124 ファーストステップ


 スタジオで大騒ぎになった日の夜、マコウことアリアド・コンクスはイドエを訪れる。

 サンリがデザイン画を手に入れた事を知っている訳では無く、裏の世界で生き抜いてきた勘が、コンクスを今日、イドエに導いたのだ。


「マコウ様、ようこそ」


「ウィロさん、どうも。サンリさんは、空いていますか?」


「はい、大丈夫です。では準備をさせますので、こちらでお待ち下さい」


 待合室に案内しようとしたウィロを、コンクスは呼び止める。


「ウィロさん」


「はい?」


「直接サンリさんの部屋に行っても宜しいでしょうか?」


「え?」


「驚かせてみたいので」


 そういうのは何が本当の目的か分からないから、普通なら断るけど、マコウさんなら……


「分かりました。ですが、マコウ様ならではの事なので、他のお客様には他言無用でお願いします」


「はい、お約束します」


 そう言って、優しい笑みをウィロに向ける。


 ……落ち着いた笑顔。

 本当、何者なのかしら?


「では、お二階にどうぞ」


「ありがとうございます」


 階段を上がるコンクスの後姿を、ウィロは見ていた。


 見た目も良いし、落ち着きもあって本当に素敵な人……



「コッ……」


 ノックしようとした手が、当たるか当たらないかの瞬間に、ドアが突然開くと、それと同時にコンクスの頭に手が伸びて来る。

 その手はコンクスの髪の毛を鷲掴みにし、部屋の中に引きずり込む。


「はぁはぁはぁ、私のあそこが、お前が来ている事を教えてくれたの…… はぁはぁはぁ、見てここを」


 髪の毛を掴んだまま、コンクスの顔にあそこを近付ける。


「はぁはぁ、凄く濡れているでしょ!?」


「ええ、濡れています」


「早く! 早く舐めて」


 そう言われても、コンクスはただ見ているだけで舐めようとしない。


「何しているの! 早く舐めなさい!」


 コンクスの顔に自らのあそこを激しく押し付けると、そのまま倒れ込み、コンクスの顔をまたぎ、座るような形になる。

 我慢できず、顔をまるで何かの道具にするかのように、腰をくねらせ押し付けると、サンリの口から声が漏れる。


「あー、ああー、あー、お願い、舐めて、お願い!」 


 その言葉を聞いたコンクスは、何かがしたたり落ちるほど濡れたサンリのあそこをゆっくりと舐め始める。


「ああああああー、いいー。気持ちいいーーー! もっと、もっと舐めてぇぇ!!」


 ビチャビチャと激しく音が出る程舐め始めると、サンリはあっというまに絶頂を迎える。


「あぁぁ、いくいくいくいく、いくぅぅぅー」


 両手で髪の毛を掴み、力いっぱい引き寄せながらあそこを押し付け、腰をくねらせるサンリを見たコンクスは、舌を出しながら怪しい笑みを浮かべていた。

  

「はぁはぁはぁ、いい…… 凄く良かった。はぁはぁ、今度は、私がたっぷりと虐めてあげる。今日は…… 命をも覚悟して…… そんな気分なの。はぁはぁ」


「……はい、サンリ王女様」





 その頃シンは、ユウと二人で食事をしていた。


「昼間は悪かった、本当に」


「うん? いいよ、そんなに何度も謝らなくても」


 かなり驚いたし、ナナちゃんに殴られた所も痛いけど……

 けど、信じられない状況だった。

 あんなの、元の世界に居たら、まず体験することは無かっただろう。


 この時ユウの脳裏に、ロエとルシビの身体が浮かび上がる。

 

 凄かったなぁ、特にあの二人は……

 あれが…… あれが男の夢、ハーレムか。

 ……そういえば、キャミィちゃんも、あの子達の仲間だったんだよね元々は?

 確かにキャミィちゃんも、あの二人に負けず劣らずな……

 あああ、駄目駄目! 何を思い出して考えているんだ僕は!

 公私混同だなんて、最低だろ! それに、ブレイ君の彼女なんだよ!

 そんな事を考えてないで、アイドルを作る事に集中しないと!

