65 レティシア・ヒューストン
シンとユウの二人は、野外劇場の直ぐそばまできていた。
「さーてと、ここから……始まるぞユウ!」
「うん!」
「あいつらとの関係はどうであれ、挨拶はちゃんとしような。大切な事だ」
「うん、そうだね!」
短い階段を昇ると、そこから野外劇場の全体が見渡せる。
「行くぞ」
「うん」
「すぅ~」
シンは息をいっぱい吸い込みながら階段を登り切る。
「皆、おはよ……」
「おはっ……」
シンとユウの目の前には、誰一人…… 居なかった。
「……」 「……」
「まぁ、あれだ。時間が、その~……ちょっと早いからな」
「そ、そうだね。まだ早いから……ね」
う~ん、もしこのままこなければ、あの子達を諦めて、オーディションが出来るかもしれない……
シンに目を向けると、キョロキョロしたり、遠くを覗き込むように首を伸ばしたり、少年少女達を待ちわびている様だ。
ムフフ、落ち付かないシンを見るのはちょっと楽しいかも。ムフフフ。
その頃、レティシアは……
「しばらくぶりですね…… ハーブティでよろしいですか?」
「挨拶もお茶も、経緯の説明も必要ない」
「……そうですか」
「何を考えているのか説明しろ」
レティシアはソファに腰かけている男の正面に、ゆっくりと腰を降ろし、男性の目を見つめ、口を開く。
「凄く単純なお話です。この村を昔の……」
男は語気を強め、レティシアの話を遮る。
「戻せるはずないだろ!? そんな事は、見た目が良いだけのお前でも分かっているだろうに……」
男の辛辣な言葉がレティシアを襲うが、その言葉を受け流し、話を続ける。
「……それでも、行動を起こさなければ、この村はずっと今のままです」
「今のまま…… それの何が悪い? 村人は、最低限の暮らしは出来ているだろう」
「最低限……」
レティシアは吐き捨てる様にそう答えた。
「この村の出生率をご存じですか?」
「いちいち嫌味を挟む必要は無い。村を離れていても、副村長なのだから、それぐらい知っている」
「村に住み着いた無法者達でさえ、この村では子供を作らない。あんな人達でさえ、この村に未来はないと分かっているから、だから……」
「未来? それはどの様な未来を想像している? 小麦がある限り、この村は現状以下にはなるまい。ましてや、消滅する事も無い」
「ええ、そうかもしれません…… 小麦の利権がある限り、人が減り続けても、最低限の人数は送られてくるでしょう。今までの様に!」
「送られてくる? 何の話だ?」
「私が村に戻ってきたこの数年間、この捨てられた村の噂を聞き、村に自発的に来る無法者は確かにいました。でも、どうしてある一定数から増えないのでしょうか?」
「……」
「まるで、誰かに管理されているかの様に、多少の前後はあっても、この村が無法者で埋め尽くされることはない。村がやっていけるだけの、畑を守る無法者達の人数…… 何故ですの? 本当に捨てられた村であるのなら、あの人達からすれば、これ以上の場所はないのに、何故一定数から増えないのでしょう?」
「そんな簡単な話……」
「簡単? 説明していただけますか?」
「村に居座っている山賊共が己の地位を守る為に排除していたからだろう! この村が今の様になってからずっとその繰り返しだったのは知っているだろう!」
「ええ、知っています」
「なら、そのおかしな妄想が間違いだと分かっているだろ!」
レティシアは、一度目を伏せた後、鋭い眼で男を見ている。
「小麦が……」
「小麦がどうした!?」
「数年に一度の割合で起きる不作…… その次の年は魔獣が多く出没していた為に放棄した畑が、無法者の手によって復活する。逆に豊作の次の年は魔獣が増えたという理由で放棄されていく畑。この辺りの高地は、気候が安定していて、畑の面積である程度の数字を見込めます。どういうことでしょうか? まるで誰かが生産量を操作してるかの様に…… あなたが村長だった頃、不思議に思いませんでしたの?」
「……ふん、偶然だろう」
「偶然…… 数年単位で計算すると、小麦の生産量はほぼ一定。この村を存続させていく為、そしてあなたの私腹を肥やす為の収穫は出来ています」
