135 隠蔽
心配そうに旧街道の奥を見つめるごじゃるの目に、革袋を一つ持って歩いてくるシンが映る。
「あっ!? 良かったぁー。シンさんでごじゃるよ!」
「だから心配することないって言っただろ? 俺の言った通りなんだって」
「なっ!? そ、そんな馬鹿な話を信じる奴なんて、いないでごじゃる!」
「おぅおぅ、それなら直接聞いてみようじゃないか!」
ごじゃるは相方の話を無視して、シンの名を呼びながら駆け寄る。
「シンさーん」
「俺が話してるのに何処行ってんだよ!」
近付いて来たごじゃるに、シンは笑みを向ける。
「さっきの子が、荷物置いてったかな?」
「置いてったでごじゃるよ。馬から降りることなく、放り出したでごじゃる」
良かった、渡してくれてたのか。
「シンさん」
「うん?」
「申し訳ないでごじゃるけど、中身を確認したでごじゃる」
「あぁ、全然構わないさ」
二人は門に向かって歩いている。
革袋の中身は、大量の魔法石だったでごじゃる……
あれほどの量を用意できるあの女性……
「シンさん!」
ごじゃるの相方が、シンを呼ぶ。
「どうした?」
「正直に答えてくれ」
「え? う、うん」
門番の気迫に、シンは少したじろく。
「上手に抱けなくて、あの子を怒らせたんだよな!?」
「え……」
それを聞いていたごじゃるが相方に怒鳴る。
「いったい何の話でごじゃるか!? そんな訳ないでごじゃる!」
あの子は恐らく、教会の関係者でごじゃる……
「そうだよ」
「ふぇ!?」
「やっぱりそうか! ほら見ろ! 俺の言った通りだろ! 次からは俺も混ぜてくれよ! それならさっきみたいな事にはならないからよ」
「考えておくよ」
「やったね! うへへへへ」
ごじゃるは立ち止まり、革袋を確認するシンを見ている。
たぶん何かを…… 誤魔化しているでごじゃるね。けど、シンさんが無事なら、それで良いでごじゃる。
「運ぶのを手伝うでごじゃるよ」
「ありがとう。それじゃ、村長さんの家まで頼めるかな?」
「勿論でごじゃる」
「そうそう、女心の分からないお前は、荷物持ちがお似合いだ。門番はまかせておけ」
ったく、幸せな頭でごじゃるね!
「分かったでごじゃる」
ごじゃるはシンと二人で、魔法石をレティシア邸に運ぶ。
「……って、事なんだけど」
「……」
森の中で事の説明を受けたシャリィは、ゼロアスが回収した死体を無言で見つめている。
仰向けで倒れている死体を、シャリィは足で蹴る様にしてうつ伏せにすると、はだけた首元に何かが見えている。
「……シャリィ、このタトゥーって」
シャリィは小さく頷いた後に口を開く。
「セラドール派のものだ……」
確か教会の大きな派閥の一つだよね。かぁ~、って事は…… どうせ、どうせ僕が隠蔽する事になるんだろう。あー、やだやだ。
「……」
ゼロアスは恐る恐るシャリィに聞く。
「……で、これどうするの?」
「方法は任せる。隠蔽しておいてくれ」
やっぱりそうだよねっ! でもねっ! こんなチンチンの無い死体を、上手く隠蔽なんて出来ないからねっ!
もし上手くいかなくても、後で僕に怒らないでよ!
あーー本当にもうー、いくらシャリィの頼みでも、どうして僕がこんな小汚い死体を!?
この時、不機嫌なゼロアスにシャリィは気付いていたが、あえて何も言わず、その場を離れて行った。
「あの女……」
ゼロアスはインベントリから剣を出すと、レリスに噛み千切られて、ギザギザに荒れている断面を切り飛ばす。
「シャッ!」
その後、地面に横たわっている死体が一瞬で消えた。
ここまで衝動に駆られるのは、ずいぶん久しぶりかも……
切り取った陰部の一部を残して、ゼロアスもその場を去って行った。
「助かったよ、ありがとう」
「全然でごじゃる」
「交代の後、良かったらモリスさんの店で食事していって、相方と一緒に。話は通しておくからさ」
「それでは、お言葉に甘えるでごじゃる」
そう答えたごじゃるは、革袋をレティシア邸の玄関に置くと、門へと戻って行った。
「みなさん、お待たせしました」
戻ってきたシンに、皆が声をかける。
「おかえりだの」
「全然気にせんでええからの」
「あっ、荷物ですか? 手伝います」
革袋の中身はなんだの?
