101 人ならざる者


 ストレッチを終えたシンは数百メートル歩いた後にゆっくり走り出すと、徐々にペースを上げる。

 時にはわざとペースを落とした状態で数百メートル走ったかと思えば、急にダッシュを織り交ぜたりと緩急をつける。

 そんな調子で、休むことなく5キロほど走った。


 スピードを落とし息を整えてゆっくり歩いていると、旧街道沿いに開けた草むらが目に留まる。


「……」


 整備された芝生とまではいかないが、似た様な場所にシンは心を惹かれ立ち寄る。

 辺りを見回しても石は殆ど落ちておらず、地面は程よく柔らかい。



 ここは…… 元々畑だったのか…… 



 同じジムのプロボクサー達は、早朝、まだ客の居ないゴルフ場を借りてランニングしていた。

 何故ゴルフ場かというと、硬いアスファルトと違い、足腰への負担を軽くするのに最適で、それでいて広いからだ。


 そしてシンもよく一緒に走っており、畑の跡を見てその事を思い出して懐かしさを感じていた。


 ここは良い感じだ……


 柔らかくて、ランニングシューズを履いていないから余計にピッタリの場所だ。

 放置された牧草の様な草むらを歩き回り、満遍なく足元を確かめ辺りを見回すが不穏な空気を感じない。



 せっかくだから、ここを使わせてもらうか……



 息を整えたシンは、シャドウボクシングを始める。

 元の世界での想像する対戦相手は、ボクサーやチンピラを想定して行っていたが今は違う。

 剣や武器を持っている相手を、まるで目の前に実在するかの様に想像する。

 ダラリと両手を下げ、自然体でリズムを刻むように軽く跳ね前後左右とあらゆる方向に滑るように動く。


 「……」


 シンだけに見える剣を構えている敵が、喉元を狙い素早く突いてくるが、スウェーを駆使し寸前でかわし距離を取る。

 想像した敵は、今度は胸を狙い突いてくるが、巧みなステップを使い左後方に飛びそれも避ける。


 シンの集中力は、想像で生み出した敵の呼吸までも造りあげる。


 スゥー、ハー、スゥー、ハー、スゥ!


 くる……


 敵は鋭い踏み込みから、一瞬で己の距離を作り剣を振り上げる!

 シンは下がらず逆に刹那のタイミングで踏み込み、敵の間合いを自分の距離に変化させる。

 そして、敵が剣を振り下ろす前にカウンターでショートの右ストレートを顎に叩き込む!


  

 へぇ~、あたいにも…… あたいにも相手が見えるソゥ~。



「ふぅー」


 大きく呼吸をした後、手や身体をブラブラさせ筋肉の緊張をほぐしていく。



 ……剣が相手で俺と同じぐらいのスピードであれば、今でも何とかなるかもしれない。

 だが、イプリモの時の様に、魔法が絡んでくると俺は無力だ。

 ……この世界に来たばかりの時、俺は火の玉を出せた。だけど、まるで何キロも全力で走ったかのような疲労感が一瞬で襲ってきて、しばらくの間動けなかった。

 魔法は…… 全てはウースに着いてからか…… 

 それなら、今は出来る事をしよう。



 その後も、剣や槍を持った相手を想定して数戦を終える。

 そして、ゆっくりと呼吸を整え、旧道に戻ろうと歩き始めたその時!?



 ん? 進めない!?



 そこにはまるで、見えない壁が存在しているかの様に、シンの行く手を遮る。


 なっ!?


 軽いパニックを起こしかけていたシンの耳に、突然背後から異様な音が聞こえてくる。



「ギギィ、ギギギィ」


 

 その声を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ち身体が強張る。

 だが、百戦錬磨のシンは、感情をコントロールし、素早く振り返る。 

 すると…… そこには……



 なんと、剣を持ったゴブリンが立っていたのだ。



「なに!?」


 ……なんだこの生物は!? いきなり現れた!?