「わっ、私の私腹だと? はんっ!」
男は鼻で笑う。
「何が可笑しいのです?」
「別に~、何も~。ふははは」
「……あなたはこの村の小麦で私腹を肥やしている。けれど、全てがあなたの懐に入っている訳では無い。そうですよね?」
「……」
「あなたに渡っているお金は、更にあなたの周りに居るこの村を
「ふふふ、その話が本当なら、私は小間使いでもなかなかの人物という訳だ。つまり私はこの村の小麦を操作出来る。なにぶん私は裏の人物と繋がっているのだからな~。では、その私が、農業ギルドに圧力をかければ、この村の最後の生命線は終わると、そうだな!? まぁ、確かに私は村長のお前より大きな繋がりが多方面にある。それは認めよう。それなら、私の意見はこの村にとって重要だと言う事になる。どういう意味か分かるな?」
「私の返事次第では、小麦の
「そうだ! 考えてもみろ、お前のいう裏の人物の目的が金なら、全ての畑を再開させればいい。何故一定数にする必要がある? お前の言う通り、何者かが山賊達をこの村に送り、小麦の生産量を操作しているというなら、その理由は何だ!? そんな事をせずに、毎年最大限迄小麦を収穫させ、その金で更なる影響力を付ければよいではないか! そうすれば、裏の人物に入る金は多くなるのだから! 収入が増えれば、おまけにこの村に恩も売れる。何故そうしない!? 答えは簡単だ! お前の言っている事は的外れな妄想だからだ!」
「そう、あなたの言っている通りです。それはつまり、最終的な人物の目的は、お金ではない。あなたと、あなたの周囲の腐った人達に必要な分の金額が入れば良いのだから」
「……では、何だ? 金では無いのなら、その人物の目的は何だ!?」
「それは、明確な答えは分かりません。だけど、私の想像が正しければ、この村を
「待っている? 何をだ?」
「その人物は、この村に変化が訪れるのを待っています」
「……ばっ、馬鹿らしい。何度も言っているが、お前の妄想だ! 勘繰りだ!」
「そうでしょうか? 村長になると、あなたと違って、今まで見えなかったものが見えてきました」
その言葉で明らかに不機嫌になった男は、少しの間沈黙したが、再び口を開く。
「……やはり、ずっと反対し続けるべきだったのだ」
「……」
「その美貌と身体で私に近付き、村長の座を私から譲り受けたのは、最初からこの村を変えるのが目的だったのだな?」
「……ええ、そうです」
「はっきり言う……」
「真実なので」
「お前を村長にするために、私がいったいどれ程の金をはたいたと思っている!? 何の後ろ盾も無い小娘を村長になど、普通は許されない! お前が村長になれたのは、私の努力だ! それなのに、出向名目で私と私の部下をこの村から追い出しおって!」
「お言葉ですが、この村を出て行くのは、あなたが望んだことですし、部下を連れていかれたのはあなたです」
「お前がっ! 数年間村長をやって飽きれば、この村を出て私と一緒に暮らすと言ったからだろ!? 私はその言葉を信じて基礎を築いていたのだ! それを、まんまと騙しおって!」
「この村に居ない方が、農業ギルドの方達と頻繁に会えて、親密になる時間を作る事が出来たのでしょう? そこで得た情報を基に派閥を利用して、更なる裏金を作った。そうですよね?」
「ああー、確かにそうだ! 農業ギルドの幹部だけではなく、様々な地位ある人物と手を結び、金だけではなく人脈も肥やしてきた。だが、それもこれも全てはお前の為だ! お前を迎え入れ、贅沢をさせてやろうと思っていたからだ! 裏金作りがどれ程の重罪か知らないとは言わせないぞ。お前の、お前の為なら私は、死罪も怖くないのだ」
「……私には最初から、そのつもりはありません。裏金に関しては、追及致しませんので、ご自由に」
「ふん! 村の為と言いながら、私から村の金を取り戻さないと言うのか? 矛盾している!」
「その時間が、あなたの様な方々に関わる時間が、もったいないだけです」
くっ!? この女!
