14 同じ物
皆でピカルさんの雑貨屋を出て、先ほど通ってきた道沿いにあったアロッサリアというジョッキから柄が出た看板の店に入った。
うぅ、何故だろう、少し緊張する……
店内は広く、意外にも清潔だ。
先ほどのハッ…… いやピカルさんの店もそうだったけど、もしかしたら生活魔法存在していて、魔法で掃除や洗濯ができるのかもしれない。
人々も異世界に良くある貴族のような服は着ていないけど、色とりどりで皆清潔な服を着ている。
僕らは4人でテーブルに座った。
「いらっしゃいませーって、あーコレットじゃん」
ん? お、おぉぉぉぉー!
メ、メイド服を着てるウエイトレスさんだ。
しかも可愛い!
まるで、メイド服を着るために生まれて来たかのような
「アミラ~、やっほやっほー」
アミラちゃんか、名前まで可愛い。
「今日は何するのコレット?」
「先にお二人からどうぞ~、何を食べたい?」
う~、コレットちゃん優しいなぁ~。僕らに気を使ってくれている。
とは言っても…… どのような食べ物があるのかな?
どうしよう……
「えーと、そうだな。シャリィにまかせていいかな?」
そう答えるのが無難だよね。
「僕もシャリィさんのおまかせでお願いします」
「じゃあ僕が先に頼んじゃうね。ん~とね、僕はいつものー」
いつもの……コレットちゃんは常連なのかな?
「今日のお薦めは?」
シャリィさんがアミラさんにお薦めを聞いている。
「今日はイノシシのシチューがありますよー」
「じゃあそれを3人分とパンも同じく3人分。あと飲み物だが、水を頼む」
「はーい」
やったぁー、パンが食べられるぞー。
それにイノシシのシチューか…… イノシシは食べた事ないけど楽しみだ。
コレットちゃんのいつものって何だろう? 気になるなぁ~。
その料理は何? って話しかけてみようかな……
そうすれば、もしかしたら……
(ユウ君も食べてみる? はいアーン)
んふふふ、何てことにならないかな。
やばい、また妄想しているとシャリィさんと弾正原が変な目で見ているかもしれない!?
そう思って弾正原に目をやると、キョロキョロと店内を見回していた。
シャリィさんとコレットちゃんに怪しまれないようにするとか言ってたく
せに、好奇心には勝てないみたいだな。
まぁしかたないよ。
異世界の知識がある僕でも胸が
まずお水が人数分届いた。コップの材質は、木のようだ。
「はい、皆コップ持って! かんぱいしよう!」
そう言うコレットちゃんの真似をして、木のコップを高々と持ち上げた。
「おつかれ~」
弾正原がそう言うと皆が続く。
「あぁ、おつかれ」 「おつかれなのだー」
「お、おつかれさまです」
……やはりここは天国かな?
異世界じゃなくて僕は天国に来てるのかもしれない。
女の人と初めて乾杯しちゃった。
「はーい、おまたせー。イノシシのシチュー3つとパン3つねー。コレットはもう少し待ってねー」
「あーい」
はぁ~、このシチュー良い匂いだ、たまらない。
異世界に来て口に入れた物といえば、水と塩無しの川魚のみ。
あぁ~、可愛いコレットちゃんに、美人でナイスバディーのシャリィさん、それに美味しそうなシチュー、幸せすぎる~。
これで弾正原が居なかければもっと幸せだったな~。
良い匂いだなこのシチュー。
……あれ? シチューをよく見てみると気になる物が目に入ってきた。
えっ!? これはニンジンだよね……
あとジャガイモみたいなのも入っている。
肉は、これイノシシって言っていたけど、元の世界のイノシシと同じなのかな?
そんな事を考えていると、
「あちち、あつ、はふはふはふ。う、美味い!」
何なんだよもう! 女の人の前で行儀悪い……
しかも、コレットちゃんの頼んだ料理がまだ来てないだろ、我慢しろよ。
「ユウくんも先に食べて~、お腹減ってるでしょ? 遠慮しなくていいよー」
コレットちゃん…… 本当に優しい。
ありがとうコレットちゃん。けど、僕は待ちます!
