127 行列


 

 露店の前には、人々の口伝えで長い行列が出来ている。

 その様な状況の中で、戻ってきた三人の少年達も、皿洗いをして手伝っていた。


 ……楽しい町だっぺぇ。物が沢山あったっぺぇ。後でまた見に行きたいっぺぇ。


「ピカツー、手が止まってるっぺぇ」


「わ、分かってるっペぇ」


「フォワフォワフォワ」


「文句言うでねぇっペ。今はとにかく皿を洗うっペぇ」


 長い行列が出来た理由の一つに、フォワが連れてきた二人の先生が関係していた。

 それというのも、普段は研究熱心なあまり、生徒とのコミュニケーションが疎かになっている二人は、食べた芋天に感動して、ここぞとばかりに生徒に教えていたのだ。


「うんま~。先生の言う通りだこれ」


「ね~。普段全然話さないのに、突然声かけてきて何かと思って驚いたけど、これは良い店を教えて貰ったね」


 学生の一人が、ダガフに話しかける。


「なー、おじさん」


「なんだの?」


「忙しい時にごめんね。毎日ここにいるの?」


「いや、次の予定はまだないの」


「えー!? うっそぉ! こんなに美味しいのに、毎日店やればいいのに」


「ね~、毎日来るのにねぇ~」


 残念そうにその場を離れる者に、シャリィが声をかける。


「イドエにくれば、いつでも食べる事が出来る」


「イドエ……」


「え~、遠いねぇ。それにあの辺りは、魔獣が出るって聞いてるよね~」


「今は魔獣は一掃されている。そのうち乗合馬車で簡単に行けるようになるだろう」


「ほんと!? こんな美味しい物があるなら、行ってみたい!」 

  

「ね~、観光がてら行ってみたいね~。ありがとう、お姉さん」


 あまりの忙しさに、ハーブを添えるのを忘れ、さらにイドエの宣伝も忘れているオスオ達に代わり、シャリィはずっと芋天を買ってくれた者達に声をかけていた。



「おい、ここだぞ」


「ここか…… マルマルスさん、俺が買って来るので、食べてみてください」


 噂が広がると、招かれざる客も現れ始める。


「カリカリサク」


「どうですか?」


「うーん…… 恐らくこれは、小麦粉だな」


「小麦粉? どうしてこんなに食感が良いのですかね?」


「馬車の中から聞こえるあの音、そしてこの光沢……」


 マルマルスは、芋天を指で潰す。


「見ろ、油が出て来るだろう」


「はい」


「かなりの量の油で、炒めているのだろう……」


「油で小麦粉を……」


「パンの様な生地に芋を包み、それを油で…… 良し! 直ぐに戻って、厨房で試してみよう」


「はい!」


 オスオは馬車の中から外に目を向ける。


 並んでいる者の中にの、明らかに料理人の服装をした者が混ざっているの……

 真似をされたら、わざわざイドエまで来る人がおらんなるでの……


 噂を聞いて訪れる者の中には、マルマルスの様に最初から真似をするつもりで購入する者も少なくない。

 オスオも当然その様な客が居る事に気付いていたのだが、心配をしながらも、ただただ仕事に徹しようとしていた。


「おーい、早くイモテンをくれの。だいぶまたせておるからの」


「おう、もう少しで次のも出来るでの」


「お待たせしましたの。砂糖と塩を一つずつだの」


「はい、ありがとうございます。お皿はこちらに移すので、けっこうです」


「あ、分かったの」


 ダガフに皿を返した少女は人混みの中、シャリィのすぐ横を通り抜けて行く。

 そんな少女に、ダガフは自然と目を奪われていた。


 うーん、随分品のある子だの…… 


「おじさーん、まだ~? 昼休みが終わっちゃうよ~」


「あ、すまんの。もう出来とるでの。はい、塩を二つの」


「うひゃー、待ってました」


 何か気になるの~、さっきの子はの……

 わしがの、母ちゃん以外の女性を気にするなんての、ありえん話なんだがの…… なんでかの?




