第9話 初ダンジョン
痛む体を押してなんとかダンジョンゲート前に到着する。
ここまでくる間には屋台や武器・防具屋、魔道具屋などたくさんの店と人がいて探索者に関りがない場合、普通の日常とは違うまさに異世界のような状態だ。
服装からしてもう全く違うのだ。
唯一、東校の制服で帯剣などをしていない場合は一般に混じっていても普通に見える。
まあ、それでも蒼龍のワッペンなどがついていて異彩を放ってはいるけどね。
ここまでの間にポーターの人たちが雇わないかと営業を掛けているのを見て自分が木刀以外に何も持って来ていない事で、ビッグマウスを倒しても持ち帰れない事が判明した。
ダンジョンで魔物を倒す事に気がはやっていてうっかりしていたようだ。
ポーターを雇う事も考えたが、1階である事や雇う金額などわからない事も多いので今日はそのまま突入する事にする。
ダンジョンゲートで端末をかざし東京ダンジョンの1階に突入する。
少し拓けた場所があり入る時にはなかったはずの洞窟の中にいるようだ。
ダンジョンはそれぞれ階層に入る時に魔法陣で移動する。
その時に次に進むか帰還するかが選べるらしく、階層はそれぞれ独立していて異空間となっている。
ただし、理由は不明であるがダンジョン内の魔獣を狩らずに長期間放置すると、ダンジョンゲート辺りに魔法陣が多数現れてスタンピードが発生する事がわかっている。
これはダンジョンができた当時に東京ダンジョンでも一度起こりダンジョンの近くは廃墟と化し国防軍による排除まで時間がかかった事もあり多くの人が亡くなった。
これはほぼ全てのダンジョン、世界各国でもそれは起こった。
瓦礫化した一帯を再開発した事により、ダンジョン周りは今現在の非日常のような、異世界のような状態になっている。
「しかしビッグマウスなんて一匹もいないな」
ダンジョンを進みながら周囲を見渡すが魔獣は一匹もいない。
洞窟ではあるが、少し暗い程度で十分に見通す事もできた。
30分ほど歩き、人は多くいたが魔獣がいない。
1Fは網羅されていて地図もしっかりあるので俺は主要な道とそれから少し外れる程度の場所を探索していた。
「これは、主要な道からそれて2階に行く魔法陣とは全く関係ない道を行かないとダメだな」
初めての事もあり主要な道で戦い、もし何かあれば助けを求める事も想定していただけに小道にそれるのは緊張する。
さらに10分ほど進むともう人の気配は全く無くなった。
「お、ビッグマウス発見!」
つい声を出してしまったせいか、すぐさま逃走を図られる。
急いで後を追うが見失ってしまった。
しばらくしてまた1匹発見する。
今度は慎重に近づく。
マウスは早い段階でこちらに気が付いていたが、俺が大きな反応を見せていないためかそのまま動かずにいた。
2メートル付近まで近づくと猫が構えたような反応を見せたために一気に近づいて木刀を横なぎにして当てる。
バンッ
肉にめり込むような音と共にビッグマウスは壁にぶつかるが、まだ息があるようだ。
すかさず俺は距離を詰め上から袋叩きにし、ピクリとも動かない事を確認する。
「よし! なんとか勝てたな」
血抜きをしようとするがナイフを持ってないので当然できず……、魔石も取り出せない事に気づく。
「袋やバッグ、入れ物を忘れたと思ったけど、一番重要なのはもしかしてナイフだったか? 魔石なら幾つかポケットにでも入れれば持って帰れたのにな」
俺はそう愚痴る。
しかし今更仕方がないので初めての討伐であったが戦利品は諦める事にした。
ダンジョンは死骸を放置していても全く動かさなければ、1時間くらいでそれらを取り込む事が知られている。
それから2時間ほど洞窟内を回り計10匹のビッグマウス、2匹のスライムを倒した。
18時を既に超えていたのでスライムの核と最後の1匹のビッグマウスは手に持って帰還する事にする。
ダンジョンを出るとギルド隣の解体・素材買取の会館に向かう。
番号札をもらい、順番に従って解体受付へ向かいビッグマウスをお願いした。
「すみません、血抜きしてないのですが買い取ってもらえますか?」
「あん? 仕留めてまだ時間がたってないようだな、これなら魔石込みで350円って所だ。どうする?」
安い。
体感で7.8キロはあったから、肉がそこから取れると考えるとかなりの量になるのでは? と思うが2時間ほどで10匹狩れたことを考えれば3500円。
時給換算にすると安くはないのか?
「それでお願いします」
「なら探索者証にその買取証明と金額を入力するから貸してくれ」
言われるままに渡す。端末や探索者証は財布の代わりにも使える様だ。
「よし、完了だ。またよろしくな」
「はい。有難うございました」
正直ビッグマウス1匹だと門前払いも覚悟していたが、そんな事はなく言葉遣いを別にすれば対応は凄く丁寧だったと言える。
しかし疲れた。
木刀で突かれた所は痛いままだし、早く帰ろう。
家に帰ると、19時を過ぎていた。
「お兄ちゃんお帰り! ごはんできてるよ」
「ただいま。すぐ行くよ」
今宵が夕食が既にできている事を教えてくれる。
うちは大体19時から20時の間に夕食を食べるため、丁度良い時間に帰ってこれた。
いや、少しだけ遅れたのか。
夕食を食べ終わり、風呂に入る。
体を洗いながら鏡で見ると、木刀で突かれた所が青あざになっていた。
「はあ、マジであいつら何だったんだよ」
風呂から出て明日の用意をした俺は、疲れた体を休めるために早めに就寝するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます