80 真正


 

 シンがヨコキの宿を去ってから1時間後。 

 

「またお話しようね」 

 

「う゛ん。お茶おじゃをあじがどう」


 キャミィはブレイに笑顔を向けた。


「またね」


「う゛ん」


 名残惜しそうに、何度も何度も振り返るブレイを見送っていたキャミィの元にヨコキが現れる。


「随分楽しそうだったみたいじゃないか?」


「……うん。ママの言う通り、いっぱいお話をしたよ」


「キャミィ、あんたは本当にママの自慢の娘さ」


「本当!?」


「そうさぁ、客が来るまであたしの部屋で果物でも食べようか」


「うん! やったぁー」


 キャミィ、あんたは裏表がなくて素直で良い娘さ~。

 これからも、大切に…… 大切にしてあげるからねぇ。




 街灯も無い暗い道を、弾むような足取りでブレイは歩いていた。

 ずっと、ずっと片思いで、遠くから見ている事しかできなかったキャミィと、二人きりで会話をした事は、この上ない喜びであった。

 そして、自分の声を聞いても嫌な顔一つしない優しくて明るい性格は、ブレイの思い描いていた女性そのものだった。


「ぶふっ、ぶふぶ」


 思わず笑い声が漏れるほど幸せを実感していたが、家が近づくにつれ、徐々に笑顔が失われていく。


 そして、一軒の家の前で足を止めたブレイは、しばらくの間、聞き耳を立てていたが、何も聞こえないのを確認すると、初めてドアを開け中に入っていった。


 そんなおかしな行動をするブレイを、空き家の庭先に身を隠して、ジッと見ている者が居た。





「ブルルルル~」


「ランド戻ってたの? よしよし」


「ブルル」


「ふふ、シンさんのお馬さんもよーしよし」


 ジュリは笑顔で馬の胸辺りをさすってあげている。

 シン達と共に旅をしている二頭の馬も、世話をしてくれているジュリには心を許している様だ。


「お水を用意するからね、待ってて」


「ブルルル」


 水を入れる為の桶を取りにいったジュリは、ある異変に気付く。


「あれ?」


 いつもここに置いているのに…… ない……


「最後は何処で使ったっけ?」


 おかしいな……






「そうです、いいですよ! 最高ですシャリィさん!」


「そうか…… 流石にもう19時を過ぎている。終わろうか?」


「えー、もうそんな時間なんですか? 全然気づきませんでした……」


 ……よし、終わりだな。


「じゃあ、せっかくですから……」


 ……せっかく?


「次をラストにしましょう!」


 いったい何がせっかくなのだろうか……  宿に戻ってバニエラしたい……


 


