136 従順


 この日の朝、シャリィも訪れているプロダハウンのスタジオにて、ユウは昨晩シンから聞かされたことを少女達に報告する。


「と、言うことで10月20日に、皆の歌とダンスを披露する事に決定しました!」


 この時、少女達がどの様な反応をするのか、正直ユウには予測できていない。


「……」


「10月20日……」

「私たち、舞台に立つの……」

「大勢の人が見に来るのかな……」

「大丈夫っぺぇかな……」

「クル~」


 ユウは少女達一人一人の表情を確認する。 


 うーん…… もしかすると喜んでくれるかも知れない、そう少しは思っていたけど…… 考えてみれば、アイドルを知らないし、それに最初は無理矢理に近い形からな訳で、デビューが決まったと言っても、嬉しくはないよね……


 10月20日の事は、既に村中に知れ渡っており、少女達の中にも先に知っている者がいたのだが、ユウの口から改めて聞かされると、重いプレッシャーが圧し掛かっていた。  


「うちらの良し悪しが、この村の未来に影響するっペぇか……」


「そ、それは、責任重大だっぺぇ……」


 ナナとリンの言葉で、少女達はさらに重圧を感じてしまう。


「だけども……」


 殆どの少女達は俯いているが、ナナだけは違っていた。


「うー、燃えて来たっぺぇ!」


「え?」

「クル~」

「ナナちゃん……」


「みんな、考えても見るっぺぇ!? うちらの頑張りで、この村を救えるかもしれないっぺーよ!?」


「そうっぺぇけど……」


「その日が来るのは、最初から分かっていたっペぇ!?」


「クルクル~」

「まぁ、そうっぺぇねぇ」

「うん……」


「プレッシャーなんて感じている場合じゃねぇっぺぇよ」


「……」

「……」


「うちは逆に楽しいっペぇけどね。うー、待ち遠しいっペぇ~。あれ? 皆は違うっぺぇか?」


 そう言われても、ナナ以外の少女たちの表情が晴れる事はない。

 そしてこの時、一番不安そうな表情を浮かべていたのは、やはりというべきか、遅れて参加していたキャミィであった。


「……」


 無言のキャミィに、ナナは声をかける。


「キャミィ!」


 ナナの呼びかけに、キャミィは俯いていた顔を、ゆっくりと上げる。


「……」


「そんな顔するでねぇっぺぇ~。キャミィは上手になっているっペぇ! だってうちたちに追いついて来てるっペぇ? それってキャミィが一番凄いって事っペぇーよ!」


 ナナのその言葉を聞いたキャミィの表情は変化する。


「これからも、うちに出来る事なら、何でもするっぺぇから」


「……」


 キャミィは、無言でナナを見詰めている。


「その役、あたしにもやらすっぺぇーよ」

「クルクルクル~、クルもね、教えるよ~」

「あー、クル優しいし可愛い。私も出来る事は何でもします!」

「うん、みんなで成功させよう」

「うんうん!」


 キャミィは、一人一人の目をジッと見詰めてから決意を口にする。


「……うん、頑張る!」


 ブレイのいるこの村に、そして、みんながいるこの村に、残りたいから……


 キャミィの意気込みを聞いたナナ達は、自然と輪になって笑顔のキャミィを囲んでいた。

 その様子を、ユウは微笑ましく見ている。


 もうすぐ、もうすぐだよ、みんな…… 皆の頑張りが…… もうすぐ……


 そして、ユウの後ろに立っているシャリィも、ある少女を見ていた。



 その頃、セッティモでは……


 上司であるAのズボンを掴んでいる幼い子供に視線を向ける警備C。


「ちぇ、あんな強面で俺には厳しいくせに、子供にはいつも優しいよな。もしかして、ロリコンかぁ!? いい歳なのに結婚もしてないしよ!」


 警備Cは、先ほどAの指示でBに絞められた首をさする。


「……ケッ、それにしても、いきなり後ろから首を絞めさせることは無いだろーがよ! みてろよー、必ずあんたより出世して、その時は泣いて詫びるまで顎でこき使ってやるからな!」


