38 ファブラリス



「……シャリィさん。どうして魔法履歴や習得魔法を調べたりするのですか?」


「この世界には、まだ誰も知り得ない魔法が存在しているからだ」


「誰も知らない魔法!?」


「それは……ファブラリスと呼ばれている」


「ファブラリス……」



 困ったなぁ、まだ満腹にならない。


 

「ファブラリスとは一つの魔法を指す言葉ではない。伝説の魔法の総称だ」 



 あー、これは来るぞー、来るぞー。



 で、で、伝説の魔法……


「ほあぁぁぁぁはあああぁぁぁん」


 そら来た! 絶対ユウが変な声を出すと思ってたよ、フフフ。


「ファブラリスはおとぎ話ではない。間違いなく存在している」



 誰も知り得ない・・・・・のに、おとぎ話ではない……か。

 変な言い方をするね……



「ゴクリ……しょ、証拠は、伝説の魔法が存在していたという証拠はあるのですか?」


「……証人がいる」


 証人? 今大昔って…… 


「……そうだ!? 分かった!」


 ……うーん。そろそろ集中力が切れて来た。

 好きでも無いものを頭に詰め込もうとすると、長続きしないんだよな俺……


「証人はエルフですね!? シャリィさん!」


「あぁ、人間よりも遥かに寿命の長いエルフは、ファブラリスをその目で見ている者も居ると聞く。そして、それは魔族も同じだ」


「魔族も……」


「魔族が好戦的な理由の一つは、ファブラリスを欲しているからだ。そして、魔族だけではなく、無論エルフも、ドワーフも、獣人も、そして人もファブラリスを探し続けている」


 また来そう……


「うっひあぁぁぁぁぁん」


 ……やっぱり来たか。

 そして、危なかった……

 心構えが無いと、声に出して笑っていたかもしれない。

 って、伝説の魔法か…… 良く分からないが、エルフとか言う奴等や、他の全種族が探しているなんて…… もしかして、かなり物騒な魔法なのかもしれない……

 


「ぼ、僕も、僕にも伝説の魔法を習得するチャンスはあるのですか!?」


 たぶん、誰にでもあるのだろうな……

 だからこそ、人々の魔法履歴や習得を知りたがっているのだろ?

  

「誰にもでもチャンスはある」


 で、伝説の魔法を習得する…… 聞きたい聞きたい! もっと伝説の魔法、ファブラリスの事を聞いてみたい!


「シャリィさん、そのファブラリスを全種族が探していると言いましたけど、何処にあるのか、大体の目星は付いているのですか?」


「付いていると言えば付いている」


 何だ、その言い方?

                           

「どういうことですか?」


「それは、何処にでも存在している可能性があるからだ」


「何処にでも?」


「ファブラリスは、草や木など生物、つまりこの世界の生命体、それに鉱物など無生物も含め世界にある全ての物に宿っている可能性がある」


「全て?」


「そうだ。この話は元々エルフから伝わって来た話で信憑性はある」



 エルフから……



 その言葉を聞いたユウは、急にキョロキョロとし始め、部屋の中の物を見ている。


 

 さ、探している…… ユウが伝説の魔法とか言うのを探し始めた、フッ、フフ。



「もしかすると、シンのシチューに入っていた野菜に宿っていた可能性もある」



 何俺の方に向けてるんだよシャリィ!



 シンの食べたシチューに!?



「シン!!」


「な、なんだよユウ。急にでかい声出して?」


「吐き出して!」


「……ほぇ?」


「さっき食べたシチューに入っていた野菜を吐き出して!」

 

「きゅ、急に何言ってるんだよ? シャリィの話は大げさな例だろ!? 真に受けてんじゃねーよ!」


 ほら~、シャリィが俺に向けるからだぞ~。


 ユウは、シンの一点を見つめていた。


「な、なーにジーっと人の口を見てんだよ!? 吐き出せねーから! そんな事を言うならさ、さっきコレットと一緒にジンジャー水とか言うの飲んでただろ!? もしかしたらその生姜に入っていたかもしれないじゃん!」


 そうだ! シンの言う通りだ! もしかしたら、僕は知らずにファブラリスの宿っていた生姜を飲んでしまったのかもしれない!?


