79 慧眼



 少年達は、シンにヒューマンビートボックスを教えて貰い、皆で楽しみながら練習していた。

 ただ一人を覗いて……


 ……ブレイ・サイス、未だに一度も会話をしていない。

 無理に押し付ける事はしない方が良いと判断して時間をかけてきたつもりだけど、今日も仲間の練習をニコニコしながら見ているだけで、自分はしようとしていない。

 沢山人が居る時は避けて、ブレイが一人になった時に話しかけてみるか……

 かといってもだな、いつも集団で行動しているし、一人になる時かぁ……

 突然自宅を訪ねるのも違うしな~。どうしようか……

 ピカワンにセッティングして貰うか?

 いや、呼び出すような感じより、偶然を装った方が良いな……


 その機会を狙いつつ、もう少し様子を見てみるか……


 シンは答えが出ないまま、先延ばしにする事にしたが、ブレイの事はずっと気にしていた。



「よーし、今日はもう終わりだ。皆おつかれさま、明日も9時にここに集まってくれ」


 シンは少年達といつもの様に別れ、宿に戻って来たが、そこにユウとシャリィの姿はなかった。




「シャリィさん、だいぶ良くなってきましたよ! では!?」


 ようやく終わりか……


「もう一度最初からやりましょう!」


 また…… 最初から…… 


 お腹減った……  




「ユウ、帰ってるか? いないか……」 


 まだスタジオでシャリィに教えているのかな?


「今何時だ? 17時半かぁ…… あっ! 馬の散歩!?」


 急いで馬小屋に行くと、ジュリが既に準備をしてくれていた。


「ごめんねジュリちゃん、暗くなる前に散歩に行かないといけないのに」


「シンさん忙しいと思って、準備はしておきました。はいこれ」


 そう言うと、朝と同じ様に袋と木ベラをシンに渡した。


 本当にしっかりした子だ…… 頭が下がる。


「ありがとう、行ってくるね~」


「はーい」


 シンはいつもの様に二頭の馬を連れ、中心地に向かって行く。


「ランド、良い飼い主さんだなジュリちゃんは~」


「ブルルルー」


 ランドはシンに応えるかの様に鳴き声をあげた直後、尻尾を上にピンとあげた。


「おっ、ウンコだな」


 シンはランドの糞を素早く片付けて顔を上げた時、見慣れた姿が目に入ってきた。


 あれは…… もしかしてブレイか? 何をしているんだろう?


 ブレイは壁に隠れる様にして、何処かを見ている。

 その視線の先には……



 あの子は…… 確か馬の糞を片付けてくれた……



 そう、ブレイはヨコキの店で働いているキャミィを見ていたのだ。


 ブレイは一人か…… だけど、声をかけにくい状況だなこれは……


 そう思っていたシンは、わざとブレイに聞こえる様に声を出す。


「よーしよし、ランド。スッキリしたか? それなら行くぞ」


 ランドを見ながら声を出したシンは、振り返り自然とブレイに目を向ける。

 

 突然シンの声が聞こえて驚いたブレイもシンを見ていた。


「おっ、ブレイじゃん。何してるんだこんなところで?」

 

 そう問いかけられたブレイは、ばつの悪そうな表情をしていつもの様に無言でシンを見ている。


「……」


 そんなブレイにシンは近づいて行き、再度声をかける。


「一人なのか?」


 ブレイは無言で頷いた。


「そっかぁ、俺は馬の散歩してる途中なんだけど……」


 この時シンは、ブレイがキャミィを見ていた事を告げるか悩んでいた。

 相手がブレイではなく、ピカワンやフォワなら直ぐに口に出していただろう。

 だが、ブレイとはまだ直接話した事は一度も無く、その部分に触れてもいいのか慎重になるのは当たり前であった。

 

 黙っていてもしかたない…… 何か糸口を掴まないと、ブレイとはいつまでたっても今の距離のままだ……


「もしかして、あの子を見ていたのか?」 


 宿の前で掃除をしてるキャミィに目を向けた。 


 一度シンに目を向けたブレイは、顔を背けた後、小さく頷いた。


「そうか…… 可愛いなあの子」 


 シンはなんとなく正直な感想を口にしたのだが、ブレイはその言葉に反応した。


「う゛ん」

 

