75 以心伝心
「ハァハァハァハァ」
荒い息遣いをあげながら、宿屋に駆け込んだ。
「あれ? ユウさん忘れ物ですか?」
ロビーを掃除していたジュリの呼びかけを無視し、部屋に向かって全速力で走って行くが、体力の無いユウのスピードは、まるで老人の歩みの様に遅い。
「バタン!」
ドアを乱暴に閉め、床に両手をついたユウは、息を整える事に必死だった。
「ハァハァハァハァハァ」
「大きく吸ってぇ~、吐く~」
「スウ~、ハァ~」
体操を終えた少年達は、リラックスした状態で立っている。
「これでお終いだ、どうだ~?」
シンの問いかけを聞いた後、身体の動きを確かめるかのように、肩を回し、首を左右に振っている。
「フォワ~」
「なんだか身体が軽くなったような気がするっペぇ」
「するっぺぇなぁ~」
ふふ、ラジオ体操は、朝にやると直ぐに効果を感じるんだよな~。本当に、素晴らしい体操なんだよ。
「なんか身体が気持ち良いっペぇ」
「そうだろ? これからは必ず仕事……じゃない、罰の作業前にやろうな」
「やるっぺぇ、やるっぺぇ」
「シンは色々な事しってるっぺぇな~」
少年達は、口を揃えて感心している。
「ところでシン」
「どうしたピカワン?」
「ラジオ体操のラジオって何だっペぇ?」
うっ!? しまった!
こいつらといると、つい自分の置かれている状況を忘れてしまって……
「えーとだな、そうだな……」
オドオドとして、直ぐに答えないシンを見て、少年達は珍しいと感じてしまう。
「えーと、あれだ、ラジオさんって人が考えた体操だったような……」
「フォワ~、フォワフォワフォワ~?」
ん!?
「何者か聞いてるっペよ」
ラジオさんが何者!?
「たっ、確か…… シャリィのおじさんだったような……」
「うぉー! さすがシャリィ様のおじさんぺぇ! こんな快適になる体操を考えたっペぇかぁ!?」
「もしかしてー、この体操毎日していたら、あんなエロい身体になるっペぇか!?」
「うちの婆ちゃんにも教えてやるっペぇ!」
「それはやめるっペぇ! お前の婆ちゃんがエロい身体になったら嫌だっペぇ」
「うちの婆ちゃんを馬鹿にするでねぇっぺぇ!」
「馬鹿にしてねぇっぺぇ! ただ、シャリィ様の身体になったお前の婆ちゃんを想像してしまったっペぇ!」
「変な想像するなっぺぇぁ!」
「フォワ! フォワ!」
またしても、言い争いをしている二人の間に、フォワが割って入る。
……ごめん。俺の嘘でそんな方向に話が伸びるなんて思ってもいなかった。ごめんなさい……
「さっ、さてと、皆掃除を始めよう」
「分かったペぇ! 早く終わらせて、アレを教えて貰うっペぇ~」
「そうっぺぇ、そうっぺぇ」
「フォンワ~」
「ナナ! 何してるっペ、逃げるっペーよ!」
「……うん」
「皆は家に帰るっペぇ、あたしとナナの事を聞かれても知らないって言うっぺぇよ!」
「……うん」
クルは泣き続けており、姉のプルが慰めている。
その二人を尻目に、リンとナナは階段を駆け下りてプロダハウンから飛び出していった。
「ナナ! 計画通り、外壁に開いている穴に向かうっぺぇ」
その言葉を聞いたナナは走るのをやめて立ち止まる。
「……」
「どうしたっぺぇ!? 急がないと……」
ナナは俯き、考え込んでいる。
「……残るっペぇ」
「残るっペぇか!? 捕まったら今度こそ送られるっペぇーよ! それに、その前に、あいつらに
「……そうかも知れないけど、このまま逃げだしたら、クル達が責任を負わせられるかもしれない……っぺぇ……」
「そうっぺぇね…… ナナがそういうなら残るっペぇ。取りあえず……」
数十分後……
ユウが逃げて居なくなった為、暇を持て余したパルとキャロが掃除をしているシン達の元へ来ていた。
二人はすり鉢状になっている上部席で、退屈そうにシン達を見ていた。
あの二人…… もう終わったのか? いくら何でも早すぎる……
二人に気付いたシンが、パルとキャロの元に駆け寄る。
「おはよう。ユウの方はもう終わったの?」
「……」
「……」
二人共、シンの呼びかけに答えようとしない。
シンはもう一度問いかける。
「ユウはまだプロダハウンにいるのかな?」
「……知らないっペぇ。どこかに行っちまったペぇ」
パルは顔を背けたまま答えた。
「どこかに!? どういうこと?」
「私達に聞かれても知らないもん。勝手に行っちゃったから……」
どうしたんだ…… いや、何があったかは後にして、兎に角ユウを探さないと……
まさか、村の外に出ていないよな!?