 一瞬にして様々な事が頭をよぎるが、最優先に警戒すべきは、当然の如く剣を持っているゴブリン。



 なんて目だ……



 初めて見る異形な者の眼光に、恐怖を感じ身の毛がよだつ。 

 会話を試みるなど無意味。そう思わせるほどの殺意がシンに向けられていた。

 それを感じ取っていたシンは、己のモードを切り替える。



 

 その頃ユウは、野外劇場の舞台に一人座っていた。

 ユウの手に握られているのはヴォーチェ。

 両眼を閉じて、リラックスした状態でシンの作曲した音楽を聴いていた。


「んふふ、んふふ、んふふ~」  


 レティシアや若者達との出会い、ストビーエでのいざこざ、若者と老人達の和解、初めての釣り、そして、ナナとの仲直り……

 様々なことが頭をよぎるが、ユウの心は澄んだ空の様に穏やかであった。


「んふふふ~、んふふふふ~」


 目を開けて、シャリィから借りた石筆と紙を鞄から取り出すと、少し書いては手を止めて、遠くを眺める様な目をする。

 また少し書いては手を止め、その様な動作を何度か繰り返す。

 そしてユウは、一度大きく頷いた後、微笑んだ。




 ボクシングと違い、喧嘩にゴングは無い。

 いつどこで始まるのか、それすら予測がつかない。

 ただ歩いているだけで、突如背後から鉄パイプを持った集団に襲われる。シンはそんな環境で、思春期を過ごしていた。

 その経験から冷静さを保ち、得体の知れない生物の分析を始める。


 身長は、1m10から20cmぐらいか…… だけど、背の高さの割には、かなりリーチが長い。そして、持っている剣の長さは…… 72cm……

 

 鳶の棟梁だったシンは、いつも見ていた単管の長さと比較し、剣の長さをほぼ正確に当てる。

 だが、膝や腰が極端に曲がったゴブリンの姿勢から、身長とリーチの長さは正確に出せずにいた。

 そして、そのゴブリンとの距離はおよそ6m。

 シンは乱れた呼吸を整え、左手を前に突き出して自らその距離をジリジリと詰めてゆく。

 シャリィに借りた短剣は鞄ごと宿に置いて来ている。武器もないそんな不利な状況であるにもかかわらず、自ら前に詰めるその理由は……


 ……前に詰めても、壁は無い。恐らく、俺を逃がさない様に、見えない壁は旧道側にある…… もしくはこの畑跡を取り囲んでいる…… 


 そう予測して、壁を背負うことを嫌ったのだ。


 何かルールがあるはずだこの壁には…… 狭く俺を囲めば、それで終わりだ…… それをしないのは、何か…… 


「ギィギギギギギィーー」


 ゴブリンが甲高く汚らしい唸り声をあげると、シンの顔が歪む。

 狂った様に突っ込んでくるゴブリンだが、突如としてしゃがみ込むと、右手に持った剣で、左のふくらはぎ辺りを狙い、低い姿勢から剣を横に振るう。

 その剣を、素早く右後方にボクシングのステップを駆使し、ゴブリンを起点に回るようにかわす。

 一旦十分な距離をとり、また自ら前につめる。

 シンは右後方に移動する時、右手で後ろを探る様な動作をしていた。

 それは、見えない壁を手で探していたのだが、幸いな事に下がっている途中に壁は無かった。



 キッシシシシ、壁を気にしてるソゥ~。本当にあの程度の壁を感じる見る事もどうする事もできないソゥ~? 聞いた通り、イフトを全然使えてないソゥ~。

 


 脚か…… そうだよな、いきなり急所を狙う必要はない。脚を斬り、機動力を奪ってから止めを刺せばいい。


 ゴブリンは先ほどよりも低く構え、剣を持った右手以外の手足を使い、まるで蜘蛛のように地を這い迫ってくる。

 その低い姿勢から狙いは一目瞭然であった。再び脚を狙っているのだ。


 くっ…… スピードは大した事ないが、低すぎて殴れない。

 これは…… 想定外だ。



 元の世界ではゴブリンは存在しない。

 その奇妙な生き物との戦い。 

 そう、ここは異世界だと、改めて実感させられる。



 踏み込んでカウンターで蹴るか!?