 初めて聞いたブレイの声は、しゃがれたダミ声で、簡単な返事すら聞き取りにくかった。


 しかし、シンは驚いたような態度は一切ださず、普通に会話を続ける。


「目の付け所が良いなブレイ。あの子は絶対に良い子だ」


「……どうじで、ぞんなごとが分がるっべぇ?」

 

「それがさ、今みたいに馬の散歩してる時に、糞の掃除をするこの木ベラと袋を持ってなくてさ、その時にあの子が代わりに糞を片付けてくれたんだよ」


 シンはヨコキが絡んでいた部分を外して話をした。


「ぞうだっだっべぇ……」


「……そういえばあの時のお礼をまだしてなかったな。う~んと、これでもお礼の品になるかな?」


 シンはそう言うと、ポケットからバニ石とビンツ石を取り出した。


「ごのぶらでは、魔法石まぼうぜぎは売っでないがら、喜ぶど思う゛っべぇ……」


「そうか? じゃあブレイも一緒に来てくれ」


「お、お゛らも?」


「あぁ、一人だと照れくさくてな。頼むよ」


 ブレイは少し考えた後、ゆっくりと頷いた。


 二人は馬を連れキャミィの所へと向かうが、ブレイの足取りは重く、シンの後ろに隠れる様に歩いている。


「ブルルッルル」


 馬の鳴き声で掃除をしていたキャミィは顔を上げ、シン達の方に目を向けた。


「あっ……」


 少し驚いているキャミィにシンは挨拶をする。


「こんばんは」


「……こんばんは」


「この前はごめんね。あと、ありがとう」


「う、うん……」


「俺はシン。そして、ブレイ」


「……シンとブレイ」


「あぁ。これ、もし良かったら」


 シンはポケットからバニ石とビンツ石を取り出すが、うっかり落としてしまう。


 石はブレイの前に転がり、ブレイはその石を拾い上げた。


「わりぃブレイ。その石を渡してあげてくれるか」


 ブレイはシンをチラ見した後、キャミィを見てバニ石とビンツ石をそっと差し出す。

 キャミィは少し照れくさそうにその石をブレイの手から受け取った。


 シンはその光景を微笑を浮かべながら見ている。


「あ、ありがとう」


 キャミィはシンに礼を言った。


「いやいや、全然。これは取りあえずのお礼なんだ」


「取りあえず?」


「あぁ、また改めてお礼の品を持ってくるよ」


「そう……なんだ……」


 キャミィは少し俯いて、笑みを隠していた。


「あーっと、そう言えば俺はめちゃくちゃ忙しいからな~。……そうだ!? ブレイに頼んでいいかな? お礼の品はブレイが届けてくれるか?」


 ブレイはシンを見て大きく頷いたその時……


「何だい!? 店の前で騒がしいね!」


 怒鳴るような声がして、ヨコキが宿から出て来た。


「あ~、あんたかい。今日は何の用だい?」 



 うぉ!? ヨコキさん、前より更に派手なかっこうしている!?



 ヨコキは問いかけながらも、場の状況を分析していた。


 ……確かこの小僧は、離れた所からたまに宿を見ていた小僧だね。

 なんだい、ずいぶん頬が赤いね…… なるほどね、お目当てはキャミィだったのかい。

 

 シューラが村の小僧や小娘を集めて何かをしていると聞いたけど、この小僧もその一員なんだね。それでキャミィとの橋渡しかい? 面倒見が良いんだね~。

 それなら……

    

「こんな道で話をしていないで、中に入りな。お茶ぐらい出すよ。キャミィも一緒に休憩して良いからね」


 その言葉に驚いたのはキャミィであった。


 キャミィの知るヨコキは損得勘定のみで動く人間であり、客でもない人間にお茶を勧めるなど、ありえないと思っていたからだ。

 

 無論シンも、ヨコキの言葉が親切心からだとは思っていない。


 ……変な借りを作りたくないから俺一人なら断るが、ブレイにはこの子との時間を少しでも作ってあげたい。

 と、見透かされているな……

     