ほとんどの者が、その荷物を不思議がっていた。
シンが一つの袋を開けて中身を取り出すと、どよめきが起こる。
「おぉー、魔法石かの!?」
「魔法石だの!」
「本当だ!」
この袋の中身が、全て魔法石なら……
レティシアは、革袋を見つめている。
シンさんを訪ねて来た女性は、教会の……
どよめきが歓声に代わり、大半の者が笑顔を見せていたが、演出家のネル・フラソをはじめ、数人の表情は曇っていた。
これほどの魔法石をどうやって手に入れたかは、人と会った直後だから、だいたいの想像はつく。
恐らく教会内部に、イドエに加担する者がいて、その者がこの魔法石を…… 皆と一緒に素直に喜びたい所ではあるが、正規ルートではない魔法石は、諸刃の剣になりかねない。それにもしかすると、無用な争いに巻き込まれる可能性もある。
だが、魔法石無しでは何もできない。シン君も、それを承知で……
そう考えていたフラソがロスに視線を向けると、目の合ったロスが、口元に笑みを浮かべ、小さく何度か頷く。
「……」
30年前、まだ若かった私は、演劇の全てが集約しているこのイドエに憧れ、周囲の反対を押し切り移住してきた……
あの20年前の件があっても、ここを離れる選択肢は、考えもしなかった。
それは決して意地などではない。苦楽を共にした私に、村人は家族の様に接してくれる。生まれは違えど、今や私の故郷は間違いなくこのイドエなのだ。
その家族の長とも言えるロスさんが、そこまでシン君のことを信用しているのなら、それなら…… 私も信じて従うのみ。
フラソは口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。
魔法石を見た者達の捉え方は様々であったが、間違いなくこの日、イドエは湧き上がり、来たる10月20日に向けて大きく動いていく。
農業、商工ギルドから秘密裏に届く物資と、この日受け取った魔法石を使い、職人たちは己の
かつてのスペシャリストたちの力添えを受けたレティシアは、村内の連絡網を職員から広報に受け継がせ、より潤滑にすると同時に、それによって余った人員は、農業ギルド、商工ギルドなどとの外部との連絡網に回す為、ストビーエやセッティモなどに滞在する者を増やした。
そして、新たに協力関係となったサヴィーニ一家に関しては、シャリィの助言からシンはゼスを通す事にした。
「じゃいじゃい! その肉焼きを、一つくれ!」
「はい、ありがとうございます」
「美味そうじゃい!」
「絶品ですよ~、はいどうぞ! 400シロンになりまーす」
ゼスはシロンと共に小さく折った魔法紙を渡す。
「まいどあり~」
肉焼きを持ったゼスを見送ると、受け取った者はその場を後にする。
「おい、頼むぞ」
「へい」
ゼスの魔法紙は、受け取った者から直接ルカソールに届けられていた。
こんなパシリみたいな依頼だが、まぁ金額も良いしそれに、まだまだ面白くなりそうじゃいじゃい!
しかし…… あの下着を着せたレイラと早くやりたいけど、
ゼスは視線を股間に向けていた。
恐ろしい女だが、ものは考えようじゃい! 己の限界を超える為には、役に立つじゃい…… それに、負けたままでは、俺様の名が廃るじゃい。
そう思ったその時、あの日以来音信不通だったゼスの股間がムクムクと反応していた。
「うん?」
そうか…… お前も気になっていたのか……
なら復帰戦はレイラではなく、もう一度高き頂に挑むとしよう。
「じゃいじゃい~」
レティシア邸に集まっていた舞台関係者は、シンに言われてプロダハウンに移動すると、そこには試作品の下着を試着しているヨコキの宿の女性達が居た。
「うっわ~、ロエその色似合う~」
「本当、赤と黒が似合うのは、ロエとルシビぐらいよね~」
「やっぱり乳が大きいと、何でも似合うのね……」
「落ち込むな落ち込むな」
「そりゃあたしは駄目だわ~」
「うん? ねぇ、なんかいっぱい来たよ……」
ロエとルシビは、集団の中からシンを見つける。
シン!?
