15 意図




 だ、誰だ!? 暗くて見えない……




 そう思っていると、突然部屋の照明が点いた。




 そこに立っていたのは……




「シャ、シャリィさん!?」




「何を驚いている?」




「い、いえ……」




 おかしい…… 廊下や階段で弾正原とすれ違わなかったのかな?




 それにどうしていきなり照明が……




「シンはどこに行った?」




「あ、え、えーと下に降りて行きましたよ、トイレかもしれないです」




 僕は適当に答えた。




「……そうか」




 シャリィさんがゆっくり歩き出し、僕が座っている同じベッドに座ってきた。




 ど、ど、どうして僕の隣に……




 ち、近い! 


 ……あぁ~、凄く良い匂い。だ、駄目だ、ドキドキしてシャリィさんを見る事が出来ない!




 僕は深呼吸をして下を向き目を閉じた。




「実は、少し聞きたいことが……」




「……」




 そうですよね、バレてるのは当然ですよね。




 シャリィさんもコレットちゃんも分かっていて黙ってくれてるのは凄く助かりましたが、でも、奇心には勝てないですよね。




 僕だってそうです、たぶんあいつもね。




 この状況はどうしようもない。弾正原の許可はないけど、聞かれた事には正直に答えよう。




 シャリィさんは悪い人には見えないし、何より…… チラッ。


 この胸!! ハァハァハァ!




 い、息が…… 勝手に…… 荒くなってきた……






 その時、入り口から声が聞こえてきた。




「おやおや? 俺が居ない間に坊やを口説いてるのか?」




「フッ、良いから入ってきて座れ」




 弾正原…… いつの間に戻ってきていたんだ?




 シャリィさんの匂いとか、胸が気になってあいつが戻って来たことに気づかなかった。




「アイアイサー。それはいいけど、ドアに鍵がかからねーんだよな」




「中に入ってドアを閉めて開けた時の言葉を言ってみろ」




「ん? なんだっけな?」




 ……忘れている、おじいちゃんか。




「チチンプイプイじゃないし……」




「ゴマです」




「あー、開けゴマ! おお、鍵が閉まった、開けって言ったのに」




 ……たぶん指輪をつけて、ドアの取っ手掴んで好きな言葉を言い、それを繰り返すと開いたり閉まったりする。


 そういう魔法かな……


 分かってしまえばシンプルだ。




 弾正原は向かいのベッドではなく、シャリィさんの隣にドカッと座りニコッと微笑んだ。




 シャリィさんも微笑みながらゆっくりと立ち上がって、向かいのベッドに移った。


 くっそー、お前が隣に座ったからだぞ、余計なことしやがって!






 ……シャリィさん、凄く良い匂いだったな。






「で、暗い夜に男の部屋に女性一人で来た目的は? もちかちゅてぇ、僕ちゃんの想像通りでちゅか?」




 その言持ち悪い赤ちゃん言葉やめてくれ……




「聞かないという約束だったが好奇心に勝てなくてな」






 シャリィさんナイススルー!






「はぁ~」




 弾正原が大きなため息をついた。




「あ~、一ついいか?」




「何だ?」




「あとでいいから俺らの質問にも答えてくれ」




 弾正原の目は真剣だった……






「いいだろう」




 シャリィさんの目も鋭く変化した……






「よし、交渉成立。じゃあ頼む」




 僕の方を見て、肩にポンポンと手を置いてきた。




 何の打ち合わせもしていない。




 つまりシャリィさんの質問には正直に答えていいって事だよね?




 何でも自分でしたがるこいつが、僕に任すって少しは信頼してくれてるのかな……








「お前達は何処から来た?」








「ぼ、僕たちは……」 「俺たちは日本っていう国から来た!」




 な、な、なんですとー!?




 お、お前さっき僕に何を頼んだ?




 あれ、夢?




 もしかして幻覚見ちゃった?