「ピカワン!」
「なんだっぺぇ? あっ、キャロとパル。いつのまにきてたっぺぇ?」
「わりぃけど、掃除しててくれるか。ちょっと急用なんだ。疲れたら休んでて良いからな」
シンはそういうと、ピカワンの言葉を待たず走り始めた。
……まずは門に行って、門番にユウが外に出ていないか聞いてみるか!?
「どうしたっぺぇ?」
シンの言動に驚いたピカワンは二人の元へ行き、何事かと問いかける。
「二人共随分早いっペぇ? 何があったっぺぇあ?」
「……」
ピカワンは、二人の様子がおかしいのに直ぐに気付く。
「正直に言うっペぇ、何があったっぺぇか!?」
少し声を荒げたピカワンを見て、パルが答えた。
「……ナナが」
「ナナがどうしたっぺぇ?」
「ナナが短剣であいつを……」
その言葉を聞いたピカワンの脳裏に、シンの事が思い浮かんだ。
これで、シンとの関係は終わるのかと……
「やろうとしたっぺぇ……」
「やろうと!? 刺したっぺぇ!?」
「刺してないよ。刺そうとしたらあいつ、窓から飛び降りて逃げて行ったの……」
そう答えたキャロは、ピカワンと目を合わせようとしなかった。
ピカワンは内心ホッとしていたが、もう一つの心配が頭をよぎる。
「ナナは、ナナは何処へ行ったっペぇ!?」
「分からない。リンと二人で何処かへ走って行って……」
「クルとプルは!?」
「家に帰ったっぺぇ」
その言葉を聞いたピカワンは、掃除をしている皆に呼びかける。
「おーい! 掃除やめるっペぇ! 緊急事態っペぇ! ナナとリンを探すっペぇ!」
「フォワ? フォワー!」
「早く行くっペぇ! 見つけたら、無理矢理にでもここに連れてくるっペぇよ!」
ピカワンの声のトーンから、何か重大な事が起こったと感じた少年達は、掃除道具を投げ捨て、村のあちこちに散り始める。
「キャロとパルはここで待ってるっぺぇ!」
そう言い残したピカワンは、門に向かって走って行く。
モリスの宿の前を、全速力で走るシンを見たジュリが声をかける。
「シンさん、何処行っているの?」
「あっ、ジュリちゃん、ユウを見なかったか!?」
「ユウさんなら部屋に戻って来てたよ」
その言葉を聞いて足を地面に突っ張る。すると、50cmほど地面を滑り、土煙を上げながら止まる。
「ありがとうジュリちゃん!」
「は、はい……」
驚くジュリを尻目に、シンは部屋に向かって走って行く。
何があったのか分からないが、とりあえず良かった……
この時シンは、安堵の表情を浮かべていた。
「ふぅー、ふぅー」
廊下で呼吸を整えてから、ドアをノックする。
「ドンドン」
「ユウ、いるか? 入るぞ」
鍵のかかっていないドアを開け部屋に入ると、ユウはベッドで横になっていた。
シンはゆっくりと向かいのベッドまで歩いて行き、腰を降ろす。
壁の方を向いて横になり、全くといって良いほど反応しないユウを見つめながらシンは呼びかけた。
「ユウ…… 何があった?」
「……」
何も答えようとしないユウをジッと見つめる。
「……」
「そうか…… 言いたくないなら無理に答えなくていいさ」
シンがそういうと、ユウは小さな声で何かを呟いた。
「ボソボソボソ」
「ん? どうした?」
「ころ……」
「ころ?」
「うん、……そうに……なった」
……えっ!? なんて言ったんだ?
