第10話 品位を落とす男

 「ピンポーン」


 次の朝、朝食を食べ終えて、自室で学校の用意をもう一度確認しているとチャイムが鳴った。

 恐らく毎日迎えに来てくれる幼馴染の椿だろう。

 カバンを肩にかけ玄関へ向かう。


 ドアを開けるとやはり椿がいたので挨拶する。


 「おはよう」

 「おはよう」


 椿は挨拶を交わすと特に俺が靴を履くのを待つでもなく踵を返すと、スタスタと髪をなびかせ歩いて行く。

 俺は「いってきまーす」と家の中へ向かって言うと、急いで追いつくように椿の元へ走るのだった。


 隣に並ぶと機嫌が悪くなるのは分かっているので、少し距離をとって歩く。

 俺は大和撫子なのだ! 

 ぐすん。


 学校まで1kmほどの道のりの間にこちらから何度か話しかけたのだが、「ああ」とか「いや」とかことごとく言葉のキャッチボールが出来ずに終わる。

 まあこれは中3の時と同じなんだけどね。


 というか、明らかに好かれていないのに毎回律義に迎えに来てくれるのは何故なのか。

 婚姻契約指輪でゴッコ契約をした時に椿から「毎日一緒に登校しよう」という提案を受けたのは覚えているが、自分から言い出した事を撤回するのはプライドが許さないとか? 

 

 こちらとしてはせっかく一緒に登校するのだから、少しでも雰囲気を良くしたいから話しかけているだけだ。

 ただ、好かれていないからと言ってもう朝は迎えに来なくて良いよとは縁を切る事になりそうで言えもしない。

 俺はどうすれば良いのか。


 そんな事を考えていると学校に着いた。

 下駄箱で靴を履き替えていると「アイツじゃない?」という声が聞こえ、振り返るとこちらを見ていた女生徒の2人組の1人が「うわ、マジだ」などと言って嘲笑を含んだ感じの顔で去っていった。


 背中に悪戯でもされているのか確認するも紙を貼られている事もなく、社会の窓チャックが開いているのかとズボンを見るが閉まっている。

 この少しの間に椿は俺を待ってくれる事もなく、当然のように既にいなかった。


 教室に入るとガヤガヤしていた教室が一瞬しずかになるがドアを開けてすぐの自分の席に荷物を置く。

 椿を目で追うと自分の席付近のあの3人と挨拶を交わしている所だった。


 「なぁ、これってお前じゃね?」


 席に座ろうとするとクラスメイトらしき男から端末を見せられ見てみると土下座のように丸まって顔だけあげている俺の写真があった。

 訓練場のやりとりを撮られていたようだ。


 「ああ……、そうだね。え? なんでそれあるの?」


 「あー、やっぱそうか。制服だし席が近かったからお前かなと思ったんだよ。これ、この学校の雑談掲示板に一般ぱんぴーに負けて第一東の品位を落としてるぽっちゃりを発見って貼られてたぜ」


 まじか。撮ったやつはあのやり取りを見てたのに、助けに入らず掲示板に貼られるとは。


 「1-5、注目ー!! 端末で学校の雑談掲示板見て見ろよ! 第一東の制服でボコられてこんなに弱いやつは落ちこぼれ入学の1-5のやつの誰かだって噂されてるぞ! 最下位君のせいで俺ら落ちこぼれだってよー!」


 俺に写真をみせてきたやつが今登校して来てる皆に俺のやられた写真を見るようにいっている。

 椿も今みて驚いているようだ。


 「うわ、マジだ。ダサすぎ」

 「え? 土下座? 酷くない?」

 「てかこれ俺ら1-5メチャクチャ馬鹿にされてんじゃん。コイツ一人のせいなのにうざすぎね?」


 誰一人俺を心配する事はなく、罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせてくる。

 これ俺が悪いの? 

 いきなりイチャモンつけられて自分より強い相手に同じ事をされたら全員同じ状況になるんじゃないの?


 ダンジョンに行った後にステータスを見てみたがレベルは上がっていなかった。

 強くなるために努力はしているけど、理不尽にはどうやって対処すれば良いのだろうか。

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