 いや、慣れない事をすべきではない、それに……

 もう一度かわそう。


 シンは再びゴブリンの攻撃をかわす。


「ギィー、ギギギィー」


 集中しろ。いつどこに壁や他の魔法を使ってくるか分からない。

 もしも、急に動きを封じられても慌てるな…… 

 シンは頭の中で様々なシミュレーションをする。


 一方ゴブリンは、二度も攻撃をかわされイラ立っていた。


「ギュュー、ギュュュゥゥー」


 ……うるさいソゥ~。


「くっ!?」


 そのゴブリンの甲高い叫び声で、再びシンの顔が歪む。


 ゴブリンは怒りから、面倒な低い姿勢をやめ、立ち上がり剣を振り上げシンに襲い掛かって来る。

 それを見たシンは、先ほどのシャドウボクシングの様に、素早く踏み込み一瞬で自分の距離を造る!

 

「ギッ!?」


 そのスピードに驚くゴブリンだが、時すでに遅し……

 サイドに飛び込んだシンは、右ストレートを背の低いゴブリンの頭目掛け放つ。


 チョッピングライト! 打ち下ろしの右。


 パンチはゴブリンの左側頭部から右顎に抜けるような角度でヒットする。


「ドサッ」


 ゴブリンは振り上げた剣を下ろす事なく、その場に崩れ落ちた。

 その瞬間、シンは倒れているゴブリンの剣をすぐさま蹴り飛ばして距離を取る。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 初めて見る不気味な生物との戦いで、シンの呼吸は大きく乱れていた。


 壁を気にしすぎて、踏み込みが甘くパンチを打つタイミングが僅かだけど遅れた……



 ……へぇ~、魔法も使えないのに大したスピードだソゥ~。



 今の一撃…… カウンターがテンプルに入った。人間なら死んでいてもおかしくない。

 こいつはどうなんだ……

 

「うっ!?」


 その時、突如シンの右拳に痛みが走る。


 痛て……

 バンテージも巻かず、グローブも着けないで頭を殴るなんて…… そりゃ拳痛めるよな。折れてなければいいけど…… 


 ゴブリンが動かないのを慎重に確認しながら、蹴とばした剣を拾い上げる。


 なんだこの剣…… 錆びてボロボロじゃねーか!? それに重い…… シャリィに借りた短剣とは大違いだ。

 それにしても、臭い…… なんだこの匂いは……

 いや、そんな事より、他にこいつの仲間がいるかもしれない…… ここから出ないと……


 シンはゴブリンが動かない事をもう一度確認した後、目を離さない様に後ろ向きに下がり剣で後方をまさぐる。


 うん!? さっき出られなかった所を剣が突き抜けている……


 そう思いそのまま下がって行くと、旧道まで出てしまう。


 ……さっきの見えない壁は、やはりこの気味の悪い生物の魔法だったのか。

 この畑跡は、こいつの縄張りだったのかもしれない……

 どうやらうっかり遠くまで走りすぎて、シャリィやバリーが退治していた範囲を超えていたみたいだな……


 そう考えていたシンは、森に目を向ける。


「……」


 何か…… 感じる。

 いる…… 何かがいる……



 へぇ~、戦かって神経が高ぶった事で、最初気付かなかったあたいになんとなく気付いているソゥ~。



 あの生物の仲間か?

 だけど、それならなぜ襲ってこないんだ?

