86 愉悦
「カラカラ、ガタ、ガラカラカラ」
シンとシャリィさんが全ての段取りをしてくれ、イドエから1、2時間の距離にあるという町へ移動中だ。まだ出発したばかりだけど、今のところ何も問題はない。
「クルクル……」
最年少のクルちゃんが少し怯えている。
どうやら魔獣に襲われないか心配しているみたいだ。
クルちゃんの緊張をほぐすために声を掛け様か悩んでいたその時、馬車がゆっくりと停止した。
「……どうしましたシャリィさん?」
「少し待っていてくれ、直ぐに戻る」
そう言うとシャリィは立ち上がって馬車を降り、森の中へと入って行った。
突然のその行動で、少女達もざわめき始める。
「どうしたっぺぇ……」
「クルクルクル……」
「大丈夫よ、お姉ちゃんがクルを守るからね」
シャリィさんは宣言通り、1分ほどで戻って来た。
いったいどこに行ってたのだろう? もっ、もしかして、トイ…… レ……
なっ、何を想像しているんだ僕は!?
無言で頭をぶんぶんと振っているユウを、ナナは
いつもいったい何をしてるっぺぇこいつ。
駄目だっぺぇ、どうしても慣れないっペぇ……
シャリィが戻り、馬車は再び進み始める。
「ガラガラカラカラ」
「……突然すまなかった。魔獣が居たので駆除しておいた」
その言葉を聞いた少女達は、歓喜の声をあげる。
「クルクルクルー!」
「倒したのですか!? すごーい」
「ふぅ~、魔獣が心配で緊張してたけど、安心してきた~」
女の子達は先ほどまでと打って変わり、表情が一気に明るくなる。
「
「本当に直ぐに帰ってきたっぺぇーよー。そんな簡単に…… やっぱり凄いっぺぇね、ナナ」
「……うん、そうっぺぇねぇ。シャリィ様は世界に数名しかいない最高ランクの冒険者だっぺぇから」
そう答えたナナの瞳は、キラキラと輝いていた。
だが、その美しい瞳も、シャリィの隣に座っているユウに目を向けると元に戻ってしまう。
どうして…… 何度、いくら考えても分からないっペぇ、強さも全く感じられないし…… シャリィ様はどうして、こんな奴を……
理由を…… 知りたい。
「新街道が見えてきた」
シャリィのその言葉で、少女達は一斉に前方に目をやる。
「うわ~、クルクル~。クルね、新街道来たのは小さい頃に一度だけってお婆ちゃんが言ってたよ」
「そうだよ~、お姉ちゃん覚えてるよ~。クルは小さくて可愛かったよ~」
「今は可愛く無いの……」
「今もいっぱい可愛いよ」
姉妹のやり取りをユウは見ていた。
……いつも仲良しだね。一人っ子の僕にすれば、理想の姉妹だ……
「あたしは…… たぶん初めて…… 畑までしか行った事ない」
「うちもっぺぇ……」
そう口にしたナナをはじめ、少女達の殆どは村から遠くへ出て行った事が無い。
そんな少女達の楽しみは、年に数度だけの両親の帰省。おみやげと一緒に、大きな町の話を聞かせてくれる。
情報や知識に飢えている若者は、自然と
それが、村を支配していた無法者達であった。
さながら教師と生徒のような関係だが、ピカワンには信念があり、悪に染まらなかった。
そして、それはナナも同じで、小さな世界の中でも自分を見失わずにいた。
その理由は…… 理想とする者への憧れであった。
村から出るだけでも危険だったっぺぇのに、シャリィ様が来てくれたお陰でこんな簡単に新街道までこれる様になったっぺぇ…… バンディート達は居なくなったし、村は…… 村の状況は確実に変わってきている。
ナナはそう実感し、馬を操っているシャリィの後姿を見つめていた。
1時間後……
新街道沿いにある、広くなっている場所で休憩を挟んでいた。
ここには、りっぱな造りの建物の中に、トイレも水を飲む場所もある。
ユウは少女達に気を使い、トイレから離れた場所で一人座っていた。
う~ん、これはいつ頃できたのかな? 新街道を造った時かな?