「すまない、ちょっと聞こえなくて、もう一度いいか?」
「……ころ……されそうになった」
「誰に!?」
驚いたシンに、ユウは小さい声で答えた。
「……ナナっていう子に」
「殺されそうって、いったい何をされた?」
「……短剣を持っていて、僕を刺そうとしたんだ」
「……」
ユウの言葉に、シンはしばらくの間、何も返せずにいた。
「……怪我はしてないのか?」
「……うん」
この後ユウから、一部始終を聞いた。
その頃、門では……
「おーい!」
「んあ?」
「何でごじゃるか?」
「誰か呼んでなかったか?」
後ろを振り返った門番の目に、走って来るピカワンが映る。
「あー、スラムのガキだ。誰だっけあれ?」
「確か…… ピカワンでごじゃるね」
ピカワンは門番の前で立ち止まる。
「ハァハァハァハァ。ナナは、ハァハァ、ナナは外に出てねぇっぺか?」
「ナナ?」
門番は顔を見合わす。
「誰でごじゃるかそれは?」
「と、兎に角、ハァハァ、女の子が二人来なかったっぺぇ?」
「……誰も来ていないでごじゃるよ。外に出たのはシャリィ様と、あとは畑で働いている連中だけでごじゃる」
「ハァハァ、ありがとう」
ピカワンは外壁沿いに再び走って行った。
「なんだあれ?」
「さぁ~、なんでごじゃろうね~。それにしても……」
「……してもどうした?」
「変な話し方でごじゃるね~」
「……」
お前ほどじゃねーよ……
ユウから話を聞いたシンは、女の子達の事が心配になり、再び外に出ていた。
「おい!」
「んあ? 今度は誰だって、これはシンさん、どうしやした?」
「ハァハァ、女の子が来なかったか?」
「来てないでごじゃるけど、少し前にピカワンが同じ事を聞きに来てたでごじゃる」
「ピカワンは何処に行った!?」
「外壁沿いに走っていきやしたで」
門番はピカワンの走って行った方向を指差した。
「ありがとう! もし女の子が来ても、絶対に外に出すな!」
「了解でごじゃる!」
「分かりやした!」
「フォンワ~、フォワフォワ~」
スラムの空き家通りで二人を探しているフォワを、隠れている空き家の窓からリンが見ていた。
「ナナ、ここはバレバレだっぺぇよ。フォワが歩いていたっぺぇ」
「フォワが……」
「完全にうちらを探してる感じだっぺぇよあれは」
「……そう。もう皆知ってるっぺぇね」
ピカワンには、申し訳ないっぺぇ……
「どうするっぺぇ、一旦外壁の穴から外に出て、暗くなってからまたここに戻ってくるっペぇか?」
「……ううん。ここに居よう」
俯き、下を向いたまま顔を上げないナナを見て、リンの表情も曇ってゆく。
「……」
ちゃんと、最後までやる事が出来なかった…… もし、もしも関係のないクル達が責任を取らされるなら、今度こそ、今度こそあいつを殺って…… シンとかいう奴と良好な関係を築いているピカワンには悪いっぺぇけど、全ての責任はあたしがとるっぺぇ……
ナナの表情からその真意を読んだリンは、声をかける。
「今度はうちも一緒にやるっペぇ。二人で、二人でやるっペぇよ」
その言葉を聞いて、ナナは顔を上げ、リンを見つめ返事をする。
「……うん」
リンは、ナナに笑顔を向けた。
「ガタガタ」
ナナとリンが隠れて居た家から、何やら物音が聞こえる。
「だっ!? 誰だっペぇあ!?」
ナナとリンは短剣を抜いて、音のした方向に構えた。
そこに居たのは……
「ハァハァハァハァ」
こ、ここも…… 塞がっているっペぇ…… いったいだ、誰が塞いだっペぇ……
村の外へと通じる全ての穴は、ジュリの件以来、シンに頼まれたシャリィが既に塞いでいたのだ。
これでナナとリンが外に出て行く術は無いっペぇ。あいつら、まだ村の中にいるっぺぇ…… ぐっ…… 駄目っぺぇ、少し休まないと、もう走れないっペぇ……
「おーい! ピカワン!」
ほんの数分立ち止まっていたピカワンの元へ、シンが走って来る。
シンを見たピカワンは一瞬笑顔になりかけるが、直ぐに険しい表情へと変化し俯いた。
「シン…… ナナが申し訳ない事を…… おらが、おらが責任を取るっペぇ」
「そんな事より! 早く探してやろう! 他に当てはないのか!?」
そんな事より……っぺぇか……
ピカワンは下を向いたまま、ほんの少しだけ微笑んだ。
