第20話 箱庭②
「先ほどレベルはもう上がるようになったとは言ったが、当分はこの箱庭でレベルを上げずに魔法とスキルの習得を目指してもらう」
矜侍さんがこれから俺がすべき事を話してくれる。
ちなみに聞きながら柔軟体操をしろとの事で体を伸ばしたりもしている。
まずは柔軟体操が基本だそうだ。
「レベルを上げずに魔法やスキルが習得できるのですか?」
今までの常識であれば、スキルや魔法が覚えられるのは一番初めのステータスを得た時とレベルが壁を越えた時、ダンジョンで稀に見つかるスキルスクロールを使った時、そして職業(JOB)を選択した後にその職業で熟練してくると職業に合ったスキルや魔法が覚えられる事が判明している。
しかし、矜侍さんの話ではレベルを上げずにスキルや魔法が習得できるかのような話し方だ。
「あ? ああ、出来るぞ。そうか、そういやこの世界では勘違いされたままだったな。そもそも、初期に得られるものは才能だ。そしてレベルの壁を越えた時に得られるものは、レベルアップによる各種ステータスの上昇で得られるようになるものとそれまでの経験から選んで得る事が出来るものだな。それ以外で、例えば体術の研鑽を重ねていてもスキルとしてステータスに表示されていないのは、スキルや魔法はギフトのように貰いものといった思い込みが強すぎるせいだ。ステータスを得たり、壁を超える事で突然手に入れるという出来事を目にする訳だからな。だからまず、その思いこんだ常識を壊せ」
確かに、魔法やスキルはレベルの壁を越えれば手に入るものという常識が俺の中にもある。
もしくは本当に稀にドロップするダンジョンの宝箱か魔獣から手に入るスクロールで覚えるかだ。
それら以外で、剣道や空手の達人と言われる人たちがそれに関わるスキルを得ていない事でそれらの研鑽とステータスで得られるスキルや魔法は別物という認識だった。
矜侍さんの話ではそれらは別物ではなく、壁を超える事でも得られるし研鑽でも得られるというのだ。
「これからお前にはここで1年ほど生活をしてもらう。午前は体力作りや
1年間!? ここで寝泊まり?
直ぐに強くなれない事はわかっていたが、ここで1年も生活すると失踪扱いになってしまう。
「あの、学校や家にはどう説明すれば? 退学したり両親への説明をしたいのですが」
「ん? ああ、言ってなかったか。ここは俺がダンジョンコアで作った異空間で外の世界とは時間にズレがある。ここでの1年はお前の世界では1秒にも満たない。だから気にするな」
要約するとほぼ時が止まっているから、1年間ここで修行して戻っても問題ないよって事かな?
ここってそんな飛んでも空間なの⁉
「時間は有限だ。この世界は球状になっている。迷わぬように意識しながら一周して来い。この場所を常に意識するんだ。これは体力作りと同時に空間把握のスキル取得の練習でもある。わかったら行ってこい!」
そう言うやいなや、俺は走らされた。
まっすぐ走っているはずなのに、周りの景色が一切変わらず変な感じだ。
振り返ると2つのコンテナがあり、進んでいると言う事がわかる。
俺はあの場所を意識しながら走る。
途中、後ろを確認してもコンテナは見えなくなった。
平面を走っている感覚しかないのだが、矜侍さんは球状だと言っていた。
だとすれば、裏側に来たのかもしれない。
途中で時間を確認したくて端末を見たが、停止をしていて動いていなかった。
これでは時間がわからないが、感覚では走り出して2時間は立っている。
更にしばらくすると前方にコンテナが見えてくる。
既に息も切れ切れで走っているとは言えない速度だが、それでも歩を進める。
やっとコンテナに到着し、俺は仰向けになり休憩する。
「戻ったか」
突如気配を感じ顔を向けると矜侍さんがいた。
この人は何時もどうやって現れているのだろう。
転移系だろうか。
「ぜぇ、ぜぇ。はい。ふぅ。ここではどうやって時間を推測すれば良いのでしょう?」
流石に時間が分からなければ、午前や午後の認識も日にちの経過もわからない。
「ふむ。時間感覚を鍛えるのも重要だが、ここまでわからないと発狂もありえるか。そうだな、これを使え」
何もない空間から取り出されたそれを、俺に放り投げて来る。
「っと。懐中時計?」
「そうだ。それはネジ式の懐中時計で一度巻けば24時間は動く。1日に何回か巻いておけ。ちなみに今は午前11時だから合わせておけよ」
俺は懐中時計のネジを巻き、時間を合わせる。
「一周4時間か。最初はそんなものかな。そうそう、通常ならそういった訓練でもレベルが上がるが、今お前の
この空間と言い、矜侍さんのやれる事と言い完全に常識から逸脱している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます