92 デスティネーション



 モリスの食堂にて、少年少女達はシンに甘い声でちょっかいを出すバリーを、まるで初めて見た珍獣の様な目で見ている。


「フォーワーーーー」


「クルクルクルー、あんな生物いきもの初めて見たよお姉ちゃん」


「クル、生物とか言っちゃ駄目。気持ちはわかるけど……」


「何者っぺぇ、このハゲ……」 


「クネクネして気持ち悪いっペぇーよ」


「シンに…… シンにべたべたしてるぺぇ……」



 ったく、人手は欲しいが、まさかシャリィがバリーを呼んでいたとは……



 馬小屋に行ったはずのシンが、奇妙なハゲを連れ戻って来た事に驚いていたピカワンは意を決してシンに訊ねる。


「……シン」


「バリー、ベタベタすんなって! おぅ、ピカワンどうした?」


「……誰だっペぇこれ?」


「あー、これはな……」


「なに~、二人してこれとか酷いわ~。ってゆーかー、この村の方言なの、語尾にぺぇってつけるのは? さっきの門番の話し方も変わってたけど、うふ、可愛くて痺れちゃうわ~」


 この時、全ての少年少女達は同じ事を思っていた。



 うっ! 気持ち悪い…… ぺぇ……



 その時、ちょうどユウとナナがモリスの食堂に到着し、見覚えのある後ろ姿を見たユウは目を細める。


 うん? あれ、誰だっけこの人? ハゲている……


「……あー!?」


 ユウの声に驚いたバリーはドアの方に振り向く。


「なっ、なにー!?」 


「こっ、この、この……」


「この? 何なのー?」



 この人…… 確かイプリモに居た第二ハゲだ!?

 そうだ、そうだ間違いない!   



 ユウは目を見開き、驚愕の表情でバリーを見つめる。


「あら~、よーく見ればユウちゃーんじゃないの~。可愛い子連れちゃって~、彼女なの~、うふ~」


「だっ!? 誰が!? かっ、彼女じゃないっペぇ!」


 バリーを睨みながら、ナナは大きな声で否定する。



 うっ…… 第二ハゲ相変わらず薄気味悪い!

 けど、どうして、どうしてイドエに!?


 呆けているユウに向け、シンが説明をする為に口を開く。


「あ~、あのなユウ。こいつはバリーって名前で、見た事あったっけイプリモで?」


「うっ、うん、知ってる」


「どうやらシャリィに呼ばれて、ここに来たらしいんだ」


 シャリィさんに?

  

「そうよ~。ここからそう遠くない所で受けた依頼をこなしていたら、呼ばれちゃってね、大急ぎで来たのよ~。と、いってもイプリモに用事があったから、大分かかっちゃったけど」



 依頼? まっ、まさか…… 冒険者なの?


 

「バリー、何しにイプリモに?」


「そんな事より聞いてシ~ン」


「なっ、何だよ?」


「イプリモからここまで、殆ど寝ないで来たのよー。村があればバテた馬を新しく乗り換え、町に着けばまた馬を乗り換え、そうやって不眠不休でここまで来たの~、本当に大変だったの~」


