162 追跡の影
イドエに戻った翌朝、先に起きたシンは、まだベッドで眠っているユウを見ていた。
逃亡したロルガレの怒りが、レリスに向けられていることなど知る由もないシンは、今まで以上にイドエが危険にさらされるのではないかと危惧していた。
……セッティモで、運良く
ヘルとカンスは、シンに頼まれてこれからも護衛を続けることを快く承諾した。ヘルは憧れのシャリィの側にいられることを嬉しく思い、さらにイドエのことも気に入っていた。そして、カンスもまた、この村に対して特別な思いを抱いており、それが決断の大きな理由となっていたのだ。
「スー、スー」
寝息を立てているユウをジッと見つめた後、シンは目を伏せる。
「……」
隊長が殺された事で、
どうする? やはり
……そうじゃない。違うだろ! これ以上知る必要はないんだって!
シンはカピティーンの死に対し、その詳細を知ろうとはしなかった。それは、決して軽く考えていた訳ではなく、
足りないところがないか、何度でも、何度でも考えるんだ。
シンが自分にそう言い聞かせた時、ユウの目が覚める。
「ううーん」
「あ、起きた? おはよう」
「う、うーん。おはよう」
「今日は練習は休みなんだろ?」
「う、うん」
「それなら寝ててもいいんじゃない? まだ6時過ぎだから」
「うーん、そうだね。お昼ぐらいまで寝ようかな」
「あぁ、それでいいんじゃない。俺はバニして出かけるよ」
「うん、わかった」
バニ室から出て来たシンは、ある事を思い出す。
「ふぇー、さっぱりしたぁ。あ、そう言えば」
「う、うーん」
「ロスさんが、頼まれていた物の試作品が出来たって」
「うぅ、ふーん…… えっ!?」
ユウは寝ぼけているのにもかかわらず、突然身体を起こした。
「え!? なんて? 何て言ったの今!?」
どうやって寝ればそんな凄い寝ぐせに……
シンは、ユウの髪型が気になっていた。
「いや、ユウから頼まれていた物が……」
「ええー!? 本当それ!?」
「え? あ、うん」
「こうしちゃいられない! 出かけなきゃ!」
ベッドから飛び出てドアに向かうユウを、シンは呼び止める。
「ちょっちょっ、ちょいちょい。ユウ!」
「え?」
「まだ時間が早いって。ロスさんたちは来てないと思うよ」
「あ、そうか……」
「それに服」
「え?」
「服、服」
ユウは部屋着のままだった。
「あ!」
「それに……」
「え?」
「その寝ぐせも。フフフ」
「寝ぐせ? そんなに?」
ユウはベッドから起き上がって、鏡で確認する。
「すごっ!」
「フフフ、あはははは。何だよその驚き方、フフフ」
「だって、凄いよこれ。初めて見たよここまでの寝ぐせ」
「フフフ、確かにね、そんな結んだみたいな寝ぐせ、俺も見た事ないかも」
「ふふ、そうだよね。バニしてくるね」
「あぁ、けどもったいないな、それを直すの」
「あはははは、確かにね」
ユウとの何気ない会話で、一瞬ロルガレの事を忘れられたシンであったが、ユウがバニ室に入ると、その表情から笑みが消える。
「……」
そして、ユウがバニ室から出て来る前に、部屋を後にするのであった。
「ふぁー、これで寝ぐせも直ったよね。あれ?」
……出かけちゃったんだ。
部屋を出たシンは、いつも立ち寄る馬小屋をスル―して、門に向かっていた。そこには、ロルガレを警戒したシンにより、普段より人数を増やした門番たちが立っていた。そしてその中には、カンスの姿もあった。
「シンさん。おはようございます」
「おはようカンス。何度も言ってるけど、シンでいいって」
「では、そのうち」
フッ、まるでユウと会話しているみたいだ……
「かわりはない?」
「はい、何も変わったことはありません」
「そっかぁ。悪いね、昨日イドエに着いたばかりなのに」
「全然大丈夫です。もう直ぐしたら、ヘルが交代で来てくれますし」
シンは軽く頷いた後、遠くを見るような目をする。
……たぶん、森の中にもいるはずだ。名前は知らないけど、頼むぞ。
ロルガレの逃走の話を聞いたシンは、バリィに警戒を強めたいと伝え、正面以外の見張りを任せたいた。
森の中を見ていたシンは、再びカンスに視線を戻して声をかける。
「カンス、食事はいつでもいいから、好きな時にオスオさんのところで食べて」
「はい」
今度はカンスから門番たちに視線を向ける。
「みんなも食ってってよ。伝えておくから」
「やったー。俺は芋天食うぞ」
「俺も俺も!」
「俺は何にしようかな~」
……この人は、周りの人への配慮が自然と身についている。
カンスがそう感じていた時、大きなあくびをしながら、ヘルが門に向かって歩いて来ていた。
「ふはぁぁぁー。眠い」
この場にいた門番たちは、初めて目にするヘルに驚いていた。
女だよな? すげぇガタイ……
ふゎ~、これは強そうだな~。
なんだこの身体!? 正直、抱かれてみたい……
……すっごっ!
