93 光り輝く者 セカンド
バリーがイドエを訪れた事が村中に広まるのに時間は必要なかった。
ナナの祖父、ドリュー・ロスは……
「新しい冒険者が来ただと!?」
そうやってどんどん仲間を増やして、結局は力で村を掌握するつもりかの……
ヨコキは……
Aランク…… 農業ギルドに対抗する為に援軍を呼び寄せたのかい坊や……
ふん、それも織り込み済みさ~。
「シャリィ、バリーは?」
「部屋で眠っている」
「ふ~ん、ほとんど寝ずにここまで来たって言ってたから爆睡だろうな」
部屋にトイレがないから、バリーが寝ている間にトイレを済ませておこうっと……
「バリーには主に村内の情報収集、そして村周辺の警備を任せようと思っている。魔獣は減ったとはいえ、まだまだ多い。私は周辺の町で農業ギルド、そして
「……あぁ、それで頼む」
シャリィはそう返事をするシンをジッと見つめている。
「シン、ヨコキの様子に気づいているのか?」
「……ヨコキさん」
「そうだ。原則として村への客の出入りは自由にさせているが、それは継続してかまわないのだな?」
「……農業ギルドか?」
「今のままでは、客を装って会いに来るのは造作もない」
考えてみれば当然か…… ヨコキさんは元々この村の人ではない。
だけど、ヨコキさんに
何か信用出来る材料があっての事だと思っていたが…… どうやら、良くない方の様だな……
「……構わないさ、ここで会ってくれた方が動きが分かりやすい」
「……分かった。バリーが目を覚ましたら、そう伝えておこう」
今のヨコキさんに反村長派が集まるのは当然。
それも、想定内なのか村長さん……
太らせるだけ太らせて、副村長の死で行き場が無くなっても尚邪魔立てする反村長派と共に排除する……
村の人間でないなら、時が来れば力で…… 相手は、シャリィとは違いただの女性だ。
そして、村長さんの腹を読んでいるからこそ、反目に回るつもりかヨコキさん……
出来る事なら、ヨコキさんとは…… 争いたくない……
村長さん…… あなたの苦しみは、俺には計り知れない。
だけど、村の復興を強く願うばかり、あなたは何かを忘れてしまっている……
次の日……
モリスの食堂で、4人は朝食をとっていた。
「あーーー、昨夜はたっぷり寝たわ~」
「それは良かった」
「熟睡しすぎて毎日見ていたシンの夢を見なかったぐらいよ~」
毎日って言いすぎだろ!?
毎日!? どれだけシンを好きなのだろ……
「まぁバリー、今日から宜しく頼むよ」
「まかせておいてぇ~、バリバリ働くから~。けど~、その代わりご褒美ちょうだいねシン、ユウちゃ~ん」
「ご褒美?」 「ご褒美ですか?」
シンとユウはハモる。
「そうよ~二人共~、簡単なご褒美よ~」
簡単? 嫌な予感が……
簡単? 嫌な予感しかしない……
「二人で、両方から同時におやすみのキッスをし・て・ね」
バリーはそう言いながら、首を傾げ、自分の両頬に人差し指を当てる。
うっ……
うっ、気色悪い……
「……えーと、バリーさん」
「なっ、何~シン? 急にさん付けで呼んだりして?」
「お世話になってませんがお世話になりました。イプリモでも何処へでも好きな所へどうぞお帰り下さい」
「もぅ~、怒んないでよ~、冗談よ、冗談」
その時、ユウは思っていた。
まさか、まさか僕までもが狙われているなんて……
こっ、怖い……
三人の会話を聞きながら、シャリィは微笑んでいた。
「バリー」
「なーにシャリィ?」
「さっそくで悪いが、食事の後、麦畑に行ってもらいたい」
「畑? いいわよ~」
「シャリィ、畑にまだ魔獣が出るのか?」
「あぁ、それもなんだが、それ以外にも困っている事があって警備の者から相談された」
「魔獣以外にも?」
この時、シンとユウは顔を見合わせる。
麦畑か…… 今のタイミングで、一度見に行っておくか……
いったい何だろう、バリーさんに頼む魔獣以外の困りごとって? 興味がある……
「シン……」
「うん?」
「僕達も畑に付いていってみない?」
「ちょうど俺もそう思っていたよ」
シンは笑顔で頷く。
「良いですかシャリィさん?」
「良い。バリーと一緒なら問題ない。だが、あの子達はいいのか?」
「あっ、そうか!?」
「一緒に連れて行けばいいさ。毎日毎日野外劇場やら、プロダハウンばかりだから、畑に行けば少しは気晴らしになるかもな」
気晴らし…… うん、僕にも必要だ!
