9 僕の名は
先ほどまでの緊張感はどこへやら。
僕たちを拘束したことで安心したのか、もの凄くフレンドリーになっていた。
たぶんこっちがこの女性たちの普段の顔なんだろう。
……それにしても、やっぱりあいつは神様に会っているのかな?
この世界の言葉を何故知っていたのだろう……
直ぐにでも問い詰めたかったが、異世界の女性たちの前なので、その気持ちを抑え込んでいた。
「二人はずいぶん変わった服と道具を持っているな」
「まぁ、深くは聞かないでくれ」
「……分かった。私は報酬さえもらえればそれで良い」
「ほんと、僕も初めて見たよ~」
よしっ! 僕っ
推しの娘もあいつのパンツをジロジロと見始めた。
「そういえばスパ草はどれぐらいとれたの?」
弾正原がその視線を誤魔化すかのように突然問いかける。
「えー、まだ全然だよー。ほらー」
腰に付けていた袋の中身を広げて見せてくれた。
この子はインベントリが使えないのかな?
あいつは覗き込んだその後に、お前も見とけと言わんばかりに僕の方をチラチラと何回も見てアイコンタクトを送ってきた。
恐らくスパ草はこの世界でポピュラーな薬草か何かだろう。
僕とこいつがスパ草を知らなかったら、ただでさえ怪しまれてるのに、もっと疑われてどういう扱いをされるか分かったものじゃない。
だからこいつは、上手く誘導してスパ草の実物を見たかったのだろう。
ヤンキーのくせに考えているな……
僕は袋を覗き込んだ。
あれ、この匂い……嗅いだことのある匂いだ。
……あっ!? この草…… 僕がこの世界に来た時の場所に生えてた草だ!
そうだ、間違いない! 鼻血が出た時に鼻に詰めた草……
どうしよう、言った方がいいのかな?
けど、場所をピンポイントで知ってると疑われちゃうよな……
それに、あそこは僕がこの世界に来た場所だ。
「ふぇ~ん、この量だと帰れないよ~」
そう可愛く嘆く少女を見てコンマ数秒で決断した。
「ぼ、ぼ、僕知ってます、その草が沢山生えているところ」
推しが困っているんだ、助けるのは当たり前ぇ~。
「ほんと~? 直ぐに行こう」
手を顎の下で合わせてクネクネさせている。
何て、何て可愛いポーズだ……
「こちらです」
僕は上流に向けて歩き出した。
蔓で一緒に繋がれているあいつは当然、他の二人もついてきてくれている。
足に巻いた蔓のお陰で多少の痛みはあるがサクサク歩ける。裸足とは運電の差だ。
彼女たちは僕らの3メートルほど後ろついてくる。
「お前たち、いつからここに居た?」
「うーんと、二日前かな」
「……よく魔獣に襲われなかったな」
「唸り声は聞こえてたけど、俺たちの所までは来なかったよ」
「ほう、それはずいぶんと運が良かったようだな。
この辺りは狂暴で巨大な魔獣が多く、夜森に入ったり過ごしたりするなんてありえない場所だ。
昼は比較的安全とはいえ、武器や魔道具も無い状況で来ることはまずない」
……駄目だ、やっぱり完全に疑われいるぞ。
僕は弾正原をチラ見したが動じていない表情をしていた。
しかし、さっきもライターを見て魔道具って言ってたけど、もしかして魔道具があれば僕でも魔法を使えるかもしれない。
この世界の事を色々聞きたいけど、今は絶対にやめた方がいい。
それより、僕っ娘さんは何て名前なんだろ? そっちの方が気になる~。
「そういえばお互い自己紹介してないな」
ナイス弾正原! 褒めて使わす。
「俺はシン」
「私はシャリィ、見ての通り冒険者だ」
見ての通り? ……もしかしてあの首から下げている金属みたいな物が冒険者の証なのかな?
「僕はコレット、冒険者見習いだよー」
コレットちゃんって言うのか。はぁ~、名前まで可愛い。
こういうの苦手だけど、次は僕の番だな。
「ぼ……僕は」
「シャリィさんとコレットさんか……二人とも良い名だね。俺、シャレットって改名しようかな」
「フフフ」
「あははは、おもしろーい」
こ、こいつ、僕に被せてきてちょっとした笑いも取って好感度上げやがって…… しかも、ナチュラルすぎだろ糞がぁ!
アレかな、こいつアレだろ。男女で居る時、男の声だけが聞こえなくなる病気かな? ヤンキーや陽キャのみにそんな病気あったような気がするよ。
「君は何て名前なの?」
コレットちゃん……僕の名前を聞いてくれる……可愛いだけじゃなくて何て優しい子なんだ。うぅ、涙が出てきちゃった。
「ぼ、ぼ、僕はユウ、お、大石友!」
僕が名を名乗ると弾正原の表情が少し曇ったように感じた。
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