112 芽生え
フルは肩をすくめたり、腕をぶんぶんと回したりしている。
そして……
「こいつを倒したら、次はあんた達だからね」
そう言ってピカワン達を睨む。
睨まれた少年達は、恐れながらも睨み返す者、目を逸らす者、中には寝たふりをする者まで居た。
「スヤ~」
シンは集中して、両手を高く上げ、背伸びをするかのように筋肉と筋を伸ばした後、大きく息を吐いた。
「ふぅーーーー」
そんなシンの動向を、フルは鋭い目で見ている。
円ではなく六角形か……
追い詰められたら、それがどう影響するのかやってみないと分からない面もある。
つまり、下がらされたら
「わしが審判をやるからの」
「あっ、それわしがやりたかったんだがの!」
「あきらめろの、早い者勝ちだの」
「むむむ、しかたない。外審判をするかの」
一人の老人がゲイヒガに入って来る。
他の老人達はゲイヒガの周りに椅子を持ってきて座った。
それを見ていたユウは思った。
……同じだ、まるで相撲の勝負審判みたいだ。
「よし! やるか!」
シンのその言葉で緊張が走り、ユウは知らぬ間に手を強く握りしめていた。
シン、頑張って……
睨みつけるフルをよそに、シンはキョロキョロとゲイヒガの隅に目を向ける。
その行動に、フルだけではなく少年達も老人も不思議そうな表情を浮かべるが、ユウだけはその意味を何となく理解していた。
もしかして……
「シ、シン」
ユウがシンを呼ぶ。
「うん?」
「塩は…… 置いてないみたいだよ……」
……塩?
「やっぱりそうか、何処見ても無いもんな」
「う、うん……」
「残念、水戸泉みたいに、こうやってかっこよく投げたかったけど」
水戸泉? ユウはその力士の名を知らなかった。
真似をするシンの動きを見て、フルがイライラとし始める。
「塩とかミトなんとかとか、いったい何の話なの?」
「うん? いや、こっちの話さ」
こいつ…… 今から真剣勝負だってぇのに、なめてるね!
うっ、フルさんの気迫みたいなものを強く感じる!
シン、ふざけない方が良いのでは……
仕切り線も見当たらないな……
取りあえずここで……
「さっさとやるよ。審判!」
「わかったの」
ピカワン達から見捨てられるぐらい、一方的に倒してやるからね。見てな……
フルは大きな身体を左右に振って気合を入れる。
一方シンは……
左手をゲイヒカに突き、既に立ち合いの姿勢で待っていた!
だが、それを見たフルが思わず口を開く。
「あんた……」
「……ん?」
そして審判の老人も……
「シン君……」
「はい?」
「手をついても…… 負けだからの。それだと始められんからの、立ち上がってくれるかの……」
「あっ、すみません。つい…… そのう……」
シンは急いで立ち上がった。
「フルちゃん、ちょっと待つの」
「……」
フルは無言で小さく頷く。
「いいかのシン君」
「はい」
「立ったままでの、わしがの、始めって大きな声を出したら、勝負開始だの」
「なるほど、分かりました。あの~」
「うん?」
「何処に立てばいいんですか?」
「好きなとこでええんだの」
「何処でも?」
「そうだの。立ち位置を決める所から、駆け引きが始まっておるんだの」
なるほどね……
老人の説明が終わると、フルが不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「ハンデをやるよ。あたしはここに立つ」
そう言うと、中央ではなく俵の代わりの丸太近くに立った。
それを見たシンが間髪入れず返事をする。
「いや、ハンデは必要ない」
「……なんだって!?」
歯をギリギリと食いしばるフル。
「お互い、中央に立とう。真ん中で、正々堂々と」
くっ、あたいが悪者みたいな言い方しやがってぇ!
