87 幸甚


 今まで見た事も無い笑顔で走る少女達の後をユウも走っていた。


 凄く、凄く喜んでくれている……

 何だか、僕まで楽しくなってきたぞ。


 うん? ここは……

 

 ユウの視線の先には、通り沿いの両側に店がずらりと並んでいた。



 ここは、商店街だ……



 人通りの多い方へ走って行った少女達は、偶然商店街に行き着いていた。



 それにしても、まだ朝早いのに沢山店が開いているし、人通りも多い。

 そういえば、ピカルさんの店も早朝から開いていた……


 そう思っていると、少女達の足が一軒の店の前で止まる。


「あ~、見てー!」


「何だっペぇ? あー!?」


「クルクルクル~、苺だよ~」

 

 クルの言葉にナナも驚く。


「えっ、い、苺?」


 本当だ、苺を売っているっぺぇ……

 

 うん? 皆足を止めて何を見ているのかな?


 ユウは少女達の隙間から店を覗き込む。

 

 あー、苺かな!? なるほど、これを見ていたのか…… へぇ~、見た感じ元の世界の苺とは色と形が少し違う様な気がする。

 どうしよう…… これも買った方が良いのかな……


 そう考えていたその時、ブレイが口を開く。


「いぢご、お゛いじぞうだっべぇ」

 

 ブレイ君…… うん、買って皆で……


「う、うん、そうだね、凄く美味しそう! 僕、食べたくなっちゃったから、皆で食べよう!」


 こんな言い方で良かったのかな……


 少々上からな物言いかと反省していたユウに、ブレイがすぐさま声をかける。


「ほんどうっべがぁ!? う゛れじいっべぇ」


 ブレイ君……


「クルクル~、クルも食べれるの?」


「うん、皆でね!」


 ユウは心の中で、ブレイのフォローに感謝していた。


「おじさーん、苺を下さい」


「ほーいほい、もぎたて新鮮苺だよ。いくついるんだい?」


 いくつ? もしかしてバラ売りなのかな?


 置かれている苺を見ると、どうやらサイズ分けされている様だ。


 僕を入れて8人…… う~ん、一人5粒ぐらいでいいかな? と、なると40粒かぁ…… どのサイズが良いのかな? 大きさで味に違いがあるのかな?


 そう考えながらユウは少女達に目を向ける。すると、全員が瞳を潤ませユウを見ていた。あのナナまでもが……


 うっ!? こ、子犬の様な純粋な瞳! そんな瞳で見られちゃうと……


「おじさん! この一番大きいサイズを80粒下さい!」


「クルクルー!! そんなに沢山!?」


「まっ、まぁまぁの数っぺぇな~。80粒っていう事は、あたしは何粒食べれるっぺぇ? えーと……」


「苺ー、嬉しい……」


「いつ以来だろう…… 前の、その前にお父さんが帰ってきた時だったかな……」


 い、苺食べれるぺぇ……

 

 ナナは口には出さなかったが、嬉しさで胸がいっぱいだった。


「大きいのは一粒100シロンだから8000シロンだ」 


 ……けっこうな値段だ。 この世界…… それともこの辺りでは高級品なのかな苺は…… 

 

「はい、これを」


 ユウは店のおやじに8000シロンを支払った。


「10粒ずつ分けてくれますか?」


「はいな~、直ぐに食べるのかい?」


「はい」


 少女達は木の皿に入った苺を受けとった。


「あ~、苺~。こんなに大きいのが沢山……」


「苺~、苺~」


 苺で大きな声を出す少女達は、否応無しに周囲の目を引いてしまう。



 ん? 苺ぐらいで何を大騒ぎしているのだ? 


 あの子達、古臭い服を着ているな~。


 もしかしてイドエの奴等か?



 少女達の服装や言動から、周囲の者達はイドエの者だと決めつける。



 ふん、イドエのガキ共か!? 厄介ごとを持ち込むなよ。

 

 子供を連れて小麦でも卸に来たのかね? 用事が終わったらさっさと帰って欲しいね。


 イドエの者だとしても子供は珍しいな…… 初めて見たかも知れない。


 口には出さないが、彼らの心の声は辛辣であった。



 うん? あいつら小汚いくせに1番高い苺を買ってやがる……

 見た感じだと、田舎者かイドエの奴等っぽいが…… ククク、どちらにせよ滅多にない買い物で、シロンをそれなりに持ってきてるとみた、ククククク。




「食べ終わったら、皿を返してくれな」


「はい! ありがとう、おじさん」


 少女達は、店の近くにある広場で腰をおろした。


「ふぅ~」


 ユウが一息つくと、何やら強い視線を感じる。

 顔を上げると、少女達がユウを見ていた。


 えっ!? どうして皆が僕を? ……そうか!