 

「ユウ、キャミィちゃんはどう?」


「え!? どっ、どうって、何が!?」


「いや、順調かなと思ってさ」


「うん? あー、う、うん、大丈夫だよ。初めての経験だから、かなり戸惑っているみたいだけど、ぼ、僕にまかせておいてよ! あは、あははは」


 その言葉で、シンは軽く微笑む。


「頼むよ」

 

「あーっと…… えーと、そう、この芋天、何度食べても美味しいね! 昼食の時、皆喜んでいたよ」


「だな。どうやらこの芋は、天ぷらと相性がいいみたいだ」


 良かった、変な事を考えていた事を気付かれてないみたいだ。


「ねぇ」


「うん?」


「ハーブとお芋以外の天ぷらは作らないの?」


「そうだな、今は作らないかな」


「え? じゃあいつ作るの?」


「それは、村の人に任せよう」


「……どういうこと?」


「もう既に色々思いついているみたいだから、俺が口出ししなくても、そのうち色々な天ぷらを作るさ」


 ……自主性に任せると、そういうことかな?


「この短いうどんも美味しいけど、やっぱり長いのもまた食べたいね」


「だよな~、また特別に作っておくから一緒に食べような」


「うん、そうだね!」 


 その時、ドアが開き入って来たのはシャリィであった。


「あ、シャリィさんお疲れ様です」


「お疲れシャリィ」


「どうぞ座って下さい」


 シャリィはユウが引いた椅子に座る。


「ありがとう」


「いいえ。遅くまで本当にご苦労様です」


 食事を注文したシャリィは、現状の報告を始める。


「シン」


「うん?」


「レティシアと話をしたが、出稼ぎの者は、殆ど戻って来たようだ」


「そうか。何事もなかったのは、シャリィとバリーのお陰だよ。本当にありがとう」


「ただし、全員が戻って来た訳では無いらしい」


「……それって、どういう意味ですか?」 

   

「帰村を嫌がり、そのまま出稼ぎ先に残っている者もいるようだ」

  

 戻ってこない人も居るんだ……


「それは仕方がないさ。村に起きている変化に、巻き込まれたくないと考えているのかもしれないし、ただ単に、出稼ぎ先を気に入って、離れたくないと思っているのかもしれない」


 確かに…… けど、村が昔の様になれば、たぶんその人達も……

 その為にも、うん、頑張らないとね!

 

 その決意とは裏腹に、この時ユウはキャミィの事を一瞬思い出し、少しだが不安を感じていた。


 大丈夫、大丈夫。まだ始めたばかりだから。 


 その不安を押し込める様に、そう自分に言い聞かせる。

 

「俺は先に失礼するよ。そろそろヨコキさんが訪ねて来ると思うから」


 シンはそう言って、宿に戻って行った。


「……シャリィさん」


「どうした?」


「シンってヨコキさんと何をしているんですか?」


「さぁ、何も聞いていない」


 シャリィさんも知らないんだ……

 まさかとは思うけど…… ヨコキさんと付き合っているとかないよね?


 そう考えていると、シャリィと目が合う。


 もしかして、シャリィさんも僕と同じ事を考えて……

 まっ、まさかね。ヨコキさんは、年齢もだいぶ離れているし、ないと思うけど…… 

 そういえばこの村に来てから、身体も回復したのに、女性に手を出すようなことをしているのを見た事がない。レティシアさんとか、綺麗な人は沢山いるのに…… それって、ヨコキさんがやきもちを焼くからなのかな? それならシンは、年上のヨコキさんの、お尻に敷かれているのでは!?


 この後も、ユウの妄想は広がり続けるのであった。



 新しく借りた部屋に入ると、既にヨコキが来ていた。


「すいません、待たせちゃって」


「全然待ってないよ。今来たばかりさ」


「では、さっそくで申し訳ないですけど」


「はいよ」


 返事をしたヨコキは、持ってきた紙をシンに渡した。




    

 明くる日、馬車でイドエを離れるコンクスを、ウィロとサンリはいつもの様に見送っていた。


 頼むね、私の下僕ちゃん。 


 サンリが盗んできたデザイン画を受け取ったコンクスは、馬車の中でそれを眺めていた。

 