「コンコンコン」


「入れ」


「失礼いたします、ブラッズベリン様」


 部屋に入って来た少女は、芋天をのせた皿を手に持っている。


「どうぞ」


 ブラッズベリンは、机に置かれた芋天を手に取り、口に運ぶ。


「サク、サクパリ」


「……」


 美味しい…… この様な物は、王都でも食した事が無い。クフフフ。


「……」


 シン・ウースなる者は、報告通り随分多才の様だ。面白い。


「レリス」


「はい」


「例の件、滞りなく進める様に頼みます」

   

「はい、ブラッズベリン様」

  

 部屋から出た少女は、ニコニコと楽しそうに笑みを浮かべながら外に通じるドアに向かう。


 何にもないこんな田舎に連れて来られてどうしようかと思ったけど、これでやっと暇から解放されそうね。


 レリスは先ほど隣を通ったシャリィを思い出す。

 

 あれがSランク冒険者…… 

 初めて見たけど、普通の者とは桁違いのイフトを感じた。流石ね。 


 さてと、もう一度露店に戻って、シン・ウースを待つとしましょう。一度ぐらいは、この目で見ておかないと……


「ガタン」


 レリスが外に出る為にドアを開けると、こちらを向いて建物を見ている者が道に立っていた。

 その者を見た瞬間、何十人と往来している人達は視界から消え去り、レリスの瞳にはその者しか映っていない。


 ……どうして、こんなにも感じるのかしら?

 

私ども・・・に、何か御用でしょうか?」


「え、いや別に。変わった建物だなと思って、ちょっと見てただけなんだ」


「そうなのですね」


 そう言って、ニコリと笑顔を向ける。


「私はレリス・ウェンネンと申します」


「あ、俺は……」


 レリスは心の中で笑みを消し、唇の動きに集中する。  

「シ」


「……」 


「ン・ウース」


 やっぱり…… 

 

「では、シン・ウース様。教会に御用の際には、是非、わたくしレリス・ウェンレンにまで」


「はい。ご丁寧にありがとう」


 礼を述べた後、露店に向かって歩き始めるシンの後姿を、レリスは見ている。



 ……あなたは、必ず振り返る。


 

 まるでその声が聞えたかのように、シンは一瞬だけ振り返り、レリスと目を合わせる。


「あぁん」


 乳首が…… くすぐったい。

 目を合わせただけで、何故こんなにも感じるのかしら?

 そのうち、確かめてあげる。


 レリスは、シンの姿が見えなくなるまで、その目を離す事はなかった。



 その頃、イドエでは……


「お父さん、大丈夫かな……」


「ジュリちゃん。そんな心配しなくても大丈夫だよ。シャリィ様に、シン君も一緒なんだから~。いくらうちの旦那が足を引っ張っても、お釣りがくるよ」


 ダガフの嫁、マイジのその言葉で、食堂に居る者達は笑顔を見せる。

 だが、その光景とは裏腹に、同じ食堂内にいるユウは深刻な表情をしている。


 ここまで、ダンスが出来ないなんて、思ってもいなかった。

 毎日練習すれば、少しでも上手くなると思っていたけど、最初と全くと言って良いほど何も変わっていない……

 村はシンが考えた芋天を売りに行って歩み始めているというのに、僕の方は逆に後退している。


 ユウはブレイと同じテーブルで食事をしているキャミィに目を向ける。

 すると、キャミィはユウの視線に気付いて目を合わせるが、直ぐに逸らす。


 どうしよう…… ナナちゃん達は僕の予想に反して、しっかり成長してくれている。

 だけど、だけど今回は…… 本当に無理な気がしてきているんだ。


 ナナはユウがキャミィの事で悩んでいるのに気付いており、時折食事をする手を止めるその姿を見ていた。


 せっかく上手くいってたっぺぇのに、シンの馬鹿があの子を押し付けて来て、それでユウ君が困っているっペぇ。

 うちに、何か出来ないっペぇか……

 


