19 偽り
シンのお陰で、受付嬢のアグノラさんの機嫌は直り、僕の謝罪を受け入れてくれた。
そして、改めて冒険者ギルドの説明をしてくれたが、先ほどの僕の説明とほぼ一緒だった。
今まで目にした漫画やアニメで得た知識で適当に作ってみたけど、どうやら殆ど一致していた様だ……
「こちらへどうぞ」
僕達は、名前と年齢、そして出身地を聞かれたので、シャリィさんに言われていた通りに答えた。
そして、アグノラさんの案内で、僕とシンの二人は、ロビーから別室に移動した。
案内された部屋に入ると、台座に置かれ、薄っすらと赤く光り輝き、所々ひび割れている石板が目に飛び込んできた。
何故だろう、石に
この石板…… もしかして……
「それではこのウクエリ石板に、両掌をしっかり当ててから名前を言ってください。登録内容の確認と魔力の測定を致します」
やっぱりだ! レベルとかスキルとかが見られるやつだ! って感動している場合じゃない。
登録内容の確認って言っていた。
つまり、この石板は…… 嘘を見破ることが出来る……
「ユウからやってみるか?」
……僕に順番譲ってくれている。シンは……意外と優しい。
じゃあ、お言葉に甘えて。
僕はドキドキしながらウクエリ石板に両掌を当てた。
うっ!?
何だこの感じは!?
か、身体の中の何かを、吸い取られているみたいだ!
「お名前を言って下さい!」
そうだった、名前を……
「ユウ!」
僕が名前を叫ぶと、赤い光が強く輝きはじめた!
うぅ、眩しくは無いけど、圧迫感が……
赤い光は、徐々に収まっていった。
あれ? 何も浮き出てきたりしないぞ……
「えーと、名前はユウ・ウース、年齢は20歳で種族は人間。性別は男、ウース出身。ふむふむ合ってますね」
アグノラさんが僕の情報を口に出して確認している。
「あっ、もうウクエリから手をどけても大丈夫ですよ~」
そう言われて、僕は石板から手を離した。
……実に不思議な、まるで…… 魂を吸い取られているかのように感じた。
アグノラさんに目を向けると、1枚の紙を持っていた。
どうやら空中にパネルのような物が浮き出るのではなく、プリンターのように紙に転写されたみたいだ。
そして、本当の事ではないのに、僕の出身地がウースに、苗字も村の名前になっている……
「え~と、魔力数は……330! す、凄いじゃないですか!」
「えっ、そうなんですか?」
「そうですよ、平均は100前後ですよー、3倍もありますよ!」
期待してたのとは違ったけど、魔力が多いって嬉しいなぁ。
そうかぁ、僕は平均の3倍もあるのかぁ…… うへへへ、やったぁー!
「じゃあ次はシンさんお願いします」
えっ!? 次って……項目はそれだけなの?
スキルとかユニークスキルとかは表示されないのかな?
うーん…… もしかしてこの世界には、そもそもそういうのは無いのかもしれない。
もしくは、秘密の項目にして本人にも伝えず、冒険者ギルドのみが把握している……とか。
「ほいよ! 両手を当てて~、シン!」
僕の時と同じで、石板から発せられている赤い光が強くなった。
うっ!? 何だこの感じ!? 気持ちわるっ!
シンの魔力ってどれぐらいなんだろう……
「はい、もういいですよ」
シンは石板から手を離すと、掌を見つめていた。
何だ今の感触は……
「えーと…… 名前はシン・ウース。年齢は22歳、種族は人間。性別は男、ウース出身、あってますね」
「あ~、因みに彼女は居ないよ。あとー、そこにアグノラちゃんが好きって書いてあるよね?」
「えっ!? い、い、い……いえ、そんなことは書いてませんが……やっぱ、書いてます! 書いてます、はい見えます!」
「キャー、バレちゃった。恥ずかしぃ~」
シンはそう言うと、両手で顔を隠し頭を左右に振っている。
か、か、可愛い~。何この人、かっこぃぃだけじゃなくて、子供の様に可愛い~。
……話が進まないから今は勘弁してほしいな。
「……あのー、シンの魔力数は?」
「はっ!? すいやせん。魔力数は……」
ふふ、すいやせんって言ったぞアグノラちゃん。
シンの魔力数を待っている僕の心臓は、ドキドキと大きな音を鳴らしていた。
「えー、これまた凄い! シンさんも330ですよ!」
僕と一緒!?
……もしかすると、別の世界から来た人は、皆330なのかもしれない。
それか、出身地を誤魔化せているみたいに、魔力数も……
「おお、良く分からないけど驚いてくれてるので良かったよ」
「お二人共凄いですよー、さすがSランク冒険者、シャリィ様のシューラですね!」
「……」
シャ、シャリィさんがSランク冒険者!?
確かに今この子はそう言った……
つまり最高ランクの冒険者ってことだ。
僕達も聞いたわけじゃないけど、どうして話してくれなかったのかな……
僕はシンを見てみたが、平然としていた。
異世界に
「えーと、確認をして間違いなければここに署名をお願いします」
「はーい、書く物あるかな?」
……えっ!? フィルマを使えないのかしら?
ウースってそんな魔法も
「で、では、紙を持って受付に戻りましょう」
「ほーい」 「はい」
受付に戻るとアグノラさんが何やらごそごそと棚や引き出しをあさり始めた。
えーと、どこに仕舞っていたかなぁ~。
えーと、えーと。あ~、あった!