「うん、そうだね! じゃあ、プロダハウンで待ってて、皆が来たら門に行くよ」
「そうだな、俺も同じようにするよ」
シン達が会話している間、バリーは満面の笑みを浮かべている。
「やったわ~、初日から二人と一緒に居られるなんて~」
「……」 「……」
「よっしゃー、いっちょやったるか!!」
急にドスのきいた低い声に!? やめておけばよかった。
急に男言葉に!? 付いて行くなんて言わなければよかった。
シンとユウは、同じ事を思っていた。
「フッ」
ユウは胸の高鳴りを抑えきれず、モリスの食堂から一番先に飛び出し、プロダハウンで少女達を待っていた。
「まーた外で待ってるっぺぇーよー」
「クルクルクル~」
「ナナの事が心配みたいっぺぇねぇ~」
「リン!」
「うそうそ、冗談っペぇ、怒るでないっペぇ」
ユウは少女達に笑顔を向けあいさつをする。
「おはようございます」
少女達が挨拶を返す暇も与えず、要件を述べる。
「あのね、今日は麦畑に行こうと思っているんだけど」
「麦畑?」
「うん! バリーさんとシン達と一緒に麦畑に」
「それってアイドルと関係あるっぺぇかぁ?」
うっ、リンちゃんその質問は……
「そっ、それは関係無いけど…… あのー、気晴らしと言いますか、その~」
気晴らしか…… たまにはいいぺぇねぇ。
「クルクルクル、お外に行けるの?」
「うん、麦畑までだけど」
「クルクルー、やったー」
「良かったねクル」
「うん!」
その時、リンは皆の頭を覗き込む様なそぶりをする。
「畑っぺぇかぁ…… 皆
リンの問いかけにキャロが返事をする。
「この前ストビーエで貰ったのつけてるよ」
「そうだったっぺぇ、皆つけてるっぺぇーね。じゃあ大丈夫っペぇ」
……何が大丈夫なのだろう?
少女達の会話を不思議に思いつつ、門に向けて皆で歩き始めた。
一方、野外劇場でも……
「と、いう訳で今日は今から麦畑に行こうと思っている」
「フォーワー」
「行くっペぇ行くっペぇ!」
「今日は麦畑と昼からの練習だけだっペぇ?」
「そうだな、麦畑にどれだけいるか分からないけど、基本そんな感じになるかな」
「シン」
騒いでいる他の少年達とは違い、落ち着いた表情でピカワンがシンを呼ぶ。
「どうした?」
「畑に行くのは分かったっぺぇけど、おら達は
「ん? あー、別に畑で仕事をする訳じゃないから何もいらないよ」
「……そうっぺぇか」
少し不安そうなピカワンにフォワが話しかける。
「フォワー、フォワフォワ」
「そうっぺぇね、シンが居れば大丈夫っぺぇね」
そう言ってピカワンとフォワはシンに目を向けた。
「よーし、皆行くぞー」
シン達が門に着くと、ユウ達は既に到着しており、少女達はバリーとの会話を楽しんでいた。
「お待たせお待たせ」
「あらシン」
バリーがシンの名を呼ぶと、少女達は含み笑いをする。
「クスクス」
「クルクルクル」
「フフフ」
その様子を見てシンは思った。
バリー、いったい何を吹き込んだんだ……
ん~、まいっか……
「じゃあ行くわよ~、皆あちきについておいでぇー」
「はーい」
少女達は揃って返事をした。
「気を付けて行ってくるでごじゃるよ」
「あぁ、ありがとう。じゃあ行ってきまーす」
門番に礼を言い、全員で村の外に出る。
麦畑に行くには、村を取り囲んでいる防壁沿いに進み、門の反対側に行く必要がある。
今ほど魔獣が多くない時は、畑に近い別の門も存在していた。だが、現在は封鎖されている。
「シーン」
「何だよバリー」
「魔獣がいるかもしれないからあちきにピッタリと引っ付いててね」
「クスクスクス」
「クルクル~」
「プフフフ」
バリーの言葉で少女達は笑っている。
「いいよ俺は。それよりいざって時は他の皆を優先してくれよ」