 兎に角、今のうちに走ってこの場を離れよう。



 シンは森の中を警戒しながらイドエに向かって走った。


 50mほど走り後ろを振り向いて、誰も付いて来ていない事を確認したシンは、前を向いて全力で走る。

 


「ギィ…… ギィ……」


「キシシッ!? まだ生きてたソゥ~。さぁ、入るソゥ~」


 シンが倒したゴブリンのそばに現れた者が、人差し指で手招きをすると、ゴブリンが一瞬宙に浮き消え去る。


 ……ゴブリンとの距離を詰める瞬間は真正面。だけど途中から僅かに軌道を変えてサイドに回り込んだソゥ~。

 見た事も無い足さばきで…… あれは引っかかるソゥ~。

 それに…… 子供程度だったけど、良い感じのイフトだったソゥ~。


「キシシシシ、面白かったソゥ~」


 その者は、シンの走って行った方角に目を向ける。


「決めたソゥ~。あいつとまぐわうソゥ~」




「ハァ、ハァハァ、ハァ、ハァ」


 イドエまで数百メートルの所へと戻って来たシンは、激しく息を切らしている。

 辺りは既に薄暗く、陽が落ちようとしていた。 


「シン」


 だっ!? あぁ、シャリィか……


 突然森の中からシャリィが現れた。


「ハァハァハァ、脅かすなよ。ハァ、ハァ、ハァ」


 シャリィはシンの持っている剣に視線を向ける。


「……何があった?」


「ちょっ、ハァ、ハァ、ちょっと待ってくれ、息が…… ハァ、ハァ、ハァ」


 少しだけ呼吸を整えたシンは、急いで先ほどの事を語り始める。


「旧道を走っていたら、ハァ、ハァ。良い感じの草むらがあって、そこで、ハァ、ハァ、拳闘の練習をしていたら、ハァ、小さな深緑色の気味悪い生物に襲われたんだ。これは、ハァ、ハァ、そいつが持っていた剣だ」


 そう言って、剣をシャリィに差し出した。


「……今直ぐ捨てろ」


「えっ!? あ、あぁ」


 シンは言われた通り剣を捨てた。


「手を出せ、魔法をかける」


 シャリィは剣を握っていたシンの左手に医療魔法をかけ始めた。


「……ゴブリンは衛生的ではない。次からは持ち物を拾ったりするな」


 ゴブリン……


「……分かったよ」


 つまり消毒してるのか……


「右手に怪我をしている……」


「あぁ、その生物を素手で殴ったからな。それで拳を痛めた」  

「……安心しろ、折れてはいない。お前なら2、3日で完治するだろう」


「……ありがとう」


 シンから礼を言われたシャリィは、神妙な面持ちになる。


「シン」


「……ん?」


「申し訳ない、今回の事は私のミスだ。どうやら、見逃していた様だ」


「いや、別に謝らなくても…… 俺が遠くまで行き過ぎたせいだ」


 シャリィは医療魔法をかけ終わると、宿に戻るように言う。


「バリーが居たらさっきの話をして、新街道側を頼むと伝えてくれ。私は旧街道を見て来る」


「あぁ、頼む。あ、シャリィ!」


 既に背を向けていたシャリィが振り向く。


「それとな、そこの森から少し変な感じがしていた」


 シンの言葉に頷いたシャリィは、己の実力の一端を見せつけるかのような凄まじいスピードで走り去って行く。


「……なんだよ。あのスピードは……」


 シャリィの圧倒的な強化魔法を目にしたシンは、数秒間あっけに取られていたが、バリーを探すために村へと急ぐ。



「シンさんお帰りでごじゃる」


「あ、あぁ。バリーを見てないか?」


「さっき戻ってきて馬小屋に向かってたでごじゃるよ」


「そうか、ありがとう」

 