「おはようヘルさん」
あいさつをしたシンに、ヘルも返す。
「ん? あぁ、おはよう、弱っちい君」
「ヘル!」
ヘルが余計なことを口にした瞬間、カンスはその名前を普段よりも強く呼んだ。
「す、すみませんシンさん」
「いやぁ、全然」
「ふぁ~、事実なんだからいいだろ?」
「ヘル! 本当にすみません。その、いつも寝起きは機嫌が悪くて……」
「気にしなくていいって」
「弱っちい君、朝飯食ったか?」
「ヘルってば! いい加減にして! シ、シンさん、朝食は食べましたか? まだでしたら、一緒にいきましょう!」
「ふふ、そうしようか」
その場を離れる前に、カンスは門番たちに声をかける。
「では、お先に失礼します」
その言葉に、門番たちは笑みを浮かべる。
「また一緒に門番しような」
「俺もまた一緒にしたい」
「お疲れさま~」
「じゃあなー」
門番たちは一晩共に過ごしただけでカンスを慕い、シンと食堂に向かう後ろ姿を見送っていた。
あいつ冒険者なのに、腰が低いんだよな。
あんな礼儀正しい冒険者もいるんだな……
ただただ良い奴~。
そう思っていた門番たちは、無言の了解を交わすかのように、一斉にさりげなくヘルの方へ視線を向けた。
「ふぁ~、どうしてあたしがこんな朝早くに……」
グチを言ってるヘルは、門番たちの視線に気づく。
「あん? お前ら何
そう言われた門番たちは、一瞬で視線を逸らす。
乳見てねーし……
ひぃー、怖いよー。
やばー、本当に殺されそうだ。
知ってた。知ってたもんね。
見たまんまの人だ……
早く交代の時間こないかな~。
うん、乳見てた。素敵だ…… もっと
一人を除いて、みんなヘルを怖がっていた。
「さーて、朝になったから門を開けよーか」
「そうだな」
「そうしよう!」
門番たちは、ヘルの発した言葉を意図的に無視するかのように、黙々と門を開け始めた。
「はぁ~あ~」
ため息を付いたヘルは、開いていく門の隙間から森に目を向ける。
……いる。
「……」
昨日は感じなかったけど、森に何者かがいる。だけど、危険人物なら、シャリィ様が放置するはずがない。
「よーし、開いたぞ! そこで固定しろ」
「はいよー」
こいつらもカンスも気づいていない。つまり、
ヘルの視線のずっと先には、ゼロアスが立っていた。
……あのでかい女、この距離で僕に気付いてね?