「うふ、優しいのね~。だから大好き~」
「プフフフフ」
「ウウウウ」
「フォワ~」
その言葉で、少女達だけではなく、少年達も笑っていた。
……正直バリーを避けたいけど、これから色々頼み事もあるだろうから、そういう訳にもいかないよな。うぅ……
シンは苦悩していた。
防壁を門の反対側まで進み、勾配のある森の中の道を歩いて行くと、急に木々が少なくなってくる。
そして、その先には平坦に開けた広大な麦畑が見えて来た。
「おぉー」
「うわー」
シンとユウはその広さに驚いて思わず声をあげてしまった。
まさかここまで広かったとは……
凄い、森を抜けたら、こんなにも大きな畑が……
麦畑にはそこで働いている村人と、警備をしている者達が見える。
その中の一人が、シンに気付いて走って来る。
「シーン、久しぶり~」
その人物は…… なんと、メンディッシュだった……
胸の前で両手を揃え、クネクネと走って来るメンディッシュを見た少女達は、目を見開き笑顔になり、何かを期待している。
「おっ、おう、メンディッシュ、最近会ってなかったな」
そう言われたメンディッシュは、にこやかな笑顔を向けた後、当然の如く、バリーにはシンの時とは違う真逆の鋭い視線を向ける。
「ふ~ん、あ・な・たがシンの良い人~。もう既にお噂は聞いているからね~」
「あら~、どんな噂かしら~。もしかしてあちきとシンの結婚の話しかしら?」
「フォワ!?」
「クルクルクル!?」
「結婚するっぺぇ!?」
驚く少女達に、シンは左手を振りながら突っ込む。
「いやいや、しねーから」
「フォーワー」
「焦ったって言ってるっペぇ」
「……信じるなよフォワ」
メンディッシュはバリーに鋭い視線を向けながら思っていた。
シンに条件を付けて名前と歳を聞くだけの軽いお願いで済ませたのは、好印象を与えるため……
その後、しばらく会わない様にして、逆に気になる様に背けていたのに……
こんなにも良い男だから良い人がいるのは当然としても、まさかイドエにまで追いかけて来るなんてね……
しかも、流石シンが選ぶだけあって、なかなか素敵な人じゃなーい。
バリーはメンディッシュの視線を受けながら思っていた。
ふ~ん、この子がこの村の恋人なのね~。
一流の冒険者は村々町々に良い人がいるというわ~。
シンだって、これだけ良い男なんだから、本命のあちき以外がいても驚きもしないけど…… なかなかどうして、あちきには及ばないけど素敵な子じゃなーい。
二人は偶然にも、お互いを認め合っていた。
「クルクルクル」
少女達はまるで昼ドラでも見ているかのように、固唾を呑んでその状況を見ている。
そしてその時、リンがある事に気付く。
「ナナ、メンディッシュって、前はあんな感じじゃなかったっぺぇ」
「うん、そうっぺぇね。普通の男だったっペぇ」
「……もしかして」
「もしかしてどうしたっペぇ?」
「クルクルクルー、どうしたの?」
他の少女達も息を呑みリンの言葉を待っている。
「もしかして、バリーさんもシンに会うまでは普通の男だったっぺぇ?」
「クルクル!? どういう意味なの?」
ナナは、リンの言葉でゴクリと喉を鳴らす。
「そっ、それって、結果的にシンがあの二人をそうさせているって事だっペぇ? そう言いたいっぺぇ?」
ナナの言葉で、リンはゆっくりと頷く。
「もっ、もしその通りなら、シンに好感を持っているピカワンも……」
その時少女達は、全員が同じ想像をしていた。
「いやっぺぇ! ピカワンそれは嫌だっペぇ!?」
突然のリンの大声に驚いたピカワンはキョトンとした表情で少女達を見ている。
「クルクルクル!? ピカワンもあんなのになるの!?」
「クル、あんなのとか言っちゃ駄目。だけど…… なるのかな?」