「……どうぞ、食べて」  


 その声を聞いた少女達は、笑顔になり一斉に苺を頬張る。


「ん…… ん~~ん~~」


「あ~~、美味しい~」


「クル…… 甘いよ、お姉ちゃん!」


「うん、美味しいねぇ」


「たっ、たいしたこと…… あるっぺぇ! 甘酸っぱくて美味しいっペぇ~」 


 シンにジロジロ見てはいけないと言われていたユウだが、喜びの声をあげる少女達に目を奪われていた。

 そして、一番気になっていたナナに目を向ける。


 ナナは手に取った苺をジッと見つめ、なかなか食べようとしない。だが、意を決したかの様に、手に取った苺をゆっくりと口に運ぶと、一口ずつ、まるで小動物の様に小さく食べていた。


 ナ、ナナちゃん…… 


「か、可愛い……」


 思わずユウの口から心の声が漏れてしまう。


 その言葉を聞いたナナは食べる事を止め、ユウを睨みつけた。



 しっ、しまった!?



「お゛ら、よくい゛われるっべぇ。女の゛ごみだいなだべがただってぇ」


 ブレイの声に反応して、ユウは素早くブレイを見る。


 そして、ナナもユウに話しかけているブレイに視線が向く。



 うちのことじゃなかったっぺぇ…… 確か、可愛いって言ってなかったっぺぇ?

 それなら…… やっぱりうちの事じゃないっペぇ。



 ナナは一度ブレイを見ているユウに目を向けた後、再び苺を食べる事に集中し始める。


 たっ、助かった~。シンの教えを忘れて、ついジロジロ見てしまって言葉が口から…… 



 そう、可愛いって言葉が……



 兎に角、危なかったぁ。ブレイ君、本当にありがとう!


「いじご、おいじいっべぇよユウぐん」


 その言葉を聞き、ユウも苺を一口食べる。


「うん! 美味しいね!」


 味は元の世界の苺に似ている。本当に美味しい!



 気持ちの良いそよ風が吹く中、少女達は夢中で苺を頬張っていた。



「おじさん、お皿をここに置いておきます」


「はーい」


 お皿を返した後、皆が僕に苺のお礼を言ってきた。


「クルクル、美味しい苺ありがとう」

 

「ありがとうございます」


「まぁ、良くやったっぺぇ…… だけど、調子にのるでねぇっぺぇよ」


「久しぶりに食べた~、ありがとう」


「あっ、ありがとう」


「ユウぐん、ありがどう」


 そして、ナナも……


「苺…… ありがとうっぺぇ……」


 少し前まで、説明不足のせいで僕を刺そうとしていた、そんな関係だったこの子達が……

 

 この時ユウは、少女達の屈託のない笑顔と、お礼の言葉に感極まり、涙が零れ落ちそうになっていた。


 その涙を誤魔化すかのように、ユウは声を絞り出す。


「うっ、ううん。全然いいよ! とても美味しい苺だったね。ほ、ほらっ、もっと他の店も見に行こう!」


「うん!」


「はーい」


「クルクル~」


 ユウのその言葉に返事をしたり、笑顔で頷いている少女達。

 ナナの微笑には、大好きな苺を食べる事が出来た嬉しさもあったが、それよりも他の少女達が楽しんでいる事に喜びを感じていた。


「次は何処に行くっぺぇ!?」

 

「クル~、あっちぃー」


 ナナの問いかけに、クルが大きく返事をすると少女達は再び走り始める。

 ユウはその後姿を、感慨深げに眺めていた。



 うん…… うん、うん!