「せっかくのお誘いだ。断ったら悪いよな。ブレイ、お言葉に甘えてお茶していこう」 


 ブレイは、頷いた。


「馬はそこに縛っておきな」


 ヨコキの指さす方には、馬の手綱を括り付ける丸太が設置されていた。


 元の世界でも、水商売している人の中には、場の空気を読むのに優れていた人が居たが、ヨコキさんもそのタイプだな……



 二人は豪華な部屋に通された。 


「はぇ~、派手な内装だな~。なんだこの置物? 指を持って行ったら噛みつかれそうだな? あいたたた、本当に噛みつきやがった!」


「ぶっぶぶぶ」

 

 ブレイはシンを見て笑っている。


 今まで、仲間でもないシンに自分の声を聞かれるのを嫌がり、言葉を発しなかったブレイだが、自分のしゃがれた声を聞いても、何も態度を変えないシンを見て、自然に仲間と同じ様に接している。

 それに、キャミィとの間を取り持ってくれるシンを頼りにしていた。


「コンコン」


 ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 ハーブティを持ったキャミィと、その後からヨコキも入って来た。


 並んで椅子に座っているシン達を見て声を出す。


「なんだい男同士で並んで。あんたはこっち」


 そう言うと、ブレイを別の椅子に移動させた。



 まさか……



 この時シンは、少し嫌な気がしていた。


 ハーブティをテーブルに並べたキャミィはブレイの隣に座り、それを立って見ていたヨコキは、シンの隣に座るかと思いきや、一旦椅子を掴み、更にシンに近付けてから腰をおろした。


 やっぱり…… っていうか、何故に椅子を近づけた!?


「このハーブティはこの村で取れる中でも高級なやつだからね、美味しいよ。飲んでみな」


 シンの方を見てそう話すヨコキの唇は、シンの耳にキスするかのように近づいていた。



 ちっ、ちけーよ!?



「ぶっ、ぶぶぶぶ」


 困っているシンを見て、ブレイはキャミィとヨコキが居る前で、しゃがれた声で思わず笑い声をあげてしまう。


 しまったと思ったブレイだが、キャミィもヨコキもシンと同じ様に、ブレイのしゃがれた声に何も反応しない。

 それどころか……


「遠慮しなくていいからね。飲んでみて、美味しいよ」


 キャミィは優しくブレイにハーブティを勧めた。


「……う゛ん。……お゛いじい」


 その言葉でキャミィはニコっと笑った。


 自分に向けられたキャミィの笑顔で、ブレイは頬を赤く染めて、それを隠すように俯く。


「坊やも飲みな」


 坊や!? 俺の事だよな……


 ヨコキはシンにハーブティを飲みように促す。


「……あっ、これ美味い!」


「だろう。このハーブティは村では飲まずに、卸す専用のハーブだからね。皮肉なものだろう、この村で育てているのに、ここの村人は口にする事も出来ないぐらい高級品なのさ」


 ……なるほどな。


「そうやって頑張っているのに、酷い有様さこの村は」

 

 たぶん色々知っているんだろうなこの人は……

 だけど、俺が異世界人でこの世界の知識が乏しい今、深い話は避けた方が良いだろう……


「へぇ~」


 シンは興味がなさそうに適当に返事をした。


「……で、どうだい?」


「ん? 何が?」


「あんたのやっている事さ~。上手くいっているのかい?」


「あぁ~、罰の事か? 皆頑張って罪を償ってるよ」


 ……フン、白々しい坊やだね。こっちは日々新しい情報が入って来てるというのにね……

 

「まぁ、坊やのあそこみたいに硬い・・話はやめておこうかね」

 

 そう言ってヨコキは、シンの股間に手を置いた。


「ぶうぅぅぅぅぅー!」


 シンは室内に虹を造るかのごとくハーブティを激吹げきぶきした。


「ゴホッゴホッゴホッ」

 

