22 ありのまま
「シン君、どこ行ってるの?」
「おっ、コレット。 いや~、お勉強は苦手でね。観光でもしようかなって」
「じゃあ僕が案内してあげるよ」
……ユウに怒られそうだ。どうしよう……
「何~? まさかこんな可愛い僕の申し出を、断る気じゃないよね?」
「あ、あは、ははは、まさかー。……ではお願いします」
そう言うとコレットは、俺の左腕に両手でしがみついてきた。
「うふっ」
おっとぉ~、なかなか大胆な子だな……
あ~、この状況がユウの耳に入らないことを願うばかりだ。
「シンくん、どこ行きたい?」
「そうだな~、市場ある?」
本当は明るいうちにキャバクラ探して、ボクシングの勝った賭金で夜行くつもりだったけど……
「りょうかーい、市場に向かいまーす」
ふふふ、可愛い子だ……ユウが惚れるのも分かる。
歳は中学生ぐらいかな? ……聞いてみるか。
「コレットはいくつなんだ?」
「僕は14歳だよ」
「まぢで?」
「見えない?」
「18歳ぐらいかと思ってたよ」
「またまたー」
「本当だって、14歳でその魅力は普通だせないよ~」
「ふふふ、ありがとう。ねぇ、シン君は彼女いるの?」
「えっ!? ん~~」
「なに、なに? 彼女いるけど、僕を狙ってて答えに困ってるの? そうでしょ?」
「バレちゃった?」
「やっぱり~。あはははは」
ふふふ。
「ねぇ、昨日食べてたスープ、美味しそうだったね」
「あれね、僕の大好物なんだよー」
「おぉ、そうなんだぁー。あの団子は何の肉なの?」
「あれは~、芋虫をミンチにして団子にしてるの、栄養もあるし、美味しいんだからねっ」
「いー、いー、芋虫!?」
「うん、大きくて綺麗な蝶の幼虫だよ」
……うげぇ、まぢかよ!?
綺麗な蝶でも芋虫は芋虫だ。くぅ~キッショ! って、ユウ今朝食ってたな……今度タイミングをみて教えてやるか。
「シン君食べた事ないの?」
「ん? ……あぁ」
有名な料理なのかな…… たぶんコレットは、シャリィに言われて俺について来てると思うけど、会話には気を付けた方がいいかもな…… ちょっと誤魔化しておくか……
「なぁなぁ、コレットは彼氏いるのか?」
「聞くタイミング遅くない?」
「うっ……あはははは、おっしゃる通りです。ごめんなさい」
まいったな……
「あははは、素直~」
「俺は素敵な女性の前では、常に素直であるようにしてますので」
「えっ!? じゃあシャリィは素敵じゃないってこと?」
「ふぇ~? シャ、シャリィにも素直じゃんお、俺」
コレットは一瞬間をあけ笑い出す。
「あははははは、凄く困ってる~。あはははは~」
「フフフ。おっ、人通り増えて来たね」
「うん、もうすぐ市場見えるよって、僕に彼氏がいるのか最後まで聞けよ!」
コレットはそう言うと、俺のケツを蹴った!
俺はワザと大げさに吹っ飛んだ。
「でぇ~~~」
「ぷっぷぷぅ~。僕そんなに強く蹴ってないよ~」
「おぉ~、すんげぇ蹴り~。ケツが2つ割れちゃったよ~」
しまった!? ついポロっと口から出ちゃった。これはいくらなんでもオヤジギャグ過ぎるよな……
「あはははは、最初からでしょ~。お腹いたーい!」
うわ~、すげぇウケてる~。なんでだ?