 僕は、シンの言いたかった事が理解出来たような気がする。



「女性は男が金を払った事で、それは一つ貸しだとか、買ってあげました、こんな事や、あんな事をしてあげましたとか、そういう恩着せがましい態度を凄く嫌うんだよ」


「買ってあげた…… してあげた…… 恩着せ……」


「そうだ。だからそんな言動は論外だし、勿論心で思っても駄目だ。もっと純粋な気持ちで一緒に買い物をするんだ」 


 僕はシンの、シンの言っている事に矛盾を感じていた。

 一緒に買い物をするのは距離を縮める目的があったはずだ。

 つまるところそれは、物で釣るのと同じ行為……

 

 だけど……


 ユウはブレイに目を向ける。

 

 純粋な気持ち…… そう、それはまさにアクセサリーショップの時のブレイ君。

 ブレイ君は何か見返りを期待している訳では無い。純粋に彼女に喜んで欲しいからプレゼントをするんだ。

 僕も…… 僕もそうだ。あの子達との距離が近くなるとか、そんなのどうでもいい。今この時間を、あの子達に楽しんで欲しい、幸せを感じて欲しい。心から、純粋にそう思っている。


 僕はこの時、キャバ嬢に相手にされないくせに貢ぐハゲたエロオヤジの気持ちを、初めて理解出来たような気がした。


 あの子達があんなにも…… あんなにも喜んでくれるなら……

 それなら…… あの笑顔を見るためなら…… 全財産貢いでやる! 僕はそう思っていた。



   

   

「おーい、おはよう。すまない俺が一番最後か? 怪我が治った馬がさ、散歩が嬉しくてなかなか小屋に戻ってくれなくて」


 シンの挨拶に答えたのはピカワンとピカツーの二人だけだった。


「おはようっぺぇシン」


「おはようっぺぇ」

 

「ん? どうしたんだ皆?」


 ピカワンとピカツー以外の少年達は、シンに背を向けて無視を決め込んでいる。

 どうやら、ブレイだけがストビーエに行ったのを知っている様だ。



 ふふふ、やっぱりこうなったか……



「あ~、皆ごめんな。えーと、ブレイにはどうしてもナナちゃん達と一緒に行く用事があってだな、俺が頼んだんだ」


「……」


「……」


 シンが謝っても全員がまだ無視をしている。


 まいったなぁ……


「皆聞いてくれ。実はな、当然皆にも今度町に行ってもらう用事があるんだ」


 その言葉に、フォワを始めとし、殆どの少年達がピクリと動いて反応する。


「その時は皆で楽しもうな」


「……」


 ま、町へ!? シンの気が変わらないうちにもう許すっぺぇ……


「……」


 もう許してあげたいっぺぇ。これ以上シンを無視して、町に行くのが無くなったら嫌だっぺぇぁ。

 フォワ、早く返事するっペぇ!!


 フォワ以外の者達はそわそわし始め、落ち着きがない。


 おっ、効果あったみたいだな…… ふふふ。


「それとだな、今日はさ1番上手いブレイがいない間に、皆にとっておきのコツを教えるからさ。それでブレイとの距離を縮めようぜ」 

「フォ……」


その言葉に、フォワが反応を見せた。


 ふふ、もう一息だな……


「あと、お詫びって訳じゃないけど、今日は晩飯も皆が良ければ一緒に食べよう」


「フォーワ!? フォワ!?」


 フォワは声を上げながら笑顔で振り向く。そして、それを見た他の少年達もぞくぞくと笑顔で振り返り始める。


「許すっペぇーよ!」


「夜も好きな物食べていいっぺぇ?」


「勿論いいよ。皆で楽しく食べような」


「とっておきのコツって何っぺぇ!?」


「午前の掃除と修繕が終わったらな」


「晩飯!? やったっぺぇ~」


「酒飲むっぺぇ!」


「酒は駄目だって!」


「シンのケチ!」


「この流れ、前と同じ!」


「フォワフォワフォワ~」


 前日、老人達との話し合いは、何の進展も見られないまま終わってしまったが、野外劇場にはいつもと変わらない笑顔がそこにあった。



 ユウは今頃…… 必ず、必ず今のユウなら気付くはずだ……


      


 少女達が次に足を止めたのは、色鮮やかな服を飾っている店の前だった。


「あー、あー素敵っぺぇ~」


「クルクル~、これお姉ちゃんに似合うよ~」

 

「お姉ちゃんの事を気にしてくれているなんて、嬉しい! こっちはクルに似合うよ」 


 嘗ては演劇の衣装を請け負っていたイドエ村も、今では他の村や町の者達に比べると粗末な服を着ている。


 ユウは服に見入っている少女達の様子を見逃さなかった。


 うん! 服は間違いなく必要だ! スタジオで軽く踊っていた時、皆は動きにくそうだった。だから服と靴は必要なんだ。


「服も練習用で必要だから、ここが良いのなら買いましょう」


 その言葉でナナがユウをジッと見つめる。


「本当だよ、踊りをする訳だから、動きやすい服は必要だよ。あと靴もね」


 それを聞いた少女達は、服を手に取り選び始めた。


「……分かったっぺぇ」


 そう返事をしたナナも、笑顔で皆と一緒に服を選び始める。


 ほ~、良かった。順調だ! 買い物は順調にいってるぞ!