ゼロアスとヘルの視線が、遠く離れていながらも絡み合う。
ふーん。人間なのに、探知能力に長けているみたいだね。それに、何となく気付いているのに様子を見に来ないのは…… 馬鹿でもないみたいだ。
「察しが良くて協力的なら、使えるかも…… ねぇー」
ゼロアスは隣にいる魔獣の身体を撫でていた。
「グァルルルゥ」
「しっかし暇だな~」
そう言って天を仰いだ。
その頃、セッティモから100キロほど離れた森の奥深くにある洞窟に、ロルガレは一緒に逃亡した部下たちと身を潜めていた。ここに来るまでの途中で服を盗み、一見ヘルゴンとは分からない姿で過ごしていた。
「フィツァ、肉が焼けました。どうぞ」
「……ありがとう」
部下が狩った動物の肉を、ゆっくりと頬張る。
「モグ、モグ」
かつてヘルゴンのフィツァで、敬愛するカピティーンの右腕だったロルガレだが、今はただの逃亡者である。
全ては…… レリス、あなたとブラッズベリンの策略ね。必ず、必ず二人を…… 殺すわ。
「お口に、合いませんか?」
串に刺した肉を持つ手が止まったロルガレを見て、ラスコが静かに声をかけた。
「いえ、そうじゃないわ……」
ロルガレは、二人の部下に視線を向ける。
「……ラスコ、ノーデン」
「はい」
「なんでしょうか?」
三人いた部下のうち一人、トリラタンは、逃亡途中に行方不明となり、残されたのは二人だけである。
「セッティモに戻りなさい」
「……」
「……」
「あなたたちは、よく尽くしてくれた」
二人は、無言でロルガレの話を聞いている。
「これ以上逃亡者である私に、付き合う必要はないわ」
「……」
「……」
「今戻れば、これからのヘルゴンの編制のこともあり、さほど大きな罪には問われないはずよ」
その読み通り、ロルガレに加担した隊員たちは、本来なら反乱罪に問われ、死罪になってもおかしくない重大な状況であったにもかかわらず、後日ブラッズベリンの口添えにより、最終的には分裂罪に問われ、短期の投獄という処分で決着することとなる。しかも、本人たちが望むのであれば、ヘルゴンに戻れるという寛大な措置まで認められ、罪を償った者たちは復帰を果たす。ただし、所属支部は変更となった。
悪い噂ばかりだったブラッズベリンであったが、ヘルゴンの隊員たちの間で、仲間の命を救った恩人として見る者も現れはじめ、この一件に関しては、隊内で敬意を持って語られるようになっていったのである。だが、この処置には、レリスによるヘルゴンの隊員殺害という事実から目を逸らす意図も含まれていた。
「戻ったら、私に逆らえなかったと、そう言いなさい」
「……」
「……フィツァ」
ラスコとノーデンの二人は、自然と視線を合わせる。先に目を伏せたノーデンは、ロルガレの前で膝をついて深々と平伏した。焚火と肉の焼ける音だけが満ちる中、ノーデンは一人で洞窟を後にした。
「ラスコ、あなたも行きなさい」
「……いえ、私は行動を共にさせて下さい」
「……」
「フィツァ、カピティーンを殺めたのは、あの
「……ええ、そうよ」
その返事を聞いて、ラスコは強く歯を食いしばる。
「それなら、是非私にも……」
平伏したラスコを、ロルガレは見つめている。
「そう…… 頼りにしているわ。共に、カピティーンの仇を討ちましょう」
「はい!」
ラスコのカピティーンに対する忠義を感じたロルガレは、このような状況にもかかわらず、柔らかな笑みを浮かべた。そして、手に持っていた肉を石の上に置くと、インベントリから聖衣とマントを取り出した。
「私の、誇りだったわ……」
そう口にしながら見つめた後、ロルガレは聖衣とマントを焚火に投げ捨てた。
パチパチと音を立てて炎が大きくなり、聖衣とマントが燃えていく。無念そうな表情でそれを見つめていたラスコも、同じように自分の聖衣とマントを焚火にくべた。