「そっ、そうか、それは大変だったな」


「それもこれも、全部……」


「全部なんだよ?」


「シ・ン・に……」


「……」


「シンに会いたかったから!」



 そう言うと、バリーはシンに抱き着く。



「うーーおーーー!!」



 バリーに抱き着かれたシンは、悲鳴に近い唸り声を上げた。



「フォーワー」


「クルクルクルー!」


「なんだっぺぇ!?」



 バリーの行為を目撃した少年少女達からどよめきが起きる。



「ジュリ、見たらいけません! こっちにおいで」


 口をポカンと開けてその様子を見ていたジュリの手を引くモリス。


「あっ、お母さん……」


 ジュリは少し残念そうな表情を浮かべ、モリスと厨房に入って行く。



「なー、ななな、何すんだお前!?」


 シンは力で無理矢理バリーを引き剥す。


「あん、つれないのね~。これぐらいのご褒美くれてもいいじゃな~い?」


「あんとか言うなよ!!」  


「講習ではあんな事とか、ここでは言えない秘密なプレイをいっぱいしたのに~」


「はぁ~?」



 バリーの言葉を聞いた少年少女達が騒ぎ始める。



「フォワ!?」


「あんな事って何だっペぇ~?」


「さぁ、おらには分からないっペぇ~」


「クルクルー、プレイ!?」


「駄目ー、クルは聞いちゃ駄目ー」



 シンはその言葉を激しく否定する。



「ふっ、ふざけんな! 俺を動けなくしたシャリィと組んでやがったくせに! あーあーあー、嫌な事を思い出してしまったわー」


「うふ、照れちゃってぇ~。やっぱり可愛いー」



 ……だっ、駄目だ。バリーと話しているとめ、眩暈が……



「ちょっと俺、馬小屋に行ってくるよ」


「あー、あちきも……」


 何か言い始めたバリーにシンが速攻遮る。


「俺一人で行ってくるから!!」


 シンは馬小屋に行く前に、厨房に居るモリスに小さな声で話しかける。


「モリスさん、バリーの部屋は俺の部屋から1番遠い部屋でお願いします」


「はっ、はい。分かりました」


 そそくさとその場を離れようとしているシンにモリスが声をかける。


「メンディシュには内緒にしておきますね」


 ドアに向け歩いていたシンは、その言葉を聞いた途端ピタっと歩みを止めるが、また直ぐに歩き始める。


「ふふっ、ふふふ」


 この時モリスは、笑いをこらえる事が出来なかった。

 


 

「ねー、お水を一杯頂けるかしら?」


 バリーはモリスの友人に水を頼むと、椅子に腰を下ろす。


 少年少女達は食事をする事すら忘れ、バリーの一挙一動に釘付けになっている。


「あら~、そんなに見詰めちゃってぇ、あちきみたいな素敵な人を見た事無いのね~」



 素敵? どうやらおらの知ってる素敵の意味とは違うみたいっぺぇ……


 何言ってるっペぇこいつ?


 クルクルクル、凄い自信…… 


 それにしても高い声っぺぇ…… 裏声っぺぇかぁ?



「ねぇ、どんな知り合いっぺぇ?」


 バリーをジッと見つめていたナナがユウに問いかける。


「知り合いというか、面識はあるけど僕は話した事も無くて……」


 そう、ユウちゃんなんて呼ばれるほどの間柄じゃない。

 それにしても…… さっき依頼って確かに言っていたよね。



「あっ、あのー」


 ユウは好奇心を抑える事が出来ず、バリーに話しかける。


「なーにユウちゃーん?」


 満面の笑みでそう返事をするバリーを見て、ユウは少し気分が悪くなってしまう。


「……お名前はバリーさんですよね?」


「そうよ、あちきはバリー・ヘリントン」



 ヘリントン!? バリー・ヘリントン…… うーん、何処かで聞いたような名前だ……



「バリーさんは、冒険者なのですか?」


「うん、そうよ、あちきは冒険者よ」

 

 やっぱり…… さっき講習とか言っていたけど、シンの講習はもしかしてこの人が……

 だからシンは親し気に話していたのか!?


「あのー」


「はーい、ユウちゃーん」


「……バリーさんの冒険者ランクは?」


「ランク? あちきはAランクよ」



 その言葉を聞いた瞬間、ユウは目を見開き驚く。



「えっ、Aランクですか!?」


「なにー? 急に大きな声をだして? そうよ、Aランクよ」



 最高ランクの冒険者に続いてAランクまでも……



 モリスの店で手伝いをしているタニアは食器を下げながら眉をひそめる。



「このハゲAランクだっぺぇあ!?」


「フォワー!?」


「Aランクって滅多にいないレベルって聞いた事あるっぺぇ! 嘘っペぇ!?」


「ハゲているのに凄いっペぇ!!」


「もしかして、Aランクになるとハゲるっぺぇあ!?」



 なっ、何という剛速球!

