第4話 全方位優良物件(ただし妹)

 次の日、朝早くに目覚めた俺は昨日貰った端末の説明書を読みながら使い方や出来る事を調べていると窓の外から母親の声が聞こえる。


 「あら、椿ちゃん。おはよう。今日も学校に?」

 「あ、咲江さきえさんおはようございます。学校じゃなくてクラスメイトの皆とダンジョンに潜ろうかって話になってこれから行くところなんですよ」

 「「「おはようございまーす」」」


 窓際に寄ってこっそりと外を見ると東校の制服を着た5人が楽しそうにはしゃいでいる。

 椿の近くの席にいたイケメン男子2人、可愛い系女子1人とフツメン男子1人の4人だ。

 え? リア充ってもうダンジョンデートするの? 昨日会ったばかりなのに? その光景を見て俺は酷く動揺する。


 あとフツメン男子。

 どうやってそのポジションに入ったの⁉ あそこに割って入れるとすれば面白キャラとかなんだろうか。


 ダンジョンに行くのに何故に制服? と思うかもしれないが、国立第一と名前がついてある高校の制服は国の強力な支援の元に付与魔法がかけられていて初級防具よりも高い防御力を誇り、予備を含めなんと3着も支給される。

 国が優秀者を育成する超エリート校なのだ。


 「おはよう、そうなのねー。気を付けて行くのよ」

 「はい、行ってきます」


 俺も今から追いかけて仲間に入れて貰うか? 

 5人の楽しそうな姿を見て俺は酷く焦りながら考える。

 折角、椿を追いかけて難関校に合格できたと言うのに、入学の次の日から彼女は既にクラス1位のイケメンと打ち解けている。


 席の並び順を考えれば1-5クラスの1位から5位でチームを組んだ感じかな? 

 フツメンも確か椿たちの席の近くにいた気がする。


 嫉妬心が芽生えるがここで追いかけて断られれば立ち直れない気もする。

 lvが上がるなら俺もダンジョンに行くのも良いが3年間上がらなかったものが今日明日で上がるとも思えない。

 ここは勉強だけでも遅れないように朝ごはんを食べたら予習でもするかな。


 そう思いなおして1階の居間……リビングに向かう。

 そこには既に妹がいて朝食を食べていたようだ。


 「今宵、おはよう」

 「あ、お兄ちゃんおはよ! お兄ちゃんはダンジョン行かないのー?」

 

 これは母さんたちの声がここでも聞こえていたのかな?


 「ああ、今日は予習でもしておこうかと思ってる所」

 「ふーん……そうなんだ。今宵も東校に受かるように勉強しとこっと」


 椿の声が聞こえて俺が追いかけない事に疑問でもあったのか不思議そうに俺を見ている。

 コイツは東校に受かるために勉強をすると言うが、中学では学年1位でスキルも武術全般という非常にレアなスキルを持っている。

 なんと今の中学に入学する前には、国立第一中学の5つ全てから逆推薦が来ていたほどだった。

 当時は俺が国立第一の探索者学校を目指していなかったために、『お兄ちゃんと同じ所を受験するからいかないよ~』と言って俺と同じ中学に進学していた。


 俺が高校で国立の探索者学校に入学した事で同じ国立第一東校を目指すらしい。

 中学の俺を思えば妹の俺に対するこの好感度の高さの理由が思い浮かばず、兄妹って良いなとしみじみ思う。


 「お兄ちゃんも勉強するなら今宵の部屋で一緒にしながら、わからない所があったら教えてよ」


 トーストをかじった後に目玉焼きを堪能していた俺に今宵が提案してくる。

 いや、ぶっちゃけこいつは中3で学年1位。

 俺も学業の方は成績は悪くなかったとはいえ、中3では1位は取った事がなかった。


 「いやむしろ、中学の範囲だと俺が教わる可能性が高いわけだが?」

 「えー? じゃあ今宵が教えよっか?」

 「いや、一応俺が予習するのは高校の範囲だからね? 流石に高校の範囲は今宵もわからないだろ?」

 「東校を受けるんだから勉強してるに決まってるじゃん!」


 聞きたくない現実を聞いた気がする。

 え? 早生まれの妹は中3で既に偏差値79の高校の問題が解けるの?? 実質2年差を埋めてるって事なの?


 「お、おお‥‥‥。今宵は凄いな。でもな、もし兄ちゃんが分からない所で今宵に聞いて今宵が分かって教えてくれたら、俺の心が折れるかもしれないからな?」


 「えー? 別に問題ないのにー。お兄ちゃんが分からない所を今宵が知っていたとしても、それは単にそこに限った話で今宵が知らない事も沢山知ってるでしょ」


 うちの妹が性格も成績も容姿も全方位に優れている件。

 兄と言うだけで買いかぶりすぎてない? 

 一度見限られたら、邪魔とかデブとか臭いとか言い出さないよね?

 もし反抗期に今宵がなったら、椿に嫌われるより立ち直れないダメージを受ける気さえする。


 ああ、椿は既にNTRてるし嫌われてるって? 

 ふざけんな! 

 まあ今のダメな俺ですら認めてくれる家族‥‥‥。

 家族だけには見捨てられないようにしたい。


 「今宵は相変わらず可愛いなぁ。まあ今回は自分で勉強したいからまた今度な」

 「え。う、うん。お兄ちゃんも頑張ってね」


 何故か妹は下を向いてそれ以上話してくることもなく、そそくさと食器を片付けて自分の部屋へと戻って行った。


 「俺もがんばらなきゃな」


 その日俺は夕食とお風呂以外は予習に費やし、一日を終えたのだった。

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