 日が暮れた暗い中、ブレイの家に背が低く、小太りの一人の中年男性がやって来た。

 その男はノックもせずドアを開けると、ずかずかと中に入って行く。

 すると、数分後に入れ替わる様にブレイが家から出て来た。


「チッ! ぐぞー」


 ブレイは舌打ちをして、明らかに不機嫌な態度で何処かへと歩いて行った。


 空き家の庭先でその様子を見ていた者は、男が入って行った家にゆっくりと近付いて行き、耳を澄ます。


「……駄目よ」


「なっ…… んだ!?」 


「……がいだから帰って。別れるって何度も言ったはずよ」


「がひゅがひゅひゅ、その言葉は今まで何百回も聞いたよ。けど、俺達は離れる事が出来ないだろ!?」


「あなたが勝手に来るからじゃない!? 私はもう別れているつもりよ!」


「そんな事を言って、いつも俺を受け入れてるじゃねーか!」


「……」


「俺とお前はどうせ離れる事は出来はしない。大人しく言う事を聞いていれば、俺は、誰にも・・・手を出さないよ」


「……」


「言っている意味が分かったら、情報をよこせ。ヨコキが早急に情報を欲しいと言って来た。今回のは、良い値段で買ってくれるんだよ」


「……」


「何黙ってんだ、早く教えろよ! ぶん殴るぞ!!」


 ブレイの母親は歯を食いしばり、何かを決断したかのように声を出す。


「……無理」


「あ~ん?」


「……もう無理よ」


「何がだ!?」


「あなたとの関係よ! 村に居る冒険者にお願いする……」


「がひゅがひゅがひゅ、冒険者に話をしたらお前の立場はどうなる!? 今まで俺にどれだけの情報を流してたと思ってやがる? そんな事が分からないのかお前は!?」


「……私はどうなってもいい。冒険者に話をします!」


「このアホがぁ!!」


 男は逆上し、ブレイの母親に殴りかかった。


「テメーは! 俺の! 言う事を! 黙って! 聞いてりゃ! いいんだよ! おぉ!」


 髪の毛を掴み、拳で何度も何度も殴りつける。


「私はもう絶対に引き下がらない! 好きなだけ殴ればいいじゃない! この村は変わるのだから、私も変わらないといけないの!」


「馬鹿野郎! この村はいつまでたっても今のままだ! 冒険者が来たからって何も変わりはしないよ! 直ぐに代わりの無法者やつらが押し寄せてくる! このぉ!」


「キャー!」


 家の中からは、女性の叫び声と、激しく殴打する音が聞こえる。

 そんな中、ブレイの母親は一瞬の隙を見て、ドアから外に飛び出した!


「まてコラッ!」


 男は大声で怒鳴ったが、ブレイの母親はそのまま走って逃げ去る。


 ……チッ! 暗いし追いつけねーか……

 くっそ~、今日のは良い金になったのにぃ!


 冒険者の所に駆け込まれたらやっかいだな……

 まぁ、なにか言われたら惚ければいい。取りあえず…… 帰るか。


 男は外に出て、空き家の並ぶ暗い夜道を歩き始めた。


「コン」


 突然前方から、石の様な硬い物が何かに当たった音が聞こえた。

 

「ん? なんだ?」


 そう言って目を細め、足を止めた瞬間!


「うごっ!?」 


 一瞬のうちに、男は背後から口をふさがれ、喉には冷たく硬い物が押し付けられていた。

 

「暴れるな…… ナイフが突き刺さる……」


「うぐぅ」


 男は肌の感触から、喉に当てられているのは、刃物だと瞬時に理解した。

 

「お前の名はカジタ…… そうならゆっくりと頷け」


 男は言われるがまま、ゆっくりと小さく頷いた。


「……聞きたい事がある。正直に答えろ」


「ぶう、ぶん」


 手で塞がれている口から、カジタの返事が漏れる。


「どうして…… どうして無抵抗な女性と子供を殴れるんだ?」


 カジタが声を出せる様に、口を塞いでいた手を目に移動させ、指を眼球に引っかけて頭を抑え込む。

 カジタが下手に動けば、いつでも目をえぐれる様に……


「あっ、あぁああぁ」


 痛みと恐怖から、言葉を発する事が出来ず、ただ喚き声をあげる。 


「答えろ……」


「なっ、殴れば…・・・ 俺の言う事を何でも聞くから……」


 その言葉を聞いた後、しばらく間が空いた。




「……自分の欲望を満たす為なら、女性や子供が苦しもうが、お前は何も感じないのか?」


「かっ、かっ…… 感じる! い、いいつも後悔してた……」


「……嘘をつけ」


「へえええぇ、うっ、嘘じゃない、本当だ! 頼む、助けてくれ」


 カジタは、今まで感じた事の無い恐怖を、その者から感じていた。

 それは、涙という形になって表れる。


「たっ、頼むよぅぅ、殺さないでくれぇー。うぐわぁああ」 


「……」


 暗い通りに、一際強い風が吹いた後、カジタを絶望に追いやる言葉が聞こえてくる。


「お前のような奴は……」


「ああぁはあぁあ」


「生きている必要は無い」


「ヒイィィィ!」


 悲鳴をあげ、暴れ出したカジタの目に指を喰い込ませると、凄まじい痛みがカジタを襲い、身体が言う事をきかなくなり、動きが止まる。


「ぐうぅ、うぎゃあぁぁぁ」 


 喉に当てていたナイフに力を込めると、1ミリ、2ミリとゆっくり皮膚を突き破っていく。

 まるで、恐怖を長引かせるかの様にゆっくりと……


 その時、突然声が聞こえてくる。



「よせ」



 声の主は、シャリィだった。


「やめるんだ、シン……」


「……」


「お前の評判を落としてまで殺す価値など無い」


「……」


 シャリィは近付いて行き、ナイフを持っているシンの手を掴む。


「ここでこの男を殺すと、この村で成し遂げようとしている事全てが無に帰してしまう。離すんだ…… シン……」 

 

