73 一寸先



 モリスの食堂に到着したシンとピカワンが見たものは……


「フォワ~」


「美味しかったっぺぇ……」


 もう既に食事を終え、余韻にひたっているフォワ達の姿だった。


 早いな、もう満足するほど食ったのかよ!?


 店内を見回すと、女の子達も食事を終え、何か飲みながら楽しそうに話をしている。

 ユウは少し離れたテーブルに一人で座っていた。


「ユウ、鍵ありがとう」


「あっ、うん」


「……」


「シン、何食うっぺ?」 


 ユウに何やらまだ話しかけようとしていたシンにピカワンが声をかけた。 

「ん? あぁ、何にしようかな?」


「直ぐに持ってこれるのあるっペぇ?」


 ピカワンはユウと同じテーブルに付き、手伝いに来てくれている、モリスの友人に声をかけた。


「ハンボワンのスープなら、まだ沢山余ってるよ」


「おらはそれとパンを頼むっぺぇ」


「はーい」


「シンも同じのでいいぺぇ?」


「はは、俺はハンボワン以外なら何でもいいよ」


「え~と、シチューがまだあったような…… 聞いてきますね」


 モリスの友人は、厨房へ向かった。


「シンはハンボワン嫌いっぺぇか? おら嫌いっていう人を、聞いた事無いっぺぇ」


 元の世界で言うと、カレーみたいなものなのかな……


「嫌いな訳じゃないよ、最近食べ過ぎちゃって、それでな、ハハハ……」


「おらは毎日だって食べれるっぺぇよ」


 ……俺もカレーなら毎日でもいける。

 あ~、カレーを…… 米を食いてーな~……


「おまたせ~。シチューありましたよ~」


「ありがとう」 


「フォワ~」


 食事をしようとしているシンの所に、フォワが何やら近付いて来た。


「おっ、なんだフォワ。昨日の仕返しか?」


「フォワ~、フォハハハ」


「何て言ってるんだ?」


「そんな事しないって言ってるっぺぇ」


「フォワ~、フォワフォワフォワ~」


「ん~?」


 シンはフォワの言いたい事を読み取ろうとするが、解らない。


「おらも一緒にまだ食うって言ってるっペぇ」


「フォワ」


 フォワは笑顔で頷く。


 すげー、当たってるのかよ!?


「フォワ! フォワ~フォワ」


 フォワは近くに居たジュリに話しかけた。


「シンさんと同じのでいいのね?」


「フォワ」


「はーい、お待ちください」


「えっ!? ジュリちゃんフォワの言っている事分かるの!?」


「う~ん、何となくだけど」


「おらも分かるっペぇ」


「そうっぺぇ、そうっぺぇ」


「分からないのシンだけだっペぇよー。ぎゃはははは」


「ぷはははは」


 笑い声に惹かれ、モリスや手伝いに来ている友人達も厨房から顔を出す。


 いや、何で俺笑われているんだ…… ふふふ。


「……」


 昨日に引き続き、本日もモリスの食堂は賑やかであった。

 ユウとナナを除いて。


 

 その頃シャリィは、物置部屋に続く階段を降りて行き、ゆっくりとドアを開けた。

 部屋の中に入ると、シンには点けることが出来なかった照明が自然と灯る。

 近くにあった何かに覆い被せてある布を、手に取りめくりあげた。


「……」  

   

 無言でその物を見つめた後、布を戻し部屋を後にした。



 

 


「いいからごたごた言ってないで村長を出しな!」


 役場では、日1500シロンという少ない金額に怒ったヨコキが、怒鳴り込んできていた。


「待ってください、いきなり来られても」


 職員が静止するが、ヨコキは止まらない。


「こっちだよね? 村長、出ておいで! ふざけやがってぇ」


 その怒鳴り声は、村長室にまで届いていた。


「村長……」


「ええ、聞こえています。私の部屋に通して下さい」


「はい……」  


 ヨコキの元に別の職員が現れる。


「落ち着いてください、村長がお会いになりますので」


「やっとかい。さっさと案内しな!」


「こちらへ」


 ヨコキは、職員の後に続いて行き部屋に通され、村長の顔を見た途端、再び大声を出す。


「あんた! いったいどういうつもりなんだい! 言っている事と、金額が釣り合ってないんじゃないの!?」


「……どうぞ、中に入って下さい」


「そんな事より、あたしに残れと言ったくせに」


「お待ちしておりましたので、お座り下さい」


 ……待っていただってぇ、あたしを?