「はいー、おまたせー。コレットのいつもの団子入りスープ」
おぉ、コレットちゃんのスープもめっちゃ美味しそうだ。
「僕のも届いたし、食べよう」
「わりぃ、先にいただいてます。あちち」
口にもの入れた状態でしゃべるな。
シャリィさんがチラっとあいつを見た。
すいません、僕の連れが行儀の悪い奴で……
さて、僕も食べよう!
「いただきます」
ユウの言葉を聞き、イノシシのシチューをスプーンで口に運ぼうとしていたシャリィの動きが一瞬止まった。
「……」
僕は一緒に運ばれてきた木のスプーンでシチューをすくった。
熱そうなので、まずはふうふうして一口飲んだ。
はぁぁぁぁ~美味しい、二日ぶりのまともな食事だぁ。
肉は少し獣臭い気がするけど大丈夫だ、食べられる。
次にパンを手に取ってみた。
えっ、意外と柔らかい……
異世界のパンと言えば硬いイメージだけど……
それに、これ普通に小麦を使ったパンのような気がする。
カランと音がしたので見ると、弾正原はもう食べ終わっていた。
僕なんてまだ一口だぞ。
「おかわりしてもいい」
シャリィさんが優しくそう言った。
「ほんと? ありがとう! そこの可愛いアミラちゃん、イノシシのシチュー2つおかわり~」
「うふ、は~い」
さらっと可愛いとか、よく言えるな。
2つってことは僕の分も頼んでくれたのかなってそんな訳ないよね。
……やっぱりお腹すいてたんだよな。
川で魚を多く譲ってくれたのって、僕の事を気遣かってくれていたのかな……
まぁ今は食事食事。
このニンジンに似たやつを食べてみよ。
……やっぱりニンジンだ!
こっちは…… ジャガイモだ、この味、そして食感。
たぶん間違いない。
どういうことなんだろ? 僕らの世界と同じ野菜がある。
……あっ!? 思いだした!
この町に来る途中で見た広い畑に生えていた葉っぱ……
あれはジャガイモだ! ジャガイモの葉っぱだ!
弾正原に目をやると、おかわりしたシチューを一心不乱にかき込んでいた。
考えるのは後にして、今は弾正原を少し見習って食べることに集中しよう。
野菜が沢山入ったシチューとパンで満腹になり、おかわりは必要なかった。
「ごうちそうさまです」
「あ~、食った食ったぁ。俺もごちそうさま~」
「……」
あれ…… シャリィさんの表情が…… 気のせいかな?
「フフフ、良い食いっぷりだったぞシン」
「ほんと~、男の人って感じだよね~」
し、しまった、もしかして行儀が悪い方が好感度上がったのかな?
女性ってむ、難しい……
「ふぅ~、満腹満腹。で、この後どうするんだ?」
「隣の宿屋に泊まろう」
き、き、き、きぃぃぃ、きたー! じょ、女性とお泊りだ。
部屋代がもったいないとか、あいにく1部屋しか空いてないとか、そういうベタなパターンでいいです。相部屋お願いします!
ああっと、弾正原は野宿でも大丈夫ですので!
「僕は自分の部屋に戻るよ~」
くくくぅぅ、コレットちゃんは別かぁ残念……
「シャリィ今日はありがとう」
「見習いの付き添いも私の仕事だ、気にするな」
「また次も一緒になれたらいいな~」
「あぁ、私もそう願う」
「二人もありがとう。スパ草を依頼の量より沢山納めれたよー」
「いいってことよ」
お前何もしてないだろ……
「い、いえ、たまたま場所知ってただけだから」
「また会おうね~」
「あぁ、是非会いたいね」
「うん」
「じゃあね~」
コレットちゃんはテーブルにコインを数枚置いて入ってきたドアから去っていった。
これは銅かな?
汚れや錆が目立たず綺麗な硬貨だ。
お金もそうだけど、知らない事だらけだ……
「宿屋に行こうか」
シャリィさんはそう言うと、メイド服が似合うアミラちゃんを手招きで呼んだ。
「いくらだ?」
「えーと、イノシシのシチューが5つとパンが3つで4900シロンになりまーす」
通貨単位はシロンって言うんだ、面白い名前だな。
「分かった」
そういうと、銀貨らしきものを5枚と、銅貨のような物を4枚をテーブルに置いた。
「コレットの分はそこにおいてある」
「はーい、チップありがとうございまーす」
チップの文化があるのか……
「さて行こうか」
「了解」 「はい」
シャリィさんはこの店に入ったきた入り口ではなく違う方向に歩きだした。
そこにはドアがあり、どうやらここの店は宿屋と繋がってるようだ。
ドアを開け通ると、宿屋のロビーに出たみたいだ。
受付があり中年の男性が座っている。
「今日も部屋を頼む」
「あいよー、昨日と同じ部屋でいいですか?」
「あぁ、それとこの二人にも部屋を。料金は私が払う」
……まぁそうですよね、部屋は別々ですよね当然。
「あいよ、二人は同じ部屋でいいかな?」
「……」
「はい」
何で無言なんだよ弾正原は?