「あーー、僕は、僕はなんてことをーー」 


 ユウがノイローゼになりそう……

 

「……フッ、フフフフフ」


 シャリィ、自分で種まいといて笑うとか、性格悪いな~。


「……コホン。落ち付けユウ」


 いや、あなた様が慌てさせてるじゃん。 


「確かに、その可能性は無いとは言い切れない。だが、何も無かった・・・・・・時点で、ファブラリスを見つける事は不可能だ。つまり、ユウの飲んでいた生姜に宿っていたとしても、そのままスルーしてしまう」


 あぁ~、もったいない。ファブラリスをスルーしてしまうなんて。僕はそんな勿体ない事を……って……


「シャリィさんどうすれば…… もしかして、それもイフトですか!? イフトを感じることが出来ればファブラリスも?」


「イフトが無関係だとは言わないが、残念ながら、それだけでは無理だ」


「はぁ~」


 ユウは大きなため息をついて項垂れてしまった。

 


 ハードルが上がってすげーショック受けてるじゃん。プップププ。



「世の中には、ファブラリスを探している冒険者は数多くいる」


「ファブラリス冒険者!? いや、冒険者ファブラリスの方がしっくりくるかも!?」



 俺にはどっちも全然しっくりこない……



「その者達はファリスと呼ばれていて、中には貴族や大富豪達から支援を受けている者も少なくない」


 そいつらの名称があるのかよ。ユウのしっくりは何だったんだよ。


「その人達は、どうやって探しているのですか!?」


 そこはスルーする・・のかよ!?

 なんてな。


「それは人によって様々だ。当てもなく勘で探している奴も居れば、自らが考案したいう魔道具もどきで探している者もいる」


 なんだそれ、詐欺みたいなものか? 

 元の世界で大昔、不老不死の薬を探してくると言って大金をせしめた奴が居たと聞いた事があるが、それと似たようなものか……


「そんな適当に…… 感じる事も出来ないのであれば、どうやって見つけたと分かるのですか?」


「……ファブラリスには意志があると言われている」


「意志…… つまり生きているって事ですか?」


「そう言っても過言ではない。例えば、先ほどシンが食べた野菜にファブラリスが宿っていたとしよう」 


 また俺を使う……


「やっぱりシンの食べたシチューに!?」


「例えだって言ってんじゃん!」


「シンには感じ取る事が出来なくてスルーしてしまう。だが、ユウの場合は違ったかもしれない」


「それはつまり……ゴクリ」


 ユウは生唾を飲み込んだ。


「ファブラリスが人を選ぶのだ。ファブラリスを探している冒険者が、いくら優秀で有能な人物でも、ファブラリスが選ぶとは限らない」



 つまり、伝説の魔法を習得出来るのは選ばれし者…… 



 ふ、相応しい、それこそ僕に相応しいのではないのか!?

 僕が、僕がこの世界の勇者になる可能性はまだあるじゃないか!

 

 あぁ~、駄目だぁ~、ジッとしていられなーい。


「シャリィさん! 指輪をお借りします」 


「ユ、ユウ!?」


 ユウはシャリィから指輪を奪い取った。


「ベナァ! 暗く暗くぅ、明るく明るくぅ!」


「だから、それ止めろ! チカってるから、またチカってるから!」


「……ユウ、前にも言ったが、それにあまり効果は無い」


「けど、少しでも効果があるかもしれないんですよね? 消して! ベナァ!

