21 当惑




 部屋に入ってから20分ぐらい経過した時、シャリィさんが急に椅子から立ち上がった。


 その10秒後ぐらいに、誰かがドアをノックした。


「コンコン」 


「失礼します」


 そう言って入ってきたのは3人。

 全員…… 女子だった……


「遅くなり、申し訳ございません」


「ねぇ~」


「はぁ~、走ったから汗かいちゃったよ~」


 そう言うと、服の胸元を引っ張り、パタパタと仰ぎ始めた。


 うっ!? 胸の谷間が…… いや、谷間どころじゃない、い、色が、色が違う部分まで見えている。 

 それに、凄くお、大きい……


 一度は慌てて目をそらしたけど、自分の感情を制御できず、その豊満な胸をチラチラと見てしまった。



「やめなさい! 困っているでしょ!」


「ほら~、男子居るんだぞ~」


 2人の女子は止めていたけど、胸を見せている女子は、全く気にしていなかった。


「あぁ? 別に乳ぐらい見えたっていいだろ、ほれほれ」


 そう言うと、更に服の胸元を引っ張り出した。


 そして、ついに全部見えてしまった……



 うぅ!

 だ、駄目だ、で、出ちゃう!

  


 ポタ…… ポタ、ボタボタ。


 僕の鼻から、大量の鼻血が出てきた。

 あぁぁ、どうしよう。

 ティッシュ持っていないし、森の時みたいに草もない。


 僕は咄嗟に左手の指で鼻をつまんだけど、そんな事ぐらいでは、鼻血が止まらないのは分かっていた。


 髪型はポニーテール、そして赤ぶちの眼鏡をかけ、見た目が女教師のような女性が、シャリィさんに軽く会釈をした後、僕に近寄ってきた。


 そして、徐に顔を近づけてきて、僕の顎の下に人差し指を当てて、クイッと上にあげた。


「ごめんなさいねぇ、私の連れが粗相そそうをしてしまって……」


 ち、近いよ!? 唇が重なるほど近い!


 その女性は、まるで僕の息の匂いを嗅ぐかのように、鼻から息を吸った。


「すぅ~、ん~~」


 そして……


「ハイレン」


 色っぽくそう唱えると、鼻を抑えていた僕の指を手で掴み、鼻から外させた。 


 机に僕の鼻血が、ポタポタと落ちてゆく。


 だけど、ものの数秒で血が止まった……


「大変失礼いたしました」


 にこやかにそう言うと、今度は机に手をかざして、さするように動かすと、僕の鼻血が綺麗に無くなっていた。


 こ、これは魔法だ…… 恐らく回復系魔法と、机を綺麗にしたのは何の魔法だろう!?

 

 プイ石でも使ったのかな?


 回復魔法は詠唱していたのに、机を綺麗に掃除した魔法の時は、何も言っていない。


 無詠唱……


 な、何者なんだ、この女子達は!? 


 

 魔法を目の当たりにして動揺していたけど、僕には一つ気になる事があった。 


 それは…… あの人の息……す、凄く良い匂いがした……




「血が止まって、ょかったねぇ~」


 1番背の低い女子が、甘ったるく、そう言ってきた。


「わりぃな、まさか鼻血出すなんて思わなかったぜ、カカカカッ」


 背が高く、大きい胸、そしてボーイッシュな顔立ちの女子が、僕に謝罪してきた。



「シャリィ様、お久しぶりでございます」


「あぁ」


 僕の鼻血を止めてくれた女子が、シャリィさんと会話を始めた。


 どうやら知り合いのようだ……


「この二人は私の友人で、冒険者ギルドに入会したばかりの者です。

 二人共、ご挨拶をしろ。Sランク冒険者のシャリィ様だ」


「はじめましてぇ~、シュシュの名前はシュシュだょ~」


「俺はバイオレット! 宜しくなっ!」


「あ、あなたたち!? も、申し訳ございません!」


「良い、気にするな。それよりも始めてくれ」


「はい、かしこまりました」


 僕の鼻血を止めてくれた女子が、教壇についた。


 それを見て、シャリィさんは再び同じ椅子に座った。


 あとの二人は、隣同士には座らず、シュシュという子は僕と同じ横列の逆の角に座り、バイオレットは何故か僕とシャリィさんを遮る様な位置に座った。


「大変長らくお待たせいたしました。只今より冒険者ギルド、イプリモ支部の新人講習会を始めます。

 私は本日の講師を務めさせていただきます、Bランク冒険者のグレース・ベインと申します、宜しくお願いします」


 Bランク…… たぶんかなり実力のある冒険者だ。


「よっ! グレースかっこいい!」


「ぅんぅん、素敵~」


「バイオレットにシュシュ、お静かに! それではそこの男性の方、自己紹介をお願いします」


 自己紹介だって!? き、聞いてないよ! そういうのただでさえ苦手なのに…… 

 こんな魅力的な女子3人の前で自己紹介だなんて……


 僕は仕方なくゆっくりと立ち上がった。


 3人の視線が、僕に集中する……


「ぼ、ぼぅ……」


 だ、駄目だ、声が出ない……


「ん? どうしたんだ、また鼻血でも出たのか?」


 バイオレットさんが茶茶を入れて来た。その茶茶で僕は下を向き、完全に沈黙してしまった。


 すると、シュシュちゃんが僕に近づいて来た。


 そして、隣の席に座り、鼻血で汚れている僕の左手を両手で握ってきた……


「ぉ名前は~、何てゅ~のぅ?」


 僕の顔を下から覗き込み、甘ったるい声で聞いてくる。


「ュ……ュウです」


 僕は緊張から上ずった声で答えた。


「私はシュシュ、宜しくねぇ~」


「……は、はぃ」


 彼女は、僕の隣の席から元の席に戻ることはしなかった。


 僕が席に座ってからも、左手はシュシュちゃんの右手にずっと握られていた……


「ユウさん、ありがとうございました。次はバイオレット」


「おぅ! 俺はバイオレットだ! 19歳になったばかりだぜ。よろしくなぁ」


 話し方も顔もボーイッシュなバイオレットは、椅子が倒れそうになるほど勢い良く立ち上がり、元気に挨拶をした。


 実に男らしいけど、先ほど見た胸の谷間…… そしてミニスカートを履いたその下半身からは、素晴らしい美脚が見て取れる。話し方以外、身体の方は魅力的な女性そのものだ……