 どうしよう……

 ゴブリンが出た事を正直に言うと、シャリィやバリーの信用に関わる…… よな…… それに、皆を不安に……

 だけど、何も言わない訳にもいかない。


「今は外に誰も出てないかな?」


「出て行った皆はだいぶ前に戻って来たでごじゃるよ」


 良かった……


「そうか。すまないけど、今から外に出る村人が居たら止めておいてくれ」


「分かったでごじゃる。いくらシャリィ様とバリーさんが魔獣を退治したといっても、夜は警戒した方がいいでごじゃるからね」


「……そう、そうなんだよ。夜はな……」


 門番との話を終えたシンは馬小屋に向かう。



 うーん…… ここで立っていればまたあのナイスミドルと出会える予感がしてたけど、運命ってそう簡単にはいかないわね……


「はぁー、残念だわ」


 そう言ってガッカリとしているバリーの元へシンがやってくる。


 あら、シン!? やはり私の運命の相手はシンなのね!


「うふふ、随分息をきらしてどうしたの?」


 まさかあちきに会って興奮しているのかしら?


「バリー、実は……」


 シンはかいつまんで、ゴブリンが出た事だけを話した。


「えっ!? ゴブが!?」


「あぁ、シャリィは旧街道を奥へと走って行った。バリーは新街道側を頼むって」


「分かったわ!」


 そう返事をしたバリーもまた、凄まじいスピードで門へと向かう。




 その頃、シャリィは旧街道から逸れ、鬱蒼とした森の中を走っていた。

 

「ザザザァ、ザアアァァアー」 

 

 草木や悪路をものともせず、シンに見せたスピードよりも更に早く走り続けるそのシャリィの目に何者かが映る。


「……」


 その者は、何やら得体の知れぬものと、まるで子供の様に戯れ合っている。

 何者かの接近に気付いたその者は、一瞬で素早く振り返り、迫ってくるシャリィに視線を向ける。  

 

「……」


 二人の視線が絡み合い、辺りに緊張が走る。




「……シャリィ」


 その者は、シャリィの名を口にする。



「……ゼロアス」


 シャリィもまた、その者の名を口にする。



「どういうことだ……」



 や、やばい、怒ってる。怒ってるよね!?

 これは…… 惚けても無駄だ…… 正直に言うしかない。



「あ…… あっ、アリッシュが突然現れて…… それで、何してるか聞かれて…… だから教えたら、見張りを交代してやるっていうから……」


「……アリッシュは何処だ?」


「さ、さっきウースに帰るって……」


 どうしよう…… 何とかシャリィの怒りを鎮めないと…… そうだ!?


「みっ、見てシャリィ、この子を!」


「……」


「ほらっ、シャリィのお陰でいっぱい食べたから、まだ足だけだけど、肉が付き始めたんだ」


 シャリィはゼロアスが撫でる魔獣の足に目を向ける。


「……」


「この子は特に元気でモリモリ食べてたか……」


「……ゼロアス」


「なっ、なに?」


 ゼロアスの言葉を遮ったシャリィは、シンやユウに見せた事の無い鋭い眼光を向ける。


「二度とさぼるな……」


 その言葉を残し、シャリィは一瞬で消え去る様なスピードで再び移動を始める。



 ……アリッシュの奴、何にもしないって言ったくせに!? 僕まで怒られちゃったじゃないかぁ!


「いいいー、いいいいぃぃー、アリッシュの馬鹿あぁー」



 その頃バリーは、新街道側の森の中に居た。


 まさかゴブが現れたとはね~。

 よくも…… よくもあちきとシャリィに恥をかかせてくれたわね!