 昨晩の、異様に興奮したあの女・・・から察すると、随分と大層な物らしい……

 私の地位を利用しようと、様々な者が近寄って来るが、その殆どが、どうしようもないクズ共だ。

 それらを受け入れる理由は、全てが揉め事の種になるから……

 そう、クズはただ呼吸をしているだけで揉め事を呼び寄せる、そういう生物だ。それは、奴等クズの才能と言っても過言ではない。

 そして、ヤクザの本質は揉め事。

 クズと交わっても自分自身のままでいられるのは、全ては揉め事その時の為に憤りを蓄えているからだ。

 やはり、裏社会この世界は私に合っている……

 

 ふとコンクスが馬車の窓に目を向けると、スタジオに向かうユウが偶然映る。

 

 お前達は…… たったの4人。ギルドの後ろ盾が無いのなら、戦力を集めるまでに時間を要するだろう。

 それまでに、数の力で圧倒する。

 

 そう、数は、正に力なり!  




 この日、プロダハウンに着いたユウは、仕切りの向こう側を見ずとも活気を感じていた。

 それは、早朝からさらなる向上を目指して試作品を作り上げているロス達職人のものであったのだが、それを感じたユウも、自らを奮い立たせる。


 よーし、僕もやるぞー!


 だが、ユウは今日もキャミィに付きっ切りでダンスを教えるだけで、他の者は昨日同様、ナナから振り付けを教わっていた。


 まだまだ三日目だ。アイドルを知らないから、ダンスが出来なくても当たり前。


 そう思っていたユウだが、それに反する気持ちを、次第に制御出来なくなってゆくのであった。




 セッティモに戻ったコンクスは、早々にヌンゲを呼び出していた。


「これがデザイン画ですか……」


 ヌンゲは食い入るように見つめる。


「はい、それは使えない物らしいですが、採用された物を見た者に聞いてきましたので、私から補足いたします」

  

「そうですか、お願いします。おい」


「はい。どうぞお話しください」


 紙を手に持ったその人物は、ヌンゲが連れて来たデザイナーであった。

 その者に、サンリから聞いたデザインを、記憶力が抜群のコンクスは、何も見ずに事細かく説明をする。

 デザイナーは、聞いた物を魔法で紙に次々と描いてゆく。

 

 数十分後……


 こ、これは…… なんて素晴らしいデザインなんだ。

 噂に聞いた程度だったけど、どうやらイドエの服飾は全く別物のようだ。このデザインだけでも、圧倒的なレベルの違いを感じてしまう……


「どうだ?」


「はい。これなら、世間を騒がす物が出来るでしょう」


「そうか。では、さっそく進めてくれ」


「はい。では失礼いたします」


 デザイナーが去って行くのを、コンクスは待っていた。


「バタン」


 ドアが閉まると同時に、コンクスが直ぐに口を開く。


「販売するのは、いつ頃になりますか?」 


「そうですね…… ある程度の枚数を確保して……」


 直ぐに試作品を作り、総動員でやれば…… 


「早ければ10日後には」

 

 その言葉で、コンクスは不満そうな表情を浮かべる。


「……三日で販売しろ」


「はい?」


「数は必要ない。出来上がった物を、右から左に売るんだ」


「あ…… あの、それだと品質にもっ」


 突然変化した口調に戸惑うヌンゲの言葉を、コンクスが遮る。


「それも必要ない。前にも言ったが、似てる物を直ぐに販売すればいい! お前はそれを管理すれば良いのだ」


「……分かりました」

 

 口調が変わったコンクスの圧に押され、ヌンゲは従うのみであった。


「それと、組合内で公にする事もお忘れなく」


「はっ、はい、それはもう。既に組合を通して、さほど必要も無い素材を発注致しましたし、組合長の元にも顔を出しましたので、何か勘付いていると思います。後はあちらが勝手に調べてくれるでしょう」


「そうですか。では、宜しくお願いします」


 丁寧な普段の口調に戻ったコンクスは、先に部屋を後にする。

 ドアの外で待っていた組の若い者は、コンクスからただならぬものを感じてたじろぐ。


 ……もうサンリあの女ぐらいでは、このたぎる血を抑えることは出来ない。

 早く、早く来い、Sランク冒険者よ。私に気の済むまで、猛り狂わせろ……

 