「はい、バイオレットもありがとうございます。次はシュシュ」


「は~い、私はシュシュちゃんでーす。歳は18歳でしゅ。けど見た目は14歳ぐらいに見えるよねユウくーん?」


 シュシュちゃんは立ち上がらず、座ったままで僕の方を見てそう聞いてきた。


「う、うん」


「やったぁ、若く見えるみたぃだょぅシュシュは~」


 そう言って喜んでいた。


 僕の左手は、シュシュちゃんの真っ白くて小さい右手に、ずっと握られている。


 それがただ握っているだけではなく、時折指を絡めてきたり、僕の掌に指で文字のようなものを書くような仕草をしたり、手持無沙汰の物にしているようだった。


 そして、それだけでは終わらず、ジリジリと椅子をずらし、僕の椅子とぴったりとくっつけて、身体をもたれかけてきた。



 シュシュちゃんの髪の毛、あぁぁ、良い匂いだ……



 もう既に講習は始まっていたけど、教壇で熱弁しているグレースさんの話が全く耳に入ってこない……


 バイオレットさん越しにシャリィさんに目をやると、脚を汲み、目を閉じて微動だにしない。


 目を閉じて、僕の方を見ていないシャリィさんを確認すると、何故かホッと安心してしまった。


「ねぇ~、見て~」


 そう言われシュシュちゃんを見ると、バイオレットさんの方を向いていたので、自然と僕も釣られてバイオレットさんを見た。


 彼女は僕と目を合うと、ニヤリと笑みを浮かべ、こちら向きに座り直して、スカートを履いた下半身を、少しずつ、ゆっくりと開いていく……


 僕は恥ずかしくて、逃げ出そうかと思っていたけど、目を背けることも立ち上がる事も出来なかった。


 そして、バイオレットさんの下着が見えた瞬間、僕は反射的に身体ごと目を反らしてしまう。


 ピ、薄いピンク色……


 そんな僕を見て、バイオレットさんは爆笑していた。


「ん~、可愛ぃ~」


 シュシュちゃんはそう言うと、僕の左手を自分のフトモモに置き、その上に自分の右手を重ね、スリスリとしてきた……


 あぁ、あぁぁぁぁー、は、初めて触っちゃった、女の子のフトモモ……


 な、なんて、なんて温かくて柔らかいんだぁ。

 それにすべすべしている。他の物に例えようがない。


 シュシュちゃんは、僕の手を少しづつ内側の方にずらしていく……


 されるがままにしていると、彼女のスカート中に僕の手が入ってしまった。


 そして、僕のこ、小指が何かにあたっている!? 


 ……も、もしかして、は、履いていない……


「ぅっ……んっ……」


 か、感じている…… あぁあぁぁ~、だ、駄目だ。


 座っているのに、立ち眩みのような眩暈の症状が出てきた。

 い、意識が飛びそうだ……


 それからの事は、正直あまり覚えていない……

 

 僕の意識は、左手のみに全集中していた。


 いつの間にか講習が終わり、シュシュちゃんは立ち上がった。


「またねぇ~、ユウ~くん」


「じゃあな! 僕ちゃん」


 そう言い残し、二人は部屋から出ていった。


 グレースさんは、シャリィさんと一言二言会話を交わした後、ドア閉める時に僕を見て、大人の女性の笑みを浮かべ部屋から出ていった……


 あまりの出来事に、僕は3人が居なくなった後も動けずにいた。


 シャリィさんと目を合わすのも、会話するのも恥ずかしくて、僕は下を向き黙って座っている事しかできなかった。


「どうしたユウ、行くぞ」


「……はぃ」


 小さく、覇気のない返事をするのが精いっぱいだった。




 イプリモ支部から出ていくシャリィとユウを、先ほどの3人は見ていた。


「あなた達~、やりすぎよ~」


「カカカカ、俺はそうでもない。シュシュだよやりすぎは」


「だってぇ~、途中から本気で可愛ぃと思っちゃたも~ん」


「ふふ、相変わらず趣味悪いわねぇ」


「……ねぇグレース、あの子私のオモチャにしていい?」


 そう言ったシュシュの瞳は、先ほどまでの子犬の様な瞳と違い、魔獣の様に変化していた。


「んもぅ、許可が出てからね。それまでは我慢しなさい」


 グレースの言葉を聞いたシュシュは、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「イーヒッヒヒヒ、その時が楽しみだゎ……ジュル」


「おいおぃ、本性とよだれが出てるぞシュシュ。カカカカカカ」


 バイオレットは豪快に笑っていたが、一つ思い出した事があった。


「カカカァ…… そういえばガキ一人しか居なかったな?」


「そうね…… さぁ、準備して出かけるわよ私達」


「ん~とぉ、何処行くんだっけぇ?」


 シュシュの問いかけに、グレースは答えた。



「ウースよ」



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