 そうぶつぶつと文句を言いながら、Cは再びゴミの山を崩してゆく。



 もふもふか……


「何か見たんだね?」


 そう聞かれた幼い子供は、再び無言になる。


「……」


 警備Aは両膝を折って汚い地面に膝を付き、子供と目線を合わせる。


「おじさん達はね、警備の者なんだ。怪しい者じゃないよ」 


 幼い子供はコクリと頷く。


「誰か人を見たのかな?」


「うん……」


「見た人は、いっぱいいた?」


 幼い子供は首を横に振る。


「そうか。じゃあ一人だね?」


「……うん」


 一人…… ここで待ち伏せしたのか、それとも死体を運んで来たのか……


「何かを担いでいたかな?」


「うー……」


 そこは見てないのか……


「その人は男の人だったかな? それとも女の人?」


「……もふもふ」


 警備Aは、幼い子供をジッと見つめる。


 さっきからいったい、いったい何を言いたいのだろう?


「もふもふって何だい?」


「……もふもふ」


 もふもふか…… 言葉を知らなくて、上手く説明できないのか……


 その時、警備Bが掻き分けているゴミの山から、何かが飛び出した。


「うわっ!?」


 Bの驚いた声に反応して、その場に居た者はBに視線を向ける。


「あー、びっくりしたぁ! マパラかよ!」


 モルモットと兎を合わせた様なその小動物は、体長の割に耳が大きくてモサモサと毛深く、警備Aと幼い子供のすぐ近くを通って逃げて行った。


 そのマパラを、Aと幼い子供は目で追う。


「……もふもふ」


「うん? まぁ確かにもふも!?」


 何かに気付いたAは、目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。


 まっ、まさか…… こ、この子供が見た者とは……


 驚愕の表情を浮かべたまま、Aは無言で俯く。


「……」


 しばらくして、地面から幼い子供に視線を戻すと、何かを思い立ったかの様にスクっと立ち上がる。

 

 そのAに視線を向けたBが問いかける。


「その子供、何か知ってましたか?」


「……うん? いや…… 全然駄目だ。どうやら何も見ていないようだし、所詮浮浪者の子供だ、言葉もろくに理解していない」


「そうですか」


 そう誤魔化したAは、視線を幼い子供に向ける。


「……ふぅー」


 大きく息を吐くと、Aは子供を抱きかかえる。


「おい、俺はこの子の親を探してくる。どうせ飲んだくれて、この辺りの道で寝ているだろう。直ぐに戻って来るから、後は頼むぞ」


「はい」

「分かりました」


 俺達はチン〇探しで、あんたは浮浪者の親探しか……

 両方とも、とても警備の仕事とは思えない。

 くっそ! 〇ンポの捜索なんて、この辺りの糞ババァの売春婦にでもやらせばいいんだよ!


 警備Cはそう思いながら、ゴミを掻き分けていた。



 この日もガーシュウィンの食事をフォワに託したシンは、朝から多忙であった。


「ワイルさん」


「はい」


「これ、新しいデザイン画です」


「はい」


 ワイルはシンから受け取った新しいデザイン画に目を通す。


 これは……



 この日も朝から、プロダハウンで舞台関係者や服飾の携わっている者達との打ち合わせをし、その後役場でレティシアと会い、そこでも長時間の話し合いを重ねる。

 昨日シンが・・・用意した大量の魔法石は、村が管理する事となり、職員や職人たちによって仕分けされた後、既に幾分かは必要とする人物に届けられていた。

 

        

「パンパンパンパン」


「このリズム。良いですか、この私が手を打つリズムを覚えて下さい」


 振付師のエレ・ビシャンの声が、プロダハウンの舞台で響いていた。


「は~い」

「ちょっと面白そうね」 

「はぁ~、眠ーい」

「ねっ、それそれ」


「はい、みなさん。まずはラペスさんに注目して下さい」


 俳優であったイザ・ラペスは、ヨコキの店の女性達に手本を見せる。


「ほえ~~」

「へぇーーー」

「綺麗……」

「嘘だ~」

「やっべぇ……」

「本当におじさんなの? 動きが女性なんだけど!?」


 女性達は、ラペスの動きに見惚れていた。


「いや~、とてもおっさんとは思えないよね」

「ほんとほんと、まるで女性の人みたい」


 褒められたラペスは、照れ笑いをする。


「いえあの…… ビシャンさんに言われた事をしているだけですので」


「ほえ~、エレちゃんって凄いんだ」

 