 まぁ確かにハゲてはいるし、僕も心の中ではそう呼んでいたけど……



「ハゲにハゲって言った人は将来ハゲまーーす」



 うっ!? さっ、流石Aランク、見事な切り返しだ……



「うわぁぁぁぁ、いやだー、おら、おら、ハゲたくないっペぇ!」


「呪いっペぇ、ハゲの呪いをかけられたっペぇ!?」


「フォワ……」


「いやっぺぇ、いやっぺぇ」


 バリーの言葉で、少年達は大騒ぎし始める中、ユウは安堵の表情を浮かべていた。



 良かった…… 僕は口に出してないからセーフだ。



「心で思っていた人もハゲるからねー」



 うっ!? アウトだったか……



 皆が大騒ぎしている中、ナナは冷静にバリーを見つめていた。

 

 Aランク…… とてもそうは見えないっぺぇけど、シャリィ様の知り合いなら、凄い冒険者なんだっぺぇ……



「ユウちゃーん、そういえばシャリィの姿が見えないけど、どこなの~?」


「あっ、はい。えーと、シャリィさんはたぶん魔獣退治…… かな? 僕も何処に居るのかまでは知らなくて。けど、お昼を食べにこの店に戻ると思います」


「ありがとう。それならあちきも何か食べながら待ってようかしら。ユウちゃーん、お薦めある?」


 ちゃんじゃなくて、ちゃーんって伸ばすのやめてくれないかな……


「お薦めはお芋のスープですけど、品薄なのと人気で……」


「あー、あちきそれが良ーい。ねー、お芋のスープあるかしら?」


「はい、ございますよ」


「あるの? やったぁー、それとパンをお願いねー」


「はーい」 



 その時、少年達は思っていた。



 あのハゲはパンを食うっペぇ? 


 意外だっペぇ、主食は昆虫と思ってたっぺぇ……

 

 フォワ~……


 普段は木の幹とか根っこをかじってそうぺぇ…… 


 おら達の前だから無理して人間の食べ物を食べようとしてるっペぇ?



 どうやら少年達は、初めて見る異様な生物バリーに激しい偏見を持っている様であった。

 その後、昼休憩を終えた少年少女達は、バリーを食堂に残し再びプロダハウンと野外劇場に戻っていった。



「あ~、満腹だわ~、お水のおかわりいいかしら~」


「はーい」


 直ぐに水を持ってきたモリスやその友人を、バリーは水を飲みながらジッと見つめている。


 ……ふ~ん、噂で聞いていたより愛想がいいわね。

 少なくともこの店の人達はシンやあちきに偏見を持っていないみたいだわ。

 さっきの子達も可愛かったし…… んふ、悪くないじゃなーい。

 

 それにしても、この前話を少し聞いたけど、具体的にあちきは何をすればいいのかしら…… 

 もしかして、シンの子守!? それなら全力で楽しみだわ~。


 バリーがニヤリと笑みを浮かべたそのタイミングで、ちょうどドアが開く。

 目を向けると、そこにはシャリィが立っていた。


「シャリィ~、酷いわ~、呼んでおいてお出迎えもないなんてぇ~」 


「フッ、すまない。少々用事があったものでな」


「うふふふ、冗談よ冗談」


 笑顔でそう言った後、バリーの表情は一瞬で変化する。

 シャリィはその表情を見逃さず、厨房にいるモリスに声をかける。


「新しい部屋を一つ用意してくれ。今日からバリーもこの宿に泊まる」


「はい、分かりました。ありがとうございます」


 シャリィは再びバリーに顔を向ける。


「それではバリー、部屋の用意が出来るまで私の部屋で休んでくれ」


「そうね~。食事をありがとう、美味しかったわ~」


 バリーはモリスや手伝いをしているモリスの友人に向けそう声をかけた。


「バリーの料金は全て私につけておいてくれ」


「はい、承知しました」


 二人は食堂からシャリィの部屋へと移動する。






「いたっ!」


「あー、大丈夫ナナちゃん?」


「……だっ、大丈夫っペぇ」


 ナナはそう言いながらも首を気にするそぶりを見せる。



 まだ怪我が完全に治っていないのかな…… そうだよね、まだ数日しかたってないし……



「少し休憩を入れましょう」


 ユウのその言葉で、ナナは一瞬でイラついてしまう。


「うちの事で休憩入れるなら無用だっペぇ!」


 この時ナナは、自分が足を引っ張ってしまっていると感じてしまう。

 その語気を強めた言葉遣いに、ユウも直ぐに反応する。


「ちっ、違うよ。その~、まだ方向性と言いますか……」


「なんだっぺぇ?」


 ユウには無論ナナの心配もあった。だが、実際はまだシンに作って貰った曲の詩を考えておらず、それによってどのような振付にするのか決め兼ねている状態であったのだ。

 