旧街道の全てを知っている訳では無いけど、この様な場所を見たことがない。
もしかして、旧街道への嫌がらせの為にこの様な設備を作っているのかも知れない……
新街道をより便利にして、更に旧街道を使う人を減らす…… って、それは考えすぎかな……
そう思っていたユウに、一人の少女が近付いていた。
それは……
「なっ、なにボーっとしてるっぺぇ?」
「えっ!?」
ユウは声に驚き振り向くと、そこには、ナナの姿があった。
「えっ…… あ、うん。ちょっ、ちょっと考え事を……」
「そうっぺぇかぁ……」
「……うん」
二人の会話はそれ以上続かず無言になる。
どうしよう…… せっかくナナちゃんが話しかけてきてくれたから、続けないと…… 何か話題はないかな?
そうだ! 買い物の話を!?
僕今日は5万シロンも持っているから何でも買ってあげるよ! って、何だそれ!? 僕はキャバ嬢を口説いているエロオヤジか!?
……駄目だ、他に何も思いつかない。
目の前で苦悩の表情を浮かべるユウを見て、ナナは顔をしかめる。
その顔…… 何を考えているっぺぇ。ほんとに気持ち悪いやつっペぇ……
「聞きたい事があるっペぇ」
「あっ、う、うん! な、何? 何でも、答えるよ」
「……」
ナナは直ぐには口を開かず、少し息を呑み様な仕草をした後、意を決して言葉を発した。
「どうして……」
「え?」
「……どうやってシャリィ様のシューラに、なれたっペぇ?」
てっきりアイドルか今日の買い物に関しての質問だと思っていたユウにとって、ナナの言葉は意外なものだった。
「ど、どうやってって……」
実は…… 僕は異世界人で、理由は分からないけどこの世界にシンと共に突然送られて来たんです。
その送られた場所は、魔獣がうろつく森の奥深くで、シンと二人で困っている所を助けてくれたのがシャリィさんなのでした。
僕達を異世界人だと知ったシャリィさんが、その流れからシューラにしてくれましたとさ。めでたしめでたし。 なんて言える訳もない!!
どっ、どうしよう!? なんて答えよう……
ユウはナナをチラ見する。
あー、ナナちゃんが僕の答えが遅いからイライラしている!?
どうしよう…… どうしよう……
「魔法っペぇか?」
「え?」
「人と違った凄い魔法が使えるっぺぇか?」
「い、いや、僕は魔法は使えない…… です」
魔法が使えない!? じゃあなんだぺぇか…… ますます分からないっぺぇ……
ユウはモジモジとしてそれ以上何も答えない。
「チッ! うちに教えたくないならいいっペぇ!」
「そっ、そそそそ、そー、そうじゃないんだ! あのね……」
「……」
「ぼっ…… 僕がシャリィさんのシューラになれたのは……」
「……なれたのは?」
どうしよう!? 何も思いつかない! どうしよう!?
「すっ!」
「……す?」
いや、今のは息が漏れただけです。けど……
「そう! す……」
「……」
「す、素直だからだよ!」
「……えっ?」
何を言っているんだ僕は!? だけど、だけどこれで押し通すしかない!
「そう! そうなんだ。シャリィさんが今まで出会った人の中で、僕が一番素直だったらしくて、それで見込みがあるって!」
何の見込みだ!? 我ながら酷い嘘だ……
「……素直」
うちは…… 短気で本心を上手く他人に伝える事も出来ないし、それに直ぐに手を出すし、素直とは程遠い…… っぺぇ……
素直…… か……
ナナは自分の性格と照らし合わせ、思う所があったらしく、俯いて考え込んでしまう。
あー、ナナちゃんが何か考えている……
こ、こんな適当な答えでごめんなさい!
ナナは顔を上げた。
「分かったペぇ。
……えっ? ナナちゃんが僕にお礼を……
心が、心が痛い! 本当にごめんなさい、適当な事言ってごめんなさい!