フルはシンを睨みつける。
中央に立ったフルの前にシンも立つ。
「おお~、心理戦だの~。わくわくしてきたの」
窓から覗いている村人の声が聞こえる。
いつの間にか、見物している者達の人数が増えており、その中の一人は、特に鋭い視線を向けていた。
「よーし、いくからの」
審判のその声で、誰もが口を閉じ辺りが静まり返る。
「……始め!」
審判の掛け声と同時に、フルはピカワンを吹っ飛ばした張り手をシンに向けて繰り出す。
それは単発ではなく両手で交互に! そう、相撲の突っ張り
と同じである。
凄まじい回転の突っ張りが、シンの胸に1発2発3発と当たる。
どう、あたいのは速いだけじゃなくて、凄く重いでしょう!
我慢せずに、外に飛び出すか、泣いて倒れな!
そう思っていたフルだが、いつもと感触が違う事に気付く。
ん…… おかしい…… 当たっているけど、当たっていないみたいな…… 何この軽い手応え!?
シンはフルの突っ張りが身体に当たる瞬間、一度前に体重を移動させた後、瞬時に後ろに引く。
そうやって突っ張りの威力を散らしていたのだ。
くっ!? おかしい!
そう思ったフルは、作戦を変更する。
ならば……
フルは突っ張る事を止め、その大きな巨体をシンにぶつけて行く。
その当たりも、シンは同じ要領で勢いを殺して組み止める!
この感触…… まるで、しなる枝と戦っているような……
「おおー! フルの巨体を受け止めたっペぇ!!」
「流石シンっぺぇ!」
少年達の檄が飛び交う。
シン! シン!
ユウは心の中でシンの名前を連呼し、握りしめた手をブルブルと振るわしている。
シンとフル、お互いの利き腕は右。
二人は右手が下手、左手が上手の相撲で言う右四つの状態。
得意な形でがっちりとタポラボを掴んだフルは、落ち着きを取り戻す。
「ふぅ~~」
大きく息を吐いて、頭を回転させる。
なかなかやるじゃない…… 流石は冒険者ということね。
だけどね、あんたは細いんだよー、軽いんだよー。
このまま体格差でジリジリ前に出て押し出しても良いけど、それでは芸がないよねぇ。
完膚なきまでに叩きのめす為、もろ差しを狙う。
ふふふ、あたいのスピードに驚愕するあんたの顔が目に浮かぶよ。
「すぅー、はぁー、すぅー」
……いくよ!
フルはタポラボを掴んだまま、身体を左右に軽く揺らす。まるでリズムを計るかのように……
シンは揺らせまいと、自然と逆方向に力を入れる。
その刹那の瞬間!
フルは左手の上手を離し、下手を取っているシンの右腕の中に上から差し込む!
はい決まったよ! これであたいはもろ差しさ。
差し込んだ左手で、がっちりと下手をとる。
だが、次の瞬間、百戦錬磨のフルは直ぐに違和感を覚える。
えっ? この体勢…… しっ、下手が、取れていない!?
うっ、上手のまま…… ど、どうして?
得意の巻き替えが成功し、下手を取ったはずだと思っていたフルは、軽くパニックを起こしてしまう。
なんとシンは、フルが下手を取りに来る事を察知し、差し込んで来たフルの左腕に合わせて右下手を離し、フルの左腕の更に内側へ右腕を差し返していたのだ。
巻き替えを、更に巻き返したのである。
そのハンドスピードは、フルのスピードを遥かに凌駕していた。
こっ、こ、こいつ……
いったい何を!?
まさか、魔法を……
……いや、そんな訳はない。
落ち着いて…… 落ち着いて……
こうなれば、勝ち方ではなく、勝負に拘ってやる!
あたいのこの身体で、ジリジリと押し出してやるから!
そうすれば、打つ手はないよね……
そう決心したフルは、腰を落とし、掴んでいるタポラボに力を入れ、更に突き出た腹を使い、シンの身体を浮かしにかかる。シンの重心を高くして、押し出しを狙っているのだ。
ジリジリと潜り込まれ、シンの腰の位置が次第に高くなっていく。
さぁ、準備万端! 無意味な抵抗は辞めて、外に出ちゃいな!
これで間違いなく勝てる、そう確信していたフルだが……
えっ…… う、動かない!?
