66 一歩


 高地ゆえにこの暑い時期でも涼しく、つい散歩にでも出かけたくなる様な陽気の中、剣を携えた一人の若者が、鍛錬の為に新街道を走っている。

 すると、前方からかなりのスピードで迫って来る馬車が見えた。


 あの馬車、飛ばし過ぎている気がするけど…… もしかして、何かあったのか!?


 馬車を操作している人物は、若者を見つけると、大きく手を振り、スピードを落とす。


「どうしました?」


「ひ、ひひ人が、死んでいた! たぶん魔獣だ!?」


「魔獣!? この先で、すれ違う人が居たら、止めて下さい。あと、町に着いたら報告して下さい!」


 そう言葉を残した若者は、一気に最高速にスピードを上げ、新街道を駆けてゆく。

 その時速およそ50km。これは、100m走の世界記録保持者、ウサイン・ボルト氏よりも速い。


 現場に向かっている途中、街道沿いで止まっている馬数頭とすれ違う。


 馬…… 襲われた人の馬か……

 

 見えて来た! あれか!?


 新街道を進んでいると、横転した馬車が若者の目に入って来た。


 周囲を警戒しながら、その場所にたどり着くと、そこには何体分なのか分からない程、無残に喰い散らかされた、惨たらしい死体が転がっていた。


 ……くっ、残念だけど、生存者はいない。これは…… 酷い。


 普通の者なら、目をそむけたくなる有様だが、若者は、一番大きな肉片に手を当てる。


 血が抜けているのに、まだそれほど冷えていない。襲われたばかりだ……


 若者は、血の跡が続く森の中に、何の躊躇もせず入る。そして、わずかな形跡も見逃さず追跡してゆくが、魔獣の姿は見えてこない。


 思っていたより時間が経過していたのか……

 あの横転していた馬車は、それなりの地位ある人物の馬車。

 剣を持った死体は恐らく護衛。それなのに、全員がやられていた。


 若者は脚を止める。


 かなり狂暴で強い魔獣だ…… 僕一人で、これ以上森の奥には……


 その時、副村長を襲った者は、若者に気付いており、脚を止め、わざと待っていた。



 誰だか知らないけど、これ以上追いかけて来て僕に気付いたら、死んじゃうよ~。


 

 完璧に気配を消して、若者の様子を伺っている。

 これ以上進むのか、それとも引くのか、まさに運命の分かれ道である。


 若者は、深く集中して、魔獣の気配を探るが、何も感じない。


 近くには何もいない…… 



 ふん、僕に気付かないとか、未熟な奴~。けど、逆にそれで命が助かるなんてね~、笑っちゃうよ~。



 しかたない、誰かが来るまで街道に戻って道行く人達の警護をしよう。

 ……さっきの人が、誰かに報告すれば、新街道は問題ない。魔獣も離れていっているし…… 確か、向こうの方角には、旧街道があるはずだ。

 それなら僕は、このまま警戒しつつ、近くの旧道を通る人達に警告をしよう。旧道にも、少なからず通行人が居るかもしれない……


 若者は、それ以上森の奥深くには入らず、辺りを警戒しながら旧道に向かって走り出す。 

 

 副村長達を襲った者は、薄っすらと笑みを浮かべながら去り行く若者を見ていた。


 ほんの些細な事で命が助かるなんて…… おもしろいな~。



 

 時間はさかのぼり……



「おはよう」 「おはよう」


「おはようだっぺぇ」 「フォワ~」 「うい~」


 改めてあいさつをしたシンとユウに、数人の少年は返したが、他の少年少女達からは返ってこなかった。


 ユウは、昨日自分を殴ったナナをチラ見する。


 すると、ナナもユウを見ており、目が合った瞬間にユウは目を逸らした。


 ……ふん! 


 どうやら、ナナの怒りはまだ冷めていないようだ。

 その情景を、シンは横目で見ていた。


 さてと、来てくれたのは良いとして、小言を言うようだけど、遅刻の事は言っておかないとな……


「昨日9時に来るように言ってたけど、今は10時を過ぎているぞ」


「……そうだっぺぁか?」


 モヒカンの少年は、キョトンとした表情をしている。


 うん? この態度、この村ではあまり時間ってものを気にしていないのかな?