ユウにとっては苦し紛れで咄嗟に出た嘘だったが、ナナにとってはそうでは無かった。
「出発しよう」
「はっ、はいシャリィさん」
はぁ~、駄目だな僕は……
シンの言った通り、今日の買い物なんかで距離が縮まるのかな……
休憩から更に一時間後……
「クルクルクル~、見えて来たよー! あれがストビーエの町~」
「わぁ~、本当だ~。見えて来た~」
姉妹は馬車から身を乗り出す様にして町を見ている。
「たっ、たいしたことないっぺぇ。見た感じ、イドエより少し大きいぐらいだっぺぇぁ」
リンはそう
町が見えてくると、皆のテンションは爆上がりになっていた。
「びどがだぐざん見えるっべぇナナ」
「そうっぺねぇ……」
昨晩……
「がいもの?」
「あぁ、急で申し訳ないけど、明日、ナナちゃん達とユウと一緒に買い物に行かないか?」
「い゛いげど、お゛らは……」
「金の心配ならしなくていい。これを」
シンはブレイに1万シロンを渡した。
そのシロンは、シャリィから借りたものであった。
「ごっ、ごれは?」
「えーと、掃除や俺達の手伝いをしてくれている皆にはちゃんと給金が出るって言ったっけ?」
「……」
「これはその前渡しだ。だからこの金はブレイのものなんだ」
「お゛、おだの?」
「そうだ。だからその金でキャミィちゃんに何かプレゼントを買ってあげたら何て思っているんだけど……」
「……う゛ん! がう!」
シンはブレイの返事を聞き、笑顔を見せる。
「それでなブレイ」
「な゛に?」
「一つ頼みがあるんだよ。さっきも説明した通り、ユウとあの子達を仲良くさせたいんだ。だから、ブレイは出来るだけユウのフォローをしてやってくれないか?」
「……な゛にをずれば?」
「難しい事をする必要は無いんだ。ただ、ユウとあの子達の間に入って話をしたり、様子のおかしな子が居たら積極的に話しかけて楽しませてあげて欲しんだ」
「……う゛ん、わがっだっべぇ」
「頼むな、ブレイ」
「……ナナ、ぎょうは、だのじむっべぇ」
「……分かってるっペぇ。違う町にこれるチャンスなんて、そうそうないっぺぇからね。皆も喜んでいるし、うちも楽しむっぺぇ」
「う゛ん」
馬車は門の外で一度手続きの為に停止する。シャリィが人数と目的を告げると簡単に許可が下りる。
馬車はゆっくりと門を潜り、町の中へと入って行く。
「クルクルクルー!」
「あはぁーー」
「人がいっぱい! 店も沢山見える!!」
「た、た、たいした事ないっペぇ…… すごーい! 物が沢山あるっペぇ!?」
「う゛わー」
綺麗…… 空き家なんて無くて道も整備されてまっ平だっぺぇ。
イドエも、前はこんなに綺麗だったっぺぇかな……
ナナは声に出す事はしなかったが、イドエと違う風景に感動していた。
馬車は直ぐに停止し、シャリィが皆に降りる様に伝える。
馬車から降りた少女達は、笑顔でキョロキョロとして落ち着かない。
「見て見て! あの店、アクセサリーを売ってるよ!」
「クルクルー、見に行こう!」
「うん! 行こう行こう!」
「はぐれたら大変っぺぇから、皆で行くっぺぇ」
ナナが皆にそう声をかける。
「うん!」
「しょーがないっぺぇねぇ、そんなにハシャイで~。あっ、待つっぺぇ! あたしも行くっぺぇー」
リンは出遅れたが、自慢の脚力で皆に直ぐに追いつく。少女達は歓声をあげながら店に向かって一目散に走って行った。
心配になったユウがシャリィに目を向けると、笑みを浮かべ無言で頷く。
「お゛らだじも行ぐっべぇ」
「うん! 行こう!」
ブレイとユウも少女達の後に続いて店へと駆けて行く。
シャリィは皆の後を追わず、その様子を眺めていた。
ブレイとユウが店に着くと、少女達は思い思いの品を手に取り目を輝かせている。
「クル~クル~、光ってる……」
「あ~、この石ピンク色だぁ~。クルに似合いそう」
「まっ、まぁまぁの品を置いてるっぺぇね。あ~、これ可愛い~。ナナ、これ見るっペぇ~」
「ほんとっぺぇ。可愛いっぺぇ。何処に付けるっぺぇこれ?」
ユウは楽しそうにしている少女達に目を向けていたが、ジロジロ見る事をしなかった。
「いいかユウ、今のあの子達とユウの距離感だと、買い物の時に近付きすぎるのは駄目だ」
「近づきすぎ?」
「そう、まさに一定の距離を保つんだ」
「一定の…… うん」
「ユウはあの子達の彼氏ではないし、二人っきりで買い物するわけでも無い。だから余計な口を挟まない」
「うん、なるほど」