いったい、どういうことなの!?
「うっ、ううううぅぁぁぁ」
唸り声を上げ、ぶるぶると全身を震わしながらありったけの力を込めるが、シンはまるで巨石の様に動かない。
ばっ、そんな馬鹿な!?
あたいの半分ぐらいしかない体重の奴を押せないだなんて…… そっ、そんな、そんな……
体重差を跳ね返したものの正体…… それは、パワーである。
だっ、駄目だ…… 押せない……
体力の限界が迫ったフルが一旦力を抜いたその瞬間!?
シンはそれを待っていたかのように左上手に力を込め右に投げようとする。
その投げにより、フルの左上手は切れてしまい、バランスを崩しかけるが、己の巨体とがっちりと掴んでいる右の下手で凌ぐ。
甘いよ! あたいの押しを止めたのは褒めてあげる。
だけど、簡単には崩されないよあたいもね!
見てな、上手は直ぐに取り返してやる!
そう思っていたフルだが、この時勘違いしていた。
己の力でシンの投げを防いだと思っていたのだが、下手を離し脇に差し込まれたシンの右腕によって支えられていたのだ。
バランスを崩しかけたフルの身体は、無意識に元の態勢に戻そうとしたその刹那の瞬間!
右腕のかいなを返しながらシンはフルを投げる!
体勢を戻そうとしたフル自身の力も加わって、巨体はいとも簡単に宙を舞う。
えっ…… なにこれ? て、天井?
シンが繰り出した技は、呼び戻し。
別名、仏壇返しであった。
一瞬でゲイヒガに横たわるフルの巨体。
勝負を終えたシンは、ユウに視線を向けた。
「ボクシングでいう、カウンターかな」
笑みを浮かべながらそう口にした。
「うあぁぁぁー! かっこつけちゃってぇ!」
ユウは知らぬ間に笑顔で声を張り上げていた。
その声に続くかの様に、少年達も歓喜の声を上げる。
「シンがぁーーー!」
「うおぉぉぉぉぉー」
「シンが勝ったっぺぇ!!」
「フルがぁ、あのフルがぁー、ズモウで負けったっペぇ!」
そして、次に外で見物していた村人達が驚きの声をあげる。
「おぉおおおー」
「なんだのあれは!?」
「あの大きなフルちゃんが吹っ飛んだのー」
審判をしていた老人達は、目の前で見たものが信じられず、一言も発する事が出来ずに驚愕の表情を浮かべている。
「俺の、勝ちでいいのかな?」
シンのその言葉で我に返る審判。
「あ、あーあー、シン君の勝ちだのー」
審判の勝利宣言。
少年達は更に歓喜の声を上げた。
「やったっぺぇー」
「おらにもその投げを教えてくれっぺぇ! フルに勝ちたいっぺえ!」
「おらが先っぺぇ!」
天井を眺めながら、呆けているフルにシンが話しかける。
「大丈夫?」
「……え?」
「怪我はしてない?」
「……うん。してない……」
そう答えたフルだが、何が起きたのか理解できず、心ここにあらずであった。
「お姉ちゃん大丈夫?」
心配したクルが、シンに手を引っ張られ起こしたフルの上半身に抱き着く。
「……クル」
「クルクル! 大丈夫?」
「うん…… どこも、痛くない……」
「クルクル、良かったぁ。宙を飛んでたから心配したよー」
そんなに……
だけど、擦り傷もないみたいだし、何処も痛くない……
まさか……
そう、フルの考えていた通り、シンはフルがゲイヒガに打ち付けられる瞬間に持っていた左上手に力を入れ、倒れた時の衝撃を和らげていたのだ。
あたいを相手に、そこまで余裕があっただなんて……
これは…… 完敗だよ。
突然起こったズモウ対決は、シンの完全勝利で幕を下ろす。