 皆には基礎的なアイドルのダンスを教えているけど、この世界に合わせたダンスも考えないといけないし、詩もまだ全然出来ていないし、困ったな……


「と、兎に角、ペースを落としましょう。はい、皆休憩でーす」


「……」




「バタン」


 ドアを閉めた音が、他に客の居ない静かな宿の廊下に響く。


「バリー、ここまでご苦労だった」


「ぜんぜーん、お陰でシンにも会えたしね~」


「……それで、何か話があるのだろう?」 


 シャリィのその言葉で、バリーの表情は神妙な面持ちに変化する。


「……シャリィ、実はね」


「……」




 ユウ達がイドエに着いたその夜…… 



 ここはイプリモにある冒険者御用達の酒場。


「今回受けた依頼は大成功! 飲め飲め、拙者のおごりだぁ!」


「おごりだと!? こりゃ明日は間違いなく槍の雨が降るな!?」


「ぶあっはははははははー、槍どころか魔獣が降って来るに違いねー、ぶあっははははははー」



「ざわざわざわ」



「いいか、この前俺が倒した魔獣はなー」


「まーた始まったぞ、お決まりの話が~」


「いいから聞けってー、なぁー」



 店内は今夜も大勢の冒険者達で賑わっている。


 そんな中……

 


「チッ、うるせーなザコ共が……」


「ほんとほんと~」 


「うひゃひゃひゃ、いてててて」


 笑っていた男は、頬に手を当て痛がるそぶりを見せる。


「ん? なんだお前、まだ治ってないのか?」


「ええ、まだ痛みが取れなくて…… あの野郎……」


「ほんとほんと~」


「……もう一人の退院はまだなのか?」


「はい、もうだいぶ元気なんですけど、後ろから頭をいかれちまいましたから……」


「ふ~ん」

 

 話をしている3人のテーブルに、注文していた料理と酒が届く。


「お待たせいたしました……」


 テーブルに酒と料理を置くウエイトレスの身体を舐めまわす様に見つめる男。


「良いケツしているな」


 そう言うとウエイトレスのお尻に手を当て、二度三度と力を込めて揉む。


「やっ、やだ、い、痛い!」


「ガタッ」


 お尻を揉まれたウエイトレスは、酒の入ったジョッキを倒してしまう。


「チッ! 俺の酒を……」


「おい! 何やってんだよ!?」


「ほんとほんと~」


 お尻を触った男は舌打ちをし、他の二人の男はニヤつきながらウエイトレスを責める。


「す、すみません…… 直ぐに新しいお酒をお持ちしますので……」


 そそくさとその場を後にし、心配で見ていた別のウエイトレスの所に駆け寄り、しがみ付き涙を流し始める。


「もぅやだ……」


「よしよし、大丈夫?」


 あいつ、Bランクだからって偉そうにして!

 皆知っているんだからね、キャリーして貰ってBランクになれたって事を!


