8 第一異世界人 ③


「君らは何しにここへ?」


 弾正原がビキニの女性に問いかけた。


「彼女はスパくさを取りに来た。私はその付き添いだ」


 そういうと上流側の女の子に目を向けた。


 

 スパ草?



「そっかぁ。じゃあ頼みがあるんだけど」


「……言ってみろ」


「スパ草を探すの手伝うから、俺らを近くの村まで連れてってくれないか?」


 弾正原のその願いに対して返事は直ぐにされず、数秒間川の流れの音だけが聞こえていた。


「……そうだな、手伝いと別で報酬にこの服を頂こうか」


 やった!服と手伝いで村まで送ってもらえる。ナイスだ弾正原!


 しかし、あいつは少しうつむいて何か考えているようだ。


 何を思い詰めている? 鳶の職人にとってその変な服はそんなに大切なのか?



「その服を売るのか?」


「……あぁ」


「せめて売った値の半分でどうだろう?」


「……いいだろう。ただし、拘束はさせてもらうぞ」


「まぁ当然だな」


 拘束だって?そこまで疑うのか……


 ビキニの女性が上流の茶髪の少女を呼び寄せた。


 茶髪の少女が丸太橋を渡ってきたが、僕たちの方へは近寄ってこない。ビキニの女性とも一定の距離を開けている。

 やはり僕が思っていた通り革の防具を付けていた。


 そして顔を見てみると、目が大きくて……か、か、可愛い!

 もし、この子が下り道13に居たら、僕は間違い無く推していただろう。


 少しの間見とれていたが、我に返り股間をちゃんと隠せてるか確認をした。


 そして再びビキニの女性に目を向けると、先ほどまで手にしていた弾正原の上着を持っていなかった。


 えっ……ま、まさか……


「準備するから待ってくれ」


 弾正原は足袋を干していたところに移動してソックスを履こうとしたが、ビキニの女性に静止される。


「……動くな。二人の荷物は全て私が預かる」


「……」「……」


 その時ビキニの女性のが余計鋭くなったように感じた……


 ま、ま、まさか山賊じゃないよねこの女性達? いや、それなら僕達は既に殺されているか、暴行を受け荷物は全てとられていただろう。


「かまわないが、俺らに靴も履かず全裸で歩けというのか?」


「その今着けている下着は許そう。あとそこの薄い服をもう一人に渡して腰に巻かせろ」


 弾正原は僕と目が合うと頷いた。それを見て僕は弾正原の長袖の肌着を腰に巻き、半袖の肌着を着た。 


「荷物は先ほどの上着とそこのズボンとその靴……他には?」


「えーと、あとはこのソックスとベルトが二本、腰袋に道具が三つだ」


 そう伝えて金槌、シノ、それにライターを指差した。


「……道具?」


「あぁ」


「離れろ、私が確認する」


 弾正原は道具からゆっくりと離れて行く。


 その時、少女が僕に弓を向けて構えた!?


「下手な細工はないだろうな?あればあいつは死ぬぞ」


 そういうとビキニの女性は僕をチラ見した。


「ああ、分かっている」


 こういう時、ヤンキーは空気を読まずいきなり冗談だからとか言って突拍子もない言動をとる輩が居るので、弾正原も何かするのではないかと危惧したが流石にしなかった。


 しかし、この女性達……先ほどまでの会話で少し打ち解けたような感じだったが、また最初に戻ってしまった感がある。


「一つは金槌か?」


 この世界にも金槌はあるのか……

 

「ああ、そうだ、そこの二つは俺の仕事道具だ」


「もう一つは鋭利な金属だな。この光具合……」


 たぶんメッキ加工を見たことないのかもしれない。


「まるで王族や貴族の持ち物のようだ」


 この世界には王族も貴族もいる。ふむふむ。良いぞう、僕の知識と同じだ。

 

「この丸いところはなんだ?」


「それは、そこの形に合ったものを締めこんだり緩めたりして使う」


 たぶんレンチの部分を説明してる。


 弾正原はボルトとかネジって言葉を出さず、かなり気を使っていると感じた。


 ビキニの女性は不思議そうな顔でレンチを見ている。


 そして次にライターを指差し「この小さいのはなんだ?」と、少し強い口調で言ってきた。


「……」


「答えろ!」


「……それは火をつける道具だ」


「火を……魔道具か? こんな形の魔道具は見たことがない」


 魔道具。この世界にはやはり魔法が存在し、魔道具もあるということだ。

 あぁぁ~、駄目だ。緊迫した状況なのにワクワクしてきちゃった。


「そうだ、魔道具だ」


 はっ!? お前魔道具知らないだろ? 何言い切ってんだよ。


「これらの物も私が預かるがそれでいいか?」


「分かった。後で返してくれれば問題ない」


「ではもう少し離れろ」


 弾正原は道具から3mぐらいの距離にいたが更に3mほど離れた。


 ビキニの女性は何か唱えている。


 そしてズボンや腰袋、道具などに手をかざすと一瞬だけ宙に浮いて直ぐに消えた!?


 こ、これはインベントリだ! インベントリに収納したんだ。あるんだね、この世界にはインベントリが!