 キッチンカーの様に改造した馬車で、オスオはその出来具合を試していた。

 

「うーん、これは本当に考えられとるの。使えば使うほど、感心するの」

     

 オスオが使用している馬車のすぐ隣では、レンツが別の馬車を改造しており、そこにシンが現れる。


「オスオさん」


「お、シン君。この馬車は実にええの。わしも欲しいぐらいだの」


 シンは笑顔を見せる。


「料理するのに、問題は無いですか?」


「あーないの。何度も何度も試したがの、全く問題はないの」


「そうですか。では、明日早速」 

 

「明日!?」


 えらい急だの……


「はい。人選と準備をお願いできますか? 必要な物は、シャリィがオスオさんの食堂に置いていますので。あっ、勿論俺も手伝います」


 準備は兎も角、わしが人選を……


「行き先を、聞いてもええかの?」


 それによって、選ぶ者が変わるからの……


「セッティモです」


 セッティモ!?


「……分かったの。任せておけの」 


「では、お願いします」


 オスオと話を終えたシンに、レンツが声をかけて来る。


「おぉー、シン君。来とったんかの。フォワワワワー」


 レンツと話すシンを、オスオは見ている。


 この馬車の目的は以前から聞いておったからの、それなりの心構えはしておったがの…… 明日とはまた急過ぎるの。

 それにの、セッティモか…… まぁ大きな町でやるのが一番なんだろうがの、買い物とは訳が違うからの、女子供は連れていけんの。

 だがの……


 オスオは自分が乗っている馬車に目を向ける。


 これは細部まで計算されての、本当に気を使っておるのが見て取れるの。

 と、いうことはの、明日の事も、前もって相当準備しておると、そう考えてもいいんかの……

 人選をわしに任せるというのは、そういう事なんかの……



 次の日の朝4時……


 1台はキッチンカーの様に改造をした馬車、もう1台は普通の馬車の、合計2台の馬車がイドエを出発する。

 セッティモに向かうのは、シンとシャリィ。

 村の者は、オスオとおしどり夫婦の夫、ダガフ他5名。村の者は全員が大人の男性で、シンとシャリィを合わせて総員9名であった。


「出発するでのー」


 ダガフの掛け声と手綱さばきで、馬が動き始める。



 昨晩……


「え? 明日セッティモに行くの?」


「あぁ、芋天とうどんを改造した馬車で売って、反応を見てみるよ」


「……そうなんだ」


 いよいよ…… いよいよ始めるんだね……

 それなのに、僕の方はせっかく振り付けが出来たというのに、また足踏み状態だ。

 

「今回は留守番を頼むよ。バリーが村に残ってくれるから」


「うん。分かった」


 この時ユウは、不安げな面持ちをしていた。



   

「出発するでのー。母ちゃん、お土産買って来るでの」


「……あんたが無事に帰って来てくれたら、それが最高のお土産よー」


「うほっ! 聞いたかのオスオ」


「あー、聞いた、聞いたの」


「やっぱり母ちゃんはの~わしをのぅ。こういう時はの、本音が出るもんだからのぅ。むふ、むふふふふ」


 門を出て行く2台の馬車を、モリスとジュリ、ダガフの妻、マイジ他数人が見送っていた。


「ああやって言っておけば、良い物を買ってきてくれるのよね」


「フフッ」

「プッ」

「ククッ」

 

 その言葉で、モリスも思わず吹き出してしまうが、馬車に目を向けると直ぐにスイッチが切り替わる。  


 あなた…… シャリィ様も居るから大丈夫よね。

 何事もなく、帰って来て……

 

 そしてまだ暗い中、離れた場所から走り行く馬車を見つめているレティシアの姿があった。


 シンさん、シャリィ様…… 村の人を、宜しく、宜しくお願いします。




 三時間後、シン達一行は、ストビーエを過ぎた所で休憩をしていた。


「くは~、美味いのぅ。水をこんなにも美味いと思ったことは無いかも知れんの~」


「順調、順調だからだの」


「暗い中出発したのに、魔獣が一匹も出んとはの。本当にこの辺りの魔獣を、全部退治してくれたんだの」


「そうだの、それだけでも十分なのにの~」


 セッティモに向かっている者達は、休憩中にシャリィへの感謝の思いを口にする。だが、そんな時、オスオだけは馬車の中で首をかしげていた。


 おかしいの…… 確かこの小麦粉の袋は、ここの棚に入れて置いたはずだがの…… 戸が付いておるからの、馬車の揺れで出て来た訳ではなさそうだがの。


 オスオが荷物を片付けようと、棚の戸を開けたその時、何かが動いているのが見えて、オスオは驚いて後ろに飛んで腰を抜かす。


「シッ、シン君! シン君来てくれの!」


 うん?