「気になるのは分かるけど、ジロジロ見ない。あの子達同士で買い物を楽しませてあげて、さりげなく、自然に気にかけておく。どの様な品を見ているのか、どれを気に入っているのか、さりげなく」
「うん、分かった」
「そしてタイミングを見計らって、ユウが支払いをしてプレゼントする」
「タイミングかぁ…… そこをもっと詳しく教えてよ」
「そうだな…… 一概には言えないけど、今回は…… あの子達が品物の値段を店員さんに尋ねたりした後とかかな~」
「うん、そのタイミングなんだね」
「スマートにな」
「スマートに…… うん!」
少女達がアクセサリーに夢中になっている間、ユウはブレイと一緒に品物を見ていた。
……ブレイ君がいてくれて良かった~。
もし今一人なら、どういう風にこの時間を過ごして良いか、分からなかった。
「ごれ、ぎれいだ…… お゛ら、わ゛がらないげども、どうがな?」
「うん? 僕も良く分からないけど、これ良い色だよね。ブレスレットかな……」
「ブレズレッド?」
「うん。ここ、手首に付けるんだよ」
ユウはそう言って自分の手首を触る。
「ごごがぁ……」
ブレイはキャミィの細く白い手首を思い出していた。
「う゛ん。ぜっだい似あ゛う゛っべぇ」
ブレイの屈託のない笑顔を見たユウは、自分まで笑顔になる。
……ブレイ君の純粋さが、僕に伝わって来る。
ユウは品物を選ぶブレイを見守っていた。
そして、シンに言われた通り、少女達にも時折目をやり、自然な感じでその場に居ることができた。
良い感じだ…… たぶん出来ているぞ。
「クルクル~、これ欲しいなぁ…… いくらかな?」
「お姉ちゃんが店員さんに聞いてくるね」
プルはカウンターに居る店員に声をかけた。
「あの~、すみません。これおいくらですか?」
プルが声をかけた人物は、この店のオーナー店長だった。
オーナーはプルをジッと見た後、他の少女達にも目を向ける。
この子達の服装…… この町では見ない顔だわ……
さっきから変な方言が聞こえてきてたし、どこの町から来た子達かしら……
「それはね、2000シロンです」
「……ありがとうございます」
値段を聞いたプルはクルの元へと戻って行く。
「クルクル~、いくらだった?」
「うん…… 2000シロンだって……」
「高いっぺぇねぇ~」
リンは値段に驚く。
「そう…… クル1000シロンお婆ちゃんから貰ったけど、足りないね……」
「お姉ちゃんの1000シロンを足せばたりるよ」
「だって、それだとクルだけしか…… 他のも見てみよう。お姉ちゃんと一緒のがいい……」
「うん……」
そのやり取りは、ユウにも聞こえていた。
こっ、ここかなタイミングは!?
ど、ど、どうしよう…… い、行こうかな……
ええい、行かなきゃ! 今行くんだ!!
ユウは意を決して、少女達の所に歩いて行く。
「みっみみみ」
突然近付いて来たユウが、意味不明な言葉を発するので少女達は警戒する。
「なっ、何?」
「みっ、みみ、皆一つ選んでいいからね。しっ、支払いは僕が…… 僕がするから」
「クルクル! 本当!? お姉ちゃんと同じの買えるの?」
「良いんですか? こんな高価な物を……」
他の少女達も、ユウの言葉で笑みを浮かべている。ナナとリンを除いて……
「なんだっぺぇ、それが今日の目的っぺぇ?」
リンが声をあげた。
「えっ!?」
そして、ナナの口から恐れていた言葉が飛び出てくる。
「うち達を、物で釣る気だっぺぇ!?」
……シンの、シンの言った通りだ! 僕がこの子達を物で釣る気だと思っている!?
「よし、ユウ!」
「何!?」
「練習しておこう」
「練習?」
「あぁ。ボクシングにもシャドウってあってだな、要はイメージトレーニングだ。凄く大切な練習なんだよ」
「イメージトレ……」
「じゃあ俺は女の子役をするからな、いくぞ」
そう言ったシンは目を閉じる。
「えっ!? ……うん」
役作りかな? 急に目を閉じたけど…… あっ、目を開けたぞ……
「これいいなぁ、欲しいなぁ~。けど…… 高いなぁ……」
うっ!? 気持ち悪い!! 身体をクネらせて声を裏声にする必要あるのかな……
そう思っていると、行動を起こさない僕をシンが気味の悪い目でジッと見ていた。
「あっ、えーと、そ、それ僕が支払いするよ」
「あ~、お前に払ってもらう覚えはねーよ! 物で釣ってあたしの身体狙いか!? おーこらぁー!!」
だっ、誰役なのそれ!? 巻き舌までして!? そんな元の世界のヤンキーみたいなしゃべり方する子はいないよ!