「私も…… 誇りでした」
ロルガレとラスコは、聖衣とマントが完全に灰となるまで黙って見つめていた。
「フィツァ」
「なに?」
「ノーデンが口を割るとは思えませんが、トリラタンも戻ってきませんし、一応……」
「そうね。食事が終わったら、場所を大きく変えましょう」
「はい」
ラスコの言葉通り、逃走から3日後、セッティモに戻り拘束されたノーデンは、最後までロルガレの行方について明かすことはなかった。そのため、他の者たちよりも長期にわたって投獄されることとなったが、罪を償い、再教育を受けたのちにヘルゴンへ復帰することを許された。そのノーデンにとって最も幸運だったのは、先にゾンア会に見つかることを免れたことである。
ロルガレと逃亡していたトリラタンは、時間の経過と共に、自分の犯した罪の重さに怯え始め、その日うちに自らの意思で3名の元を離れた。セッティモに戻る事も出来ず、途方に暮れていたトリラタンは、ヘルゴンの象徴である聖衣とマントを捨て、偶然出会った行商人に剣を売り、資金と粗末な服を手に入れた。そしてこの日の午後、食事の為にたまたま近くにあった小さな村に立ち寄っていたが、そこでゾンア会の者に見つかり、追い討ちにあってしまう。抵抗むなしく、数に押され気を失ったトリラタンが目を覚ましたのは、セッティモにあるゾンア会の組事務所地下、
「うっ、うぅ」
「にぃちゃん、目が覚めたか?」
声に反応してトリラタンが顔を上げると、見知らぬ男が佇んでいた。
「う……」
「分かっとると思うがにぃちゃん。ここで魔法は使えん」
「……」
「一応確認させてもらう。お前はトリラタン・モンガル、そやな?」
「……」
「俺らは兄弟をお前らに殺されたゾンア会のもんや。にぃちゃん、今から何をされるか分かるやろ?」
「わっ、私は手を出していない。ただフィツァを逃がしただけだ」
「言われんでもそんなことは知っとんのや」
「……」
「兄弟に手をかけたヘルゴンは3人」
「……」
「そのうちの二人は、司教のディーナが殺してくれたそうや」
この瞬間、トリラタンは教会と彼らの間に黒い繋がりがあることを悟った。
「ディーナには、今度なんか送ってやらなあかんな」
「……」
「俺らの的のロルガレを逃がしたお前はな、一緒なんよ、同罪なんや」
その言葉を聞いた瞬間、椅子に拘束されているトリラタンの頭が重く垂れ下がった。
「にぃちゃん。これから聞かれることにはな、素直に答えた方がええと思うで」
トリラタンはその忠告に従い、ロルガレたちの逃亡した方角と、森の中を転々とする予定だったこと、他にも知っている全てを正直に話した。にもかかわらず、一晩中おぞましい拷問を受け続け、夜明けとともに最後は首を切られ、冷たい石畳の上で息絶えた。
ヘルゴンのフィツァともあろう者が、隠してくれる者もおらんと森の中かい…… まぁ、定番ちゃ定番やな。
「おい、
「はい、
2時間後、ゾンア会の組事務所に現れたのは、表に出る事のない、闇の依頼を専門とする冒険者、ソウ・ルークと呼ばれる者たちであった。
「という訳や。魔獣がおる森の人探しなら、俺らよりお前らや。生きたまま連れてきたら、報酬は1億シロンや。死体なら1千万」
……1億シロンですって。
報酬額を聞いて、女性冒険者の目の色が変わる。
「どうやら3人でいるみたいやが、ロルガレだけでかまへん。他は殺しとけ。これは手付けや」
そう言うと、机の上に白金貨の入った革袋をいくつも置いた。
「この依頼を受ける奴は一袋持ってけ。300万シロン入っとる」
「ひゅ~、弾むね~」
「……うるさい。黙っていろ」
呼ばれた6名のソウ・ルークのうち、2名が言い争いを始めた。
「ひゅ~、怒っちゃってるの~?」
「黙れと言っているんだ。お前の声は癇に障る」