 冷たく、まるで全ての感情を失ってしまっていたかの様なシンの瞳は、ゆっくりと元に戻っていく。

 そして、シャリィに言われた通り、ナイフとカジタを離した。

 

「うぐあぁぁぁ」


 痛みからうずくまり、目を押さえてうめき声をあげるカジタを、シャリィは魔法で気を失わせる。


「後は私に任せて貰う。お前は宿に戻れ」


「……」


 シンは言われるがまま、宿に向かってゆっくりと歩き始める。一度もシャリィと目を合わせる事も無く……





「シン! シンってば!」


 宿に戻って来たユウは、大声でシンの名前を連呼しながら、部屋に入る。


「なんだ居ないの……」


 あ~、それにしても今日は疲れたな~。けど、全然悪い疲れじゃない、良い疲れだ。

 クダミサの振付けを踊るシャリィさんは、本当に素敵だった。

 あのしなやかな動き、飛び散る汗、弾ける身体…… か、身体……


「だっ、駄目だよ!? 何を想像しているんだ僕は!?」


 だけど…… 本当に楽しかったなぁ、今日は…… 



 ユウが物思いにふけっている中、シンは暗い夜道を宿に向かい一人歩いている。

 そして、ある場所にくると、自然と脚を止めた。


 ここは…… 確か俺がピカワンと初めて会った場所……


 そう、その場所はピカワン達に絡まれ、シンがピカワンを殴った場所であった。

 村人や無法者達への顔見世の為、必要以上に村の中をうろつき、道に詳しくなっていたシンの頭にある事がよぎる。



 もしかして……



 シンの目と頭は、ゆっくりと項垂れていく……




「何処いったのかなシンは?」


 流石に疲れちゃったから、シンが戻るまでベッドで横になっていよう。


 明日は…… 明日は別の踊りも……


「……スヤ~」


 ユウは直ぐに眠ってしまい、そのまま朝まで起きる事はなかった。





「……んっ、うーん」


 もう朝なのかな…… そういえば、シンは……


 ユウが隣のベッドに目を向けると、シンがいつもの様に寝ていた。

 それを見て、ユウは安心する。


「今何時? 6時前かぁ」


 起きるには早いな…… だけど今日も楽しみでバッチリ目が覚めちゃった。

 トイレにでも行ってこようかな……


 そう思い、身体を起こそうとすると……


「あいたた」


 ははは、流石にあれだけ踊ると、酷い筋肉痛になっているよ。


「ん~」


「あっ、ごめん起こしちゃったね」


「ん~~、いや、少し前から半分起きてたから気にするな」


「そうなの?」


「あぁ、今日も馬の散歩に行ってくるから起きる様にしてたんだ」


 上半身を起こし、首を左右に振るシンを見ながらユウは問いかけた。


「あの…… 昨日の夜は何処に行ってたの?」


「ん?」


「いや、戻ってきたら居なかったから」


「あ~、馬小屋に居たさ」


「馬小屋? そうなんだ」


「ん~、さてとバニしてっと、いや、先に散歩行ってくるよ」


「う、うん」


 そう言って、シンは直ぐに部屋から出て行った。


 うーん、何かよそよそしいというか、元気がないというか、いつものシンと違ったような気がしたけど……

 気のせいかな……





「うおっ、今日は寒いな」


 そういえば…… シャリィはいつも薄着だな、寒くないのかな?