まだ歓声が鳴りやまないその時、外から鋭い視線を向けていた者が室内に入って来る。
「……えっ」
その人物を見て、プルは驚く。
スタスタとゲイヒガに近寄った人物は、フルに向け口を開く。
「フル、負けはしたけど、強くなったの」
クルとフルはその人物へ、同時に目を向ける。
「あ……」
「クッ、クルクルー、パパー!」
「お父さーん!」
あの大人しいプルが、大きな声で叫びながら走って来て、父親の背中に抱きつく。
「プル、綺麗になったの」
「うわぁぁぁん、お父さーん」
「パパー」
「クルも、大人っぽくなったの……」
クルとプルの二人を抱き寄せる父親。
昨晩と同じその光景を、シンとユウは微笑を浮かべながら見ていた。
そして、シンとユウは一つ納得する事があった。
それは……
なるほど、フルちゃんはお父さん似か……
そう、三姉妹の父親の身長は2メートルを超え、大きな身体であったのだ。
「あたい、まだまだだね……」
「そうだの、世の中にはの、あの人の様に強い人が沢山居る。これからも精進しろの」
「……うん。パパ、会いたかったよ」
「わしも、会いたかった」
「うわぁあああん」
父親に抱き着いてフルは号泣した。
シンに負けた悔しさより、父親に会えた喜びが勝り、人目もはばからず大声で泣く。
フルを嫌っている少年達も、その光景を微笑ましく見ていた。
の、だが!?
フルの出現で、何かが足らない事に、誰も気づいていなかった。
それは……
「フォワ~、フォワフォワフォーワ~」
そう、この場にフォワが居ない事に、誰も気づいていなかったのだ。
さかのぼる事数時間前、フォワはある一軒の家に一人で向かっていた。
その家とは……
目的の場所に着いたフォワは、何かの気配を感じると、空き家に身を隠す。
その気配の相手とは、ガーシュウィンに食事を運び終えて、モリスの食堂へ戻るシンであった。
「……」
シンが前を通り過ぎると、フォワは辺りを警戒しつつ空き家から出て来て、ガーシュウィン宅の裏口まで進み、ドアに耳を当て中の音を聞く。
「……」
何も聞こえない事を確認すると、空き家の隅に身を隠して、そのまま一時間ほど座り込む。
する事が無く、暇で腹の減ったフォワは、シンが運んで来たスープとパンを取りに行き、むしゃむしゃと食べ始める。
「フォワ~、フォワフォワフォワ?」
この時フォワは、いつもと味が違う気がすると言っていた。
腰を下ろし、スープをすすっていると、室内から足音が聞こえてくる。
皿とパンを持ったまま慌てて隠れると、ドアが開きガーシュウィンが出てきた。
「むしゃむしゃむしゃ」
フォワはパンを食べながら、ガーシュウィンに鋭い視線を向けている。
当のガーシュウィンはフォワに気付かないどころか、シンが持ってきたはずのスープとパンが置かれていない事にも気を止める事無く、何処かへと歩き始める。
「フォワ~。ズズズズー」
不敵な笑みを浮かべながら、フォワは動いたなと言った後、スープをすする。
後をつけられているとも知らずにガーシュウィンが向かった先は……
「フォワ~」
ヨコキの売春宿であった。
「フォワフォワ!」
何の事情も知らないフォワは、朝からかよ! と、言っていた。
ヨコキの宿で立ち尽くしているガーシュウィンの前に、用事で訪れていたキャミィが現れる。
「あの~、何か御用ですか?」
「……ウィロに」
小さな声でそう答えたガーシュウィンを見て、ウィロとの関係を知らないキャミィは悩む。
……どうしよう、ウィロさんが居るって言っても良いのかな?