 明るくぅ、明るくぅ」


「……」 「……」


「えーと、お話の途中で悪いけど、俺まだ腹が減って減って……」


「消してぇ! ベナァ! 明るくぅ、暗くぅ!」


「分かった。アロッサリアでも行って何か食べてきていい」


「消してぇ! ベナァ! 暗くぅ、明るくぅ!」



 シャリィはそう言った後、掌を上に向けると、そこに空中から金貨が3枚落ちて来た。


 それを見たユウは動きを止める。


 空中から金貨が……

 もしかして、あんな感じで魔族の首をボトボトと……



 シャリィはシン目掛けて金貨3枚をまとめて指で弾き飛ばす。


 シンは、それを片手でキャッチした。


「おっ、申し訳ない」

 

 腹が減ったと言っただけなのに金貨3枚も……

 つまりは、そういうことね。了解、了解。


「じゃあ悪いけど、お先に夕食も兼ねたメシ食ってきまーす」


「あぁ」


「シン、まだ魔法の話をしている最中なのに?」


「わりぃわりぃ、後で続きを教えてくれよ」


「……それはいいけど」


「受付に合鍵貰うからカギ閉め解いていいよ、じゃあな」


 シンはシャリィから渡された金貨3枚だけを持って部屋を出た。



 合鍵って、いったい何時間出かける気なのかな……



「では、話を戻そう」


「あ、はい、お願いします!」


「実は、あくまで噂程度だが、近年ファブラリスを発見したという話があった」


「えっ!? 伝説の魔法を誰かが習得したのですか!?」


「いや、そうではない」


 ……発見したのに習得していない。どういう事だ?


「発見者は教会の者で、そのファブラリスを教会に持ち帰ったようだ」


「持ち帰る?」


「あぁ、メヂケラピスという希少な鉱石を使いアビダ石という魔法石を創る。そのアビダ石には魔法を宿す事が出来る。が、どの様な魔法でも宿せる訳ではないがな」


「アビダ石……」


「魔法を習得するのにも必要な魔法石だ」


 確か、魔法石や魔道具から魔法を習得すると教えて貰ったけど、それがアビダ石……

 そして、また肝心な所で、教会が話に出て来た。

 僕の知識には、異世界で強大な力を持った教会が、本来なら正義の立場なのに、悪に染まってしまう例もあった。

 もしかして、この世界も……


「シャリィさん、教会はその持ち帰った魔法をどうするつもりなのですか?」


「ただ、保管しているだけらしい。これもあくまで噂だ」


「習得して使用はしないのですか?」


「ファブラリスは使い様によっては危険なのだ。だからこそ伝説の魔法と言われている。例えば、遠く離れた場所に一瞬で行けるファブラリスがあったとしよう」


「はい」


「その魔法は己自身だけではなく、沢山の人や物を遠くまで一瞬で送れたと仮定すれば……」


 凄く便利だ。だけど……


「この魔法を悪意ある者や、魔族が習得するとどうなる?」


「そ、それは……」


「平和な街に突如として魔族や悪意ある者が現れると、それは考えなくても分かる。悲惨な結果になるだろう」


「はい…… つまり、そうならない様に保管してあると言う事ですか?」


 シャリィさんは、小さく頷いた。


「他種族に興味が無く、更に魔力を必要としていないと言われているエルフが、ファブラリスを欲している理由は正にそれだ」



 エルフは、魔力を必要としていない?



「……その様な危険なファブラリスを、敵対している魔族に、先に見つけて貰いたくないのですね」


「その通りだ」


 ユウはこの時一つの疑問が頭をよぎった。


 それはシンの事だった。


 シンは、クレアトゥールと呼ばれる希少な人物で、想像力だけで魔法を使う事が出来る。

 実際、河原でも突然炎を作り出すことが出来た。

 だけど、シャリィさんの話から推測すると、想像できたからと言って、どんな魔法でも使える訳ではない。

 魔法のあるこの世界には、この世界の特有の常識があり、ファブラリスはその常識外の魔法と言う事なのか……


 ユウは、俯いて考え込んでいた。


「今日の魔法の話はここまでとして、話を変えよう」


「えっ? は、はい」   



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