「なぁ?」


「なんだっぺぇ?」


「あれだ、時計を持っていない?」


「そんな物、持ってないっぺぇよ」


 やっぱりか……

 この村の住民からすれば、時計は高価なのかもしれないって値段知らねーけどな。

 よし、それなら……


 シンは自分の鞄に手を入れ、時計を取り出した。

 それは、自分の時計ではなく、この事態を想定して、シャリィから貰っていた物だ。当然、これもシンの借金になる。


 えっ? シンは予備の時計持ってたの?


「じゃあ、これを使ってくれ」


 シンはモヒカンの少年に時計を手渡した。


「……くれるぺぇか?」


「あぁ、代表で持っていてくれ。そのかわり、明日から遅刻は無しだぞ」


 少年は少し笑みを浮かべて、時計を受け取った。


「いいな~」


 一番幼い少女から、心の声が漏れる。

 

 その声を聞いたシンは、ユウにアイコンタクトを送る。


 えっ、何その目くばせ?


 シンはユウの鞄を見てはユウの目を見る動作を繰り返す。


 もしかして……


 鞄に手を入れると、そこには時計が入っていた。


 いつの間に僕の鞄に時計を……


 ユウは緊張しながら、時計を手にして少女に近付く。

 突然のイベントで、身体は固くなり動きもおかしく、その様子は滑稽であった。


「な、なに?」


 少女は、ユウの近付き方を見て怯えていた。


「こ、こここ、これ、どうぞ」


 ユウは、言葉を激しくつっかえながら時計を差し出す。


「いいの? クルクルクル~」


 少女は嬉しそうに時計を受け取ったが、他の少女達の表情は決して笑顔ではない。

 ユウは、それに気付いておらず、嬉しそうにしている少女を見て、満足そうである。


 一方、数人の少年達は、時計の取り合いをしていた。


「今何時だっペぇ? おー、出たっペぇ! 久しぶりに使ったペぇ~」


「お、おらにも貸せっぺぇ」 「おらもおらも!」  


「フォワ!」 


 流石に見兼ねて、シンは静止する。


「ちょいちょいちょい、待て待て。ちゃんと順番でな、順番に使おうぜ。なっ?」


 ユウから受け取った幼い少女は、その姉と思われる人物とだけ時計を見ていた。他の少女達は、興味がなさそうである。

 特に、ユウを殴ったナナは、ふてくされた態度で、一人だけ違う方向を向いている。


 時計を順番に使用して、落ち着きを取り戻したところで、シンは今日の予定を聞かせる。


「今からやる事を説明させてくれ」


 ナナを除いた他の者達の目が、シンの方を向く。


「この村には、こんな立派な野外劇場があるのに、今の様な状態だと勿体ないよな?」


 その問いかけには、全員が無反応であった。


「この村を変える為には、まず、村を清潔にする必要がある。そこでだ、今日はこの劇場を皆で掃除しよう」


 へん! どうせ村もあたし達も薄汚れているっぺぇ……


 ナナはシンの言葉を聞いて、昨日のユウの言葉を思い出していた。


 シンの提案に、誰も反応しないと思われたが、挨拶を返したモヒカンの少年が、シンに質問をする。


「毎日村の掃除して村を綺麗にしたら、村は変われるっペ?」


「そうだな。掃除は村を変える事の一つと思ってくれて良い」


「掃除で、それでおら達の罪は消えるっペぇ?」


「昨日も言ったが、しばらくは…… 数カ月は俺とユウの言う事を聞いて貰う」


「数カ月……」


「あぁ、そうだ。文句があるのは分る。だけど、その間は辛抱してくれな。罪を償うのと、村の為だと思って」


 罪を償わす為と言っているシンは、昨日と違い物腰が柔らかく、好感が持てる。

 だが、少年達は、数カ月も言いなりにならないといけないのかと、軽い嫌悪感を抱いた。

 

 当然少女達の抱いている嫌悪感は、軽くはない。

 昨日、少年と少女に分かれる様に言われた時、ある不安が頭をよぎっていた。

 この世界において、魔法も使えず、身分も地位も無い女性は、しばしばぞんざいに扱われており、その為に、少女達は警戒している。

 そして、アイドルという聞いた事の無い言葉が、不安をより一層掻き立てていた。

 それに、ユウの発言も少女達の心を閉ざす大きな原因になっている。

 本来なら少女達は、この場に来る事も無かったのだが、モヒカンの少年は、レティシアも信用しているシンに対して、信頼感を抱き始めており、少女達を説得して、この場に連れて来たのである。