「はぁー、話を変えようか」
「忙しい身なので、どうか手短に」
「チッ!」
男は舌打ちをして歯を食いしばった。
「まさか、まさか私が村を出た途端、ガルカスに近付き、奴を
「……誑かしてなどいません」
「お前が村長になれば、奴等との接点が増える。お前を愛している私は、だから、だから村長になるのを反対していたのだ! その美貌と身体を奴等がほっておく訳あるまい! それは最初から分かっていただろうに、どんな目にあわされるか!? それなのに、それを望んで近付きおって、この売女が!」
「誰が…… 誰があのような奴等に好んで抱かれるというのでしょうか……」
「ならどうして、ガルカスだけでは飽き足らず、バンディートにまで色目を使った!?」
「……」
「奴らの仲を裂いて何をしようとしていた!? その身体をエサにしてバンディートを焚きつけたくせに、いつまでも一線を許さず、その不満を燃え上がらせたのは何故だ!? お前は村の為とか、昔の様に戻すと言いながら、騒動を起こそうとしていたのは何故だ!? そんな状態だから、バンディート達は些細な事でこの屋敷に乗り込んできたのだろう! それも計算だったのか!? 村を変えるというのは、無用な争いをその手で起こす事か!?」
「何かが変化する時、騒動は起きるものです」
「くっ!」
この女!
「それと、計算とおっしゃいましたが、まさか…… シャリィ様がこの村に来られるなんて、そんな事は誰にも予想できません」
「いーや、出来過ぎている。Sランク冒険者とそのシューラが訪れた時に、バンディートが屋敷に乗り込んでくるなどおかしいではないか!? つまり、お前はバンディートの怒りをも操作していたのだ! 怒りが燃え盛るそのタイミングを、お前が、お前が!」
「私を憶測で批判するのは止めていただけますか」
「なっ、なっ、何を~、自分はさっきまで憶測で訳の分からない話をしていたではないか!」
「私のは事実に基づいた推測です」
「くぅぅ! は、話にならん!」
「そうですか、ではお引き取り下さい」
「くっ…… 分かった、そこまで言うのなら分かった! では、農業ギルドには取引を止めるよう報告する。私が何故一人で来たと思っている? 部下は今頃セッティモの農業ギルドに到着しているだろう」
その話は嘘だった。部下は従者の役目をし、この村に来ている。
「……どうぞご勝手に」
「なっ、なに!? 小麦の取引を止められたら、この村は終わりなんだぞ! 何かに固執するあまり、そんな簡単な事も理解出来なくなっているのか!?」
「お言葉ですが、小麦の取引を止める事は出来ません」
「なっ、何故だ? 何故そう思う? 私にその力が無いと言うのか!?」
「あなたは関係ありません。この村を今の様にした人物が、小麦の取引を止める事は絶対にしないと確信しているからです」
「何を高を括っておる!? その気になれば、この村の代わりの小麦は他にもあるのだぞ!」
「ええ、勿論存じております。もし、私の推測が外れたのが理由で小麦の取引が止められたら、この身体を使ってでも取り戻します」
「お、お前……」
「私は、この村の、この村の未来の為なら、どの様な対価を支払うことも厭いません!」
レティシアの決意は、本物である。
「……どっ、どうしたのだお前は?」
「何でしょうか?」
「何故そのようになった…… 私の愛したあの素直なレティシアはいったい何処へ…… 愛し合った時間はいったい何だったのだ……」
「私はあなたを愛した事など一度もありません。先ほども申しましたが、あなたに近付いたのは、この村の村長になり、村の実権を握るためです」
「近づいた目的はどうであれ、あれほど楽しい時間を、快楽を共に感じたではないか!? 私は、私は、今でもお前を愛している。ガルカス達に弄ばれていたのは忘れるよう努力するから」
「フッ、努力……」
「こんな面倒な村は捨てて、二人で贅沢をして暮らそうではないか!? それだけの金額はすでに貯め込んであるし、二人で何の咎めも無く暮らせるように、金をばらまいて、それなりの地位も築いている」
「……」
「なぁ、やり直そうレティシア。頼む……」
「……無理です。何度でもおっしゃいますが、あなたへの愛情など微塵もありません」
その言葉を聞いた男の首はガクッと折れる。
そして、項垂れたまま、言葉を発する。
「どうやら…… 私よりガルカス、そして、ガルカスより若いシューラの方が、お前の身体の扱いが上手いようだな……」
「……あの人達は、その様な人ではありません」
