6 第一異世界人 ①
異世界生活三日目の朝。
僕が目を覚ますとあいつは……居ない。
見張りを交代でと言っていたけど、僕は一度も起こされる事がなかった……
川で顔を洗って水を飲み、朝食といきたいところだが食べる物は何もない。
……当たり前だ。
朝から昨日のように漁をするとなると、なかなか決心が必要である。
だけど、魚を捕らないと食べ物はない。
ここにはコンビニもスーパーも無いのだから。
大昔の人は本当に大変だったのだろうたった数日で身に染みて分かった。
川を見ると魚を捕るために昨日作った石組みの形が変わっているのに気づいた。
どうやら僕が起きる前に弾正原が一人で作業したらしい。
「おはよう、ちょっとその辺りを見てきてたよ」
あいつが声をかけてきた。
「おはようございます。あの~、見張りの交代は……」
僕は恐る恐る聞いてみた。
もしかしたら僕が起きなかっただけなのかもしれない。
「俺一人で大丈夫だったよ」
えっ……
「寝てないのですか?」
「俺さ、隣に女性が居ないと眠れないんだ……うそうそ、夜が明けてから少し寝たよ」
僕が一生言う事の無い冗談だな、面白くも無いし。
「石組みの形が変わってますね」
「ああ、暇だったからさ。昨日魚を捕ってる時に、改善点に気づいたんだよ。これで昨日よりも楽に捕れると思うよ。あとさ、中に葉っぱのついた枝をいれたよ」
ズボンの中に僕のフランクフルトを隠すために持ってきた葉っぱの付いた枝を入れたらしい。
魚が隠れる場所を作ってあげると、入った魚が外に逃げる確率が減るとのことだった。
弾正原の言った通り、一回目の挑戦で三匹も捕れた。昨日とは大違いだ。
その後計8匹イワナを捕まえて朝からお腹を満たすことが出来た。
あいつは本当に食欲がないのか、3匹しか食べず、あとの5匹は僕が食べることになった。
食後に休憩をして今日の方針を話し合う。
「できればスマホを探しに行きたいけど」
スマホか……
防水って言ってたからまだ使えるかもしれない。
充電も残ってて、写真を撮るアプリだけでも使えれば、この世界の人を写し見せるだけでもかなりの価値がある。
それこそ貴族や大富豪の人達に見せれば、それだけで重宝されて面倒を見てもらえるかもしれない。
音楽も入っているだろうし、探しに行くのもいいかもしれない。ライターなど比較にならない価値がありそうだ。
「いつから川を流れてたか記憶はありますか?」
「ないな。昨日も言ったけど、ここが最初の記憶だ」
僕がこの世界に来たのは二日前のまだ明るい時間だった。
こいつも同じぐらいに来てたとしたら、僕が見つけるまで丸1日近く川を流れていたことになる。
いくら川の流れが緩やかだといっても、意識を失ったまま長い時間流れていたら溺死してるはずだ。
どこかに上手い具合に引っかかってたのかな?
川のどの辺りに落としたか分からないけど、水が綺麗で底まで見えるから探す事は可能かもしれない。
……けど、それより対岸の獣道を捜索してみたい。
「まぁ、充電も残り少なかったし、これだけ長い時間水に浸かってたら流石に防水でも壊れてるかもな」
「そうですね」
「あきらめるか……とりあえず少しだけでも橋を渡った方の獣道を見に行く?」
「はい、そうしましょう」
「じゃあ草を掻き分ける棒でも拾ってくるよ」
「分かりました、僕も行きます」
「あっ、俺ちょうどトイレ行きたいから、そのついでに拾ってくるね」
「分かりました。ここで待ってますね」
「大石もトイレ済ませておいてね、今日は忙しいぞー。川にも入るかもしれないから足袋とかは置いていくね。流石に全裸であの草むらは厳しいから、帰ってきたら服を分けよう。あと靴はー……」
「はい」
そう話しながらパンツ一枚で下流側に歩いて行ったが、川が蛇行してるので直ぐにその姿が見えなくなってしまう。
はい、と返事はしたものの、靴はの後が聞き取れなかった。
……裸足で歩いて行ったけど大丈夫かな?
しかし、棒ぐらい僕も探しに行くのに、殆ど自分でやろうとするよな。
もしかして、釜戸を作った仕事ぶりが気に入らなかったのかな……
職人って仕事に対して繊細な人多いからな。
さっき魚を焼いた時は気にしてなかったけど、もう一度釜戸を見てみたが僕が作った時のままで直されてない。
僕は楽でいいけど、色々信用されてないのかもね。
まぁ相手はヤンキーだ、気にすることはない。
さて、僕もトイレを済ませておこう……
因みに小の方は森の木の根元にしていたけど大きい方は川に入ってしている。下流にお尻を向けて出し、そして手を使って水で洗って清潔にする。
「ふぅー、スッキリしたぁ」
って、あいつ川に入るって言ってたよな……う、うんこ流しちゃった。
……しかたないよ、あいつがトイレ済ませとけって言ってたし。
30分ぐらいたってもあいつは帰ってこない。
ちょっといくら何でもトイレと棒を拾うぐらいなのに遅すぎないか?
……便秘なのかな。
まさか魔獣に襲われたのでは?
それかまた川を流れてるのかもしれない。
もしかしたら、僕の流れたうんこがあいつを直撃してそれに驚いて……
そんな事を考えていると、対岸側の獣道から微かに草を掻き分ける音が聞こえたような気がして何気なしに僕が目を向けると、そこには……
そこには、弓を構えた女性が立っていた!?
まるで鏡の様に太陽の光を反射し、光輝いている美しい長い髪の毛。
首からは革紐だろうか、何か金属的な物を胸元に下げている。
そ、そしてその胸は……で、でかい!
いや、大きいだけはない。なんて綺麗な胸なのだろう。
身体は殆どが露出した状態で革製と思われるビキニを身に着け、腰に短いパレオのような物を巻いている。
そこには鞘に入った剣が見えている。
さっきあいつとこの獣道に入るには服が必要などと話をしていたが、その褐色で美しい肌に草で切れた様子は微塵も無い。
僕ら様なアジア系の顔立ちではなく鼻は高く掘り深く、そして薄い緑色の瞳は眼光が鋭い!
し、しかしなんて、なんて美しい人だ……
僕は異世界人に出会えた喜びや驚きよりも、その人の美しさに
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