 さっきまで、シャリィさんみたいな素敵な女性が隣に座っていたから


 緊張しすぎて頭が変になっちゃったのかな。




 うん、きっとそうだ。 僕、幻覚見ちゃったんだ。




 あははは、僕の幻覚で二人の会話に水を差すとこだったよ~ってそんな訳ないよね!!






「ニホン? どの辺りにある国だ?」




「何処と言われてもな…… 俺たちはこの世界の人間じゃない」




「……」




 言葉を失っている…… 普通なら信じないだろう。




 けど弾正原の服や道具、そして僕らの言動からしてシャリィさんも少なからず感じていたはずだ。








 この二人…… 食事の時、いただきますとか、ごちそうさまとか、意味の分からない言葉を自然と言っていた……




「……目的を聞こうか」




「それはこっちが聞きたい。俺ら二人は目が覚めたらこの世界に居た。好きで来たわけではない」




「……何処へ向かうつもりだ?」




「予定は全くない。俺らは本当にこの世界の事は何も知らない」




 見え透いた嘘を…… 何も知らないお前が何故ナトゥラ教会のあいさつを知っている。








「あ、あいさつの言葉を知っていたのは何故ですか?」






 弾正原とシャリィさんが全く同時に、僕に視線を向けた。






 気がつくと…… 思わず口から出ていた。




 シャリィさんの前でする話ではないかもしれないけど、タイミングとかは関係ない、ずっと聞いてみたかったんだ。




「……教えてもらった」




「だ、誰にですか?」




「……監督だ」




「えっ!? ……現場監督さんですか?」




「そうだ。いつだったか忘れたけど、仕事の休憩中に、チューしてはあいさつなんだよと言っていた。俺はてっきりキャバクラの話だと思っていたよ」






「キャバクラとは何だ?」






「……」 「……」






「頼む」






 また僕の肩に手を置くな! ったく…… さっきみたいに被せてこないだろうな……




 えーと何て説明すれば…… この世界にもあるのかな?




「あのー、男性が・・・お酒を飲む所です」




「なるほど、風俗のことか」






 ……この世界にもあるのか、絶対に行こう!






 こいつこの世界にもあるのか、あとで行こうとか思ってそう……






「その監督という人物について、詳しく話してもらえるか?」




「詳しくも何も、俺たちの現場の……あ~、俺達は家を作る仕事をしていて、そこの責任者だよ監督は。仕事以外では何の付き合いも無い。まぁ一緒に酒を飲みに何度か行ったぐらいかな」






「ぼ、僕は、仕事場以外で会った事は1度もないです」






 シャリィさんは弾正原をジッと見ている……








「……二人の世界で最後に覚えてることは何だ?」




「……地震だ」




「地震?」




「あぁ、仕事中にかなり大きな地震にあい、資材が崩れ落ちてきた。それが最後の記憶だ」




 シャリィさんが僕に視線を向ける。




「ぼ、僕も同じです。僕らは同じ場所に居て、地震で崩れてきた資材に圧し潰されて死ぬって思っていたら急に光が見えて、それで気が付いたらこの世界に居ました」




「……」




 そう答えると、シャリィさんは沈黙した。




「因みに俺らの世界では魔法は使えない」




「魔法が使えないだと!?」






 シャリィさんは今日1番驚いた表情をしている…… 






「ほ、本当です。僕らの世界では魔法は架空なもので誰一人として使える人はいません」






 この二人、嘘は言っていない……


 コレットには報告しない様に頼んでいるが、恐らく時間の問題だろう。


 そうなると…… 






 シャリィさんは僕の目を見つめてきたけど、僕は、何故か目を伏せてしまった……






「二人は何の予定も目的も無い、そうだな?」




「ああ」 「はい、そうです」




「では、しばらくは私に付いてこい」






「最初からそのつもりだったよ、いいぜ」




 ……今はそれ以外に選択肢が無いに等しいしな。






「僕も付いて行きます」




 シャリィさんは信用できる人だ、間違いない。






「二人には明日冒険者ギルドに行ってもらう」




「分かった」




 ギルド、なんだそれ?