 スイラは自分の馴染み客である、振付師のエレ・ビシャンに視線を向ける。

 

「いや、私もシン君に頼まれた事を…… えーとでは皆さん。ラペスさんの後ろに、横一列で並んでください」 

 

 女性達は言われた通り、素直に並び始める。


「私の手拍子に合わせて、前のラペスさんの真似をして下さい」


「はい」


 女性達は返事をして頷く。 

 

「いきますよー。はい、パンパンパンパン」


 ラペスに続く女性達の中には、上手に出来なくて笑い出す者もいたが、ロエは違っていた。


 ロエさん…… ラペスさんと寸分違わない動き…… いや…… それ以上だ! 


 ビシャンと同様に、他の女性達もそれに気付いていた。


「うっわー、ロエー!?」

「やっぱ凄ーい!」

「やっべぇ! さらにやばくなってない!」

「あー、あたし今晩ロエを指名する~。朝まで抱いてー!」

「うんうん、気持ちは分かるけどママに怒られるよ」

「メイクのお陰でさらに……」

「そう、あと照明もね」

「うんうん! 分かる分かる。光と影が、幻想的だもん」


 ロエ本人も自覚しており、楽しくてたまらない様子であった。


 どう、私は!? 

 既にピークだと思っていたのに、女性としてさらに磨きがかかるなんて…… シン、あなたのお陰なのよね……


 ロエはオリジナルの動きも加え、髪をセクシーにかき上げる。


「キャーー! かっこいい!」

「出たー、これよこれ! 何度見てもエッロー」

「ひえ~、逆立ちしても勝てないよ」

「ん~、真似しよっと」

「いや~、声真似は出来ても、あれは無理っしょ!」


「ほほほ、私の若い頃にそっくりだの~」


 メイクしてもらって感謝してるけど、それ、嘘だよねフラーさん……

 フラーさんの冗談面白い……

 そんな直ぐバレる嘘を……

 フラーさん、ボケてるのかしら……


 女性達は、辛辣な事を思っていた。


「ほ~、美しい」

「ええ、表現力が素晴らしい。今まで見た女優さんでも、これほどの人は多くはなかった……」 


 ロエのその姿に、ある者は歓声を上げ、ある者は言葉を忘れ見惚れてしまう。そんな中、振付師のビシャンは、思わず口笛を吹く。


「ヒュ~」


 ロエの美しさに驚いて歓声を上げていた女性達は、瞬きすら惜しむかのように目を見開いている。

 ライバル意識をむき出しにしていたあのルシビさえも。


 ロエ…… あなたは本当に美しい。 

 ちぇ、悔しいけど、やっぱり勝てないみたい……


   

 昼休みが終わろうとしている時、シンはユウに会いにモリスの食堂へと向かう。

 その時既に食事を終えていたユウは、少女達と一緒にプロダハウンに向かっていた。


「さぁ、腹が破けるぐらい食ったっぺぇから頑張るっペぇ」

「クルクル~」

「ふふふ」

「何だっペぇ、その言い方。ふふ」

  

 リンの大げさな表現で笑みを浮かべていた少女達は、前方から来たシンに気付く。


 あっ!? シンだっぺぇ! 


 リンは食べ過ぎてポコっと出ているお腹を手で隠す。 


 気付かれてねぇっペぇ。あ~、今日もかっこいいっぺぇ~。


「あ、シン。今から昼食?」


「いや、ちょっといいかな?」


 ユウ君に用事っぺぇ?