「あららむせちゃって。こっちに来な、タオルがあるよ」 


「いや、いいよ。ゴホッゴホッ」


 咽ているシンの耳にヨコキは近づき、何やらボソボソと話をした。


「馬鹿、こいつらを二人きりにさせてやるんだよ」



 この協力は高くつきそうだな……



「……タオルは何処?」


「あっちの部屋さ、案内するよ」 


「わりぃ、ちょっと行ってくる」


 そう言って、シンはヨコキと部屋から出て行った。

 二人きりになると、キャミィは積極的にブレイに話しかけた。


「ブレイ君、美味しい?」


「う゛、う゛ん」


「そっかぁ、良かった。私が淹れたんだ」


「ぞうなんだ。お゛いじいよ」


「……ブレイ君はいくつなの?」


「え゛?」


「歳、年齢……」


「お゛らば、じゅう゛よん歳だっべぇ」


「えっ、14歳!? 私と一緒だね!」


「い、いっじょだっだっべぇ?」


「そうだよ」


 キャミィは背が高く、ふくよかな胸で大人・・の身体つきであったが、実はまだ14歳だった。



 別の部屋に移動したシンとヨコキは……



「ほれ、タオルだよ」


「あっ、ありがとう。ゴホッゴホッ」


 タオルで口を拭くシンをヨコキはジッと見ている。


「分かってると思うけど、キャミィは売春宿うちの娘だからね。今回の事はタダじゃないよ」


 タオルで口を拭いていたシンの手が止まる。



 やはりそんな事を言ってきたか……



「どうすればいいんだ?」


「単刀直入に聞いてくるね~坊や。ベッドの中でもそんなのかい?」


 下ネタは大好きだけど、ヨコキさんとはちょっと……


「まっ、まぁな。で、どうすれば?」

 

 ふん、面白く返せないのかね。見た目は良いのに減点だよっ!


「坊やのベッドの中みたいに言わせてもらえば」


 その言い回しやめろ! 本当は単刀直入じゃないし俺!


売春宿うちのヴィスタになって貰えるかい?」



 ヴィスタ? なんだそれ……



「……」


「なんだい、嫌なのかい?」


「いや、そうじゃなくて、ヴィ何とかって何だっけ? 俺、すげー田舎者なもんで……」


 シンのその言葉で、ヨコキは目を細めた。


「……売春宿やどを守って貰えないかい?」


 あ~、なるほどな…… 


ガルガスあいつらが居なくなった影響が出て来ているの?」


「客足は当然減っちまったけど、そっちはまだ大丈夫さ。それよりも、トラブルがないのがいつまで続くやら…… こういう店は、ケツ持ちが居ないと舐められてしまうからね。うちは可愛くてスタイル良い子が多いから、わざわざ護衛を付けて迄別の村や町から足繫く通ってくる客もいるのさ。そいつらの耳にもガルカス達が居なくなったのは届いているだろうから、トラブルが起きるのは時間の問題さ」


 なるほど…… 村の人間ならシャリィの事を恐れてトラブルを起こすような事はしないが、勝手がわからない奴等は……


「分かった。シャリィに頼んでおくよ」


「ぶははっ」


 その言葉を聞いたヨコキは、馬鹿にした様に笑った。


「何言ってんだい。Sランク冒険者が売春宿うちのケツ持ちなんてしてくれる訳ないだろ!? だから貸し・・のある坊やに頼んでいるのさ」


「おっ、俺?」  


「そうさ」


 ……俺だとしても一人で決める訳にはいかない。シャリィに相談してみるか……


「分かった。けど、少し時間をくれ」


 ケツ持ちかぁ…… 冒険者ってヤクザみたいな事もしてんのかな? 

 まぁ、たぶん裏でって話だよな…… 堂々と公にするのではないと思うから、それなら一時的に名義を貸す感じで……



 ウッシシシ、最高ランクの冒険者のシューラがケツを持ってくれたら、この宿の知名度が一気に爆上がりするよ~。


「決まったら宿の入り口に坊やの名前が入った看板を立てておくよ」


 思いっきり表の話なのかよ!?

 俺の名前入りの看板って!? いくら本名じゃないとはいえ、恥ずかしいだろそれ!