 少女達が服を選んでいる間、ユウもブレイと服を見ていた。


「前は、イ゛ドエは服飾ぶぐじょぐでゆう゛めいだっだっで、があちゃんがいっでだっべぇ」


 ……そう、確かレティシアさんもそう言っていた。


「だげど、今はぞんなの見だごどもない」   


「……」


 話をしているブレイとユウの元へ、クルがトコトコとやって来た。


「クルクル~」


「ど、どうしたのクルちゃん?」


「あのね、クルクル。服は何着まで選んで良いの?」


「えーとね……」


 うーん、ダンスの練習に入ると、汗もかくし着替えも必要だ。

 それに普段着もプレゼントしたいし……


「上下セットで3着ね、靴は2つね」


 靴は練習用と、普段用と……


「クルクル、本当!? そんなに良いの?」


「うん! 良いよー」


 クルはぴょんぴょんと飛び跳ねながら皆の元へと戻って行った。


 うー、か、可愛い。何て愛らしい……

 無邪気に喜ぶあの子達は、本当に可愛い。あの子達の今の様な面を引き出せていなかったのは僕のせいだ。僕は、P失格じゃないのか……


 自分を戒めるユウにブレイが声をかける。


「ユウぐんのおがげで、皆笑顔だっべぇ」


「ぼ、僕のお陰じゃないよ。ただ、必要な物を買いに来ただけだし…… その~、シンが教えてくれて……」

 

「……ぞうがもじれないげども、今は皆、ユウぐんに感謝じで、ごごろから、よぞごんでいるっべぇ」


「そうかな……」


「う゛ん。ユウぐんとジン、それにジャジィ様が村にぎでぐれで、おら、うれじいっべぇ。ながまも、今のナナだぢも、皆お゛なじだぎもぢだっべぇ」


 

 ブレイ君…… 



 ブレイの言葉は、ユウの心に響いていた。


「クルクル~、皆選んだよ~」


「あっ、うん、ごめん。直ぐ行くね」


 少女達は店員に言われるまま、店の奥にある台に選んだ服と靴を乗せる。すると、店主が離れて行く少女と支払いの為に近付いて来たユウに目を向ける。


 ……こいつら、見た事ないな。変な話し方をしているし、何処から来たんだ?


「今日はどちらからお越しで?」


「はい、イドエから来ました」


 先ほどの優しかったアクセサリーショップのオーナーのイメージが残っており、ユウは躊躇なくそう告げる。


 イドエ!? イドエね~…… 


「おいくらになりますか?」


「う~ん、全部で…… 10万2千シロンですけど、10万シロンでいいですよ」


「じゅっ!?」


 10万シロン!? た、高い! 見た感じ、そこまでの店に見えなかったけど、異世界人の僕の感覚だから……

 どうしよう、全然足りない……


 ユウの表情は一気に曇りかけるが、またしてもシンの言葉を思い出す。



「シン」


「どうした?」


「上手くできる自信がないよ…… もう少しアドバイスを……」


「そうだな…… 明日はユウが言わば船頭だ」


「船頭……」


「あぁ、その船頭の笑顔が消えたり、不安が表に出てしまうと乗組員にもうつってしまう」


「うん、そうだね」


「つまり、あの子達は船頭の表情一つで楽しめたり、そうでなくなったりしてしまう」


「……なるほど」


「だから、買い物中はどんな時も笑顔を忘れずにな」


「笑顔……」


「あぁ」



 支払いに行って戻って来ないユウを、少女達は心配そうに見ていた。

 もしかして、自分達は高価な物ばかり選んでしまったのではないか、そんな不安が頭をよぎっていた。


 皆が見ている。笑顔だ、笑顔!


