。


 「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、いつ……、20匹か。これだけいるとやはり査定もキッチリしたいから、買取確定は明日になるけどいいか?」


 いや数え方! 11以上が「とお余りひとつ」、「とお余りふたつ」とか言うのは初めて知ったわ! そして20は「はたち」急に知ってる言葉になってビックリ。

 これ30だと絶対「みそじ」だろ。


 「はい、其れと二人で等分に分けたいんですけど、どうすれば?」

 「ギルドでパーティ組んでるなら二人のカードを一度渡してくれたらこっちでやっとくぞ」

 「はい、わかりました」


 俺がそう言うと、今宵も探索者証を取り出しておっさんに渡した。

 2つの探索者証を機械に通すと何かを打ち込み返還される。


 「じゃあ、買取承認がリーダーの蒼月君の方に行くからオークと同じように承認後、等分で入金されるからな」

 「わかりました。ありがとうございました」


 






 




 


 

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