僕だって本来ならお前と同じ部屋んて嫌だよ。
まぁ、流石に初日からは、シャリィさんと同じ部屋が良いと駄々をこねなかったな。そこは誉めてやろう。
「シャリィ様は昨日と同じ部屋、二人は2階の一番奥の右側だ。ほい鍵」
そう言って宿屋の中年男性が弾正原に向け何かを投げ渡してきた。
弾正原は右手でキャッチしてそのカギを軽く見た後、チラリと僕にも見せてくれた。
それは、指輪だった……
えっ、これが鍵?
「ありがとう」
あいつは礼を言うと普通に階段に向かって歩き出した。
僕はシャリィさんに作り笑顔を向けてから弾正原の後を追った。
2階に上がると階段の下を覗いてた。
「どうやらシャリィの部屋は1階らしいな?」
「みたいですね」
部屋を知って夜這いでも行くつもりか。
「この指輪、どうやって使うんだ?」
「……分からないです」
「そうか……とりあえず指にはめてみるか。どの指がいいかな?」
「薬指でどうでしょう?」
「どうでしょうってお前、薬指は…… まぁどこでもいいよな」
あいつは指輪をゆっくり中指にはめていく。
「うーん、別に何にも起きないな」
「部屋の前に行ってみましょう」
「そうだな」
僕らは奥の部屋行きドアの前に立った。
あいつが指輪をはめた手で取っ手を掴んでみた。
「あ、開かない」
あいつの力で押しても引いてもびくともしない。
ただの木のドアなのに、ゆがみもしない……
……もしかして魔法で強化されているのかもしれない。
「どこかに指輪を差し込むところはないか?」
二人で探したけど、そんなくぼみや穴は無い。
「もしかしたら詠唱が必要なのかも?」
「詠唱ってなんだ?」
「呪文みたいなものです」
「よーし、開け~ゴマ!」
取っ手を掴んで叫んだ。
……こいつ本気か?
そんなんで開くわけないだろ。
「開かないな」
「そうですね」
当たり前だろ。
取っ手を掴んで押したり引いてりしてかなりイライラしてるっぽい。
「くっそ、開けゴマ以外しらないぞ俺」
その時ドアが静かに音も無く開いた。
「開いたぞおい!?」
えっ!? どうして開いたんだろ、不思議だ。
まぁそれは後で考えよう。
入り口付近は廊下の照明でぼんやり見えるが、部屋の中は真っ暗で見えない。
あいつが手を伸ばしゆっくり入って行った。
ガンっと何かにぶつかった音がした。
「いてぇ」
むふふふ、僕はここで待ってよっ。
「駄目だ照明のスイッチがどこにもない」
もしかして壁伝いにスイッチ探してたの?
スイッチが無いと言う事は……
やはり魔法か……
「入って来いよ、ここにベッドがあるぞ」
「はい」
僕はドアを閉め鍵を掛けようとしたけど、内側にも取っ手以外何もなかった。
「ドアの鍵が閉まりません」
「ほっとけもうー。異世界はめんどくせーな」
僕はあいつの声に向かってゆっくりと歩いて行った。
あいつが指示を出してくれ無事にベッドに座った。
「俺は目が慣れてきた、ここに座っててくれ」
「はい」
「故障してるとか何とか言って下のオヤジに聞いてくるよ」
「分かりました」
「ったくよー、訳の分からん世界だな~」
ぶつぶつと文句を言いながら部屋を出て行った。
しかし、どうして開けゴマでドアが開いたのかな?
そう考えているとドアの方で物音がした。
「早かったですね、分かりました?」
……えっ? このシルエット、弾正原じゃない…… だ、誰だ?
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