このギャグは、この世界では使えるって覚えておこうって……
たぶん、コレットだけだろうな……
どうして俺がそう思ったのか、それは……
「それでは~、コレットちゃんには~、彼氏が~いるの~かな~?」
「僕に~、彼氏は~……」
「うぅ~、緊張する~」
「い~~」
「い~~?」
「ま~~~~」
「ま~~~~?」
「すぇん!」
「いないのかよ!? 一瞬いるのかと思っちゃったよ」
「ぷっぷぷぷ」 「あはははは」
「あー、ほら~、市場見えて来たよ」
おぉ、見えてきた見えてきたー。
広い通りの道半分が市場になっている
しかも、かなり奥まで続いてそうだな。
……似ている、懐かしい風景だ。
祖母ちゃんと祖父ちゃんを思い出すなぁ……
「おぉ、すんげぇ。色々売っているんだね~」
「そうだね、売ってない物は無いって言われてるぐらい品物が豊富で有名なんだよこの市場は」
「へぇ~」
市場には野菜、肉、総菜、花や苗、お皿や置物かな?
あと化石まで売っている……この世界でも化石集めたり研究してる人が居るのかな?
おおぉ、金属の串に刺した肉を焼いている店があるじゃん! 隣は揚げ物屋かあれ?
食べ物に関しては元の世界と大差無い気がする。昨日食べたシチューにジャガイモやニンジンも入ってたし……味は薄いけどね。
「ねっねっ、あれ飲もう」
「あれ?」
よく分からないけど合わせておこう。
「よし、飲もう飲もう」
って俺金持ってないや……
「おばぁちゃん、冷やし蜜2つねー」
冷やし蜜……
「2つで400シロンだよ、今作るからちょっとまってね」
「はい、ここに置いておくねー」
「あっ……」
「いいの、いいのー、シン君の試合でガッポリ稼いだんだよー。奢り~」
「そうか……」
……元の世界では、自分で稼げる様になってから女性に金を出してもらうなんて殆どなかった。
いくら異世界にきたばかりで仕方ないとはいえ、14歳の子にまで奢ってもらうなんて……情けないな……
「ねぇー、シン君。お願いがあるの」
「おっ、何? 何でも言って! 女性の願いは全て叶えるようにしてますので」
「うふふふ。じゃあ今日はお金の事とか気にしないで僕とデートして下さい」
お金を気にしないでか……勘がいいな……
「……こちらこそ、宜しくお願いします」
そう言ってシンは頭を下げた。
「やったー、デートだデート!」
ふふふ、もし妹が居たら、今みたいな気持ちになるのかな……悪くない。
「はい、おまたせ。冷やし蜜2つね、生姜は入れるかい?」
生姜もあるのかよ!?
「僕は入れなくていいよ」
「あー、俺は入れてー」
「はい、これが生姜無しね、どうぞ」
「ありがとーおばぁちゃん」
コレットは木のジョッキを受け取った。
「はい、おにいさんこれ生姜入り」
「ありがとうおねぇさん」
「あらやだ、何言ってるのこの子は……作る前に言ってくれてたらサービスしたのに~」
「あははははは、シン君モテる~」
「今度から先に言うね、ごめんね素敵なおねぇさん」
「もうー、やだようこの子ったらー」
「あはははは~、シン君口説いてる~」
渡された木のジョッキを持つと冷えてる……勿論冷蔵庫など見当たらない。
これも魔法を使っているのかな……
んん、まぁ今日は楽しくデートデート。コレットに悪いから、いちいち考えるのはやーめた。
シンは冷やし蜜を一口飲んでみた。
「ん、これ美味い!」
「ねー、甘くて美味しいね~」
子供の頃に祖母ちゃんの所で飲んだ冷やしあめにそっくりだな。
「コレット、生姜入りを飲んでみる?」
「うん飲む飲む」
コレットはシンが持ったままのジョッキに顔を近づけ口をつけた。
それを確認したシンがジョッキを傾けるとコレットは生姜入りの冷やし蜜をコクコクと口にした。
「どう?」
「ん~生姜入りも美味しいね。大人の味~」
「だってさっき俺の愛情も入れちゃったからな~、美味しいに決まってるよ」