「もっ物で釣るなんて、そんな気はないよ。ただ、それは必要だから…… そう、アイドルに必要なんだよ。だから皆遠慮しないで好きな物を一つ選んで……」
ナナは先ほどまで喜んでいたクルをチラ見する。
すると、クルの笑顔は消えていた。
「……本当っペぇかぁ?」
「うん! 本当だよ。だから……」
「……分かったっペぇ。皆一つ選ぶっぺぇ」
ナナの言葉で、クルに笑顔が戻る。
「クルクルクル~、やったぁ~! お姉ちゃんこれ、同じのにしよう」
「うん! クルと一緒!」
他の少女達も色々なアクセサリーを代わる代わる手に取り見ている。
「ナナはこれが似合いそうっペぇ!」
「そっ、そうかな……」
「これ何処につけるっぺぇねぇ?」
知らないのにうちに似合うとか良く言えたっぺぇ……
リンの声が聞こえたオーナーが近付いて来て、優しく話しかける。
「それ気に入ったの?」
「これよく分からないっぺぇけど、なんか良い感じっペぇ」
「ありがとう、それ私がデザインしたの」
「本当っぺぇ!?」
「これはね、アンクレットっていって、足首に付けるのよ。ほら、私の足首にもついているでしょ」
「足首に!? あ~、お姉さんの脚綺麗だっぺぇ~」
「ありがとう。けど、あなたにも絶対似合うわ」
「本当っぺぇ!? ナナ、これにするっぺぇ~、色違い買うっペぇよー」
「うん…… そうするっぺぇ」
喜ぶ皆を見て、ユウはほっと一息ついた。
ふぅ~、どうやら上手くいったみたいだ。良かったぁ~。
その光景を見ていたブレイも、笑顔を浮かべていた。
「ユウぐん、ごれはどうがな?」
「うん? あー、それも色が綺麗だね」
「う゛ん、迷う゛っべぇげど、 ごれにずるっべぇ」
少女達はアクセサリーを一つずつ選び会計を迎える。
カウンターで支払いをするユウにオーナーが声をかけて来た。
「皆さん今日はどちらからいらしたの?」
「えっ? あっ、イドエから来ました」
しまった!? 言っちゃまずかったかな……
やっぱりイドエから…… でも、あの方言……
「そうなのですね。遠くからわざわざありがとうございます」
「あ、は、はい」
あれ、僕の予想に反して、イドエの名前を出しても凄く丁寧で優しいこの人……
「これ、髪留めですけど、全員分をおまけしますね」
「えー、ありがとうございます。あの子達も喜びます」
「うふ、ではアンクルレット3つと、ブレスレットを3つでちょうど1万シロンになります」
「えっ!?」
おかしいな、確か僕の計算では1万6千シロンのはずだったけど……
「あ、あのー、1万6千シロンでは?」
「いいえ、1万シロンですよ」
オーナーは笑顔でそう答えた。
ユウが無事に会計を済ました後、ブレイも会計を済ます。
ブレイは気づいていなかったが、1000シロンも安くしてもらい、皆と同じ様に髪留めをおまけして貰った。
「あ゛、あじがどう」
「うふ、いいえ。また来てね」
買ったアクセサリーを少女達は直ぐ身に着けた。
「クルクル~、似合う?」
「見て見て、お姉ちゃんも一緒だよ」
「嬉しいー。クルクル~」
ナナもリンも他の少女達も身に着けたアクセサリーを見て笑顔を浮かべている。
そして、おまけの髪留めを手に取った。
「これ可愛いっペぇねぇ~。それに、アカメにも使えそうっペぇ」
アカメ? 何のことだろう?
「ブレイ君、今の店員さん凄く優しかったね」
「う゛ん、良い人だっだっべぇ」
ナナ達にもオーナーとの会話が聞こえており、その優しさを嬉しく感じていた。
「次は何処行くっペぇ!?」
最初町に興味なさげにしていたリンが仕切り始める。
「クルクルー、あっち、あっち」
楽しさから飛び跳ねる様に歩く少女達を、アクセサリーショップのオーナーは見送っていた。
私も…… 私も子供の頃はイドエに住んでいたの……
家族でこの町に移住してきてもう20年ぐらいかしら……
でも、故郷のイドエを忘れたことなんてないわ……
このオーナーは、客がイドエの者だと分かると、今までも内緒で値引きをしていた。
数年に一度ぐらいと、殆ど来る事無いイドエからの客を、いつも、ずっと気にかけていたのだ。
イドエでの生活、大変でしょう…… 私には、こんな事ぐらいしかできないけど、頑張ってね……
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