 遅刻した本当の理由は、少年達が時計を持っていない事ではなく、少女達の説得の為であった。

 

「じゃあ、さっそく掃除をしようぜ」


「素手で掃除するっぺぇか?」


「いーや、この劇場の何処かに掃除道具が置いてある」


 その言葉を聞いた少年達は、キョロキョロと辺りを見回し始める。


「どこだっぺぇ?」


「さぁーな、俺にも分らない」


 少年達の頭の中に、クエスチョンマークが現れる。


 シンは掃除道具を置いてある場所を知っていたが、わざと知らないふりをしている。

 朝早く、モリスの手伝いをする前に、シャリィから受け取った掃除道具を持って、野外劇場に訪れ、数ヵ所に分けて置いていたのだ。


「まずは道具を皆で探そう。見つけた奴は、30分掃除をさぼっていいぞ」



 30分さぼれるっぺぇかぁ…… 探すっペぇ。



 少年達は、だらだらではあるが、一斉に掃除道具を探し始める。


 しかし、少女達に探す気はない様で、殆どその場から動かない。

 

「ユウ、俺達も探すぞ」


「えっ?」


 シンは、座席の間を順番に探してゆく。


「俺達が先に見つけたら、俺達がさぼるからな」


 その言葉を聞いた少年達の動きは俊敏になって行く。


「ユウ、こっちの方が怪しいぞ。一緒に来てくれ」


「うん……」


 俺達がさぼるって、おら達だけにやらすのじゃなくて、一緒に掃除する気だっぺぇか……


 一人の少年が声をあげる。


「あったぺぇ!」


 その声の方を見ると、舞台袖に、ホウキとモップの様な物、それにヘラに軍手の様な手袋も置いてあり、見つけた少年が手に持って嬉しそうにはしゃいでいる。

 道具ではなく、魔法石なら楽に掃除できたであろう。だが、シンはわざと道具にしてくれと、シャリィに頼んでいた。

 

 先に見つけられ、がっかりしていた少年達だが……

 

「4本か、それならまだ他にもありそうだな」

 

 シンの言葉で、再び探し始める少年達。

 しかし、少女達は相変わらず動いていない。


「ここにもあったぺぇ」


「おらも見つけたっペぇよ」


「フォワ~」


 合計で4人の少年が、掃除道具を見つけた。


「よーし、それで最後かな~。道具を見つけた奴は、見つけられなかった奴に配ってくれ」


 見つけた者達は、ニヤニヤとしながら道具を見つけられなかった者達に配って行く。

 少女達も、嫌々ではあるが、受け取った。


「じゃあ、掃除を始めるぞ。雑草は丁寧に抜いて、一ヵ所に集めてくれ。苔も同じだ」


 そう言うと、シンは誰よりも先に雑草を抜き始めた。



 やっぱり、おら達にやらせるんじゃなくて掃除を始めたっペぇ……


 

「早くやるっペぇ~」 「そうだっぺぇあ~」 「フォワ~」


 道具を見つけた者達は、見つけられなかった者達を茶化し始めた。


 少年達は、ぶつぶつと文句を言いながらでも、掃除を始めるが、少女達は相変わらず動かない。一ヵ所に固まって何やらおしゃべりをしている。

 シンは、それに気づいていたが、見ていないふりをして、少年達と一緒に雑草を抜いていた。


 一方ユウは、シンとは違い、少女達を気にしていた。

  

 女子は全然やる気ないみたいだ…… 

 シンは全く気にしていないみたいだし、もしかして、僕にどうにかしろと言いたいのかな? 


