11 その先に
森の方から音が聞こえたので見てみると、コレットとシャリィが戻ってきた。
二人とも表情に悪意はないように見える……コレットの方はさっきより明らかに笑顔だ。
さてはスパ草が沢山取れたな……
「ただいまー、いっぱいとれたよー。ありがとうユウくーん」
あぁぁぁ、話し方も何もかも全てが可愛い。
コレットちゃんの役に立つのは当然なんです僕は。
「よ、よかったね」
「うん」
何て元気で真っ直ぐな返事……
コレットちゃんの握手券は何処で売っているんだ? 何に付録していても僕が買い占めてやる!
「さて、まだ日は高いがそろそろ戻るとしよう」
「うん、いっぱいとれたし帰ろうー」
シャリィさんは弾正原を見つめている。
「心配するな、約束は守る」
「心配なんてしてないさ」
「そうか、そんな顔には見えなかったけどな、フッ。
さて、さっきの橋まで戻るぞ。二人共、足に巻いた蔓は大丈夫か?」
足の心配をしてくれている。シャリィさんも優しい、うぅぅ。
こんな可愛い子と胸の……おねえさんと話をして一緒に行動するなんて、初めての経験だ。
うぅぅ、異世界バンザーイ!
「は、はい、大丈夫です」
「橋の先の獣道はそれでは歩きづらいだろ、ちょっと待っていろ」
そう言うとシャリィさんは何か唱え始めた……
すると地面から10センチほどの高さに突然革の靴と思われる物が現れ落ちた。
僕はそれを見て興奮していたが、弾正原は驚いた様子をみせない。
そういえば先ほど道具が消えた時も無表情だった。
インベントリはこの世界ではさほど珍しくはないのかもしれない。これ以上変に思われない為に、僕も興奮を抑えて出来るだけ無表情でスルーした。
「二人共、それを履け」
「ありがとう、助かるよ」「はい、ありがとうございます」
その革の靴は柔らかく靴というよりは厚手の革袋に足を入れるという感じだ。
ここまで靴代わりにして歩いてきた蔓はボロボロで、縛られている手でも簡単に外せた。
革の靴を取り、つま先まで足を入れてみると、中の感触は決して快適とはいえないが、厚みがあり歩くのには問題なさそうだ。
僕の足のサイズよりかなり大きかったけど、紐がついており余ってる踵部分を足首の方に手繰り上げ紐で縛ろうとしたが、両手が手錠された様に縛られてる状態では上手くいかず困っていると、シャリィさんが手伝ってくれた。
少し前までならあり得なかったであろう光景で、暴れたり暴言を吐いたりせず、大人しくしている僕等、いや
シャリィさんの美しい髪の毛が頭を少し動かしただけでも触れそうな距離に近づいてきた。
恥ずかしかったので顔を背けたら弾正原と目が合った……
何だ? 鼻を突きあげるような動きをしているぞ。
シャリィさんの髪の毛の匂いをかげというジェスチャーか……
僕は当然無視をした。
コレットちゃんが僕達のやり取りに気づいたようでクスクスと笑っている。
靴を履かせてもらい立ち上がって足を地面にトントンとし、履き具合を調べてみた。
「良し、行こうか」
シャリィさんがそう言った。
「いやいやいや、俺まだ履けてないし。俺の方も手伝ってよ」
「お前は自分でやれ」
シャリィさんナイス! ざまーみろ糞ヤンキーめ!
「ひでーなー。コレットちゃんは手伝ってくれるよね?」
「え~、なんかやだな~。変なことされそうだもーん」
ヒッヒヒヒヒ、更にざまーみろ!
「分かりましたよー。自分でやりますよー」
「フフフ」 「うふふ」
あれれ……笑っている。
本気で嫌がっていた訳じゃないのかな……
弾正原は縛られている両手でも器用に靴を履いた。
僕たちは再び前を歩き丸太橋へと戻っていく。
「これ報酬いくらになるかなぁ?」
「そうだな……」
二人ともスパ草が沢山取れたから凄く機嫌が良さそうに見える。
そして数十分も歩くとあの丸太橋に到着した。
あ~、ついに丸太橋を渡る時が来た!
河原には2日しか居なかったのに数週間も過ごした気分だ。
僕は初日に寝た土台や、釜戸、それに川に積んだ石組に目をやると不思議と少し悲しい気分になった。
何故だろう、魔獣の唸り声が聞こえ怖くてロクに眠ることも出来ず、変態ヤンキーが流れてきた河原が名残惜しい。
異世界生活はこの丸太橋を渡った時から始まるのだ!
その気持ちを次第に強く感じ、不安と喜びが入り混じっていたけど、胸の高鳴りを抑えることが出来ない。
今朝までとは違う、今は頼りになりそうなシャリィさん、そして推しのコレットちゃんまで居るんだ。
さぁ、待っていろ異世界!
あいつに目をやると、硬い表情で全く笑みを見せていなかった。
つまらない奴だな……
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