「黙れ! 今はそうかもしれん! だが、その美貌とその身体を求めない男など存在しない! お前は、お前は私のものだ!」
「あなたのものではありません。私は、誰のものでもない!」
「兎に角、今すぐやろうとしている事を中止しろ! 冒険者をこの村から追い出すのだ!」
「お断りします。これ以上、話す事はありません。お引き取りを」
「レッ、レティシア!!」
男はレティシアの名を叫びながらテーブルに両手を叩き下ろす。
「副村長の地位は、辞任して頂きます。そして、今セッティモに行かれてるという、あなたの部下にも辞任していただきます。理由は健康問題が宜しいかと」
「断る! 何故自ら辞めないといけない!」
「……職員の一人が、昨日の昼にセッティモに向かってこの村を出発いたしました」
「な、何? 嘘を言え! そんな話は聞いておらん!」
「この村に、あなたの手の者が多数いるのは分かっておりますので、信頼できる職員に門からではなく、壁の穴から外に出て行かせました。馬車を拾い証拠と私の紹介状を持って領主様か、それに近い人物にいつでも会えるよう、身を隠しています」
「……なっ!?」
「辞任に同意してくれるのであれば、証拠を提出する必要はありません。そうすれば、あなたから不正な金を受け取っていたあなたの周囲の人達も、何のお咎めも無く今まで通り生活できるでしょう。同意しないのであれば、私の権限で退任していただきます。そうなれば、裏金の行き先の追及し、多数の人も巻き込みますが、どうなさいますか?」
「お前の! イドエの村長の言う事など、誰が信用するものか!?」
「試してみましょうか? あなたのおっしゃる通り、私にはこの身体があります。必要なら、誰にでも抱かれますけど」
男は歯を食いしばり、徐々に項垂れていく。
「領主様は、私の辞任を受け入れるはずはない。きっと慰留して下さる」
「話を理解されていないようですね。慰留など問題ではありません。あなたには辞任して頂きます。それに、何度でも言いますが、裏に居る人物は、この村の変化を望んでいます。その人物には、領主様も逆らえない。自分の領地のこの村を、現状のまま放置しているのがその証拠です。ですから、いくら領主様に泣きついても無駄です。そちらも試してみますか?」
「くっ……」
少しの間、沈黙の時間が流れる。
「……本当にもう、私の事は愛していないのだな」
「いったい何度申し上げれば理解されるのですか? 最初から愛していません。あなたに近付いたのは……」
「もう分かった!」
大声でレティシアの言葉を遮った男は、勢い良く立ち上がると、玄関に向けて走って行く。
そのままの勢いでドアを開け、外で待機していた護衛達を中に招き入れる。
「なっ、何をするつもりなの!?」
「こうなれば、力ずくでも一緒に来てもらう。お前を、誰にも渡さない! 渡したくないのだ!」
屋敷内に入って来た護衛達は、レティシアに一斉に襲い掛かり、一人は両手を抑え、もう一人の者は、背後からレティシアの口を塞ぎ、更に別の者は、足を担ごうとしている。
「もごっ、もご。はっ、離して!」
レティシアが激しく抵抗しているその時、室内の一室のドアがゆっくりと開く。
そして、その部屋から出て来たのは…… シャリィ。
護衛達は、シャリィに気付いた瞬間、目を見開き動きを止める。
それは、魔法ではない。シャリィから放たれる桁違いのイフトを感じ、恐怖で動けなくなっていた。
「なっ、何をしている! 早く、早くレティシアを連れて行くぞ!」
護衛達は、男の指示に従わず、蛇に睨まれた蛙の様に動かない。
「……死にたくなければ、大人しく、去ることだ」
「くぅー。お前が、お前がシャリィか!? 最高ランクの冒険者のお前までこんな女に騙されおって! この女は、他人を利用する事しか考えていない! お前達が何を考えてこの村に手を出しているのか知らないが、冒険者風情ではどうにもならない! それを身をもって知る事になるぞ!」
「それなら、受け入れよう」
「馬鹿がぁ、人の忠告を軽くみおって! レティシアを連れて帰るぞ! 早くしろ!」
しかし護衛達は床を見つめ、返事すら出来ないでいた。
そして、一人の護衛が、突然外に向かって駆けだすと、他の護衛達も、我先にと玄関から外に出て行った。
「くぅー…… レティシア、せめてもう一度だけでも……」
「出て行って! 今すぐに! そして、二度とこの村に、イドエに戻らないで!」
男は、歯ぎしりをしながら、悔しそうに屋敷を後にした。
く、くそー! まだ、まだ手はある! レティシアを必ずこの手に取り戻してやる!