「どうぞ、この石筆をお使いください」
アグノラさんはシンに鉛筆のようなものを渡してきた。
「おー、ありがとう。こんなにお世話になってしまったからデートだけでは済ます訳にはいかないね」
「えっ、ど、どういう意味ですか?」
シンはアグノラさんに近づき耳打ちをした。
「ベッドでお礼をさせてほしい」
何を耳打ちしたか僕には聞こえなかったけど、アグノラさんの顔が、いや見えている肌全てがみるみると赤くなっていく。
それを見てシンが何を言ったのか大体の想像はついた……
「あ、あ、あああの~、わ、わわたわぁわたし……」
アグノラさんは再び取り乱し始めて、まともに言葉を発せなくなっている。
そこに、ロビーで待っていてくれたシャリィさんが声をかけて来た。
「シン」
「ん? どうした?」
「こちらに来てくれ」
「あぁ。すまないユウこれを頼む」
シンは、署名をした紙と石筆を僕に渡してシャリィさんと外に出て行った。
そして僕も紙に署名をしてアグノラさん渡そうとしてけど、下を向いたまま、何かぶつぶつと言っている……
「わた……わわわたしぃー、はっ、ははは、初めてのなので優しくして下さい!」
突然顔を上げ僕に向かってそう言ってきた。
「……あ、あれれ?」
「……あ、あの~、これシンも僕も署名しましたので……」
アグノラさんは僕が差し出した紙を奪い取るようにして、奥の部屋に入って行った。
あんな台詞、間違いでも初めて言われた……
凄く、気まずかったなぁ。
ってちょっと待て!?
僕もだけど、たぶんシンも日本語で署名しちゃったぞ!
アグノラさん、確認しないで持って行っちゃった。
ど、どうしよう……
「はぁ~、恥ずかしかったぁ」
「どうしたのアグノラ、大丈夫?」
「あっオードリナさん、大丈夫です。ただ初めの方がSランクのシャリィ様で驚いちゃって……」
「あら、シャリィ様は何の依頼を受けてくれたの?」
「いいえー、それがシューラの登録に来られて」
「……へぇー、それはそれは初めてで貴重な体験をしているわね~」
「はい! ではウクエリ書を提出してきます」
「はーい、いってらっしゃーい」
にこやかに新人のアグノラを見送ったオードリナだったが、アグノラが見えなくなると表情が一変する。そして、一人何処かへと去って行った。
一方、外に出たシンとシャリィはギルド支部前で話をしていた。
「シン、ピカルの賭けた店の権利の事だが……」
「何だっけそれ?」
「……とにかく店の権利はお前と私の物だがどうする?」
「どうもこうも、俺はこの世界ではただの迷子と同じだ。だから店を貰っても、どうすれば良いかなんて分からない。シャリィにあげるよ」
「……分かった、では私の一存で構わないな?」
「あぁ、全く問題ない。お任せしまーす」
シンとシャリィさんは直ぐに戻って来た。
「二人はロビーで待っていてくれ。ここのギルド支部長を証人にして、店の権利の話し合いと、掛け金を支払ってもらってくる」
「はいよー、シャリィいってら~」
「はい…… あの~、シャリィさん」
「どうした?」
「署名を元の世界の言葉で書いちゃったみたいで……」
「シンが書いていたのを確認している。大丈夫、何も問題はなかった」
「は、はい」
良かったぁ~。
シャリィさんは支部長さんに会いに行くため、この場を離れた。
「そうだったな、全然意識してなかったよ。署名書いた紙に書いている文字も普通に読めたしなぁ~」
「そうですよね、看板とかと同じで読めましたね」
「あっ、さっきシャリィと外で話した内容は、店の権利うんぬんの話だったから」
……シンはわざわざシャリィさんとの話を教えてくれた。
何か女性の様に細やかに気を使ってくれるよな~。僕はたぶんその話だと思っていたから気にしていなかったのに……
けど、ウクエリ石版やシャリィさんの事は色々気になる……
だけど、今は忘れよう。だって、ここは冒険者ギルド!
楽しまないとねっ!
「おぉシン、見て見てあの掲示板に張られている依頼書! あんな魔獣が居るみたいだよ!」
「どれどれ? うぉー、何だこれ? 怪獣だ、怪獣!」
二人で掲示板に張られている依頼書を見ている時、聞いた事ある声が聞こえて来た。
「やっほー、お二人さーん」
「こ、こ、コレットちゃん!?」
うぅ、今日は昨日と装備とは違って膝丈のスカートだ。まるで妖精の様に可愛い…… やばい……
「よぅ、コレット」
「見てたよーシンく~ん。おかげで僕儲けちゃった、うふ」
「ふっ、俺に賭けてくれたのか? 嬉しいぜ」
「うん、二人には今度何か奢ってあげるからね~」
「あはは、ありがとう。でも気持ちだけでいいよ」
「ぼ、僕……何もし……」
「いいのいいの。シャリィも誘って皆で一緒に食事行こうね」
コレットちゃん……うぅぅ、生きてて、いやこの世界にこれて良かった。
「ユウ、お前泣いてね?」
「な、泣いてないよ!」
「うふふふふ、ユウ君可愛ぃ」
か、か、可愛い!? コレットちゃんが、僕の事を可愛いって!
ユウの顔は一気に赤く染まり、棒の様に真っすぐと、後ろに倒れた!
それに気づいたシンが、素早く受け止めたが、ユウの意識は飛んでいる。
「おい! ユウ大丈夫か!?」
「キャー、ユウ君しっかりしてぇー」
「誰かぁ、救急車、救急車呼んでくれ~!」
「キュウ、キュウ、シャ?」
コレットは左の人差し指を顎に当て、キョトンとしながら首を傾げた。
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