 シンが馬小屋に行くと、まだジュリは来ておらず、昨夜勝手に持ち出したナイフが、元の場所に置かれていた。


「……」


 ナイフを見つめていると、シンの脳裏に昨夜の事が頭をよぎる。


「……」


「ブルルルル~」


「おっ、早く散歩に行きたよな。わりぃわりぃ、直ぐ準備するよ」


 だが、思い浮かんだのはほんの一瞬で、直ぐに忘れたかの様に別の事を考えていた。






「じゃあな」


「うん、また後でね」


 ユウは立ち止まり、野外劇場へ向かうシンの背中を見ている。


 朝食の時も、シンの口数は少なく、いつもと様子が違っていた……

 何かおかしいな…… どうしたのだろう……


「……行こうか?」


「……はい」




 シンが野外劇場に着くと、そこにはピカワン達だけではなく、本来ならユウの所に行くはずだった女の子達も全員が来ていた。

 女の子達はピカワン達からかなり離れた場所に集まり座っている。


「おはようっぺぇ」


「フォワ~」


「うん、おはよう」


 いつもと違うシンの様子に、ピカワンとフォワは気づいた。


「フォワ?」 



 ブレイがシンの前にトコトコと歩いて来て笑顔を向ける。


 それに応えるかのようにシンも笑顔を返す。

 

「シン」  


「ん?」


「ブレイと仲良くなったっぺぇか?」


 ……皆の前で俺に向けて声を出さないのは、宿での事を隠して欲しいのかもしれないな。確認を取るまでは内緒にしておくか……


「……少しな」


「そうっぺぇかぁ。えーと、リンやナナ達はする事無くて暇だから見学に来てるっペぇ。いいっぺぇかぁ?」


「あぁ、全然かまわないよ」


「じゃあちょっと伝えてくるっぺぇ」

 

 そう言って、背中を向けたピカワンを呼び止める。


「……ピカワン」


「どうしたっぺぇ?」


「ラジオ体操が終わったらちょっと時間くれるか?」


「いいぺっよぉ」


 軽く返事をしたピカワンは、リンやナナ達に見てても良い事を伝えに行った。


「フォワ~フォワフォワ~」


「ん?」


「元気出すフォワ」


「……ふっ、ふふふふ」


 普段と違う違和感に気付き、元気付けてくれたフォワを見て、シンは思わず笑ってしまった。


「あぁ、ありがとなフォワ」



 ラジオ体操が終わると、皆が掃除と破損部分の簡単な修復を始める中、シンはピカワンとその場を離れて行く。



 ……何処行ってるっペぇ? 


 

 その様子を、ナナ達は見ていた。



「シン、何処まで行くっペぇ? だいぶ離れたっペぇよう」


「あっ、あぁ、そうだな。この辺りでいいか……」


 二人は地面に落ちている倒木に、並んで座った。


「……どうしたっぺぇ? 今日は変だっペぇ」


「いやー、実はな…… 昨日気づいた事があってさ……」


「なんだっぺぇ?」


「……初めて会った時の事を覚えてるよな?」


「……はっ、はははは、おら達がシンから金を巻き上げようとしてた時だっペぇ。ついこの前だから忘れる訳ないっペぇーよー」


「そうだんだけど……」


「どうしたっぺぇ本当に?」


 シンは少し間をおいて再び口を開く。


「……あの時、ピカワンは俺とユウを止めてくれてたんだろう?」


「……何の事だっペぇ?」


「惚けなくていい。俺とユウの通ってた道は、あのままいけば、山賊達のたまり場に通じていた」


「……」


「よそ者の俺達が、そこに行けば……」


 ピカワンは、少し俯いてシンの話を黙って聞いていた。


「どうなっていたかは、だいたい想像がつくよ」


「……」


「ピカワンは俺とユウがそうならないように、いや、俺達だけじゃない。そうやって迷子になった旅人にあの場所でわざと絡んできて止めていたんだろう…… 俺はそれに気づかず、殴ってしまった……」