「……」


 レティシアの言葉を聞いたヨコキは、大人しくソファーに腰を降ろす。


「座ったよ~。これであたしの質問に答えてくれるかい?」


「えぇ、勿論お答えします。そして、それ以上の事も」


「それ以上?」


「はい」


 1時間後、役場を後にするヨコキの姿があった。


「ふぅ~……」


 ったく、何かと思えば、回りくどい事をするね~。

 まぁ…… 悪い話じゃないね…… 他の奴等と違って、あたしには売春婦あのこ達が居る。

 あの子達があたしに付いてくる限り、あたしは何処にだって行けるし、メシを食いっぱぐれる事も無い。

 しかしあの小娘…… ここまであたしに似ているとはね…… 見た目だけじゃなかったんだね~。


 レティシアとヨコキの外見は、お世辞でも似ているとは言えない。


 まぁ、しばらくは乗っかってやるかね…… 

 ……いざとなれば、責任は全部あの女に押し付けて、うちの子達と逃げれば…… とりあえず、逃げる場所の候補を2、3下調べしておこうかね。

 


 



 シン達がプロダハウンへ向かっていると、食堂へと向かうシャリィとすれ違う。


「シャリィ、照明直ったの? ありがとう」


 シンが礼を言うと、シャリィは頷く。



 え? シンはシャリィさんに何を頼んで……


 

 ユウはシンへの疑心暗鬼から、些細な事も気になっていた。


「フォワ~、フォワフォワフォワ~」


 フォワが何やらシャリィに話しかけた。


「……どうした?」


「フォワフォワ~」


「……何と言っている?」

 

 シャリィはシンを見る。


「いや、俺も分からなくてさ。ピカワン、頼む」


「……別にたいした事は言ってないっペぇ。あいさつっぺぇ」 


「だそうだ」


「そうか」


 シャリィはピカワンの肩に手をのせ小さく頷いた後、食堂へと歩き始めた。


「フォワ~」


「……ピカワン」


「何だっペぇ?」


「フォワは本当は何て言ってたんだ?」


「……シンとできてるのかって聞いてたっペぇ」


「ブッ!? そんな事を聞いていたのかよ!?」



 シャリィさんに失礼な……



 ユウは少し不快な表情を浮かべた。


「できてるっぺ? 教えてくれっペぇ!」


「シン、正直に教えるっペぇ」


 少年達はシンを問い詰める。余程興味があるようだ。


「だーめだめ、秘密、秘密~」



 秘密って、相手にもされてないのに……



「なんでっぺかぁ? 教えてくれてもいいっぺぇ~」


「そうだっペぇ、そうだっぺぇ~。聞きたいっペぇー!」


「フォワ~、フォワ~」 


 フォワはシンの腕を掴み、揺さぶっている。


「フッ」


 シンは少し笑みを浮かべた後、口を開く。



「お前達、よーく聞け」



「フォワ!?」


「何だっペぇ、何だっペぇ!?」


「早く言うっぺぇ!」



「良い男っていうのはな!」



「うんうんっぺぇ」


「わくわくするっぺぇ」


 少年達は次の言葉を待ち、シンの口元に集中している。



「口もアソコも硬いんだよ!」



 予想に反して、突然の下ネタであった。



「……ぷっ! ぷはははははは」


「ぎゃはははははは」


「うはうはうはははははは」


「うひゃうひゃうひゃひゃ」



 だが、少年達にはこれがウケた。


 

