第8話 ”可愛がり”

 3階の資料室を出てもう一度1階に戻る。

 1階でこなせるクエストがあるかどうかの確認をするためだ。

 折角1階で狩りをするならついでにお金やポイント(ギルド貢献値)を稼ぎたいからね。


 1階の奥の掲示板(クエストボード)とパソコン検索コーナーがある所に向かう。

 俺はパソコンでの検索より実際に紙で見る方が見やすい事もありそちらに向かい掲示版を確認する。


 買取可能なもの

 各種魔石、オーク肉、フォレスト&ブラックウルフの毛皮、スケルトンやゴブリンなどの鉄製装備、シロダイショウの皮、ビッグマウスの肉


 「お、ビッグマウスの肉があるな」


  ざっと地下5階までで買取可能なものをみる。

 ポイントは基本的に魔石買取で討伐証明となってギルド貢献値が増える事になる。また買取可能な素材を多く納品しても増える。

 今回俺が出来るのはビッグマウスの肉と倒した時に出る魔石を持ち帰る事くらいか。


 「おいおいおい、東校の制服を着た奴が木刀持ってクエストボード見てるんだが?」

 「なんだこいつ、落ちこぼれか? ハハッ」

 「エリート様が木刀なんて初めて見たな。ヒヒっ」


 掲示板の前で考えているとガタイの良いおっさん、中肉のノッポ、重戦士のような格好をした小柄だがどっしりとした3人組に絡まれる。


 えぇ……、こういうのって受付で話が終わった後とかじゃないの?

 このタイミングなの? 

 というか、木刀を持ってるだけで絡まれたの??


 「おいおい、ビビってるじゃねーか。ださっ」


 ガタイの良い中級者くらいの装備に身を包んだおっさんが更に煽ってくる。


 「何か用ですか?」

 「おっ。いっちょ前に反論してきたぞ」

 「「ハハッ」」


 いやいや、お前らがイチャモンをつけてきたから対応しているんだが? 

 どこに面白いポイントが?

 俺は周りを見渡して見る。

 東校の先輩だろうか、俺の他に制服を着ている人もパソコンコーナーで調べ物をしているみたいだが、特に絡まれている訳でもない。

 俺は特に相手にする必要もないと思い、無視して立ち去ろうとする。


 「おい、なに無視してんだよ!」


 去ろうとすると突如、ガタイの良いおっさんから威圧が放たれる。


 「う、、」


 突然の威圧を受け俺の体は硬直した。

 そういえば担任もすぐ威圧を使って黙らせていたけどこういう使い方をするものなのか? 

 俺はもう一度尋ねる。


 「何か用なんですか? 絡まれてる理由がわからないのですが」

 「あ? 落ちこぼれが反論してくんじゃねーよ」


 いやだからどうしろと? 

 会話が成り立たない。


 「ちょっと訓練つけてやるわ。地下1階の練習場にこいや」


 ……、俺は周りを見るが誰も止めようとしない。

 え? 

 完全に絡まれてるよね? 

 案内の人や受付を見るが特に動きはない。


 「いえ、これから用事がありますので」


 俺はそう言って3人の横を通り過ぎようとする。


 「黙ってついて来れば良いんだよ!」


 またガタイの良いおっさんから威圧が放たれ、体が上手く動かせなくなる。

 俺はしぶしぶ3人組について地下1階へと向かうのだった。


 地下1階は練習場になっており、何人か訓練していた。その一角に俺は連れてこられる。ノッポが何処からか木刀を持って来てガタイの良いおっさんに渡した。


 「よし、じゃあ訓練つけてやるからかかってこいや」


 もう何を言っても無駄と思い俺は木刀を構えて上から振り下ろした。


 カンッ


 俺の攻撃は簡単に弾かれると、そのままおっさんは突きを放つ。


 「ぐはぁっ……」


 一撃で俺は地面に膝をつく。

 痛い痛すぎる。


 「おりゃ! ハハッ、コイツよえー!」


 立ち上がるのを待たれる事もなく、上から何度も木刀を振り下ろされ俺は亀のように丸まった。


 「雑魚が! これに懲りたら調子に乗んなよ。ッペ」


 攻撃が止んだ事で見上げた俺の顔におっさんの唾が吐かれる。

 3人はそのまま立ち去って行ったが、俺は痛みで直ぐに立ち上がる事が出来なかった。


 しばらくして起き上がると、よろよろとギルドを後にしてダンジョンに向かう。

 絡まれた理由すらわからない。

 調子になんて乗っていない。


 ただ一つ、相手からは初めからこちらが弱いと決めつけた何かがあってあざけり笑っていた。

 レベルがもし、もう少し上であったならこんな事にはなっていなかったのかもしれない。

 そう思うと俺はダンジョンへと足を運ぶのだった。


 

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