「なに本気で困ってんのさ、冗談に決まってるじゃないか~」


 じょ、冗談だったのか!? やばっ、この世界の事知らなさ過ぎて、本気にしてたよ……



 ふん、可愛いところもあるじゃないか…… だけど察しが悪くて減点だね……



「それにしても、坊やも世話好きだね~」


「ん?」


「サイスの事さ」


「サイス? あぁ、ブレイの事か。知っているのか?」


「最初は分からなかったけど、声で分かったよ。あいつの母親は役場に勤めていて、ちょっとした馬鹿な有名人さ」



 声で…… 分かっただと……



「へぇ~、どんな風に有名なんだ?」


「男を見る目がないってので有名なのさ」


「……なんだそれ?」


「あの子の母親はさ、暴力を振るう男が好きなのさ」


「暴力?」


「そうさ。と、言っても男特有のアレさ。最初は優しくて、慣れてくると本性を現すってやつさ。だけど、あの子の母親は特に変な男ばっか選んでね、あの子も可哀そうなもんさ」



 その言葉を聞いたシンの雰囲気が、一瞬で変化した。


 

 うん? ……あらあら、なんとも怪しくて怖いイフトだね~。

  

 流石はSランク冒険者のシューラ…… さっきの減点を無しにして、更に加点してあげるよ……


「あの声は…… ブレイの喉は、母親の男に潰されたのか……」



 あ~、怖い、怖いねぇ……



「そうさ。聞いたのは何年前だったかね、村ではけっこう有名だよこの話。確か、今もまだ付き合っているはずさ、その男と」


 シンにそう伝えたヨコキは、不敵な笑みを浮かべてゆく。


 あ~、坊やのイフト、そばで感じていると…… あそこがうずいてきちゃう……


「知りたいかい?」


「……何をだ?」


「母親の男の名前さ」


「……」


 シンは黙ったまま、ヨコキに鋭い眼を向けた。


「……カジタさ」


「カジタ……」


「そうさ。この村に住みついて、村人相手に魔法石を転売している奴さ」 


 転売…… 確か、魔法石の値段は決まっていて、高くしても安くしても駄目だとシャリィが言っていたな。

 ……この村には、魔法石は売っていない。イドエの村人は魔法石の扱いを制限され、それに、買おうにも近隣の村や町に行くのも魔獣が居るから命懸けだ……

 つまりそいつは、村には無くてはならない……



「……心配することはないさ」


「……どういう意味だ?」


 ヨコキは、シンの考えをズバリと読んでいた。


「カジタの取引相手は、あたしが買い取ったルートと同じ奴なのさ」


 買い取った……


「だからもしカジタが迷子になって居なくなったとしても、あたしが居る限り村が困る事はないのさ」

 

「……」


 





「でね、そしたら姉さんがね」


「う゛んう゛ん」 


 キャミィは、同じぐらいの歳の男の子と話をしたことがあまりなく、ブレイとの会話は嬉しくて、話は盛り上がっていた。

 

「コンコン」


「はーい。ママかな?」


 ノックし、ドアを開けて覗いてきたのはシンだった。


「ブレイ、俺馬を忘れてたよー。早く馬小屋に帰してあげないとな」


「あ゛っ、わがっだっべぇ」


 名残惜しそうに立ち上がろうとしたブレイに、シンが声をかける。


「ブレイはまだ居て良いんだよ。ヨコキさんの許可は取ってある」


「ぞ、ぞうなのが!?」


「なっ、ヨコキさん!」


 シンは廊下の方に向けて声をあげた。すると……


「あぁー、あたしが許可したよ。キャミィ、まだその子と話をしてな」


 姿は見えないが、ヨコキの声が聞こえた。


「うん、分かったママ」


「ほらな、だからゆっくりしていけよ。じゃあまた明日な」


「う゛ん」


 ドアを閉めようとしたシンに、ブレイが声をかける


「ジン!」


「ん? どうした?」


「あ゛、あじがどう゛」


 礼を言うブレイに、シンは笑顔を向けて軽く頷いた後、ドアを閉めた。



 馬を連れ、去ってゆくシンの背中をヨコキは見詰めていた。



 ……これで1番のネックだったカジタも片が付きそうだね。

 ったく、本当に優しくて良い男だね~。惚れちゃいそうだよ、シン・ウースの坊や。


 ……カジタの利権が手に入れば、あたしのこの村での地位は揺ぎ無いものになる。


 だけど、そうなると…… この村が昔の様に戻るのは…… 困っちゃうねぇ~。


 ヨコキは…… 笑っていた。




 その頃、ユウとシャリィは……


「凄いですよシャリィさん、ほぼ完璧、完璧です!」


「そうか…… では、そろそろ……」


「また最初からいきましょう! いや~、楽しいですよね~」 

 

「……」



 ……帰りたい


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