 プロダハウンでは……


「見ろの、この速さをの!」


 今か今かのルスクは、得意げな顔をしている。


「ほぉー、たいしたもんだの~。またスピードが上がってるの。こりゃお世辞ではないからの」


「もう少し若ければの、全盛期と同じ速さを出せるがの」


「まーた同じ贅沢言うとるでの」


 その声が聞こえていた者達から笑い声が漏れる。


「そういえばの、イモテンを売りにセッティモに行ってる者達はの、大丈夫かの?」


 一人の老人がそう呟く。


「そうだの。やっぱり心配になるの~」


「わしは心配などしとらんでの。なんだったら逆だの」


「逆? どういう意味だのルスク?」


「失敗したらの、わしらの出番がますます栄えるの!」


 ルスクのその言葉に、ロスが反応する。


「なーにを言っとるんかの。木じゃのうての、森を見るでの! イドエ全体の事を考えるでの!」


「言葉が足らんかったの。例えイモテンが失敗してもの、この下着があれば問題ないと言いたかったんだの」


 確かにの…… それほどにまでの、この下着は素晴らしいの。


 そう認めながらも、ロスの頭の中では、最悪な事ばかりが思い浮かぶ。


 いかんいかんの。わしの悪い癖だの。色々考えすぎだの。

 昔と違って、わしが色々考える必要は無いの。わしらはの、職人に徹するでの。


「みんな、もうひと踏ん張りだからの!」


「おぉー!」



 食堂近くの作業場では……


「トントンカントンカン」


「おーい、レンツ」


「……」


「ここの高さはこれぐらいかの?」


 そう呼びかけても、フォワの父親から返事は無い。


「レンツ?」


 呼びかけた者が正面に回ると、何かが視界に入った事で我に返り、やっと返事をした。


「ん? なんだの?」


「どうしたんだの? 具合でも悪いんかの?」


「……ちょっと気になってての。わしらが改良した馬車で、ちゃんと料理出来ておるかの」


「オスオが何度も何度も試していたから大丈夫だの」


「それなら良いんだがの…… わしらのせいで上手くいかんかったらと思うとの……」


「んははは、顔に似合わず心配性だの」

 

「フォワワワワワ。ちょっと待ての、顔に似合わずっての、どういう意味だの?」


「そういう意味だの」


「フォワワワワワ。そうかの、わしはそんなにイケメンかの? フォワワワ」


 相変わらず幸せな解釈をする奴だの……

 けどの、心配なのはの、みんな同じだの。



 その頃セッティモでは、何者かが噴水近くの路地に入って行く。

 そこには、シャリィの魔法で意識を取り戻せない三人が倒れていた。


「……」


 三人の顔を確認すると、その者は直ぐにその場を離れて行く。

 少し後に、噴水まで戻って来たシンの目に行列が映る。


「おー」


 思わず声が漏れたシンは、駆け足で露店に向かう。


「遅くなってすみません。俺も手伝います」


「シン君。待っとったでの。すまんがの、皿を洗ってくれるかの」


 オスオ達は、あまりの忙しさで、シンが数時間も戻ってこなかった事を長く感じていないのであった。


「任せて下さい」


 シャリィは笑顔で馬車の裏に回るシンを見ている。


「……」



 シンを見たピカワンが、嬉しそうに声を出す。


「シン、戻ってきたっペぇ!」


「おっ、手伝ってくれていたのか。助かるよ」


「フォワフォワ、フォワフォワフォワ~」


「ん?」


「行列の客はだいたいはオラが連れてきたって言ってるっペぇ」


「客引きもしてくれてたのか? 店が終わったら、俺の奢りで皆から頼まれている買い物をしような」


 そう言うと、フォワは懐から革袋を取り出した。


「フォワフォワ、フォワフォワ~」


「ん?」


「これがあるからオラが奢るって言ってるっペぇ」


 それを聞いたピカツーが気付く。

 

「あー、さっきのチンピラから取ったっぺぇね!?」


「フォンワ~」


 笑顔のフォワとは裏腹に、ピカワンは心配そうにシンの名を呼ぶ。


「シン」


「うん?」


「あれ、いいっぺぇか?」


「あぁ、大丈夫だ。せっかくだから、奢って貰おう」

 