ピッ、ピカワンが…… この二人みたいに……
ナナはそう思うと、身体がブルっと震えてしまった。
「ピカワン!」
「何だっペぇリン?」
リンはピカワンの両肩を掴み前後に揺さぶる。
「頼むから正気に戻るっペぇ! 絶対駄目だっペぇ!」
「なっ、な、なんの話っペぇ?」
二人のやり取りを見て、フォワは首をかしげていた。
「フォワ?」
良からぬ状況に進んでいると感じたシンは、睨み合っているバリーとメンディッシュの間に割って入る。
「ちょいちょいちょい、今日は用事で畑に来たんだから…… なっ!?」
「用事って、本当は……」
メンディッシュはバリーへの視線を切り、自分に指をさしながらシンに笑顔を向ける。
「会いに来たのよね、シン?」
ややこしくすんな!
その一言で、更に悪くなりそうな空気を変える為、シンはわざと大きな声を出す。
「えーと、シャリィが警備から困っていると相談されたとか何とか」
「あー、あの件ね」
そう言ったメンディッシュは、畑に目を向ける。
「あれよ、あれ」
視線の先には、村人が棒の先についた長い紐をブンブンと振り回し、何かを追っ払っている様子が見える。
「うん? あれは何をしているんだ?」
シンの質問に、メンディッシュが答える。
「鳥よ鳥」
「鳥?」
「そう、魔獣が減ったのは良いけど、その弊害かな~? 沢山の小鳥が畑を荒らしにきて困ってるのよ~。今までは幹部達の仕事だったけど、皆逃げていなくなっちゃったから、適任者がいなくてね……」
幹部達の仕事? うーん?
兎に角、そういう困り事か……
何か異世界らしい凄い困り事かと期待していたけど、これはこれで、村唯一の収入、畑の収穫に影響するから軽視出来ない。
ユウはそう考えていた。
「そうか、せっかく魔獣が減って働きやすくなっても収穫が減れば意味ないもんな」
「そうなのよ~。もうね、今まで見た事も無い凄い数で、ここに居る者だけではどうしようもなくてね。それで……」
その時、遠くからメンディッシュを呼ぶ声が聞こえる。
「あっ、呼ばれてるからちょっと行ってくるね。何とかお願いね」
メンディッシュはそう言い残し、仕事に戻って行った。
「シン、どうする?」
「う~ん」
シンは少し困った表情を浮かべながら畑を見回すと、ある事に気が付く。
「あっ!?」
「どうしたのシン!?」
「見ろよユウ畑を」
そう言われたユウは、目を凝らして畑を見つめるが、シンが言いたい事に気付かない。
「何だろう? 分からない……」
「ないじゃん、あれが!」
「あれ?」
「そう、あれだよ、あれ」
シンはそう言うと、森の中に入って行く。
少年少女達は、そんなシンの行動を黙って見ている。バリーまでも。
うふ、何をするつもりかしら、楽しみだわ~。
「ユウ、ちょっと手伝ってくれよ! 皆は取りあえず、少しでも小鳥を追っ払っててくれ」
「分かったっペぇ」
「フォワ!」
「クルクルクル!」
少年少女達は畑に入って行き、村人と一緒になって小鳥を追い始めたが、バリーはその場を動かず、シンとユウを見つめている。
シンは落ちている木の枝と
それを見ていたユウは、シンの意図に気付いた。
「あっ! そうか!? これか……」
「ユウ、ここを抑えてくれ」
「うん!」
「次は、そこの草を切って、束ねてこんな感じで」
「うんうん! そうだね」
二人で作業する事20分ほど……
「よし! ありがとうユウ、取りあえず二つ完成だ!」
「うん!」
流石鳶の棟梁! 道具も無いのに器用で仕事が早い! もう二つも作っちゃった。ふふふ、作っている時、凄く楽しそうな表情をしてたね……
「これに……」
そう言うと、シンは服を脱ぎ始める。
それを見ていたバリーは思った。
わぉー、ナイスバディ!