「分かりました。今持ち合わせがないので、馬車に取りに行ってきます。それまで取り置きしてて頂けますか?」


 ユウは笑顔でそう答えた。


 ほぉ~、10万シロンも支払うつもりかぁ……

 まぁ、それなら少しぐらい待っててやってもいいかな……


「ええ~、大丈夫です。お待ちしておりますよ~」



 ナナ達は、店の前から不安そうに様子を伺っていた。



「どうっぺぇナナ?」


「う~ん、笑顔で店主と話をしてるっぺぇーよ」


「それなら大丈夫そうっぺぇ。世間話でもしてるっペぇか?」 


「そうっぺぇねぇ……」


 この時、他の少女達とは違い、ナナだけは不安をぬぐい切れずにいた。


「ありがとうございます。直ぐに戻ってきますので」


「どうぞごゆっくり」


 ユウは足早に店から出て行く。


 あの感じ…… 本当に10万シロン持ってくるつもりか? チッ、それなら12万と言えば良かったな……

 

 店主はこの時、倍以上の値段を吹っかけていた。


「クルクル、服は?」


「うん、まだ町を見て回ると荷物になるからね。店に置いて貰っているよ。後で取りに来ようね」


「クルクル、うん!」


「さぁ、別の店も見に行こう」


 ユウがそう告げると、少女達は隣の家具屋に入って行く。


「ブレイ君、ちょっと皆をお願い。僕は一度馬車に戻って来るね」


「う゛、うん、わがだっべぇ」


「直ぐに戻って来るからね」


 一人その場を離れてゆくユウに、ナナは気づいていた。



 あいつ、何処へ行ってるっぺぇ……



 急げ、急げ! 馬車に戻ってシャリィさんにもう少しお金を……


 ユウは走った。全速力で走った。

 そして、馬車に到着すると、そこには見知らぬ男が二人居るがシャリィの姿はない。


 誰だろうあの二人? 僕達の馬車で何を!?


「あ、あの~」


「何だい? 見張りの依頼かい?」


「見張り!?」



 この二人の男は見張り屋。

 時間や、馬の数、馬車の大きさなど、様々な条件を基に料金を客と交渉し、見張りをしてくれる。

 警備の許可を得ている見張り屋は、門近くで営業を行うが、門から離れた場所で、格安の料金を売りにする無許可の見張り屋も存在する。

 無許可の見張り屋の場合、悪徳な者も多く存在し、馬や馬車を荷物ごと盗まれるケースも珍しくない。



「いえ、この馬車は僕達の馬車で、シャリィさんは?」


「シャリィ? この馬車の持ち主かい?」


「はい」


「俺達に見張りを頼んで、何処かへ行っちまったよ」


「えっ…… そうですか、ありがとうございます」


「全然。戻ってきたら、君が来てたって伝えておくよ」


「お願いします」


 どうしよう、どうしよう!? シャリィさんは一体何処へ行ったのだろう……


 ユウはシャリィを探して町を彷徨い始めた。



 その頃、少女達は…… 家具屋を出て笑顔で、はしゃぎながら歩いていた。


「次は何処行くっペぇーよ?」


「えーとね、次はー次は―」


「今度はプルが決めるっぺぇ」


「う~ん、あの店も、あっちの店も行きたい」


 皆が次に入る店を決め兼ねていたその時、ナナは一人だけユウの事を気にしていた。



 ……あいつ何処に行ったっぺぇ。 


 

 そう思いながら、ユウが走って行った方角に十秒ほど目を向ける。

 ブレイはそんなナナが気になり見ていた。



 その極短い時間の間、クルが一人で行動してしまう。



 あー、クルクルクル~、あのお皿……


 クルの目に留まったのは、店先に飾られている美しい模様が施された食器。


「クルクル~、綺麗…… これ、買って帰ったら、お婆ちゃん喜んでくれるかな?」   


 ナナが視線を戻すと、クルが一人店先でお皿を手に取っているのが見えた。


 あっ、クル!?


 割れ物を手に持っているクルを見て、駆け寄ろうとしたその瞬間!?



「おらぁー!! 勝手に触ってんじゃねーよ!!」



 商店街の建物がビリビリと振動するほどの怒号が聞こえてきた。


 その声に驚いたクルは、手に取っていたお皿を落してしまう。 


 

「ガシャーン」



 地面に落ちた皿は、無残にも割れてしまった。


「あーー!? 何しやがるんだこの野郎!! 店の看板商品が割れちまったじゃねーか!!」



 突然の事に、クルは自分の置かれている状況が理解出来ず、呆然と立ち尽くしている。  

 


 ククククク、狙ったガキを上手いこと食いつかせたぞ。

 俺様の選んだエサに間違いはない…… 恐ろしいまでの才能。小悪党と罵られようが、やはりこれが俺様の天職! ククククク。



 さてと、俺様の勘はいくらだと言っている~。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る