「あはははは、じゃあ僕のも飲んで飲んで」
「うんうん」
先ほどのコレットと同じようにシンもコレットが持ったままのジョッキに顔を近づけ口をつけて飲んだ。
「どぅ?」
「あ~、コレットの愛が沢山入っててすんげー美味しいよ~」
「えっ!? おかしいな~、僕入れてないけどなー」
「ふざけんなしー」
「あはははは、お腹痛い~」 「ははははは」
笑い終えた後、コレットが冷やし蜜をゴクゴクと飲み干すのを見て俺も一気に飲んだ。
「ふはぁー、美味しかったぁ」
「あぁ、美味しかったなぁ」
シンはコレットの持っているジョッキに手を伸ばす。
コレットは一瞬とまどうが、シンにジョッキを渡した。
「おねぇさん、ありがとうね。ジョッキここに置いておくね」
「はいはい、またおいで」
何気ない行為だが、コレットは経験したことのない気持ちを感じていた。
「……ねっ、シン君、次あっちの店見に行ってみない?」
「行く行くぅ、コレット行きたいとこ何処でもついていくぜ~」
「うふふ、やったねー」
その後、俺達は市場中の店を見て歩いた。本当に楽しくて、俺はここが異世界で先の見えない状況だというのを忘れていた。
ん? ここからも目立つな……
「コレット、あの高い塔あるじゃん?」
「へ? あーあれね、イプリモの迷所なのでーす!」
「へぇー」
「キース・ガレットって変人が建てました」
「変人? 変人というと女性の下着を収集したり……」
「それはシン君でしょ」
「へっ!? 俺変態じゃないし!」
「あはははは、だからー、変人だってシン君みたいな変態じゃないのー」
「いやだからー、誰が変態だよー」
って強く否定できないかも…… いや、俺だけではない、漢は誰もが変態だ!
「近くに見に行ってみる?」
「うん、行きたい行きたい!」
塔に近づくと足元の建物が、他と違っているのは直ぐに理解できた。
丸い、円形か…… 石組の建物で、窓は…… ないみたいだな。
入り口みたいな所はあるけど木材で雑に塞いでいる。
「あの中ねー、通路は一つだけで塔は空洞で下から空が見えるって聞いたことあるよ」
「へぇ~。雨入り放題だな」
見た目は円形の建物の上に、エジプトのオベリスクが立っているかの様だ。
「……中には入れるの?」
「立ち入り禁止だよ~。木の柱で塞いでる入口が見えるでしょ、誰が開けたか知らないけど、言い伝えだと数人が攻撃魔法を何十回も打ってやっと穴が開いたって聞いたよ。
中には貴重な魔道具も何も無かったから、入り口はあんな感じで簡単に塞いでるだけみたい。
前は誰でも入れたけど、今は老朽化してて危ないから入ったらダメだって。
だから取り壊す案も出てるみたい」
「へぇー、なんか勿体ないね。変な建物で珍しそうなのに」
「あー、やっぱ変態は変な物の肩を持つんだねー」
「だからー、変態じゃねって」
「あはははー」 「ふふふ」
……もしかしたら、こういう場所に何かヒントがあるかもしれないな。
「できれば入ってみたかったな~」
「本人の言い伝えって話だけどね、階段も無く登れない塔は特別な魔法に反応するって」
「ほぅ、その特別な魔法を使えたのがえーと誰だっけ?」
「キース・ガレットね」
「そう、そいつ」
「それがね、そうじゃなくてその特別な魔法を使える人の為に作ったって言ってたらしいよ~」
「知り合いの為かぁ」
「会った事も無い人の為らしいよ。だから変人って言われてるの~」
「ふふっ。自分で使う訳でも無いし、会った事も無い人の為にこの塔を建てのかぁ……それは変人って言われるな~」
確かにおかしな話だな。
「沢山の人が面白半分に調べてみたけど、詳しい事は分からなくて結局変人の戯言だって事で決着ついたみたい」
「へぇ~」
「数百年も前の話らしいから何処までが本当か分からないけどね」
「ふ~ん」