シンだ……
ルシビは下着のまま舞台から飛び降り、シンの元へ駆け寄る。
「シーン」
舞台関係者たちはルシビのその姿に驚き、思わず声を上げてしまう。
「おっ…… おおっ」
「あら~」
「素晴らしい! 体中で性を表現している! 新鋭の女優さんですか!?」
「ひゃ~、こりゃ凄いの~」
シンの視界に全身が入る場所で、わざと立ち止まるルシビ。
「ねぇ、似合う?」
「あぁ、凄く似合ってるよ」
「うふ、嬉しい」
舞台上からそれを見ていたロエは、表情には出さなかったが、心中穏やかではない。
「……」
そしてもう一人、ロエと同じ感情を抱いている者がいた。
私のワンチャンを、潰す気かいの……
そう、そのもう一人とは、フラーであった。
これが噂の下着だの。うん、私の方が似合いそうだの。これを着れば、ワンチャンあるの~。
フラーはそう思っていた。
「ねぇシン」
「うん?」
「この人達は?」
「あー、皆の舞台を成功させるために協力してくれる人達だよ」
皆の舞台?
「シン君、この人達かの?」
「はい、そうです。皆さん、宜しくお願いします」
「はい!」
「お嬢ちゃんに似合うメイクは一瞬で思いついたからの。魔法石もあるしの、そこに座ってみるの」
「え!? メイクしてくれるの?」
「そうだの」
恋のライバルだがの、職人として手は抜かんから安心するでの。
フラーをはじめ、元々メイクに関わっていた者達は、女性達のメイクを始める。
「どうぞ」
「私も?」
「ええ、みんなです」
「嬉しいー!」
「やったねー」
「人にメイクしてもらうとか、ウィロさんにメイク教えて貰った時以来だよね」
「魔法石を使うの!? すっごっ!」
「では皆さん、メイクをしながらでけっこうですので、私の話を聞いて下さい。私はイザ・ラペスと申します。元々は俳優をしておりました」
「へぇ~、俳優」
「言われてみれば、姿勢が良いね」
「うん、それに発声もね」
ラペスの隣に居た者も続いて自己紹介をする。
「私は振付師のエレ・ビジャンと申します。皆さん宜しくお願いします」
「あれ!? エレちゃんじゃん!」
「エレちゃん? もしかしてお客さん?」
「そうだよ~、あたしの馴染み客だよ~」
その声が聞こえて、恥ずかしそうな表情を浮かべたエレは咳払いをする。
「ンンッ」
ふふ、なによ~、かっこつけちゃって。まぁ、内緒にしておいてあげる。あたしって大人~。
「では、後はお願いします」
「任せとけの」
「はい、お任せください」
「えー、シン行っちゃうの~」
今日も私達には目もくれずか……
一度ぐらい、たった一度ぐらい、抱いてくれてもいいじゃない……
ロエは去って行くシンの後姿を見つめていた。
既に陽が暮れかける中、シンは再びレティシア邸へと戻って行った。
それから数時間後、日が完全に落ちたセッティモのある家から、何やら大きな物音が聞こえていた。
「ドカッ、ガチャーン!」
そこはセッティモの一角にある低所得者は多く暮らす地区。周囲には安酒屋や売春宿が建ち並び、道にはゴミと浮浪者が溢れている。
みすぼらしい家が建ち並ぶ中、その一軒から何かがぶつかりガラスの割れるような音がしても、外を歩いている人々は何の関心も示さない。
「酒代を出せって言ってんだろ! もっと殴られてぇのかよ!」
「うあああああん」
「うるせえんだよ! びいびい泣くなっ! 早く銭を出しやがれ!」
喚いている義父は、泣きじゃくる小さな連れ子の前で、その母親の髪の毛を引っ張り頭を揺する。
ブチブチと髪の毛が千切れる音の中、観念した女性が声を出す。
「やめてぇー! 渡すからやめてぇ!」
「ふん! さっさと出しゃこんな面倒にならないだろうがよ!」
女性は震えながらなけなしの銀貨を差し出す。
「早くかせ!」
義父はその銀貨を取り上げると、酒場へと向かう為にゴミだらけの道に出る。
「うぃ~。さてと~、今日も美味しい酒を、もっともっと飲みますかね~」
既に大量の酒を飲み、千鳥足になっているその男を、ジッと見詰める者がいた。
……はい、クズを即発見~。
男がふらつきながら角を曲がり、街灯の無い暗い路地に入ると、突然首に違和感を感じる。
「ぶぇ!?」