「うちらは先に戻るっペぇ」

「クルクル~」

「はーい」

 

 え!? あたしシンと居たかったっぺぇ……


 リンは後ろ髪を引かれながらも、ナナ達と先にプロダハウンへと戻って行った。


「昨日聞き忘れててさ」


「何を?」


「名前」


「名前?」


「そう、アイドルグループの名前さ」


「……あー!? すっかり忘れてたー」


「だよな?」


 そうだ…… こんな重要な事を、グループ名考えるのをすっかり忘れていたなんて……


「うーん…… ごめん、今直ぐには……」


「出来るだけ早めに頼むよ」


「うん、分かった。考えておくね」


 再び役場に戻ろうとしていたシンは、何かを思い出して歩みを止める。


「そうそう、あとさ……」


 シンから説明を受けたユウは、大きく何度も頷く。


「うんうん! それなら目をつぶっていても描けるよ! 任せておいて!」


「ははは、頼むよ。じゃあまた後で」


「うん!」


 ユウはシンとの会話で、自分の手掛けたアイドルグループのデビューが近付いている事を更に強く意識する。


 うん! やるぞ、やるぞやるぞぉー!




「コンコンコン」


 セッティモにある教会で、レリスはブラッズベリンの部屋をノックしている。


「……入れ」


「失礼します。何の御用でしょうか、ブラッズベリン様」


 そう問われたブラッズベリンは、レリスに視線を向けた後、窓から外を眺めて何も答えない。

 レリスはその状況から、何かに気付く。


 あの馬鹿……


「……奴の死体が発見されたそうだ」


「奴? どなたでしょうか?」


 レリスの言葉を無視する様に、ブラッズベリンは話を続ける。


「警備から連絡があり、既に教会の者がロテイ地区に出向き確認した」


 ロテイ地区……


「その結果、間違いなく奴だったそうだ」


「ロテイ地区…… 確かえーと、治安の悪い所ですよね?」


「……死体は首にロープが巻かれ、陰部は切り落とされ、もう一体とゴミだらけの場所で重なっていたそうだ」


 もう一体……


「そのもう一体はロテイ地区の住人で、同じように首にロープが巻かれ、それに……」


「……」


「陰部も切り落とされていた」


 ……ぷぷっ、可愛いところがあるじゃない。

 まるで子供みたいな隠蔽した奴が、あの森の奴と同じであって欲しい…… フフフフ。


「怖い所なんですね。近寄らないようにします」


 ふっ、面白くない冗談だ……


 そう思っていたブラッズベリンは、変わらず窓から外を眺めている。


「では、私が警備の所に出向き、さらに詳しい報告を聞いてまいります」


「あぁ、そうしてくれ」


「それでは、失礼いたします」


 レリスがドアを開けようとした瞬間、ブラッズベリンが再び声をかける。


「奴の馬はどうした?」


「ご心配なさらずに、ここに・・・入れておりますので」


「バタン」


 この町にあの死体を捨てに来るなんて…… うふ、お茶目さんね。


「……」


 あん…… 可愛い事するから、乳首が、起っちゃったじゃない……

 ふふ、る日が、楽しみ。



 レリスが出て行くと、ブラッズベリンは椅子に腰を下ろした。


 少々、厄介な事になったようだ。

 ……だが、これも想定内。

 さて、これは私自身で…… それとも、誰かが…… 

 面白くなるのは分かっていたさ。そう、面白くなるのは……


 ブラッズベリンは、口元に笑みを浮かべていた。


 この一件は、既にセッティモ支部内のセラドール派の者によって、教会本部へ伝えられようとしていた。

 本来であれば、限られた者だけが入室出来る部屋にあるレトロ石板を使い報告するのだが、この支部でその権限を持っているのは、ブラッズベリンとレリスに殺された男のみであった。

 今回の様な緊急時に備え、己以外にも最低一人はレテロ石板を使える者を配置する必要があるのだが、殺された男はそれを許してはいなかった。

 腕に覚えのあり、地位ある自分がまさか殺されるとは、夢にも思ってもいなかったのであろう。その様子から、男の傲慢な性格が伺える。

 男の死にブラッズベリンが関わっていると疑っていたセラドール派の者たちは、2名の者が馬でセッティモから2日かかるモスエートという町に向かっていた。


 ちょうど同じ頃、警備Aは現時点での捜査の結果を報告書にまとめ、上司に届けていた。


「うーん…… 犯人は分からず目撃者も無し。二体ともに首にロープ、それにチ○ポが切り落とされ、そのチン〇の行方も分からないか……」


 そして…… 一体は近所の男で、もう一体は教会の幹部。二体ともに家族と教会の者によって確認済みか……


「……よし、恐らく教会の者がお前を・・・訪ねて来るだろう。私はしばらく・・・・用事があるから、後は頼むぞ」


 丸投げか…… まぁ、そうだろう。俺だって、本来ならそうしたい。

  