まぁこの世界の人が分からないのに俺が調べても分かるわけないか……
「あっー、そろそろ講習終わってるかも」
「そうなの?」
「僕もお仕事あるし、帰ろっかぁ」
「分かった、帰り道は同じ?」
「うん、送っていくよ。シン君迷子になりそうだし」
「なんだよそれ、子供じゃあるまいし迷子なんてなりませーん!」
「むぅ、なるのー。それに送って行きたいのー」
コレットは駄々をこねる子供のようだった。
「ふふ、分かったよ、お願いします」
「はーい」
ユウに見られないか心配だな……
シンとコレットはギルド支部方面に歩いていたが、心なしかスピードが遅い。
普段から女性の歩くスピードに合わせるシンもそれを感じ取っていた。
「シン君……」
「うん?」
「……」
「どうした、何でも言っていいよ」
「あのね……お兄ちゃんって呼んでいい……」
ハキハキとしたコレットが珍しく下を向いてシンを見ようとしない。
「……あぁ、全然いいよー。むしろ呼んでくれー」
ユウにはバレる前に後で説明しておくか……
「ほんとー! 二人っきりの時にしかそう呼ばないから……」
「……分かった、じゃあ俺ら二人っきりの時は兄妹だな」
「ありがとう……お兄ちゃん」
「うん」
コレットは自然とハグをしてきた。
そして、頬を俺の胸につけ感触を確かめる様に少し動かしていた。
ハグを終えギルドの建物が見える所まで送ってもらい、「またね」と言い別れた。
離れて行くコレットが振り向いて言った。
「ねぇ、本当は彼女いないんでしょ?」
「あぁ、いないよ」
そう答えると、ニコっと笑って背を向け歩き始めた。
俺はコレットの姿が見えなくなるまで見送っていたが、時折振り向き、俺がまだ見てくれているのかを確認している……
そして角を曲がりコレットの姿は見えなくなった。
俺がしばらくコレットが曲った角を見ていると、コレットがヒョコっと顔出し手を振って笑っていた。
俺も大きく手を振り返すとコレットは再び見えなくなった。
……14歳かぁ。
年の割には……
あの時、俺が何故コレットにしかウケないだろうと思ったその
シャリィに言われて付いて来ていたんだろうけど、いきなり俺の腕にしがみ付いたりして楽しんでいたのは、あのシチュエーションだろうな。
さっきの状況が余程嬉しかったんだろう……
だから、例え面白くない冗談でも、何でも笑っていただろう。
確かに俺は、女性に合わせるコミュ力があるのかもしれない。
だが、今日に限ってそこは、大きな要因ではない。
恐らく、あの子はこの世界の極一般的な、普通の生活を送れていない。
一見、思春期にありがちな感情の起伏と似ているが、コレットの場合それとは少し違う。
元の世界で、環境のせいで心に大きな傷を持っている少女は、
コレットも、あの子達と同じような気がしてならない……
「おい、おにーちゃん」
コレットの事を考えいると、背後から突然そう呼ばれた。
「あん、誰だよ?」
「さっきの試合凄かったな。拳闘歴は長いのか?」
あぁ、試合を見てくれてた人か?
「まぁ、ちょっとかじったぐらいだよ」
呼び方がコレットと同じお兄ちゃんでも、随分感じが違うな……
さっきからの流れからだと、こいつのお兄ちゃんにもなった気分になる。
「なぁ、良かったら拳闘教えてくれねーか?」
「あぁ、全然いいよ」
「ほんとかおにーちゃん? じゃあいつも練習しているところあるんだよ、そこに来てもらって良いか?」
「さっきの試合してた所とは違うのか?」
「あぁ、あそこは賭け試合の時だけリングを作っているんだ。練習は別の場所だ。こっちだ、おにーちゃん」
そう言えばリングが無くなっているな、人も居ないし。
名前教えておにーちゃんって呼ぶのやめてもらうか……
「俺はシン。シン・ウースだ」
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