 慰めているウエイトレスがお尻を触った男に鋭い視線を向けたその時、店のドアが開き一人の者が店内に入って来る。



「ったくよー、この店のウエイトレスはブスばっかだな。ブスが俺にケツ揉まれるなんて、滅多にないラッキーだろう」


「ほんとほんと~」


「うひゃひゃひゃ」


 大きな声で悪態をつく三人。


「あの~」


「なんだ?」


「またあいつをぶちのめした時の話をして下さいよ!」


 そう言われた男は、嬉しそうに困った表情をする。


「ハーハハハァー! まーたその話を聞きたいのかよ!? 何度もしただろうがよー」


「何度でも聞きたいですよー。なぁ?」


「ほんとほんと~」


 男は再び高笑いをする。


「ハーハハハァー、しょうがねーなー」


 二人は酒の入ったジョッキを持ち、話を聞く準備をしてニヤニヤと笑う。


「あの野郎はよー、最初偉そうに余裕をかましてやがってよー」


 男は大きな声でリクエストされた話を始めた。


「うひゃひゃひゃひゃ、それでそれで?」


「ほんとほんと~」



 先ほど店に入って来た者は、大勢の冒険者で賑わっている店内を一つのテーブルに向け真っ直ぐに進んでいる。



「奴の振るう棒なんて、俺にすればあくびが出るほど遅くてよー、1ミリ以下でかわしてやったんだ。そしたらよー」


「うひゃひゃひゃひゃ、この話で飲む酒がうめー」  


「ほんとほんと~」



 目的のテーブルに向かうその途中、おもむろに椅子を掴み、引きずりながら歩いていく。 

 椅子は床をこすり、異様な音を奏でる。

 


「俺に敵わないと分かった途端よー、泣き……」


「うひゃひゃ……」


「ほんとほ……」 


 目的の場所に着いたその者は立ち止まり、そして……


 得意げに話している男の背後で椅子を大きく振りかぶり、躊躇なく頭にめがけ斜めに振り下ろした!



「ながらぶっ!!」


「ひゃ!?」


「んと!?」


 殴られた男は座っている椅子と共にそのまま床に倒れていき、頭から血を噴き出す。



「……ふん、余裕で負けそうになって魔法使ったくせに何言ってんの?」



 その光景を目の前で見ていた他の二人は、手に持っていたジョッキを丁寧にテーブルに置いて、ゆっくりと俯く。

 その者から発せられるイフトに恐怖し、顔を上げる事すら出来ず、ただただ、身体を震わしながらテーブルの木目を見つめていた。


「……フフ」


 その者は、そんな二人をみて微笑む。


「それでせいかーい。立ち上がっていたら…… 殺してたかも」


 不敵な笑みを浮かべそう言うと、頭を殴りつけ壊れた椅子の一部を床に落とす。


「カララン」


 二人の身体の震えは止まることなく、更に大きく震え始め床を伝いテーブルにまで届き食器を揺らす。


「カタカタンカタンカタ」  

 

 その音を耳にしながら、水を打ったように静まり返った店内をゆっくりと見回す。


 すると、名だたる冒険者の猛者達ですら、その者と目を合わす事を拒否し顔を背ける。

 

 ピクリとも動かず、頭から血を噴き出し倒れている者に一度冷ややかな視線を向けた後、ドアに向け歩き始めた。

 そして、その途中でウエイトレスに声をかける。


「椅子壊しちゃってごめんなさーい。はい、これね」


 ウエイトレスに笑顔を向け、金貨を1枚渡してドアを開け外に出て行く。

 その者が出て行った後も、誰一人として口を開くことは無く、ぽつぽつと声が戻り始めるまで、かなりの時間を要した。

 

 のちにこの場に居合わせた者達は口を揃えて言う。

 

 あの時のあいつは、人ならざるものに感じた……と。




「はぁーーーー、スッキリしたぁ~。うーー」


 満面の笑みを浮かべ、背伸びをする。


「僕これでもうこの町で思い残す事はないよー」



 そう口にした後、その者の笑顔は消え去り、星々が光輝く夜空をゆっくりと見上げる。



「また…… また会えるよね…… いつか、必ず、きっと…… ね、弾正原だんじょうばら…… シン……」



 そして……



「大石、ユウ……」



 その時、見上げている夜空に、流れ星が降っていた……


 沢山の…… 色とりどりの、沢山の流れ星が……






「……と、いう訳なのよ」


「コレットが……」


「あれだけ楽しみにしていた正式な冒険者になる直前よ!? それを捨ててまでイプリモから居なくなるなんて、とんでもないでしょ!?」


「……」


「それでね、マガリから秘密裏の依頼を受けたマシュがコレットを探しててね、偶然バッタリと会って話を聞いたから急遽イプリモまで確認しに戻ってたの」


「……そうか」


「シャリィはコレットの行き先に心当たりないの?」



 シャリィはその質問の答えより、別の事を優先する。



「……この話は、二人には内密にしてくれ」  

 

「……分かったわ」


 シャリィ…… もしかしてコレットの行き先を……



 シャリィは少し俯き、一点を見つめている。

 


 コレット…… お前は……

 


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