男の身体は宙に浮き、足をバタバタと必死になって動かす。
「かっ! かっかっ!」
ロープで宙吊りになった男は、もがき苦しみながら息絶える。
「……」
はい、お終い。
屋根の上からロープを引っ張っていた者がその手を離すと、ロープを首に巻いたまま死体が地面に落ちる。
「ドシャ」
羽の様に軽く着地した者は、死体を路地の奥の広場に引きずると、インベントリから死体を取り出し、広場の隅に投げつけ、その上に先ほどの死体を重ねる。
そしてズボンと下着を脱がして、剣で陰部を切り落とす。
「……」
滴り落ちる血が、重なっている下の死体にも落ちゆく。
その時、一瞬だけ強い風が吹き、被っていたフードを捲り上げる。
「おっと」
誰も居ないよね……
辺りの気配を探った後、直ぐにフードを被り直し、その場から離れて行った。
次の日の朝……
二体の死体の周りには、通報を受けた警備6名が集まっていた。
「はぁ~あ、相変わらずゴミ臭いなここは」
「ですねぇ、何処見てもゴミの山ですもんね」
「無くしちまえばいいんだよこんな所。この辺りに住んでいる奴等は、イドエにでも送れば良いんだ」
「そういえば、そのイドエって……」
「無駄口を叩くな! 仕事に集中しろ」
上司である警備Aの檄を浴びた部下たちは、即座に謝罪する。
「すみません!」
「はい! 申し訳ありません!」
一同は小さな広場の隅で重なっている死体を見つめる。
「なんだこりゃ!? 二体とも下半身だけ裸で、チン〇がなく、首にはロープ……」
うげぇ、気色悪ぅ~。
警備Bは顔を歪める。
「どうやら、鋭利な刃物で斬られたみたいですねぇ」
「うっ、痛そう……」
警備Dはそう言った後、股間を両手で隠すようなポーズを取る。
「下着とズボンが見当たりませんね」
「だな……」
「このうっ血に……」
そう言ったAが、死体のまぶたを指で拡げる。
二体ともに
「まぁ、見たまんまロープで首を絞められたことによる、窒息死ってとこですかね?」
「かもな……」
「でもどうして〇ンポが無いのかな?」
「そんな事、死体を見ただけで分かる訳ないだろ」
「単なる異常者の犯行じゃないの? この辺りは、やばい奴が多いですからね」
死体をジッと見つめている警備Ⅽが口を開く。
「首にロープか…… 我々みたいに魔法が使えれば、こんなの簡単に防げたでしょうにね」
それを聞いた警備Aが、警備Ⅽの後ろに立っているBに目配せをする。
「……」
警備Bは無言でコクリと頷いた後、背後から突然スリーパーホールドで、警備Ⅽの首を締めあげる!
「ぐぐぐぐぅ」
突然の出来事にパニックになった警備Ⅽは、スリーパーホールドを力で外そうと、身体ごと頭を前に出す。
だが、その行為で首は余計に締まってしまい、意識が飛びそうになった瞬間、警備Bは手を解いた。
「ハァハァゼェゼェ」
地面に四つん這いになって必死に呼吸を整えるCに向かってAが口を開く。
「分かったか? いくら魔法が使えようと、パニックになったらおしまいだ! 不意打ちとは、それぐらい効果があるのだ。決して
「ゼェゼェゼェ、は、はい……」
Ⅽの呼吸が整うのを待ってから、一同は再び死体見分を始める。
「上の死体を退かせるぞ」
「はい」
「ゆっくり動かせ」
「はい」
BとCが上の死体を退かせると、警備Fが驚きの声を上げる。
「あっー!?」
「どうした!?」
「こっ、この死体!?」
「うん?」
「こいつ、いや、この人は教会の……」
「教会?」
「はい。支部の幹部の人です」
セッティモ支部の幹部……
「……間違いないのか?」
「はい、最初は気付きませんでしたが、よく見ればこの顔は…… それにこの服にも見覚えが……」
……チッ! ただの猟奇的な殺人かと思えば、被害者の一人が教会の幹部だと!? これは面倒だな……
警備Aは死体を漁る。
二体とも所持品は無しか…… 犯人が持ち去ったのか…… いや、あったとしても、我々の到着前に盗まれたのだろう。
警備Aは、教会幹部の死体をジッと見詰める。
教会の幹部…… インベントリ持ちかも知れないが、それも死んだらお終いだ。つまり、持ち物からの手がかりは無しか……
「チッ! おい、お前!」
「はい!」