 そう考えてはいたが、ユウは少女達に声をかける事もせず、ただ掃除に参加している。


 少女達のやる気のなさとは裏腹に、モヒカンの少年は真剣に掃除に取り組んでいた。


 ……この汚れ、落ちないっペぇ~。


 シンは掃除しながらでも、周囲の様子を見ており、声をかける。


「どうした、落ちないのか?」


「そうだっぺぇ、ただ擦ってもコケの汚れは落ちないっぺぇよ」  


「そうだな、水があればまだ落ちるかもな」


「おら達が、水をとりに行くっぺぇ?」


 他の少年達は、二人のやり取りが気になるようで、手を止めて見ている。


「大丈夫、水はここにあるさ」


「……どこだっぺぇ?」


 シンはニヤっと笑みを浮かべた後、ポケットに手を入れ、バニ石を取り出して唱えた。


「バニエラ」 


 すると、沢山の水がその場に落ちて来たが、シンは頭から足の先までもがずぶ濡れである。


「なっ!? 水はあるだろう」


「……ぷっ、ふふふ。何してるっペぇよ……」 


 少年から笑い声が漏れ始める。


「……はははっ、こっちも水が欲しいペぇ」


 それを見ていた一人の少年が、笑いながらシンを呼ぶ。


「はいよ~」


 シンは元気よく返事をすると、その少年の所に行き、再び唱える。


「バニエラ」


 すると、まるでシンから水が湧き出ているかの様に、水が舞台を濡らす。


「ぷははははは~」 「ぎゃはははは」


 呼ばれたら、素直に来て水を出すシンを見た少年達の笑い声が、あちこちから聞こえ始めた。


「こっちも、こっちも水がいるっぺぇ」 「おらの方も」


 少年達は我先にとシンを呼びつける。

 そして、道具を見つけてサボる事を許されていた少年達も、自発的に道具を持ちシンを呼びつけ始めた。


「フォワ~、フォワフォワ~」


「次はこっちだっぺぁ」 


 無関心だった少女達も、その様子を見て、若干だが心境に変化が表れ始めていた。


「クルクル~、ここにもお水いるよ~」


 一番幼い少女が、ユウを見てそう言った。


「う、うん!」


 ユウは鞄からバニ石を取り出し、同じように唱えた。


「バニエラ」


 ユウはシンと同じようにずぶ濡れになり、水が地面を濡らす。


「えい、えい、えい」


 幼い少女は、水の落ちた所をモップの様な物で擦り始めた。

 すると、それを見ていた別の少女も、同じ様に汚れを落とし始める。


 他の少女達は、手を動かしてはいないが、馬鹿な事をしているな~と思い、素直に笑う者と、子馬鹿にして失笑する者に別れた。


「フン!」


 ナナは鼻であざけ笑い、一人だけ違う方向を見ている。

 全く参加する気は無いようだ。


 その後、少年達もシンから受け取ったバニ石を使い、自分達もずぶ濡れになり笑っている。

 中には濡れるのを嫌がって逃げる者を追いかけ、抱き着いてバニエラを発動させ、ずぶ濡れにさせて遊んでいる者もいる。


 それを見たナナ以外の少女達は、声を出して笑い始めた。


「ふふふ」 「ブレが捕まったよ~」 「怒ってる怒ってる、あははは」


 少年達は、笑みを絶やさず、遊びながらも掃除を続けた。



 ふふ、ピカルが沢山くれたバニ石が役に立ったな……



 1時間後



「ようし、休憩しよう。こっちに集まってくれるか」


 シンの声を聞き、皆は掃除道具を置いて、女の子達も一緒に、一ヵ所に集まり始めた。

 ずぶ濡れの少年達は、休憩が嬉しいみたいで、口元が緩んでいる。


「皆、休みながら聞いてくれ。今日は初日だから掃除は午前中まででいい。お昼になったら、皆でメシを食いにいこうと思ってるけど、どうだ?」


「……メシ?」


「あぁ、シロンの心配はしなくていいからな。昼メシ代はユウと俺で持つ」


 無論、シャリィの立て替えである。


「場所は俺達が泊まっている門から近いモリスさんの宿の食堂だ。当然好きな物を好きなだけ食っていいからな~」


 その言葉を聞いた殆どの者が、沸き立ち始めた。

 