「分かりました」




 冒険者ギルド…… ドキドキしてきた。








 それからシャリィさんから質問はなく、部屋の事や、その他の細々した事を僕達に教えてくれた。




 弾正原は最初こちらの質問にも答えてくれと言っていたけど、終始聞く側で、質問はしなかった。




「今日は移動で疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」




 そう言うと、シャリィさんは立ち上がってドアに向けて歩き出す。




 その時、弾正原も立ち上がりシャリィさんに声をかけた。




「おっと、寝る前に質問が一つある。そのつまりそうなると俺たちはかなり長い時間一緒に居るって事だよな?」




「そうだ」




 やっと質問したと思ったら、なんだその質問は? こいつまさか……




「お互い魅力的な男と女が、常に一緒にいるとなると…… その~、間違いが起きたりするかもしれないなと思ってさ。そこのルールを最初にハッキリと決めてた方が良いだろ?」




 やっぱりだ、この馬鹿!




 本当にごめんなさいシャリィさん、そしてこの世界の女性の皆さん。


 助けるんじゃなかった……






「フッ、やってみろ」






 シャリィさん!?






「いいのか、ギャラリーが一人いるぜ?」




「いいからやってみろ」






 ちょ、ちょ、ちょっとまって……






「そういうプレイ、俺も嫌いじゃないぜ」




 あいつはシャリィさんにキスをしようと顔を近づけた。




 しかし、唇が届く前に動きが止まる。




「あれ? 身体が動かない……どうしてぇ」






「二人には蔓で縛ってる時に拘束の魔法をかけた。つまり私に危害を加える事は出来ない」




「いや危害って、楽しい事をしようとしただけじゃねーか」




「同じだ」




 その通りだー、いいぞシャリィさん!




「ええ、嫌がってるの? こんなイケメンがキスしようとしたのに」




 自分でイケメンて言うな……


 むしろ今のお前はブサメンだ!




「ちきしょー、じゃあコレット呼んで来い、コレットは何処だ!?」




 こ、こいつ! コレットちゃんをどうするつもりだ!?




 あぁぁ、だめだ…… もう我慢できない!




 元はと言えばこいつを助けた僕の責任だ。……殺すしかない!?




「シャリィさん、腰の剣を貸して下さい!」




「ユウ……?」






「お前、ふざけんな。何をするつもりだ!? 俺動けないんだぞ今。シャリィ、魔法を解いてくれ」




「さて、どうしようか……」




「おい!?」






「シャリィさん早く剣を僕に!」




「分かった。俺が、俺が悪かったから。絶対そいつに剣を渡すな!」




 数分後シャリィさんは弾正原にたっぷり説教をした後、魔法を解いてあげた。










 その夜、僕は色々考えたい事や、弾正原に聞きたい事があったけど、柔らかいベッドに横になると直ぐに眠りに落ちていた。




「おぃ、ユウ・・?」




 寝たか……






 ……さっきの話でシャリィがもっと深く突っ込んでこなかったのは俺達の話に嘘は無いと信じたからだろう。




 つまり、話の裏を取れる何かを知っていたからだ。




 森で俺達を拘束した時に聞けばいい話を、わざわざ3人になるまで聞かなかったのは、何かをコレットには聞かせたくなかった……




 それは自分の都合なのか、コレットを巻き込まない為なのか、それともギルドとかいう組織が関係してるのか分からない。




 ……シャリィの雰囲気が町に着いてから明らかに変わっている。


 河原の時より凄味が増している……




 俺なりに色々仕掛けてみたが、今のところ、魔法をかけられたということ以外大きな収穫はほぼ無しだな。




 ……いや、一つだけ大きな収穫はあった。




 それは……




 ユウの前でコレットの冗談を言うのは辞めた方がいいって事だ。




 弾正原は熟睡しているユウに目を向けた。




「スヤァ」




「フッ、意外と男の子・・・なんだな……ユウ」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る