「本物の男っていうのはな、女性との事は自慢などせず、二人だけの思い出にするんだ」



「フォワフォワフォワーフォンワ~」


「ん? フォワは何て?」


「つまり、シャリィ様とは何か思い出があるっペぇかって言ってるっペぇ」


 フォワの突っ込みをピカワンが訳す。


「むむ、それも秘密だ」


「ぶひゃひゃひゃひゃ」


「フォワフォワフォワフォワ~」


 爆笑している少年達を見ていたシンは、何かを思い出し、やってしまったと感じてしまう。

 恐る恐る少女達の方に顔を向けると、少し離れた場所で去って行くシャリィに注目して後ろを向いており、少年達の笑い声に気付いてこちらを向いていた。

 少女達は、少年達が何故笑っているのかわからずキョトンとしている。どうやら聞こえていなかったようだ。


 ホッ! 良かったぁ~。つい現場みたいな雰囲気で、女の子こども達が居るのを忘れて下ネタを言ってしまった。


 シンは安堵の表情を浮かべたが、実はその会話は、リンには聞こえていた。


 何だっペぇこいつ…… 良い事言っているつもりかもしれないっペぇけど、気持ちの悪い奴だっぺぇ……


「どうしたっぺぇリン?」


 顔をしかめているリンにナナが問いかけた。


「な、何でもないっペぇ……」

 

 リンは、下ネタを口にする事が出来なかった。




 どうやら女の子達には聞こえてなかったみたいだな。 あっ!? 確かオーブリンはまだ12歳だった!? しまった……

 

 だが、シンの心配をよそに、そのオーブリンが一番笑っていた。


「口もあそこもって!? うひょうひょ、うひょひょひょひょー」 


 めっちゃウケてる!?


「ふっ、ふふ、そんなに面白かったかオーブリン」 


「面白いっペぇ~、今日帰ったら、ばあちゃんに話すっペぇ~」


「……それは止めてくれ」





 プロダハウンに着くと、建物の周りに生い茂っていた雑草や蔓は刈られ、木の枝までもが伐採され地面に落ちていた。


「木の枝が切られて落ちてるっペぇ~」


「フォワ~」


 中に入ると、壁や天井についていた埃は、全て綺麗に取り除かれており、先ほどまでとは打って変わり、天井と壁の色が違って見える程であった。


「クルクル~、お姉ちゃん壁が綺麗になってるよー」


「本当だね~、天井もだよクル~」


 シンとユウも含めた全員が驚いている。


「シンがやったぺぇ?」


「ん? いーや、シャリィだ」



 シャリィさん…… こんな短時間で…… いったいどんな魔法を使ったのだろう…… 


「おら達が食ってる間に…… 凄いっペぇ~」


 皆が感心している中、シンはスタジオの様子を見に行った。


 鍵は開いている…… あらららら、この部屋まで掃除してくれてるじゃん!?

 一応掃除は罰というテイでやっているけど、明日から始動すると伝えたから、そっちを優先してくれたんだな……

 これで女の子達に明日に備える時間の余裕が出来た。ほんと、助かったよ。

   

 シンは一度階段を降りて行き、ユウを呼ぶ。


「ユウ、この上の部屋を見てみな」


「……部屋?」


「あぁ」

 

 階段を上って部屋を見たユウは、思わず驚きの声をあげる。


「うーわー」  


「フッ、練習にはもってこいの部屋だろ?」


「う、うん」


「明日から、夢の一つが実現する」


「……うん、そうだね」


「シャリィが気を利かせて掃除を終わらせてくれたから、今日はもう女の子達は帰そう。下に降りて明日の段取りを説明してやってくれ」



 段取り…… スケジュールか。そんなの決めてないよ……  


 

「明日にサプライズでこの部屋を見せて驚かせてやろうぜ」


「……」


 ユウは少し考えた後、口を開いた。


「そ、そうだね……」


 

 皆の元へ戻ったシンが口を開く。


「女の子達はユウの所に集まってくれ。明日からの話がある。ピカワン達は、俺と一緒に外の枝や雑草を一ヵ所に集めよう」


「分かったっペぁ」


「フォワ~」


 少年達はシンの後に付いて外に出て行った。


 残された少女達の視線がユウに集中する。


 ユウは少し俯いた状態で、上目遣いで女の子達をチラ見する。

 当然、女の子達はユウを見ていて目が合ってしまう。


「……」


 とりあえず明日、明日ここに集まる時間だけ伝えよう。それだけで……


「……あの~、明日は」


「明日が何だっペぇ!?」

 

 突然声をあげたのは、ナナだ。

 ユウが委縮しているのを知って、わざと大きな声で聞き直す。


「……明日は」


「え~、聞こえないっペぇ~。もっと大きな声でハッキリ言うっペぇよう」


「ふふふふ、そうっぺぇ、そうっぺぇ」


 ナナに続き、リンもユウを揶揄う。


「……」


「言う事がないのなら、あたし達は帰るっペぇよ?」 


 ……なんだよこいつら!? 僕の事をずっとずっと小馬鹿にして!