「何でも好きなだけ食べていいぺぇかぁ!?」


「あぁ、いいぞ」


「本当っペぇ? 本当っペぇ?」 「フォワー!」


「クルクル~、クルね、ハンボワン食べたーい」


「お姉ちゃんもクルと同じの食べようかな~」


「わ~い、お姉ちゃんと一緒~、クルクル~」


 皆が喜んでいる最中、シンが更に沸き立つような発言をする。


「今日だけじゃないぞ、休みの日でも毎日昼メシを好きなだけ食べていい」


「ま、毎日? 休みの日でもおら達だけで行っていいっぺ?」


「そうだよ。モリスさんの店にはシャリィが沢山食材を運んできたから、色々な料理が食べれると思うぞ」



 シャリィ様が……


 ナナは、シャリィの名前には反応した。



「やったぺぇ~」 「毎日ハンボワン食べれるっぺぇ」


 うっ!? そんなに芋虫好きなのか……

 まぁ、味は悪くないもんな~。


「今日何食うっぺぇ?」 「おらは、肉食いたいっぺぇ」


「おら酒飲むっぺぇ」


 その言葉を聞いたシンは、目を丸くした。


「ちょっと待て、誰だ酒飲むって言った奴は!? 酒は禁止だ!」


「え~~~」 「え~~、メシより酒飲ませろっぺぇ」


「飲み物も良いけど、酒は駄目だ」


 酒禁止には、数人から苦情が出た。


「よーし、ついでに自己紹介をしよう。俺は昨日も言ったが、シンだ。シン・ウースだ。22歳、よろしくな」


 シンは自分の名を告げると、ユウの方を向いて頷いた。


「僕は、ユウ・ウース。歳は20歳です」


「……二人は兄弟っぺか?」


「いーや、出身がウース村で同じなだけさ」


「そうだっぺぇな~。全然似てないっぺぇ」


「ふっふふ」 「ふはっ」 「フォワ~」 


 少年達から失笑の声が漏れる。


「じゃあ、頼む」


 シンは、今話していたモヒカンの少年にそう告げると、少年は自己紹介を始めた。


「おらはピカワンだっぺぇ。ピカワン・プイス、16歳だっぺぇ」


 16歳……  


「そしてこいつがおらの弟、ピカツー・プイスだっぺぇ」


 ワンの次はツーで弟か!? うん、顔そっくりだもんな。


 シンとユウは同じ事を思っていた。


「おらは15歳」


 来た時は、あまり態度が良くなかったピカツーが、歳を答えてくれた。


「そしてこいつが」


 ピカワンは一人の少年の肩を抱き寄せた。


 ん!? また弟か? それならピカスリーかな?

 

 この時も、ユウはシンと同じ事を考えていた。


「フォワ・プイスだっぺぇ」 


 スリーじゃねーのかよ!?

 スリーじゃないのね……


「おらの従弟で、14歳だっぺ」


 しかも弟じゃなくて従弟なんだ!? 弟のピカツーより顔が似てるぞ!


「フォワ~」


「ん? 何て言ったんだ!?」


「こいつはフォワとかしかしゃべらないっぺぇ。だから声のトーンで何を言っているか聞き分けないといけないっペぇ。たまに普通に話すっペぇけど」


「そうだフォワ~」


「あー!? フォワがしゃべった!? 何か月ぶりだっぺぇ!?」


「本当だっペぇ、珍しいっぺぇあ」


 フォワの一言で、少年達はざわつき始めた。


 ツレがざわつき始めるぐらいしゃべらないのかよ!?

 

「よーし、その調子で順番に頼むよ」


 シンがそういうと、フォワの隣に座っている少年達が順番に名前を言い始めた。


「レン・バーチン。14歳っぺ」


「おら、ノア・コールダー、15歳」


「ディ…… ディラン・ケザー、17歳」


 こいつだな、さっき酒飲むとか言ってた奴は……

 髪型アフロで、印象強い。

 

 シンは少し笑っていた。


「ケレイブ・ヒンスっぺ。歳は17歳っぺ」


「アシュル・フィルズ、13歳…… お腹へったぺー。早く食べに行きたい……」


「ふふ、もう少し頑張ったら好きな物食え」


「う、うんっぺぇ!」


 アシュルは、笑顔で返事をした。


「次は?」


「レピン・ダフ、19歳」


 19歳には見えないな……

 19歳…… 僕と一つしか変わらない。


「オーブリン・コールソ、12歳」


 まだ12歳か…… 小さいし、無理はさせられねーな……


 あと一人、自己紹介をしていない少年が居たが、ここで止まってしまう。


「次も頼む」


「……」


 その少年は、シンの言葉を聞き、反応して見つめてはいるが、声は出さない。


「そいつも無口っぺぇ。名前はブレイ・サイスだっぺぇあ。歳は14歳だっぺ」


「そっかぁ。これで男は全員終わったな。次は、女の子達も頼みます」


 だが、シンがお願いしても、誰も口を開こうとしない。


「……クルから言うっペぇ」


「……うん」


 見兼ねたピカワンが、助け舟を出す。


「クルクルクル~、クルの名前は、クル・バートンだよ~。12さーい」


「おぉー、クルちゃん元気いいね~」


 シンに褒められたクルは、はにかんでいる。

 