「おかなしいな~、良い声してるはずなんだけどね~」
「チッ!」
舌打ちをした男のイフトが、身体から溢れ出る。
「ひゅ~、臭そうなイフトだね~」
その言葉で、あちこちから笑い声が漏れる。
「プッ!」
「フフッ」
「クスクス」
小さな笑い声を耳にした男のイフトが、怒りからさらに激しさを増す。
「……殺す」
「ひゅ~、やるの~」
互いのイフトに大きな変化が現れたその時、若頭が止めに入る。
「やめろや、にぃちゃん」
その地鳴りのような迫力のある声で、二人の動きは一瞬で止まる。
「やるんなら街の外でやれや。ええかお前ら……」
6名のソウ・ルークは、男の声に黙って耳を傾けている。
「単独で動くのも、手を組むのも、殺し合うのも好きにしろや」
そう口にする若頭に、ソウ・ルークたちは視線を向ける。
「とにかくロルガレを生かしたまま連れてこいや。手付金だけチョロまかして、ろくに動いてへんかったら、お前らを的にしたるぞ」
若頭の放つ殺気立ったイフトを目にした後、一人の女性冒険者が革袋を一つ取り、静かに去っていった。すると、他のソウ・ルークたちも革袋を取って、次々と姿を消していった。
兄弟…… 兄弟たちの仇は、この俺が必ず取ったるからな……
4名のソウ・ルークたちは、組事務所を出ると足早に散っていった。だが、先ほどまで争っていた二人は立ち去ることなく、視線を交していた。
「ひゅ~、おたくさ~」
「続きをやりたいのか? 望むところだ。付いてこい」
「違うさ~。手を組まないかーい?」
「なに?」
「おたくそんな短気な性格だと、ツレもいなくて一人だろ~?」
「……」
「今は逃亡者とはいえ、獲物は元ヘルゴンのフィツァ~」
「……」
「それに奴は三人でいるようだし~、生け捕りは手がかかるし~」
「ふん、誰がお前なん……」
そう断ろうとした矢先、相手が言葉を遮った。
「俺の名前はエルセフ・ビンシ~」
エルセフ・ビンシ…… こいつが千の剣と呼ばれているあのビンシ……
「……いいだろう。金はキッチリ折半だ」
あれほど露骨な嫌悪を示していた男の表情が、その名を聞いた瞬間和らぎ、意外にも承諾の言葉を口にした。
「ひゅ~、頭の切り替えが早くて助かる~。おたくの名前は?」
「イザ・モベリ」
イザ…… ひゅ~、こいつが闇喰らいと呼ばれているイザ・モベリ。ひゅ~、それならさっきの臭そうなイフトにも納得だ。
「……それで、ロルガレの行き先に当てはあるのか?」
「あるから組もうって提案したのさ~」
「何処なんだ?」
「ひゅ~、イドエさ」
イドエ……
再び、ユウの寝ぐせが話題になった朝に戻る。
髪を整えて食堂に降りてきたユウは、テーブルに向かい合う二つの小さな背中を見つけた。昨晩のお土産を前に、ジュリとつるつるが次々と中身を確かめていた。
「おはようジュリちゃん、つるつる君」
「あ、ユウさんおはようございます」
つるつるは口を開かないが、ユウに微笑みかける。
「昨日のお土産?」
「はい。沢山もらったので、一つずつ見ています」
ジュリの隣で、つるつるも嬉しそうにお土産を手に取っている。見ているユウは、昨晩の記憶がよみがえり、自然と笑顔になる。
「おはようユウ君。今日は何にするかの?」
オスオが厨房から顔を出して、注文を聞いてきた。
「あ、オスオさん、おはようございます。ハンボワンのスープと
パンをお願いします」
「ハンボワン好きだの」
「はい!」
食事を終えたユウは、一人プロダハウンへ駆けてゆく。
わくわくするなぁ、どんな感じに仕上がってるのかな? 楽しみで楽しみでたまらない。
喜びに胸を弾ませ、ユウはスキップするかのような足取りで走ってゆく。この後に迫る悲劇など知る由もなく。
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