 馬を撫でていたシンは、オスオの声に反応して走り出すが、シャリィは全く慌てていない。 


「どうしました!?」


 駆けつけたシンの目に、棚から出てこようとしているピカワンの姿が映る。


「ピッ、ピカワン……」


 ピカワンの名を口にすると、別の棚が突然開き、ピカツーも出て来る。


「バレたっぺぇ? 狭かったっぺぇ」


「あっ!? お前のぅ……」


「ピカツーまで……」


 って、事は……


「……フォワは何処なんだ?」


 その名を呼んでも、フォワは出てこない。

 様々な所に目を向けてフォワを探していると、ピカツーが一つの樽を見ているのに気付く。


「はぁ~」


 オスオもそれに気付き、ため息をつきながら樽の蓋を開ける。

 すると、フォワは樽の中で寝息を立てて寝ていた。


「スヤ~」


「……出発前、樽の数が多いような気がしてたんだの。やっぱりだったの」


 無言でピカワンを見つめるシン。


「黙って付いて来たのは、わっ、悪かったっペぇ。だけども、シンは前にナナ達がストビーエに行ってた時に、次はオラ達も連れて行くって言ってたっペぇ!?」


「……三人だけ・・・・で来たのか?」


 シンは、全員が来れなかった事を気にしていた。


「そうっぺぇ。けども、ちゃんと皆には話をして、納得してもらったっぺぇーよ」


「……どうやって納得してもらったんだ?」


 その質問に、ピカツーが答える。


「買い物だっぺぇ…… 皆から小遣いとリストを預かってきたっペぇ」


「……」


「……どうするのシン君?」


「ここまで来て引き返す訳にはいかないので、このままセッティモまで行きましょう」


 その言葉を聞いたピカワンとピカツーは満面の笑みを浮かべるが、シンの目を気にして顔を背ける。

 その時、フォワが目を覚まし、背伸びをした後笑顔で立ち上がる。


「フォワ~?」


「……なんて言っているんだ?」


「着いたのか? って言ってるっペぇ」

   

「はぁ~」

「はぁ~」


 シンとオスオは、同時にため息をついて頭を抱える。


 

 休憩を終え、最出発して一時間後、シンがある事を思い出す。


「あっ! フォワ、ガーシュウィンさんの食事は?」


「フォワフォワ~、フォワフォワフォワ」


「心配するな、ちゃんと頼んで来たって言ってるっぺぇ」


「頼んだ…… 誰に?」 



 ちょうど同じ頃、イドエでガーシュウィン宅のドアをノックする者が現れる。


「コン、コン」


 その者は、まるでドアの向こう側を一瞥する様に見つめた後、ガーシュウィンの応答を待たず、食事を置いてその場を離れる。


「ウィロさんに!?」


「フォワ~」 


  ウィロに頼んだのは間違っていると感じたが、悪いアイデアでもないと、直ぐに自分の考えを訂正する。

 

「おー、見えて来たのー」


 馬を操るダガフの声で、全員が前方に注目する。


「本当っぺぇ! 見えてるっぺぇ!」


「あ、あれが…… あれがセッティモっぺぇ!?」


「フォンワ! フォンワ!!」   


 少年達は、初めて見る他の町に、興奮を抑える事を出来ずにいた。


「フォワフォワフォワ!」


「うわーーー」


「凄い壁っぺぇ~。ここからでも、とんでもなく大きいのが分かるっぺぇ……」


 あれが…… セッティモか。

 ここから見た感じだと、イプリモと似ている。


 セッティモに近付くにつれ、シンが薄っすらと微笑を浮かべているのに、オスオは気付いていた。


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