28 過信
シンは宿屋に戻り、部屋の前に立っていた。
……どうやらまだユウとお勉強しているみたいだ。
ここは終わるまで待つのが礼儀というものだろうな……
俺の都合で、せっかくの勉強会を止める訳にもいくまい。
できれば今からでも仕事して、その金でこの世界のキャバクラも行きたい。
シンがドアの前で色々考えていると、シャリィから声がかかる。
「シンだな。立ってないで入って来い。鍵は開いてる」
えっ!? こっそり歩いてきたつもりだけど、どうして俺がドアの前に立っているのが分かったんだろう……
まぁいいか。
「ゴホン。失礼しまーす」
シャリィさん、どうしてシンが居るのを……
僕は全然気づかなかった。
「こんばんは」
こんばんは?
いきなり態度が怪しいよ、シン……
シャリィとユウの視線が、シンの持っている花束に向けられる。
「なんだその花束は?」
しまった! 先に言われてサプライズが……
背中の方に隠しておけばよかった。
「え~と…… いやね綺麗な花を売っていたもので、是非シャリィにプレゼントしたいと思って買ってきたんだよ」
シン…… 何か魂胆があるのみえみえだよ。
「……気持ちだけ貰っておこう」
えっ!? 受け取ってもくれないの?
「……」
いや、ショックを受けるな。
俺の気持ちを花束に乗せれば、受け取ってくれるだろう……
「ほ、ほら、見てこの花~。俺の中のシャリィのイメージと同じ色でさ、シャリィのために咲いたような花だよ~」
「……そうか」
そうかって、それだけ!?
まいったな……
「私に用事があるのだろう? さっさと要件を言え」
さっさとって……
うゎ~、何かが胸に突き刺さったような気分になっちゃったよ~。
うーん、どうしよう。さっきの話を正直に伝えてみようかな。
けどそれだと、自慢しているみたいに取られるかもしれない……
金の事は内緒にして、仕事だけ紹介してもらうか……
だけど、明日からのメシ代も無いし……
「どうした? 早く言え」
えぇーい、ままよ!
「じ、実はお金を落としてしまいまして……」
「ほぅ、さっき渡したばかりの金がもうないと!? それで私に金を貸せとでも言いに来たのか?」
あれ? もしかしてシャリィさん怒っているのかな?
まぁ、怒るのも仕方ないかも…… 2時間ぐらい前に30万シロンも渡したばかりなのに、直ぐに使って帰ってくるなんて、シンの金銭感覚はおかしいよ。
しかも落としたとか、バレバレの嘘ついちゃって……
もしかして、この世界のキャバクラでボッタくられたのかな?
けど、シンは強いから、簡単にシロンを取られたりしないと思うけど……ま、まさか!?
まさか、ボッタクリ店の人達が魔法を使ってシンからシロンを巻き上げたのでは!?
いっ…… い、行ってみたい! その魔法を見てみたい! あわよくば、僕にも魔法をかけて貰いたい!
「シ、シン!」
「んぁ?」
「ぼ、僕も、僕もそのボッタクリ店に行きたい! 連れて行って!」
「ボッタクリ店? な、何を言ってるんだユウ?」
「えっ!? ……違うの?」
「ユウが何を言いたいのか良く分からないけど、違うよ……」
「なーんだ、チェッ!」
ユウに話の腰を折られてしまった……
「それで、私に何を言いたいのだ?」
「えーと、仕事を紹介してくれないかな?」
仕事? 何を言っているんだシンは?
僕らは冒険者ギルドに所属したのだから、依頼を受ければいいのに……
あの時に言った僕の説明をもう忘れちゃったのかな?
「シン、仕事は」
僕が口を開くと、シャリィさんが僕を見ながら微かに首を左右に振った。
あっ! 内緒の方がいいのかな?
「ん? ユウ、仕事は何だ?」
「いや、ごめん何でもない……」
どうして止めたんだろうシャリィさんは……
「話は分かった。その鞄に入れた小袋の中にあったシロンを落としてしまったので、仕事がしたいというのだな?」
「うっ……」
落としたとか嘘が通じるとは思ってなかったけど、鞄に入れていたとか、いちいち嫌味を言いがって……
くっそー! こっちは下手に頼んでいるのに、何だよその態度は!
俺が出かけている間に、急にアレでも来ちゃったのかよ!
Sランクか何か知らないけど、俺だってベッドではSにでもMにでもなれるんだぞ! 俺の
シンは、その高すぎるコミュ力で、この世界の者達と何の苦労もせずコミュニケーションが取れている。
しかし、それは逆にその事で、この世界に対する警戒心を無くす結果に繋がっていた。
シャリィは、シンの心の変化を見抜き、これを機にお灸を据えて、シンをコントロールしようと考えていた。
しかし、シンは勿論の事、ユウもそれに気づいてはいない。
「あぁ、仕事を紹介してくれ……頼む」
「……それは承知できない」
「……」
シャリィさん……
「明日からの生活費は今まで通り私に頼ってもらう。いいな?」
「……」
シン、怒っているのかな?
「もぅいいです」
シンは急に敬語を使い、花束をテーブルに置いて部屋から出ていった。
演技なのか分からないけど、かなりションボリとしていた。
シャリィさん、少し厳し過ぎるのでは……
シン…… どこに行ったんだろう……
数分後。
「コンコン」
誰かがドアをノックしている。シンが、帰って来た!
「やっほー、やっほー」
部屋に入って来たのは、コレットちゃんだ!
「コ、コレットちゃん……」
だ、駄目だ。今日講習であんな事があったから直視できない。
コレットちゃんはシャリィさんに近づき、何やら耳打ちを始めた。
「あのねシャリィ、ゴニョゴニョでね、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョゴニョ」
「フンッ、バカが。正直に言えばいいものを……」
あれ、シャリィさんさっきまでムスっとしてたのに、少し表情が柔らかくなったような……
コレットちゃん、何を言ったのだろう?
そう、出かけたシンの後をつけていたのは、コレットだった。
無論、シャリィの依頼で。
その頃シンは……
宿屋のトイレで怒りに震えていた。
くっそシャリィめぇ、たかだが金如きで上から目線で物を言いやがって!
この世界で金を稼ぐ手段を俺はまだ知らないし、別の世界から来た俺が下手に動けないのも分かる……
だけど、だけど、あの嫌味な言い方は無いだろう!
「見てやがれシャリィ…… お前の弱点は既にお見通しなんだよ!」
コレットちゃん、シャリィさんに何かを報告していた。
つまり、出かけたシンをシャリィさんに頼まれて見張っていたのかな?
「バン!」
ドアが壊れたかと思うほど大きな音を立てて開いたので、驚いて見てみるとシンが全裸で立っている!?
「いや~、今日は
「もぅ~やだぁ」
コレットは両手で顔を覆い目をふさいだが、指と指の隙間が大きく空いている。
「あっ、コレットいつの間に!?」
もう~~、何やってるんだよシン!? ……ってシャ、シャリィさんが、シャリィさんの全身が怒りでプルプルしている!
「こぉ、こぉ、このアホゥがぁ!」
シャリィさんはシンに対して突然指先を向けた!
するとシンの周囲の空間から吹雪のようなものが現れ、シンを襲う。
「ぎゃああああああ、ちゅ、ちゅべたぁーい!」
それは、僕が初めて見た氷系攻撃魔法でした。
「シャ、シャリィさん! 僕にも、僕にもその魔法をかけて下さい!」
「……えっ!?」
コレットちゃんが…… 引いていた……
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