真剣な面持ちでガーシュウィンの瞳を見つめるキャミィ。
「……今、伝えてきます」
その瞳から何かを感じ取ったキャミィは、そう言って中に入って行く。
一人売春宿の前に立つガーシュウィンを見て、フォワは思っていた。
フォワ~フォワフォワフォワ~(付けが利くか聞いてもらっているんだな)と…… そして……
フォワ~フォワフォワ~フォワフォワフォワ、フォワフォワフォワフォワフォワー。フォワ、フォワフォワフォワー(付けで利用するような怪しいジジィを、どうしてシンは信用しているんだ。見てろ、ぜったいにボロを出す)と、思っていた。
どうやらフォワは、ガーシュウィンを疑っている様だ。
しばらくすると、表情のさえないウィロが宿から出て来る。
「何の用なの? ここにまできて……」
「……そっ、それは」
今まで見た事も無いガーシュウィンの様子に何かを察したウィロは、場所を変えようと提案する。
「……ここはあれだから、少し歩こうか」
「……うむ」
その様子を見ていたフォワは、二人に気付かれない様に後をつける。
二人が歩みを止めたのは、売春宿からほど近い空き家の庭であった。
フォワは声が聞こえる距離まで詰め、身を潜めている。
「いったい、何の用事なの?」
「色々と、考えたのだが……」
その言葉で、下に落としていた視線をガーシュウィンに向ける。
「あの者達が行おうとしている事は、恐らく実現するまい」
「どうしてそう思うの……」
そう問われたガーシュウィンは、ウィロの目を見つめて口を開く。
「ブランドだよ」
「……」
「イドエが服飾や演劇で有名だったのは、20年も前の話だ」
「……」
「門外不出であった服飾魔法技術も今は廃れ、地に落ちたこの村では、何をやっても意味をなさず、イドエを現状のままにしておきたい連中から邪魔だてされ、成し遂げる事は出来はしまい」
「……」
「つまりウィロ…… あの者達と、君の望みも…… 叶うまい」
その言葉を聞いたウィロは、ガーシュウィンに向けられていた視線を再び下に落とす。
「……」
そして……
そうなると…… ウィロも……
フォワフォワ! フォワフォワフォワフォワフォワー! (あのジジィ! シンやおら達を甘くみやがってぇ!)
「ただし、それは…… この私が居なければの話だ」
「……」
フォワ、フォワフォワ~?(ジジィ、自信過剰すぎるだろ?)
「……それなら、手を貸してくれるの?」
「それには…… 一つ条件がある」
「……何?」
顔を上げたウィロの瞳を真っ直ぐに見つめるガーシュウィン。
「君だ……」
「……私」
その頃、久しぶりの親子の対面を見て、穏やかな時間の流れを感じていたシンは、やっとフォワが居ない事に気付く。
「ん? あれ? ピカワン」
「グスン…… なんだっぺぇ?」
「フォワは?」
「……えっ? そういえば、いないっペぇ!?」
フォワ…… いったい何処へ……
「……私」
「そうだ」
「……」
「君は、私の元に……」
「……」
「訪ねるて来るのを辞めて欲しい」
その言葉で、ウィロの首はゆっくりと折れてゆく。
「今まで、大変世話になった。だが…… 約束してくれるか?」
無言で俯いているウィロの手は、小刻みに、震えていた。
「なるほどね…… 私の様な元娼婦と一緒に居た事が世間に知られたら、傷がついてしまうものね、あなたの名声に……」
「……」
「分かったわ…… 金輪際、あなたには近づかない。その代わり、あなたも約束を守って…… あの子達に手を貸して、そして、キャミィを守って」
ガーシュウィンは、小さく何度か頷いた。
「……約束しよう」
「話はそれだけ?」
無言で俯いたガーシュウィンを見たウィロは、その場から去って行く。
涙を…… 流しているのを悟られない様に…… 去って行った。
角を曲がり、見えなくなったウィロを引き留めるかのように手を伸ばしていたガーシュウィンは、そのままその場に崩れる。
涙を流しながら……
「すまない…… すまないぃー」
だが、
「……」
これが君を守る唯一の手段だと、私は判断した…… のだ……
「ううぅぅ」
泣き崩れるガーシュウィンの元に、一部始終を見ていたフォワが現れる。
「ジジィ……」
その声で人が居る事に気付き、ハッと顔を上げる。
涙を流し、くしゃくしゃになったガーシュウィンの顔をフォワは見つめている。
そして……
「良い店を知っている」
「……」
「飲みに行くか……」
フォワはそう言って、ガーシュウィンに手を差し出した。
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