 シンのその言葉で、ピカワンは安堵し、笑顔を見せた。





「コンコンコン」


「入れ」


「失礼! します! 若頭カシラ!」


「どうだった?」


「はい! 間違いなく! 以前から! 苦情のあった! 例の! チンピラ共でした!」 


「ご苦労」


「はい! 失礼! します!」


 シン…… ここから起こりえる事は、私の肩に・・よるものではない、お前のものだ。

(肩=見えない力、運命を引き寄せたり、左右する力)


「……」


 いや…… 二人のものかもしれない。 

 楽しみだよ、シン……




 やっぱりそうだったか! ヌンゲの奴ら、イド……


「イドエだってよ」


「そうなんだよ、イドエの…… うん?」


 親しいヌンゲ派の一人から情報を聞いたドロゲンは、イドエという単語を耳にして足を止める。


「えーと、お兄さん」


「え? 何ですか?」


「今イドエって言ってなかったか?」


「ええ、言ってましたけど…… そこの露店で、イモテンっていう変わった物を売っていて、その人達がイドエの人達みたいで」


「イドエの…… そうか! ありがとう!」


 ドロゲンは礼を述べると、突然走り始める。


「……あのー、そっちじゃないですよ、こっちですよ!」


 ドロゲンは自らの足に急ブレーキをかける。


「ザザザー」


 地面と靴がこすれ、土煙が軽く舞う。


「こっち?」


「いえ、こっちです。行列が出来ていたので、すぐ分かると思いますよ」


「ありがとう!」


 走るドロゲンを、二人の学生が見ている。


「……」


「何あの人?」


「さぁ……」 

 


「ハァハァハァ」


 おっ、ここか!?


 行列に並んだドロゲンは、首を伸ばしてオスオ達を見ている。


 ……この人達がイドエの人かな?

 もしかすると、爺さんの知り合いかも知れないな……

 しかし、良い匂いがする。


 しばらくして、ようやくドロゲンの順番になる。


「塩と砂糖があるがの、どっちにするかの?」


 この話し方…… 間違いなさそうだ。


「えーと、よく分からないけど、両方を二つずつくれるかな。あーっと皿を返却するのは面倒だから、この袋に全部まとめて入れてくれ」 


 ダガフはドロゲンから布袋を受け取る。 


「1200シロンだの。袋を洗うのが大変になるがの、ええんかの?」


「全然いいよ」


 ドロゲンはシロンを出しながら、芋天を袋に移すダガフを見ている。


「え~と、もしかして、イドエの人かな?」


「言葉使いで分かるんかの? そうだの」


 やっぱり…… 爺さんの事を聞いてみたいけど、もしイドエの人と会っても、いちいち爺さんの話はするなと、昔から言われているからな。


「今日はイドエから来たのかい?」


「そうだの。まだ暗いうちに出てきたの」


「へぇ~、そうなのか。はい、1200シロンね」


「ちょうどだの。ありがとうの」


 シロンと引き換えに、芋天をドロゲンに渡す。


 これがイモテン…… イドエの伝統料理なのか? それなら、爺さんが喜ぶぞ。


「ありがとう。また来るよ」 


 礼を述べた後、ドロゲンは小走りで去って行く。


「次はいつになるか分からんがの、また来てくれの」


 ドロゲンに向けてそう声をかけた後、次の客に話しかける。


「塩と砂糖、どっちにするかの?」  

 

「両方を3つずつくれ」


「1800シロンだの」


「釣りはいらない」


 客の男はそう言って1万シロンを渡した。


「え? これは金貨だがの……」


「残りは皿代だ」


「……分かったの」

 

 この木の皿は1枚200シロンもせんがの、ええんかの……


「はい、ありがとうの」


 皿ごと持ち帰るこの男は、コンクス組の組員であった。

 

 皿代ではなく墓代だよ、おっさん……


 男はこの後、芋天を自分で食すのではなく、息のかかった店に持ち込み、似た物を作るよう指示をするのであった。



「お姉さんはいくついるんかの?」


「塩を三つ下さい」


「分かったの。後ろのお兄さんは?」


「砂糖と塩を一つずつ」


 一つずつかの…… と、言う事はの……

 