「バタン」
悔し紛れに強くドアを閉めた音が室内に響き渡る。しかし、その後は、静寂の時間が流れてゆく。
そして、その静寂を破ったのは、シャリィだった。
「レティシア」
シャリィに名を呼ばれたレティシアの身体は、ビクッと強張る。
「……は、はい」
レティシアは、返事をした後、シャリィの前に
「お前の言っている事が真実で、裏に居る人物がこの村の行動を待っているのなら、今行おうとしている試みは、その人物の望み通りではないのか?」
「……はい、おっしゃる通りです」
「分かっているのなら何故だ?」
「その人物は、このイドエを
「……」
「実験場にしているのならば、どのような結果になってもそれを見続けると判断しました。つまり、この村の復興が成功しようがしまいが、関係ありません」
「……お前の祖父の死に関係してる人物の思惑に、乗ると言うのか?」
「ご存じでしたか…… 私怨より、この村の行く末が大切です。村人の…… この村の子供達の未来のためにも…… その為には、私の怨みや、心、命までも軽いものです」
「……」
「シャリィ様、あなたのお力は是が非でも必要でございます。本日、お招きしたのは、あの男とのやり取りを、全ての真実を明らかにし、改めて協力をお願い申し上げたいからです」
「……」
「先日は、同情を引くようなお話をお聞かせして申し訳ありません。なにとぞ、なにとぞお力を、お願い申し上げます」
レティシアは深々と頭を下げる。
「謝罪の必要はない。目的のために手段を選ばないのは当然だ。それに……」
「……はい」
それに、私も人の事を言えた義理ではない。
そして……
「この事は、私の胸に留めておく」
その言葉の意味は、イエスである。
「二人には、報告する必要は無い」
「承知いたしました。ありがとうございますシャリィ様。この御恩は……」
「立って良い」
レティシアの言葉を遮ってそう言い残すと、屋敷から出て一度足を止める。そして、遠くに目を向けたシャリィは、シンとユウの居る野外劇場へ向かい歩き始める。
レティシアは、シャリィの姿が見えなくなるまで見送っていた。
「ユウ! 来たぞ!」
「うん? 本当だ」
これでオーディションはやっぱり無しだね……
ふふふ、けど、喜んでいるシンを見ると嬉しいような残念のような、複雑な気持ちだよ。
「おーい、こっちだこっち。皆集まってくれ」
そう声をかけられた少年少女達は、重い足取りで、ゆっくりとシンとユウの所に集まって来る。
その様子を、シャリィは野外劇場を一望できる場所から眺めていた。
「……」
そして…… シン、お前もだ。お前も、己の目的のために、この村を利用している。
「皆~、おーはーよー」
「えっ、何その歌のお兄さんみたいな挨拶……」
「はは、ちょっとやってみたかった」
「真面目にやらないと」
「わりぃわりぃ。あはははは」
「ふふっ、もう~」
……この村よりも、大切な者のために。
シャリィはしばらくの間、二人を見ていた。
「ブルルゥ~」 「ヒヒ~ン」
「おっとっとお~、怖くない、怖くないよ」
その者は、暴れる馬をなだめている。
「はいはい、馬は逃げて良いよ~」
魔獣を殆ど見る事の無い新街道で、副村長と従者をはじめ、護衛達全員の死体に魔獣が群がっている。
「う~ん、流石僕~、良い仕事するよね~。これでしばらくは怒られないだろう。ねっ、お前達~」
副村長を襲った者は、うんうんと頷いて満足そうにしている。
「おーい、今回は全部食べちゃ駄目だからもう行くよ~。誰かに見られちゃったら……」
魔獣は死体から離れてゆく。
「そいつまで殺さないといけなくなるからね~。にゃははは」
その者は、嬉しそうに、笑っていた。
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