「おーい」
少年少女達が声のする方に目を向けると、上半身裸のシンが何か大きな物を持っているのが見える。
「フォワ!?」
「シン裸だっぺぇ」
「シシシシ、流石に鍛えてるっぺぇーねぇ、良い身体してるっペぇ」
リンはシンの上半身を見てニヤニヤしている。
「クルクル~」
「クルは見ちゃ駄目だからね」
そう言って、プルはクルの目を手で塞ぐが、プル自身はシンの上半身をチラチラ見ていた。
畑に入って来たシンの元へ、興味を抱いた皆が集まって来る。
「シン、何だっペぇそれ?」
「これか? これはな、かかしって言うんだよ、かかし」
「かかし!?」
「フォワ!?」
「そうか、皆はかかしを知らないか」
そう言ったシンはにこやかな笑顔を浮かべている。
それを見ていたユウは思っていた。
もしかして、この世界にはかかしが存在しないのかな?
それとも、この辺りの人達だけが知らないとか?
「俺の服を着せたこいつをな、畑にぶっ刺す」
そう言いながらシンは、かかしを畑に刺した。
そして、ユウが持っていたもう一体のかかしも間隔をあけた場所に刺し、皆で畑から離れてその様子を眺め始める。
「見てなー。小鳥達は、あのかかしを人間だと思って恐れて畑に入ってこなくなるんだ」
「……ふ~ん」
嬉しそうに語るシンの説明に対して、ピカワンは気のない返事をする。
「何だよピカワン、かかしの力を疑っているのか? ほらほら見てみろ! かかしがある所だけ小鳥が居なくなっているだろ!?」
「そうっぺぇねぇ、確かに小鳥は居なくなってるっぺぇけど……」
ピカワンがそう答えている最中、かかし目掛け、大きな影が迫っていた。
「バサー! バギバギバギ!!」
その大きな影は、上空から猛スピードで滑空し、鋭い爪で一瞬でかかしをなぎ倒すと、再び上空へと飛び去る。
シンとユウは突然の事に驚き、声を失っている。
「……」 「……」
「んっふふふ」
そんな二人を見ていたバリーの笑い声が漏れてしまう。
「……ピカワン」
「どうしたっぺぇシン?」
「……あの馬鹿でけー鳥はなんだ? 3mぐらいあったんじゃねーか……」
「あれはアカメっぺぇ。シンはアカメを知らないっぺぇか?」
「あぁ、知らない。あんな化け物みたいな鳥がいるのか?」
「この辺りでは珍しくないっぺぇーよ」
「あいつ…… どうしてかかしを壊したんだ……」
「うーん、獲物と勘違いしたのか、それか、あの鳥は頭がいいっぺぇから、馬鹿にされていると思ってわざと壊したのかもしれないっぺぇね」
ピカワンがそう説明している最中、もう一体のかかしも同じアカメに壊されてしまう。
「バキバキバキバキ!」
「あー、さっきと同じ
お、俺の服が……
シンとユウは口を大きく開け、ポカーンとした表情で上空を飛ぶアカメを見ている。
「あっ、ああ、あんな大きな鳥に、人は襲われたりしないの!?」
ユウはピカワンに訊ねる。
「たまに襲う時もあるっペぇ。だから村から出る時はリン達みたいに髪飾りとかを付けてるっペぇ」
二人が少女達に目を向けると、ストビーエでおまけで貰った髪留めを付けていた。
「村の中は、建物の屋根とかについてるから心配ないっぺぇ。おら達は服とかに付けるっペぇけど、今日は急な話で持ってなかったっペぇ。いざって時はシン達が守ってくれると思ってたっペぇけど、アカメを知らなかったみたいっぺぇね」
「おらのは付いているっペぇ、ほれ」
そう言ったノアの服を見ると、鈍くはあるがガラスの様な物が服に縫い込まれていた。
「……なんだそれ?」
「アカメは目が良くて、
ひっ、
ひっ、光り者だって!?