「……」


「ピカワン…… 本当にすまなかった」


 シンは、隣に座っているピカワンに向けて、頭を下げた。


「……仮にそうだとしても、あの時シンとユウ君の金を巻き上げようとしてたのは本当だっぺぇ。他の旅人からも金を巻き上げていたっペぇ」


「……」


「だから、殴られてもしかたない状況だったっペぇ。それに、シン達がまさかシャリィ様のシューラ何て知らなかったから、結果的にはバンディート達を助けた事になるっぺぇ」


「……」


「シンは…… 謝らなくていいっペぇ」


「……そういう訳にはいかない。ピカワン……」


「なんだっぺぇ……」


「俺を殴れ」


 その言葉を聞いたピカワンは、少し間を置いて返答する。


「……無理っペぇ」


「……」


「おらは、シンの事が好きだっペぇ…… だから、殴ったりしたくないっペぇ」


「そうか…… 本当に、すまない」


「だから、謝らなくていいぺぇーよー」


「……」


 ピカワンは、しばらく口を閉じた後、少し項垂れて呟く様に話を始めた。


「シン、この村におら達の父ちゃん母ちゃん世代の人が少ないのに気づいていたっペ?」


「あぁ、気づいていた」


「……理由も分かるっペぇか?」


「たぶん、この村で暴動を起こさせない為だろう……」


「……そうっぺぇ、おらもそう思うっペぇ。働き盛りの大人が沢山居れば、バンディート達あいつらに立ち向かうかもしれないっぺぇ。事実、そんな事が前に何度かあったって婆ちゃんから聞いたっペぇ」


「……」


「だから大人達は、他の村や町に出稼ぎに出されるっぺぇ。レピンも今19歳で、そろそろ順番が回って来る歳だけど、あいつは19歳に見えないぐらい身体も細いし幼いっペぇ。そのせいか知らないっペぇけど、出稼ぎの話は出てないっペぇ。シン達が泊っている宿の旦那さんも、出稼ぎに出されて村には居ないっペぇ」


「……」


「村の大多数を、年寄りと子供だけにしておけば、この村を支配しやすいのは分かるっペぇけど…… どうして領主様は、そんな事が出来るっぺぇ? どうしてガルカスやバンディートを放置してたっぺぇ!? この村が、おら達が何をしたっぺーよ!? おらには、おらには分からないっペぇ……」


 この時シンは、自分の推論をピカワンに伝えようか悩んでいた。


「……」


「……シン」


 シンは、ピカワンを見て頷いた。


「お願いがあるっぺぇ……」


「あぁ……」


「おら達は、おら達はもう我慢出来る歳になったっぺぇ。だけど、ジュリちゃんぐらいの幼い子はまだ沢山村に居るっペぇ」


「……」


「あの子達が…… あの子達が、両親と暮らせるように…… 村を、村を変えてくれねっペぇかぁ…… おっ、お願いだっ…… ぺぇ…… うぅぅ」


 ピカワンは、大粒の涙を流しながらシンに懇願した。


「ううぅぅぅ」


 シンは、ピカワンの肩に手を回し、流れてくる涙を止めるかのように上を向いた。


「あぁ、まかせておけ。俺達が、この村を必ず変えてやる。まかせておけ、ピカワン」


「うっ、うぅぅぅ。うっああああああぁぁぁ」


 ピカワン達のしている事に村人は、誰も気づいていなかった。

 それに初めて気づいてくれたシンにすがって、ピカワンは泣いた。顔をくしゃくしゃにして、まるで小さい子供の様に泣いた。


 シンは、号泣するピカワンを優しく抱きしめていた。 


 その様子を、少し離れた場所から、後をつけて来ていたリンやナナ、女の子達、そしてフォワが見ていた。


「そこだっぺぇシン! ピカワンを押し倒すっぺぇ!」


「ああああ、リンの言う通り押し倒してぇー。はぁ~、ドキドキしてきちゃった……」


「押し倒すより先に、キスでしょうこの場面は!」



「……フォ~ワ~」



 フォワは、リン達の会話にドン引きしていた。



「クルクル~、クルも見るよ~」


「駄目ー、クルにはまだ早いの~」


「クルクル~、お姉ちゃん目を塞がないで~、見えないよ~」


「シッー! 聞こえちゃうっぺぇ」


 皆が何かを期待しているそんな中、一人その場を静かに離れて行くナナの頬には、涙がつたっていた……


「ピカワン……」


 うちも一緒に…… 一緒にこの村を変えよう……


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