「教会に行って報告してこい」
「分かりました」
教会に向かう警備Fを見送ると、残った一同は再び死体に目を向ける。
「もう一体は服装からして、この辺りの住人ですかね?」
「……ぽいな」
「しかし何だって教会の幹部がこんな場所に……」
「……この辺りは
「女遊びですかね?」
「いやいや、二人も殺してるんだ。男かも知れないぞ」
「うぇ!?」
「つまり、男同士の三角関係のもつれとか?」
「かもな。今頃切り取ったチ〇ポを抱いて寝てるかもよ」
「ひいい、えげつな~」
「それぐらいにしとけ……」
「はい……」
「すみません」
「……はい」
……二体ともまだ新しい。殺されたのは今日か昨日か…… そして……
「殺害現場は…… まぁ、この辺りだろうな……」
「ですよね…… 血の跡がありますし、死体を運んでいれば、目撃者も数多くいるはずなので、通報がもっとあってもおかしくないですよね」
「この辺りの奴等は、死体ぐらい無関心だろ」
「死体が入るインベントリだったら、運ぶのも簡単だろうけどな」
「ふふっ! そんなインベントリ、聞いた事も無いよ」
「だよな」
死体を入れる事が出来るインベントリ…… か……
最近のイドエの話といい、この教会幹部の死体といい、二つの点が繋がらなければ良いが…… もし関係があるのなら、とてもではないが、
「……」
そう、もし…… もしも関係があるのなら……
「チッ!」
報告書だけは、しっかり作っておくか……
「……おい」
「はい!」
「何でしょうか!?」
「BとCは取りあえず斬られているチ〇ポが、この辺りに落ちてないか探せ」
そう言われたBとCは、顔をしかめる。
「早くしろ!」
「はい!」
「分かりました!」
「DとEはこの辺りの酒場や売春宿を中心に聞き込みをしろ。寝ていても叩き起こせ!」
「了解です!」
「はい!」
DEが走り去っていくのを確認したAは、再び死体見分をする。
その背後では、Cがぶつぶつと小声で文句を口にしていた。
「こんなゴミ臭いところで、よりによってチン〇を探すなんて…… なんなんだよこれ」
「なんか言ったか?」
「いっ、いえ! 何でもありません!」
警備Ⅽは観念して斬られた陰部を探す。
くぁ~、至る所にゴミの山が!? こんなの、あったとしても分からないよ……
拾った棒を使い、ゴミの山を崩し始めたその時、警備Cが声を上げた。
「うわっ!!」
「どうした!? あったのか!?」
「いっ、いえ! 何かが動いたので驚いて!」
Ⅽが手に持っている棒で指し示した場所をABが凝視すると、そこにはまるでゴミと一体化した様な幼い子供がいた。
「お前! 何してんだこんなところで!?」
「……」
横になっていた子供は、ゆっくりと上半身を起こしたが、Cの問いかけに何も答えない。
「……浮浪者の子供か。恐らくゴミをベッド代わりにして寝ていたのだろう」
こっ、こんな汚いゴミの山で…… 親はいったい何をしてやがる!
警備Aは、怖がらせない様にゆっくりと子供に近付く。
「ちょっといいかな?」
「……」
「いつからここに寝ていたの?」
「……」
「怪しい人物を見なかった? 例えば夜とかに?」
「……」
その幼い子供は、質問をする警備Aを見詰めてはいるが、何も答えない。
駄目か……
「おじさん達はちょっと探し物をしているから、少しの間だけ、こっちへ来てくれるかな?」
そう言うと、幼い子供はゆっくりと立ち上がり、Aのズボンの裾を掴んで付いて行く。
言葉は理解している様だな……
「お前達は引き続き捜索しろ」
「はい!」
「はい」
幼い子供は、警備Aと一緒に歩きながら振り返ると、斬り落とされた陰部を探す警備たちを見ながら何か言葉を口にする。
「……ふ」
一緒に歩いていた警備Aがそれに気付く。
「うん? 何か言ったかい?」
幼い子供は小さく頷く。
「なんだい? 言ってごらん」
「……ふ」
「うん? 何だって?」
「……もふもふ」
「もふもふ?」
「……うん」
幼い子供は、返事をしながら小さく頷いた。
もふもふ……
いったい、何の事だ……
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