「了解しました」


 上司の部屋を後にした警備Aは、部屋に戻り際、受付の者に声をかける。


「おい、教会の者が来たら、俺の部屋に通してくれ」


「あ、もう先ほどからお待ちになられてます」


 そう言われて、受付の視線の先に目を向けると、セラドール派の者が警備Aを見ていた。

 まるで、自分を威嚇するかの様なイフトを感じたAは、無言でその者を見詰めている。


「……」

  

 警備俺達は…… ただ真実を報告すれば良い。そう、それだけで、良いのだ……




 大勢の村人が集まっているモリスの食堂に、シンが入って来る。

 

「おっ、シン君!」

「おぅおぅシン君だの!」

「あら~、今日も素敵だね~」

「かあちゃん!?」


 新しい天ぷらのアイデアを試していたオスオ達は、シンを笑顔で迎える。


「シン君! この肉を揚げたのを食ってくれんかの?」

「いやいや、先にこっちの川魚をの」


「まぁ待ての。シン君食事かの? 何でも言うてくれの、直ぐに作るからの」


「いえ、実は話がありまして」


「もしかしての、またセッティモに行くのかの?」


 興奮ぎみにダガフがそう口にした。


「ええ、その通りです。他の町にもですけど」


「おー、当たったでのかあちゃん!」

「シン君の考えを先に言うんじゃないよ!」

「ど、どうして怒るんだの?」


 その場に居た者達は声を出して笑う。


「あははは、それでシン君。いつかの?」


「10日後を予定してます」


「10日後……」


「はい! 今度はもっと大勢で行きましょう」


 そう言ったシンの表情を、女性達は伺っている。   

「ってことは、あたし達も行っていいのかい?」


「はい! 是非お願いします」


 シンの言葉を聞いたタガフとマイジの夫婦は、見つめ合う。


「かあちゃん!」

「うん! 一緒にセッティモに行けるんだね!」 


 二人は抱き合い、飛び跳ねて喜ぶ。


 ……本当にの、仲が良いんだの。


 オスオは微笑ましく見ていた。

 だが、そのオスオの隣でジュリは、冴えない表情で立っていた。

 それに気づいたシンはしゃがみ込み、ジュリに話しかける。


「ジュリちゃんも、一緒に行こう」


「……けど、お母さんが」


「大丈夫、お母さんも一緒だよ」


 そう言われたジュリは、笑顔をオスオに向ける。


「そうだの、シン君がそう言うならの、店を閉めて皆で行くかの」


「やったぁー! お母さん! 一緒に行けるよー!」


 喜ぶジュリを見ているシンに、オスオが声をかける。


「シン君、馬車と馬は足りるかの?」


「それも当てがあるので大丈夫です」


「……村に協力してくれてる者が用意してくれるんかの?」


「はい、その通りです。それとレンツさんが頑張ってくれてますので、心配ありません」


「そうだの」


「では、今回も人選と食材などの準備をお願いします。魔法石でも他にも何か足りないものがあれば、俺でもシャリィでも広報の方でも、誰でもいいので言って下さい」


「分かったの」


 オスオは食堂から去ってゆくシンから、喜ぶ村人に視線を移す。


 村はどんどん…… どんどん良くなっていってるの…… うん。


 

 食堂を後にしたシンは、シャリィと会っていた。


「それで、間接的にでも話は?」


 シンのその言葉に、シャリィは首を横に振る。


「そうか……」


 イドエが復活の兆しを見せ始めた今、様々な組織や、教会の一部の者までもが秘密裏に協力関係になっていたが、未だ貴族からは、誰一人として何の音沙汰も無い。


 どうやら、俺が思っていた以上に保守的なようだな、貴族とやらは……

 そこから、何となくだけどこの世界が読み取れる。

 いや、この辺りと言った方が良いのか…… 

 だけど、まだ…… まだまだ、これからだ……


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