「外に出ていないとなれば…… たぶん空き家に隠れているっペぇ!」
「よし、片っ端から空き家の中を探そう! 案内してくれ!」
「こっちっぺぇ!」
「ガタッ! ガタガタ」
「誰っペぇかぁ!?」
両手で短剣を構え、音のする方向に構える二人。
極度の緊張から、汗をかいたリンの手は震えている。
物陰から顔を出したのは……
「フォンワ~」
フォワだった。
「おっ、脅かすでねぇっぺぇフォワ~」
「フォワ?」
フォワはポカンとした表情をしている。
「フォワフォワフォワー!」
「皆が探してるっぺぇか……」
「フォワ~」
「そう……」
仲間に迷惑をかけていると感じたナナは再び俯いた。
「事情は聞いたっペぇかぁ?」
リンに聞かれたフォワは答える。
「フォワ? フォワーフォワ~」
「知らないっぺぇかぁ……」
リンは俯いているナナに目を向けた後、全ての事情をフォワに打ち明けた。
「ナナっ! いないっペぇかぁ!? 出てくるっぺぇ! シン、こっちにはいないっぺぇ」
「……」
ピカワンの声は聞こえていたが、シンは返事をしなかった。
その理由は、自分が居る事が知られると、ナナ達が出てこないと思っていたからだ。
シンは声をあげず、空き家の中を素早く丁寧に探していた。
「ってことっぺぇあ……」
全ての事情をリンから聞いたフォワは……
「……フォ、フォ」
「ん?」
「フォワフォワフォワ~、フォフォフォフォワ~」
何とフォワは、大声で笑い始めた。
「なっ、なっ、なっ! 何がおかしいぺぇかぁ!?」
大声で笑うフォワに、リンはキレた。
「フォワ?」
「ナナは、皆を守る為にやったっぺぇ! なのに、どうして笑うっぺぇかぁ!?」
「フォワ~」
「と、兎に角フォワ! どっかに行くっペぇ! フォワが出て行ったらうちら隠れ場所を変えるっペぇ」
そう言われたフォワだが、一向に出て行く様子がない。
「そんなにここが気に入ったなら居ればいいっぺぇあ! うちらが先に出て行くっペぇ!」
フォワにイライラしたリンは、項垂れているナナの手を掴み、引っ張って外に出て行こうとする。
その時……
「あの人達は、そんな事をしない」
その声を聞いたリンに、そして俯いているナナでさえも驚いて顔を上げ振り返る。
驚愕の表情をしている二人を見つめながら、更に言葉を発した。
「無用な心配をする必要はない。俺と一緒に出て行こう」
「ふぉっ、ふぉっ、フォ……ワが…… フォワが……」
リンは魔法をかけられたかのように混乱している。
「どういう意味だっペぇ、フォワ!?」
「……まだ数日だけど、何となく分かるんだ。あの人達は、絶対に悪い人じゃない。俺は口下手で上手く説明できないけど、ピカワンも、それに皆がそう感じている」
「……」
ナナは無言でフォワの目を見つめている。
「フォ…… フォワが…・・」
リンはまだ混乱している。
「それはシンってやつの話だっペぇ!? もう一人の方は…… もう一人の方は、あたしが気づいて無いと思ってるかもしれないっペぇけど、クルを見てニヤニヤしたり、明らかに変な奴だっペぇあ!? それに、短剣を抜く前にも確認したっペぇ! その時もずっとニヤニヤしていたっぺぇよ! あいつは、あいつはあたし達に色々仕込んで、高級娼婦にするつもりっぺぇ! あんな気持ち悪い奴を信じれる訳ないっペぇあ!」
「……それには何か理由があると思う」
「フォ…… フォワが……」
「ぷはははははは」
ナナは大声で笑った。
「ぷははははっ! 笑わすでねぇっぺぇあ! どんな理由っぺぇかぁ!?」
「その理由は、今はまだ分らない。けど、悪い事にはならないと、俺はそう思っている……っぺぇ」
そういうと、フォワはナナに笑顔を向けた。
「ふん! どうしてあいつらをそこまで信用できるペぇぁ!? わからんっぺぇあ!」
そう言われたフォワは、少し考えた後に口を開いた。
「……じゃあ、試してみよう」
「試す? 何をっペぇかぁ?」
「もし、俺の言っている通りにならないのなら、二人の罪は俺が背負う」
「……何をするつもりっぺぇ?」
フォワはこれからの事を二人に説明をした。
「ナナァ! 何処にいるっぺぇ!? 出てくるっペぇぁ」
ピカワンが大声を出して二人を探している時、シンが入ろうとしていた一軒の空き家から音が聞こえてくる。