「コホン」
シンは咳払いをした後、ある人物の元にしらじらしく近付いていく。
そして、ユウもシンと全く同じ行動をする。
「……二人共、どうして急にあちきに近寄って来るの? さっきまで避けていたくせに……」
「えっ!? べっ、別に近付いてないよ、なっユウ」
「う、うん! 別にバリーさんに近付いてないですよ」
二人の行動を見た少年少女達から笑い声が漏れる。
「クッククク」
「笑うなっぺぇ。バリーさんに悪いっペぇよ」
「フォ、フォ、フォワ~」
「フォワも笑うなっペぇ」
「ハゲが光ってるから、そこに避難したっぺぇ、クククク」
「バリーさんの頭は、天然アカメ返しだっぺぇ」
「くっ!? き、聞こえるっペぇーよ、クプフフフフ」
シンはその声を誤魔化す様に大きな声を出す。
「だったらさー、かかしにも光る物を付ければいいだけだな。あは、あははははは」
シンの案に、ピカワンが異議を唱える。
「……それだとアカメは寄ってこなくなるっペぇけど、魔獣には効果ないっぺぇ。あんな人型の物を畑に置いていたら、魔獣が畑に入ってきて荒らすかも知れないっペぇーよ」
うっ、確かに!? ピカワンの言う通りだ。かかしは魔獣を呼び寄せてしまうかもしれない……
だから畑にはかかしがないのか……
「そっ、そうだな。かかしは、撤去しよう」
そう言ったシンは、ションボリとしている。
バリーはそんなシンを見て、可愛いと感じてしまう。
あ~、愛おしいわ~。
「畑にもアカメ封じしているはずだっぺぇけど、ちょうどここは外れてたみたいっペぇーね」
「そうか、それも直しておこう」
シンはまだションボリとしていた。
「うーん、それならどうやって鳥を……」
ユウの声を聞いたバリーはニヤリと笑みを浮かべる。
「大丈夫よ~、あちきはその為に畑に来たんだからね~」
バリーは畑にいる鳥の方を向くと……
「……ほれ!」
その声の後、シンとユウ以外の者達は、驚きの声をあげる。
「うわー」
「クルクルクルー」
「凄いっぺぇー」
「フォワ~」
……流石Aランクっぺぇ。いとも簡単にイフトを操っているっぺぇ。
ナナはバリーに感心している。
……どうやら俺とユウ以外は、何かが見えている、いや、感じているのか?
他の村や町に比べると、イドエは圧倒的に魔法に触れる数が少ないはずだ。
それなのに、皆は既に……
この時シンには、いくつかの疑問が思い浮かぶ。だが、今はそれを考える事をしなかった。
いったいバリーさんは何をしているのだろう!?
皆は分かっている様だけど…… 僕も、僕も知りたい!
皆に聞くわけにはいかないから、後でシャリィさんに聞いてみよう!
バリーが
「これだけの畑だと終わるまでかなりの時間がかかりそうね。一旦皆を村まで送って行くわ」
どうやら俺達は役不足の様だな。
「あぁ、それはありがたいけど、もうしばらく見ててもいいかなバリー」
「うふ、いいわよ~」
んふふふふ、どうやらあちきの魅力に気付いた様ねシン。
あなたは、あちきのものよ……
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