 この時ユウは、ナナとリンに対して怒りの感情が込み上げてきていた。


「……あ、明日、この場所に9時に来るように!」


 上ずった声であったが、ユウが怒っているのを感じ取れる言い方であった。


「みんな~、そうらしいっぺぇよ~。じゃあ今日はもう帰るっペぇ~」


 ユウの怒りの感情を、ナナはあざけ笑うようにさらりと流す。


「うん、帰るっぺぇ」

  

 ナナの言葉にリンが相槌を打つと、二人はさっさと歩き始め、おつかれさまの言葉一つすらない。

 そして、他の少女達もナナとリンに続いて出て行ってしまう。



「……はぁ~」



 一人残されたユウは目を瞑り、大きな、大きなため息をついていた。



 シン達が作業している所に、ユウが現れる。 


「シン……」


「どうしたユウ?」


「悪いけど…… 僕も先に帰っていいかな……」


 女の子達が去った後、一人で外に出て来たユウは、申し訳なさそうに呟いた。


「全然いいぜ。明日からは本格的だもんな、ゆっくり休んでくれ」


「……うん。これ……」


 ユウは指輪を差しだした。


 受け取ったシンは、宿屋に戻るユウの背中を見つめていた。


「シン、これは何処におくっぺぇ?」


「うん? あぁ、それはこの辺りにまとめておこう」


 少年達は、先に帰った女の子達を羨ましがって咎める者は誰一人としていない。それどころか、相変わらず笑い声の絶えることもない現場である。

  

 だが、シンにも気になっている事があった。それは……


 ブレイ・サイス、今日も俺とは一言も話をしない。大人しいレピンとは違って仲間達とは俺に聞こえないぐらいの小声でボソボソと話しているのを何度か見ている。口がきけない訳じゃないみたいだし、向けてくる笑顔は作り笑顔でもないから俺を嫌っている様子も無い。

 ただ人見知りなだけかな……

 シンは率先して誰よりも片付けをしていたが、自然と少年達の言動にも注意を払っていた。

 それは、人の上に立った事のある者ならではの配慮なのかもしれない。


「おーい、疲れたら無理せず木陰で休んでいいからな。あと、水も飲めよ」


「分かったっぺぇ」


「フォンワ~」




 

 宿屋に戻って来たユウは、倒れ込む様にベッドで横になる。


「……はぁ~」


 明日からいったい何をすればいいんだろう……

 いや、やる事はある程度考えていたけど、僕にそれが出来るのかな? 特にあの二人は僕の言う事なんて聞いてくれないだろうし……

 どうすれば…… どうすればいいのかな……





「何時だ?」


 15時過ぎか…… 元の世界ならまだまだ早いけど、若い子もいるからな

無理はさせず終わりにするか…… 


「おつかれ皆! 今日もよく頑張ったな」


「何だっペ急に? もう終わりっペ?」


「そうだな、皆が頑張ってくれるお陰で、だいぶ進んだから、今日はおしまいにしよう」


「明日は何処で遊ぶっぺぇ?」


 ピカツーがシンに問いかける。


「フォワ!?」


「遊んでないっペぇ、これは罰だっペぇよー」


 ピカワンがすぐさまシンの言いたい事を代弁した。


 ピカワン…… ふふふ。


「そう言う事だ、お前達は悪さをしたから、これは罰なんだからな。それは忘れちゃ駄目だぞ」


「楽しいから忘れてたっペぇ~」


「おらも忘れたっぺぇ」


「おらは覚えてたーっぺ」


「フォワフォワフォワ~」


「……もしかして、俺も覚えてたって言ったのか?」


「そうだっぺぇ。昨日も当てて、今日も当てたっペぇ」


「ふふっ、じゃあ皆掃除道具はそこにまとめて置いといてくれ。明日はそうだな……」


 これだけ片付けが進めば、わざわざ女の子達とバッティングさせる必要は無い。ピカワン達の事を気にせず集中出来る環境の方が良いだろう……


「明日は野外劇場に朝9時な。おつかれさま」 


「了解っぺ、おつかれさまっペぇ~」


「フォワ~」

 

 ……おつかれって言ったんだよな?