 

 この辺りに魔獣は一匹も居ないと胸を張っていたが、現れたゴブリンによって顔を潰された。

 そう感じて、温厚なバリーが珍しくイラだっていた。


 見つけ出して、キッチリ殺ってあげるわ。

 だけど…… さんざん見回ったけど、村の周囲に巣は無かったのよね~。

 と、いう事は、フリーゴブかも…… それなら、尚更……

 

 


「ズザザザザアー」


 暗くなってきた森の中を、凄まじいスピードで移動している者が何かに気付く。

 

 あれ? 誰かこのあたいに追いついてきているソゥ…… って、そんな奴はシャリィしかいないソゥ~。


 アリッシュが立ち止まると、シャリィが直ぐに追いつく。


「コホンッ。よぅ、シャリィ~。久しぶりソゥ~」


「どういうつもりだ……」


「え、えーと、何のことだソゥ~」


 鋭い眼差しを向けるシャリィ。



 あちゃ~、本気で怒ってるソゥ~。



「あー、あいつがー、拳闘の練習しててソゥ~。珍しい動きをしてたり、想像の敵があたいにまで伝わるように戦ってたから興味湧いちゃったソゥ~」


「それで試したのか……」


「う~、そうかな~、いや、違うソゥー」


「……」


「想像の敵だけだと物足りないと思って、親切心から手伝ってあげたソゥ~。何かあれば直ぐに対応出来る距離で監視してたソゥ~」


「……」


「お、怒ってるソゥ~?」


 オドオドとした態度のアリッシュを見つめるシャリィ。


「……何匹捕まえた?」


 その言葉で、アリッシュはホッと胸をなでおろす。


「限界まで捕まえたソゥ~」


「……シンと戦わせた奴は?」


「な、中にいるソゥ~」


「出してくれ」


「え~と、え~と……」


 アリッシュは人差し指を眉間につけて目を閉じる。

 そして、何かを探す様に軽く頭を前後左右に動かす。


 シャリィのプレッシャーが凄いソゥー!

 あ、あせってると、直ぐに探せないソゥ~。


「……居た! こいつだソゥ~」


 そう言うと、先ほどシンと戦ったゴブリンがシャリィの前に突然現れる。


「ギィ……」


 シャリィは即座に剣を抜き一瞬で首をねる。


「ドサッ。ゴロンゴロン」


 まるで苦楽を共にした胴体に別を告げるかの様に、ギョロギョロと目を動かしながらゴブリンの頭は転がって行く。


 ……なにも殺さなくてもいいソゥ~。そいつは知能が低くて言葉を話さないし、何も理解してないソゥ~。

 相変わらず、徹底してるソゥ~。


「後始末を頼む。火は使うな。終わったら直ぐにウースに戻れ」


「……分かったソゥ~。森の奥に埋めてくソゥ~」


 しょんぼりと項垂れるアリッシュ。


「アリッシュ」


「な、何ソゥ~?」


「遠くまでご苦労だった」


「あ、あたいの足ならどこまでも平気だソゥ~」


 先ほどまでの落ち込みが嘘のように笑みを浮かべる。


「……シンの詳細は秘密にしていろ」


「分かったソゥ~。ウースの連中には言わないソゥ~」

 

 シャリィがイドエに戻ろうと背を向けたその時、アリッシュは声をかける。


「待つソウ~、ゼロアスからイプリモの事はもう聞いたソゥ~?」


「……いや、まだ聞いていない」


「いつもの連絡だソゥ~。変わったことが一つだけあったみたいソゥ~」


「分かった、帰りにゼロアスに会って聞いておく」


 シャリィは再び強化魔法を使い戻って行った。



 ……あの雄は気に入ったソゥ~。例えシャリィを怒らせても、あたいはまぐわうソゥ~。

 もしも、見た目と違い下手糞であたいを気持ち良くさせないなら…… ボッコボコにしてやるソゥ~。

 キシシシシシ、どっちにしても…… 楽しみソゥ~。


 そう心で笑った後、ゴブリンの死骸に目を向ける。

 

「……ハァ~、このくせーゴブリンあたいが片付けるソゥ~? 燃やしたら駄目ってあたいへの罰ソゥ~。う~ん、ゼロアスにやらせたいソゥ~」



 陽は完全に落ち、辺りは暗闇に包まれていた。



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