第7話 大口

 3階の資料室に入ると、カウンターに職員の方はいたが特に何も言われる事もなく中に入る事ができた。

 話しかけられたらダンジョンの出現魔獣の資料がある場所を聞くつもりであったが、とりあえずはひと通り見て探すことにする。


 いくつかのコーナーがあり、ダンジョン内の植生やトラップ、ダンジョンの歴史など様々な資料があるなかで東京ダンジョンに出現する魔獣の書かれた書籍を発見した。


 近くにはまだ書籍化されていない新しく攻略された階層の資料もあり、現在の最終攻略地点は35階層という事だった。


 東京ダンジョンに出現する魔獣が書かれた本を手に取りページを捲る。1F(1階)に出現する魔獣はビッグマウスという大きな灰色のネズミと全階層に出現するスライムらしい。

 1階層の魔獣は積極的に攻撃を仕掛けてくる事はなく、初心者が気楽に狩れる魔獣として人気だそうだ。



 その本に書かれていることによると、


 【現在ビッグマウスと呼ばれる魔物はダンジョン出現当時、国防軍の鑑定スキルを持った将校がこのネズミを初めて鑑定した時には灰色ねずみという名前であったそうだ。

 その後に探索者協会ができ、民間人でもダンジョン探索ができる法律が施行される。


 民間人でも探索ができるようになったことから、フォロワーを増やすために有名なMeTuberが棍棒をもって突撃したが、見事な返り討ちにあい、別の探索者に救出された。


 そのMeTuberがまだ意識を回復する前に、彼の持っていたカメラの動画内容を見た病院職員は勝手にその動画を自分が開設しているチャンネルで流し大きくバズる事になる。

 この事は問題となり職員は失職する事になるが、そこで後の世にまで有名になる言葉を残す事になる。


 その動画内容は有名Tuberがダンジョンに入る前から始まる。


 「俺はビッグになる。ここのダンジョンから戻ってこの動画をあげる時には探索者としても名を挙げる時になるだろう」


 という独白から始まり、有名MeTuberはダンジョン1階の中に向かう。

 3匹のマウスを行き止まりの場所で発見すると、「3匹同時に倒しまーす」というチャラい声をあげて棍棒を横なぎにかすらせるが、まともにダメージを与える事ができずに突進をうけていた。

 棍棒が当たったのは3匹中2匹らしく1匹はそのまま逃げたが、残りの2匹は興奮して突進を繰り返し有名Tuberが棍棒を落とした後はずっとネズミのターンとなった。

 そしてボコボコにされ倒れた所を別の攻略者が一なぎでネズミを瞬殺する所で終わるものであった。


 職員はインタビューでこう答えている。


 「勝手に動画をあげた事は悪い事だと思っている。でも、大口を叩く人ビッグマウスがマウス《・・・》に負ける動画を見て世間に知らせなきゃという使命感を持って動画を挙げた。後悔はしていない」


 このインタビューの後に灰色ねずみを鑑定スキル持ちが鑑定した所、魔獣の名前がビッグマウス・・・・・・と変化している事が判明した。

 鑑定の内容がスキルレベルの変化以外で変わる事が認識された初めての例でもあった。

 それはしかも全世界規模での変更であった。】



 ふむふむ……、ってこの病院職員は絶対に面白い事を言おうとしただけだろ! 

 でも魔獣の名称が変わったのは広く人に認知されたからとかなのか?


 この動画のためにビッグマウス灰色ねずみでも初心者には危険という認識が一時広まったが、ビッグマウス側から先に攻撃してくる事はなく、現在ではこのMeTuberはビッグマウス大口を叩く者の最弱探索者という不名誉な呼ばれ方をネットを中心にされている……か。


 「こわっ。コレ、レベル1の俺で大丈夫か? 最弱の探索者の称号を受け継ぐとかないよね?」


 一人でダンジョンに行くのを止めるべきか真剣に悩む。

 しかしやはりレベルを上げるという観点で見ればダンジョン探索は試す価値があると思う。

 1匹ずつ攻撃する事を固く誓うのだった。


 ビッグマウスは1階という低層で出る事もあり食糧事情が良くない発展途上国では大変重宝しているらしく肉は買取される、か。


 ビッグマウスの倒し方は特に載ってないな。

 1Fにいるスライムに関してはアメーバ状でこちらも先に攻撃してくる事はない。

 倒すには核を狙い破壊するか叩く事で外に核を出すと核を残して消滅するか。


 今日は1Fしか行く気はないが、念のために地下5Fまでの出現魔獣や階層の特徴、魔獣の倒し方の確認をしたのだった。





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