第37話 兄と妹⑥

 「ここだ」

 

 俺は3階層でゴブリンが一気に現れるトラップ部屋へと今宵と訪れた。


 「ここー? でも一匹もいないよ?」

 「この先にもう一つ続き部屋がある。そこにゴブリンが2匹いる事はわかるか?」

 「うーん? あ、いるね」


 「そいつを倒すとここに10匹のゴブリンが出現する。そしてそこから数分後……明確には分からないが、2匹いた部屋にも10匹のゴブリンがく。俺はそこで20匹に囲まれてしまって死にかけたけど助けてもらったんだ」


 「えー? ヤバくない? 止めた方が良いんじゃ?」

 「いや今の俺ならゴブリン20匹は余裕だし、もっと言えば今宵なら20匹でも倒せる気がする」

 「えー!! お兄ちゃんで無理だったのに今宵に出来る訳がないでしょ!」


 前から思ってたけど、今宵って俺の評価が無茶苦茶高いんだよなぁ。

 今朝アイテムボックスを見せた時でも俺ならそのくらいあっても当然みたいな感じだったし。


 今宵は一つ下なだけだから、中学の時の俺の事とか知っていると思うんだがそう言うそぶりは一切ない。

 学年が1つでも違えば悪評はそこまで伝わらないものなのだろうか。


 「今日見た感じだと、今宵なら大丈夫だ。まず、先の部屋にいる2匹のゴブリンを倒してくれ」

 「うーん、、行って来るけど、ちゃんと助けてよね」

 「ああ」


 今宵がゴブリン2匹に突っ込んでいく傍ら俺も同じ部屋に入る。

 2匹のゴブリンが倒された直後にさっきまでいた部屋に10匹のゴブリンが湧いた。


 「うわぁ、本当に沢山わいた~。これヤバくない?」

 「大丈夫だ。直ぐにここの部屋にも10匹わくから、あのゴブリンに囲まれないように気を付けて倒してくれ」

 「むぅー。行って来る!」


 しかし今宵は本当に凄いな。

 危ないと思っている事は言動からわかるけど、倒せると言えばそれを信じて直ぐに攻撃に移った。


 俺はあの10匹に対してどうやれば勝てるかを考えているうちに、ここの部屋にもゴブリンが湧いてほぼ強制的に戦闘する事になったのとは大違いだ。

 今宵が突っ込んでから既に数匹のゴブリンが倒されている。


 「今宵、倒した後のゴブリンは移動に邪魔になる。それも意識して立ち回るんだ。後は倒したと思っても倒せてない可能性にも気を付けろ」


 俺はそうアドバイスをしながら、ロックブレットを放ち少し嫌な位置取りをしていたゴブリンを倒して今宵を援護した。


 「お兄ちゃん今の! 魔法だよね」


 この混戦でも俺の攻撃を見ていたようだ。あれなら俺が倒さなくても問題はなかったか。

 そう考えているうちに俺がいる部屋でもゴブリンが10匹出現した。


 「よっと」


 俺は出現したと同時に2匹のゴブリンを切り捨てる。

 仲間が倒された事でゴブリンは雄たけびを上げて俺に襲い掛かって来るが、今の俺にはダンジョンに潜ってビッグマウスがいくら居ても問題ない時と同じような状態でゴブリンを処理する事ができる。


 今宵の動きも気にしながら、自分のいる部屋のゴブリンを一掃する。そして今宵を見ると、今宵も最後の1匹を倒した所だった。


 「お疲れ。な、やれただろ?」

 「出来たけどぉ。こんなにいたら動きに余裕がないよ。幾ら一撃で倒せても囲まれたり一斉に飛びかかられたら危ないと思う」


 「わかってるじゃん。だから囲まれたり一斉に攻撃を受けないように立ち回りながら倒す練習だよ」

 「そうなんだろうけど、スパルタすぎるよぉ」


 口では苦情を言っているが、みる限り余裕はある。


 「とりあえず魔石を回収したら、一旦部屋から出てどのくらいでここがもう一度出現するか見てみよう」

 「うん」


 部屋から出て先ほどの戦闘について意見を交わしていると、倒してから30分後くらいで奥の部屋に2匹のゴブリンがポップする。


 「ここも30分毎にポップする湧く感じか? よし、もう一度やるぞ」

 「わかった」


 それから何度か同じ事を繰り返す。

 今宵が慣れてきたと思えば、俺が担当していたゴブリンも全て倒すということはせずに倒す量を調整しながら繰り返す事5回目で、今宵はトラップ部屋の全てのゴブリンを1人で倒す事に成功した。


 「お疲れ。今日はここまでにしとこう」

 「ふ~、頑張った」


 帰路についていた時に3階から2階へ戻る直前に今宵が遭遇したゴブリンを倒すと、今宵から声が上がる。


 「お、お兄ちゃんレベルが上がった!」


 レベルが上がったと言う事は壁を超えて6か? 

 1日で壁を超えるとは。


 「おお~。おめでとう。今はステータスは見ずに家で一緒に見よう」

 「わかった~」


 「今日は、今宵頑張ったー」などと独り言なのか俺へ話しているのか分からない事を言う今宵を見ながら3階層から1階層へ移動してダンジョンを後にしたのだった。


 そこで俺は端末を見ると、オークの買取が提示されていたので承認する。オーク肉1匹29万8000円にもなるようだ。

 さらには矜侍さんからも返信が来ていて、「どうせお前がダンジョンか学校でスキルか魔法を使いすぎてバレるだろうから、使えるやつがいるって所を全世界に見せておいた。


 まあ国の上層部やトップレベルの奴らは元々知っているけどな」「カメラは矜一が生配信して使っても良い」と言う事が書いてあった。

 勿論、大きな問題にならないように基本的にばれないように注意しろと言う事も書かれてあったが。


 「お兄ちゃん端末見すぎ」

 「すまんすまん、この後はギルドへ行って今宵が倒した魔石を売ってから、東校に一緒に行くぞ」

 「ギルドは分かってたけど、高校に今宵が行って良いの~?」


 「まあ、入るのは別に問題ないだろ。制服の校章を取ったものを今宵に直接買えないか一緒に聞きに行こう」

 「え! お兄ちゃんと同じとこの制服着れるの? 行く行く~」

 「いや、買えるかどうかは分からんぞ。とりあえず聞きに行ってみよう」

 「わーい、わかったー」


 今宵って基本何でも楽しそうだよなと思いながら、まずはギルドへ向かうのだった。


 


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