「ガタガタガタ」
音のする方向を見つめているシンの前に、ナナとリンが現れた。
ナナとシンは無言で見つめ合っている。
その様子を、フォワは空き家の窓から隠れて見ていた。
「説明するっペぇフォワ!?」
「ナナはシャリィ様のシューラを襲ったから、今度こそ強制労働送りだと思ってるよね?」
「そうっぺぇ! どうせなら、きっちり殺って大事にしてから行くっペぇ!」
ナナの決意を聞いたフォワは少し間を置いて口を開く。
「……二人は罪に問われない」
「はっ!? 何故そう思うっぺぇあ!?」
「あの人達には、目的があるから……」
「……詳しく説明しろっぺぇ!」
「詳しくは分からないけど、その目的にナナ達が必要なんだよ」
「だから、それは娼婦として……」
「それなら、ナナ達である必要はないと思う。この村には他にも若い子はいるし、例えば見た目の良いアレッタとかね。だけど、あの人達は他に女の子を探したり、難癖つけて無理矢理引き込もうとしていない。娼婦を育てて何かに利用するなら、数は多い方が良いと思うけど」
「……」
「はっきりとした理由は分からないけど、ナナ達が必要なんだよ。目的の為に…… それは、この村の為に……」
「……」
「……フォワがぁ」
リンの混乱は収まってなかった。
ナナを見つめているシンの第一声は……
「ナナちゃん、リンちゃん、申し訳ない」
「……」
「こちらの説明不足で、何か勘違いをさせてしまった。本当に申し訳ない」
ナナはシンから目を逸らし、少しだけ俯いた。
「今までの関係を、俺達はまだ続けていきたい。だけど、女の子達の気持ちを考えると、直ぐに再開するわけにもいかない。二日……いや、三日間休みにしよう。その間に、今回の件を忘れる努力をして欲しい」
「……」
「ガタガタ」
「ん?」
音が聞こえた方にシンが目を向けるとそこには……
「フォワ~」
その時……
「ナナ!? リン! フォワもっぺぇ!?」
フォワが出て来たタイミングでピカワンも駆けつけてきた。
「ナナ、リン、心配したっペぇ、ゼェゼェゼェ」
ナナとリンの二人は、ピカワンをチラ見する事しかできず、無言で目を伏せていた。
「良かったペぇ、本当に良かったっペぇ。村の外に出ていたらどうしようかと思ったっペぇ」
シンとの関係を壊しかねない行動をした自分達を心配していたピカワンの言葉は、ナナとリンの胸に刺さった。
「フォワが見つけたっペぇあ!?」
「フォンワ~」
フォワは、誇らしげな表情を浮かべていた。
この後、全員でパルとキャロを迎えに行き、戻って来た少年達は女の子達を家まで送り届け、この日は解散となった。
その後少年達は、モリスの店で昼食を済ませ、持ち帰りの料理を作って貰い、女の子達の家に届けていた。
シンも部屋から出てこれないほどショックを受けたユウの為に、昼食を運んでいた。
一方、正門では……
「駄目でごじゃる」
老婆は畑で働いている爺さんに弁当を持って行く為、門から外に出ようとしていた。
「駄目でごじゃるって~」
門番の一人が、老婆の正面に回り、両肩に手を伸ばし強引に歩みを止める。
「さっきも説明したでごじゃろう。命令でごじゃるよ~、女の子は一人も通さないでごじゃ~る~」
門番の一人は、お婆さんに優しく諭している。
「……」
老婆は無言で村の外に出ようと再び歩き始める。
「聞き分けの無い女の子でごじゃるね、駄目でごじゃるってぇ」
黙って見ているもう一人の門番は思った。
……いや、どうみても婆さんじゃん!
「駄目でごじゃるよ~」
この日の夕方……
「と、いうことなんだよ」
シンは今日起きた事をシャリィに報告していた。
「そうか…… ナナの反応は、特別おかしなことではない」
「あぁ、分かるよ。そもそも別の世界から来た俺達と、
「……で、ユウとあの子達の関係をどう修復させるつもりだ?」
「それなんだが……」
そう言ったシンの表情に変化が現れた。
「まずはユウとあの女の子達、その両方のやる気を起こさせるため、シャリィに頼みがあるんだ」
「……」
シャリィは無言でシンを見つめている。
その時シンは……
楽しそうに微笑んでいた。
「ンフッ」
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