  

「9時だなって言ってるっぺぇよ」


 そっちかよ!?

 

「あぁ9時だ。じゃあな」


「フォワ」


 これは分かったって返事をしたんだな……


「おつかれって言ってるっペぇ。シン、おつかれさまだっぺぇ」


 ハズしまくってんな俺……


「おつかれさま。また明日な~。オーブリン、あの話しを婆ちゃんにしちゃ駄目だぞ~」


「分かったペぇ~、じゃあ、じいちゃんに話すっペぇ~」


 その返しで、少年達は笑いながら帰って行く。


「フッ!」


 シンも笑っていた。


 ピカワンは振り返り、笑っているシンと目が合うと、名残惜しそうにその場を離れて行った。


 さてと、室内と外をもう一度見て回るか……


 少年達が帰って行くと、シンは真っ先にスタジオに行き、鏡にヒビが入って割れやすくなっていないか、床や壁が剥がれて怪我に繋がるような場所がないか、手で触り、時には叩いて音を聞き、丁寧に丁寧に安全面の点検をする。


 長い間放置されていたみたいだから心配してたけど、大丈夫そうだな…… こういう裏方は俺が全部やって、安心して集中できる環境を作らないと……


 膝を付き、床を手でさすっていたシンはふと顔を上げ、鏡に映る自分を見つめる。


 今もまだ…… 夢なのではないかと、時々思ってしまう。だけど…… 俺は、ここに居る。これは現実なんだ……


 ゆっくり立ち上がって目を閉じると、自然と頭の中でリズムが聴こえ始める。

 最初は、リズムに合わせて頭を軽く上下に振る。その動作は、徐々に大きくなっていき、目を開けるとシンは踊り始める。

  

 ボクシングのステップを極めているシンのダンスはまるで、蝶が舞っているかの様に美しい。

 一心不乱に踊り、何かを忘れ去るかのように、次第に激しさを増してゆく。



「いたっ!」



 イプリモで負った怪我が完治していないシンは、足の痛みでダンスを止めた。 

 

「……」


 現実に引き戻されたシンはゆっくりと項垂れ、しばらくの間、床を見つめていた。



 

 ちょうど同じ頃、門に向かって一人の女性が歩いてくる。


「タニア、何処にいくんだ?」

 

 門番が村外に出ようとするタニアを呼び止める。彼女はモリスの友人で、忙しい昼食時に手伝いに来ている中の一人だ。


「街道沿いに芋がないか見てくるの」


「芋か~、俺もさっき見回りに行った時に、ついでに探してたけど無かったぞ」


 門番の一人とタニアは顔見知りで、仲が良さそうである。


「あらそう? 私は探し方が違うからね」


「はいはい、見つけて来たら裸踊りを見せてやるよ」


「ばーか、そんな汚い物見せられてたまるかー」


「がははははは、シャリィ様のお陰で魔獣は少なくなったが、気を付けろよ」


「あははははは、はいよー。ありがとね~」


 タニアは周囲を気にしながら、旧街道を奥の方へと歩いていく。

そして、これ以上先は更に危険だと言われている辺りで、雑草に混じった芋の葉を見つける。

 しかしこの場所は、少し前に門番も確認した場所であった。


 辺りを警戒しながら芋を掘り始めるタニア。  

 

 芋を傷つけない様に丁寧に掘っていくと、一つの蔓からいくつにも分れた根に、芋がびっしりとついている。


「……」


 タニアは芋が取れても笑み一つ浮かべず、芋についている土を掃う。

 そして、再度辺りを警戒しながら、芋を取って開いた穴に何かを落し、軽く土を被せた。

 

「……」


 タニアは芋を持ち、無言でイドエに戻って行った。   






 シンはプロダハウンから外に出て、一人片付けを始める。


 ふぅ…… やっぱりまだまだ体力が戻っていないな…… 痛みが残っているし、身体も硬い。

 それに…… この服だと動きずれーな~。やっぱ、仕事の時はさ、あの作業着じゃないと……


 シンは自分の制服ともいえる、鳶の作業服を懐かしんでいた。


 よし、これだけまとめておけば、邪魔になる事もないだろう。 


 片付けを終え、全ての戸締りをしてプロダハウンを後にしたシンだが、宿屋には戻らず、ガルカス達がたむろしていた繁華街のような場所に向かった。



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