「他には無いな?」


「あとはあいつが着た半袖と長袖の肌着だけだ」


 元の世界では無駄に生地が多くて不快だったズボンも、ここでは魚を捕る網代わりになり役に立った。

 夏だったのにも関わらず数枚も重ね着してたが、上着は交渉材料となり近くの町まで行けるかもしれない……何が役に立つかなんて本当に分からないものだね。



「そこにつるを置いている。俺とあいつの足に巻いて靴の代わりにしたい」


「分かった。いいだろう」


 あいつは蔓を持ってきて、それを僕の右足に包帯でも巻くかのようにぐるぐると巻き付け、最後は足首で縛った。


 これを探してて戻るのが遅くなったのかな? そういえば靴を何とかって言っていた……


 そして僕の左足にも蔓を巻き付け終わると、今度は自分の足にも同じように巻き付けた。



「ちょうど良いものを持っているな。お前は離れて座っていろ。掌は地面につけておけ」


 ビキニの女性は弾正原にそう言うと、立った状態で余った蔓で僕の手首を縛り始めた。


 ん……ビキニの女性が何か呟いている? 気のせいかな……


 その間、茶髪の少女は弓矢を弾正原に向けていた。つまり僕が下手な動きをすれば、弾正原を殺すって事か……下手な動きをしてみようかな……


 しかし、このビキニのお姉さま、やはりで、でかい……ムハッ! 縛られながら胸の谷間を間近で見てしまった……


 やばい、あそこが下手な動きをしそうだ。



「お前はそこに座っていろ」



 今度はあいつの手首を縛るのかと思いきや、ビキニの女性は弓矢をあいつに向けた!?


「地面に肘をつけろ」


 弾正原が地面に肘を付けたのを確認すると、茶髪の僕推しの少女が弓を投げ捨て腰の短剣を抜きながら素早く近寄り、あいつの後ろに回って左手で髪の毛を掴み右手の短剣を首筋に当てた!?


 14~6歳ぐらいで可愛い顔しているのに、やってることは恐ろしい!


 自分で言ってはいた事だけど無法地帯に等しい異世界ならあの子の行動は当然かもしれない。しかし何故だろう、僕の時とは扱いが大分違う。


 本能的にあいつを女性の敵と認識しているのであろう、たぶん。


 あいつは涼しい顔をしていたが、僕は緊張で汗を大量に流しながらなす術なく無言で見ていた。


 ビキニの女性は蔓を左手に持ち右手は剣に手をかけた。


 お願いします、何も起こらないで……


「両手をゆっくりと前に出せ」


 弾正原は言われるがままに両手をゆっくりと前に出した。

 

「もう少し上にあげろ」


 ビキニの女性は立ったまま両手首を縛り始めた。


 僕は自分の手を見てみると、手錠でもされたかのように綺麗に縛られていた……


 まさかこの世界にもSMクラブがあって、あのビキニのお姉さんは女王様じゃないだろな?そう思いたくなるぐらい上手に縛っていた。


「おかしな真似はするなよ」


「あぁ、信用しているよ」


 一見会話が噛み合ってないようだが、僕らを縛ったあとに強盗に早変わりすれば、ほぼ抵抗されること無く、全てを簡単に手に入れることが出来る。

たぶんそれを見越してあいつは(信用しているよ)と返したのだろう。


 そう、おかしな真似はしないはずなのに、僕は凄く嫌な予感がしていた。

 そして、やはりその予感は的中する……

 

 うわ~、あいつビキニのおねえさんの股間と太ももをガン見してるよ!


 ほら~、ビキニのおねーさんがお前の顔をチラ見して頬を赤らめてるじゃん。

 本日二度目だよ、やめてあげてよー。

 ほら~ほら~後ろの僕推しの娘も気づいてドン引きしてるじゃん。

 ほんとやめてあげてー。

 しないって言ったのにおかしな真似してるじゃん。


 ……こいつ性犯罪で逮捕歴あるんじゃないかな?


 つか怖いよ~、目に力入りすぎだよ~、瞬き全くしないで見ているよ~。


 たぶん異世界で1番瞬きしない性犯罪者だよ。


 ……ふぅ~、なんとか無事に縛り終わったようだ。って、僕は知らず知らずのうちにビキニのおねえさんを応援していた。


 今度は僕を呼び寄せ隣に座らせ、あいつと僕の手首を1本の蔓で繋げた。


 たぶん、靴代わりにしようとした蔓は歩くと千切れていくので多めに持ってきてたのだろう。それがちょうど僕らを縛る量にぴったりだったようだ。


「ふぇ~ん、やっと終わったね」


 推しの子は縛り終わるのを確認して安堵の声を上げ、弾正原の首にあてがっていた短剣をゆっくりと外した。


 そして、その声は凄く可愛かった。



 僕の推しを見る目にハズれ無し!




 ビキニの女性も無事縛り終えて笑みを浮かべ安堵しているかのように思えた。


 二人とも弓を拾いあげ、推しが笑顔で「チューステイ」と僕らに言ってきた!?


「チューして」


 弾正原はいつも使っていたかのように返事をした。


 これは……どうやら挨拶の様だ。


 僕も返した方がいいよね……


「チ、チーステイ」




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