 この子…… 声も、仕草も凄く可愛い……


 ユウは、その見た目のイメージと違う少女を見て、少し驚いていた。


「あたしは、プル・バートン。17歳、クルの姉です」

 

「おっ、クルちゃんのお姉ちゃんね。ありがとう。次の子もお願いね」


「……パル・フォス、14歳」


「キャロ・ブライ…… 15歳……」


「二人ともありがとう。次の人もお願い」


「……」


 しかし、またしても止まってしまう。


 あの子は確か……


「リンだっぺよ」


 再びピカワンが促した。


「……ハァ~。リン・ヒュズ。じゅ~ご~」


「15歳ね、ありがとう」


 この子は、最初に俺とユウに絡んで来た子だ……


「最後は~っと」


 ユウは、昨日自分を殴った最後の少女をチラ見する。


「ナナ」


 少女はシンとユウの方を見ずに、名前だけを早口で伝えた。


「あいつはナナ・ロスだっぺぇ。歳は16歳」


 ピカワンがシンとユウに伝えると、ナナは怒りの声をあげた。


「ピカワン! いちいち言うでねぇっぺぇよ!」


「ごめんだっぺぇ~」


 フフ…… ありがとうピカワン。

 男は11名、女の子は6人っと……


「よし、これで全員の紹介は終わったな~。ありがとうな皆! もう少し休憩した後、30分掃除したら今日はおしまいだ。そしたら、メシをたっぷり食おうな!」


「フォワ~」 「お前何食うっぺぇ?」 「酒!」


「酒は駄目って言われたっぺぁ?」 


「じゃぁ酒を使った料理食うっペぇ」


「ディラン、どんだけ酒好きなんだよ!? おっさんみたいだな」


「……ぎゃはははは」 「ぶへへへへへ」 「ぷはははは」


「フォワ~、フォワフォワ~」


 シンの突っ込みで少年達が笑い始める。

 昨日と違って良い雰囲気の中、イドエのはじめの一歩は、もう直ぐ終わろうとしていた。



 その頃……



 ここはイドエから遠く遠く離れた国。

 夜空には星々が輝き、小さな家の庭先に、空を見上げている男性が立っている。

 その男性に、音も無く近づく者が現れ、男性の後ろで膝をついた。


「スーリン様、イドエで動きがありました」


 夜空を見上げていた男性は、その声に反応し、ゆっくりと振り向く。


「イドエ……」


「はい。これを……」


 膝をついた者は、魔法紙を数枚男性に手渡す。


 その紙には、今現在、イドエで何が起きているのか、詳細に書かれていた。

 受け取った男は、庭に置いてある椅子に座り、1枚2枚と、軽く目を通していくが、3枚目で手を止める。


「……シャリィ」 


「はい。どうやら、シャリィが絡んでいるようです」


 3枚目に、時間をかけ目を通した男は、間を飛ばし、最後の1枚に目を通し始める。

 その魔法紙には、シンとユウの情報が書かれている。

 

「シューラを2人も……」

 

「……はい。シャリィ共々、排除いたしましょうか?」


 男性は、右手の人差し指で、テーブルにタップし始めた。


「トントントントン」


 星々が照らす光の中、男性のタップの音だけが、響き渡る。


「トントントントトトトトトト」


 タップの速度は次第に速くなり、テーブルを激しく連打している。


「トン、トン、トン…… トン」


 最後はテンポがゆっくりとなり、タップは止まった。


「そのままでよい」


「はい!」


「誰が関わろうが、それもまた…… 報告だけは逐一するように」


「はい!」


 返事をした男は、暗闇に消えて行く。


 男性は、受け取った魔法紙全てに目を通すと、テーブルの上に置いた。

 すると、魔法紙は風に吹かれ、舞い上がる様に消滅してゆく。


 そして、男性は立ち上がり、再び星々が輝く夜空に目を向けた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る