「せっかく並んでくれてるのに悪いがの、イモテンはここまでで、おしまいだの」


 行列を成している者達は、その言葉を聞いて思わず声が漏れる。


「えーー」


「本当かよ。せっかく並んでいたのによー」


「あー、食べたかったぁ……」


 残念がる声の中、オスオが口を開く。


「まだランゲならあるからの。今日だけ特別価格での、200シロンでええからの! 普通のランゲとは違う、特別なランゲだからの」


 その声を聞いた者達は、少し考える。


「おい、どうする?」


「確かに200シロンなら安いけど、ランゲならわざわざここで食べなくても」


「そうだよな~。けど普通と違うって言ってるぞ」


「スープが違うぐらいじゃないの?」


 規則正しく並んでいた人達が、バラバラに崩れていく中、一人の学生がランゲを注文する。


「200シロンなら貰うよ。一つお願いします」


「はいの! オスオ、ランゲだの!」


 オスオは茹であがっているうどんを、素早くランゲのスプと絡める。

 その時、芋天に添えるのを忘れていたハーブの天ぷらが目に入り、裏で皿を洗っているシンに一瞬目を向ける。


「……またせたの、特製のランゲだの」 


 これが、他とは違うランゲ?

 うん? 何だろうこれ? 


「ねぇ、おじさん」


「どうしたの?」


「これ何?」


「あー、ハーブだの」


 オスオは忘れてたハーブをランゲにのせたんだの。シン君に許可取ったんかの?


「美味しいでの、食ってみろの」 


 オスオにそう言われた学生は、スプーンで真っ先にハーブの天ぷらをすくう。


 これが違いなのかな?


「サクパリジュク」


 うん!? こ、これは…… 


「美味しい!!」


 絶叫にも似たその声に、行列を崩していた者達の足が止まり、一人の客の男が学生に話しかける。


「ん? このハーブが美味いのか?」


「うん! パリパリサクサクしてる所と、スープを吸ってジュクジュクしてる所があって美味しい!」


「……すまない、もっとよく見せてくれ!?」


 男は学生の持っているランゲを覗き込む。


 なんだこのランゲ? 何が入っているんだ?


「ちょっとその沈んでいる物をすくってくれないか」


 言われた通り、学生は短く切っているうどんをすくう。


「え、これって!?」


 見ている客がうどんを見て思わず声をあげる中、学生はゆっくりと口へ運ぶ。

 オスオ達は、その学生の口に注目する。


「モグモグモグ、ゴクン!」


「……」


「美味しい! なにこの食感!? このハーブも、このよく分からない物も、めちゃくちゃ美味しい!!」


 その声を聞き、見ていた客の男もランゲを注文する。


「おい、俺もランゲをくれ!」


「ちょっ待てよ! お前は俺より後ろに並んでいただろう! 俺が先だ、ランゲをくれ!」


「オスオ、ランゲを二つだの」


「私も一つお願い」


「全部で三つだの」


「俺も!」


「ワイも!」


 ダガフに向かって、人々が詰めかける。


「ちょっ、ちょっと待つの! また並んでくれの。ランゲはまだまだあるからの」


 最初にランゲを注文した学生がダガフに声をかける。


「ねぇ! このハーブを追加できない? シロンなら払うから」


「えーとの…… ランゲ一つに一つだからの、追加は出来ないの」


 ダガフは思わずそう答えた。


「ほい、ランゲを三つの」


「200シロンだの」


 三人は直ぐに200シロンを台に置いた。

 それを確認したタガフは、ランゲを渡す。


「パリパリジュク」


「このハーブうんまぁ!! なんだこの食感!」


「美味しい! スープと絡んで良い味」


「うん! この太いの、弾力があって美味い!」 


 添える事を忘れてしまい、たまたまランゲに足したハーブで、スープはより一層深みを増し、偶然天ぷらうどんのようになっていた。

 絶賛しているその声がまた新たな客を呼び寄せ、先ほど迄と変わらぬ行列が出来始めていたのであった。




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